
ベンチャーキャピタル(VC)から出資を受けて資金調達をしたいと考えているベンチャー企業の経営者の方が最初に考える事は「どうすればVCから出資を受けやすくなるんだろう…」という事ではないでしょうか。どれだけ素晴らしいサービスを思いついていても資金がなければ実現する事はできず、また全ての企業がVCから資金調達を利用できる訳ではありません。
でこの記事では、ベンチャーキャピタルが出資を決めるまでの手順や投資までの意思決定プロセス、ベンチャーキャピタルが出資をしたいと考える企業の特徴を紹介していきたいと思います。利用前に自社の条件等と照らし合わせて出資を受けられるかどうかを判断していきましょう。
ベンチャーキャピタルから資金調達するまでの流れ
実際に資金調達をした事がなければベンチャーキャピタルの実態は理解する事ができません。「あのベンチャー企業がVCで大量の資金を調達した!」というニュースは見かけますが、実際どのような流れで投資を受けるまでに至ったのかっていう詳しい流れは知らない方が多いですよね。
という訳でまずはベンチャーキャピタルから資金調達を受けるまでの具体的な流れを紹介していきたいと思います。大まかな流れは以下のようになります。
- VCへアプローチを行う
- 事業計画を担当者にプレゼンする
- VCによる調査と審査
- 投資条件の決定
- 投資委員会の審査
ベンチャーキャピタルから資金調達するまでの大まかな流れは以上4つの過程を経る事になります。会社によりプロセスは多少異なる事がありますが大まかな流れは上記のようになる事が多いでしょう。
ステップ1:ベンチャーキャピタルへ連絡する
事業計画書を作成して待っていてもベンチャーキャピタルから出資を受けられる事はありません。有望で実績があるビジネスマンの場合はベンチャーキャピタル側から連絡がくる事も珍しくありませんが、新規ビジネス起業の場合で経営者が無名である場合は自ら連絡をしてコンタクトを取らなければなりません。ベンチャーキャピタルへ連絡する為の手段は大きく分けて以下の3つに分けられます。
- 知り合いからの紹介
- 会社へ直接連絡をする
- ピッチコンテスト
同業者や創業者などはベンチャーキャピタルと何かしらで繋がりを持っている事が多いです。そういう身近な人から話を聞いてみて紹介してもらうという流れは出資を受けやすくなるオススメの流れです。ベンチャーキャピタル側からしても顧客から紹介された方であれば、話をないがしろにするという事はまずしないでしょう。過去にその人から紹介を受けた会社が発展して会社の利益になっている場合は更に出資を行う上で有利になる可能性が高いです。
そのようなツテが全くなくてもベンチャーキャピタルへ直接問い合わせて接触する事は可能です。接触をして面会の機会が取れれば、そこで事業計画書を持参して幾ら出資して欲しいのかという点とマネタイズ方法や将来どれ位成長できるのかという点を詳しく説明していきます。
また、ピットコンテストという起業したてのスタートアップ企業を対象としてプレゼン大会に参加するという方法もあります。このコンテストの審査員は投資家や著名人、ベンチャーキャピタルなどが名を連ねていますので、自社の魅力ややりたいと思っているサービスを知ってもらえる絶好の場であるという事が言えるかと思います。様々な所で開催されているピットコンテストで実際に出資が決まった企業も多いので一度参加してみるのも良いかもしれません。
ステップ2:事業計画書を元に担当者にプレゼン
ベンチャーキャピタルへのアプローチが成功し、面談日当日の流れは事業計画書を元に事業内容をプレゼンするというものです。このプレゼン内容が出資をするかどうかの境目になってくる部分ですので、事業計画書は必ず気合いを入れて作りましょう。既にある場合もない場合もベンチャーキャピタル面談仕様にカスタマイズしてから提出する事をオススメします。
事業計画書に記載する事の例としては以下の項目は必ず網羅するようにして下さい。
- 事業立ち上げまでの経緯
- 会社概要
- 経営理念
- 商品やサービスの概要
- 利益を出す仕組み
- 競合市場の分析
- マーケティング方法
- 成長戦略
- 人事戦略
- 財務計画
- 出口戦略
- リスク管理
特にベンチャーキャピタル側が重視する項目は『市場の成長性』や『競合優位性』です。IPOによる資金回収を目的としているベンチャーキャピタルからすると成長市場であれば投資リスクは低く大きなリターンを見込める可能性が高いと考えますので、市場の成長性を具体的に示す必要があります。
更にその成長市場において自社が競合他社にどこで勝っているのか、何で勝てるのか、シェアをどれ位制覇する事が出来るのかという点も明確に示す必要があります。この会社に将来性があるかどうかを判断する基準になりますので、競合他社との比較、なぜ自社がシェアを支配できるのかというベンチャーキャピタルの疑問にもきちんと回答しなければなりません。
ベンチャーキャピタルから出資を受けやすくなる企業の特徴については以下の項目で詳しく説明していきますので、ここでは軽く触れるだけにしておきます。
ステップ3:ベンチャーキャピタルによる審査
担当者に事業計画書を元にしたプレゼンを行い、ベンチャーキャピタル側が求める書類を提出したら審査が行われます。入手した資料と経営者との面談の他にもベンチャーキャピタル側が独自に調査する事は…
- 市場動向
- 業界動向
- 事業計画の妥当性と将来性
- 会計士による財務調査
以上4点をベンチャーキャピタル側が独自に行います。「投資委員会の審査」にかけるべき案件かどうかの判断はベンチャーキャピタル側で行います。審査にかけるべき案件であるとされた場合のみ、ステップ4の「投資条件の決定」に繋がっていくのです。
ステップ4:投資条件を決定する
提出された