雇用関係助成金を受給するためには、定めている要件を満たすことが必要です。
その中の一つに、「労働関係法令に違反していないこと」という項目があるのをご存じでしょうか?
事業者の多くは労働関連法に違反している場合があり、違反しているのなら助成金が受給できなくなってしまいます。
特に、時間外労働となる残業代の未払いのケースが多く発生しており、残業代が未払いのままならば助成金を申請しても審査に通ることは難しくなるでしょう。
そこで、こちらの記事では残業代の未払いを始めとして、労働基準法違反について解説していきます。
資金調達となる助成金を逃さないように、申請前には必ずチェックしておいてください。
INDEX
雇用関係助成金で明らかになる残業代未払いの発覚
雇用関係の助成金を申請するときには、雇用契約書もしくは労働条件通知書、タイムカード(出勤簿)、賃金台帳等を提出しなければなりません。
これらの書類を提出したことで、在籍の実態を確認するのですが、その際に残業代のチェックすることができます。
もしも、明らかな残業代の未払いが見つかってしまえば、審査に通ることができず助成金は受給できなくなるでしょう。
ただし、未払いの残業代を清算することによって問題なく通過できるようになりますので、助成金を申請する前には、未払いの残業代の確認を怠らないようにしてください。
労働基準法違反となる残業代の未払い
残業代未払いとなる場合は、定められた時間を超えて働いているのにも関わらず、その間の賃金が従業員に支払われていないことをさしています。
労働基準法においては、下記のように定められています。
『1週間40時間、1日8時間を超える労働をさせてはならない』
ただし、例外として下記の規定が設けられています。
『特定の業種で常時9人以下の労働者を使用する事業所については週44時間まで働かせることが認められている』
以上の労働基準法を超えた働き方をさせると、残業代を支払わなくてはならないのです。
残業代を支払うときの3つの注意点
上記のように、所定の労働時間を過ぎているのにも関わらず働いている時には、残業代を支払うことになりますが、残業代は割増賃金を支払わなくてはなりません。
また、割増賃金以外にも、休日や休憩時間に関しても労働基準法で定められていることを守る必要がでてきます。
次に、残業代を支払うときの3つの注意点として、「残業の支払い方法」「休日に関しての注意点」「休憩時間に関しての注意点」を見ていきましょう。
1.残業の支払方法
残業代を支払うときには、下記の割増賃金の計算に基づいて賃金を計算する必要があり、この割増分を支払っていないと、労働基準法違反となってしまいます。
また、時間外労働以外にも、深夜労働に対しての割増賃金があることにも気を付けてください。
◆時間外労働の場合=通常の賃金の25%以上
◆深夜労働の場合=通業の賃金の25%以上
・深夜労働時間 22時~翌朝5時まで
(例)
もしも、時給1,500円で9時~18時までの定時で働いていた方が、仕事が終わらないために深夜2時まで残業をしたとします。
この場合の残業時間は、8時間(休憩時間は考慮せず)となり、1.25倍の1,875円が時給として計算されます。
また、深夜労働として「22時~翌朝5時まで」が当てはまる時間の4時間は、深夜割増を加えた2,250円を時給として計算することになります。
◆残業分
時給1,875円×4時間=7,500円
◆深夜残業分
時給2,250円×4時間=9,000円
◆残業代の総額
7,500円+9,000円=16,500円
残業代は、時間外労働分と深夜労働分を含めて、残業代として16,500円を支払わなければならないのです。
また残業は、1週間で40時間を超えて労働している場合や休憩時間中に労働をしている場合、さらに勤務後に実施される職業訓練等も残業とみなされるので注意が必要です。
2.休日に関しての注意点
休日労働をするにあたっては、下記のような割増賃金が労働基準法で設けられています。
◆休日労働の場合=通常賃金の35%以上の割増賃金
◆深夜労働になる場合=さらに25%以上の割増賃金(通常賃金の60%増し)
◆労働法では、原則4週間に4日は休日を取得させるように定められています。
なお、例外規定があり、1年間の平均で1週40時間以下となれば、週6日勤務であっても休日の割増賃金を支払う必要がなくなります。
飲食業界では6日間を労働するケースも多いですが、上記の「労働法では、原則4週間に4日は休日を取得させるように定められています」を守らなければなりません。
この場合には、4週間の起算日は就業規則に定めておかなければならず、もしも定めていないのなら、4週間に4日間以上の休日がない場合には休日手当を支払う可能性が出てきます。
3.休憩時間に関しての注意点
休憩時間に関した労働基準法違反で書類送検された企業はほとんどありませんが、助成金を申請するにあたっては、休憩時間の関する労働法も違反しないようにしてください。
労働基準法で定められている休憩時間は下記の休憩時間となり、下記の休憩時間を与えなければなりません。
また、休憩時間中にはいかなる命令も労働者に課すことはできません。
お昼のついでに消耗品を買ってくる、上司の弁当の買い出し、電話応対やメールの返信などの命令をすることができず、休憩時間に労働者が何をしようと企業側は干渉してはいけないのです。
◆6時間以上の労働に対して45分以上の休憩
◆8時間以上の労働に対して60分以上の休憩
その他にも、出産前後の休暇を認めなかったり、生後1カ月未満の子供を育てる人に育児時間を与えない、就業規則を作成しない、採用時に労働条件を明らかにしないなども労働関連法案の違反となりますので、気をつけましょう。
各雇用関係助成金に共通の要件を確認しておこう
雇用関係の助成金は数多くありますが、共通の要件にはどのような項目があるのか確認しておいてください。
下記の「受給できない事業主」として、『④支給申請日の前日から起算して1年前の日から支給申請日の前日までの間に、労働関係法令の違反があった事業主』が上げられています。
次に、各雇用関係助成金の「受給できる事業主」と「受給できない事業主」の共通の要件を紹介します。
受給できる事業主
雇用関係助成金を受給する事業主(事業主団体を含む)は、それぞれの各助成金の要件のほかに、下記の①~③の要件のすべてを満たすことが必要です。
①雇用保険適用事業所の事業主であること(雇用保険被保険者が存在する事業所の事業主であること)
②支給のための審査に協力すること
・支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等を整備・保管していること
・支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等の提出を、管轄労働局等から求められた場合に応じること
・管轄労働局等の実地調査を受け入れること など
③申請期間内に申請を行うこと
受給できない事業主
雇用関連助成金は、下記の①~⑨のいずれかに該当する事業主(事業主団体を含む)は、助成金を受給することができません。
①平成31年4月1日以降に雇用関係助成金を申請し、不正受給による不支給決定又は支給決定の取り消しを受けた場合、当該不支給決定日又は支給決定取消日から5年を経過していない事業主(平成31年3月31日以前に雇用関係助成金を申請し、不正受給による不支給決定又は支給決定の取り消しを受けた場合、当該不支給決定日又は支給決定取消日から3年を経過していない事業主)。
なお、支給決定取消日から5年(上記括弧書きの場合は3年)を経過した場合であっても、不正受給による
② 平成31年4月1日以降に申請した雇用関係助成金について、申請事業主の役員等に他の事業主の役員等として不正受給に関与した役員等がいる場合は、申請することができません。
③支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度の労働保険料を納入していない事業主(支給申請日の翌日から起算して2ヶ月以内に納付を行った事業主を除く)
④支給申請日の前日から起算して1年前の日から支給申請日の前日までの間に、労働関係法令の違反があった事業主
⑤性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業またはこれら営業の一部を受託する営業を行う事業主
⑥事業主又は事業主の役員等が、暴力団と関わりのある場合⑦ 事業主又は事業主の役員等が、破壊活動防止法第4条に規定する暴力主義的破壊活動を行った又は行う恐れのある団体に属している場合
⑧支給申請日または支給決定日の時点で倒産している事業主
⑨不正受給が発覚した際に都道府県労働局等が実施する事業主名及び役員名(不正に関与した役員に限る)等の公表について、あらかじめ承諾していない事業主
参考元:事業主のための雇用関係助成金|厚生労働省
助成金を受給するためには賃金台帳と出勤簿の作成及び保存が重要
雇用関係助成金の受給するためには、適正な労務管理をしている企業が対象となっています。
厚生労働省が行っている労働関係の助成金を申請するときには、賃金台帳(給与明細)と勤務表等の添付資料と要求される場合があり、作成や保存をしていないと助成金が受け取れなくなるケースも出てきました。
新型コロナウイルス感染症拡大によって雇用調整助成金の申請を初めて行う企業の中には、賃金台帳を作成していなかったり、保存していない企業が少なくありません。
賃金台帳(給与明細)と勤務表は作成して3年間保存し、賃金台帳は作成、保管が必要な書類であることを念頭に入れておきましょう。
また、賃金台帳を作成するときには、下記の10項目の記載が必要となりますので、見落とさないようにしてください。
◆賃金台帳に必要な10項目
①労働者氏名
②性別
③賃金計算期間
④労働日数
⑤労働時間数
⑥時間外労働時間数
⑦深夜労働時間数
⑧休日労働時間数
⑨基本給や手当などの種類と額
⑩控除の項目と額
まとめ
雇用関係助成金を受給するための残業代の未払いについて、詳しく解説してきました。
特に雇用関係の助成金の残業代の未払いは、労働基準法違反と判断されるために、助成金の受給できなくなる可能性が高くなってしまいます。
「せっかく申請したのに助成金もらえなかった」という事にならないように、記事に書いてある残業代を支払う3つの注意点や共通の要件をよく確認してから、申請を行うようにしましょう。
雇用関係助成金を上手に資金調達として活用できるように、適切な労務管理を行うよう心掛けてください。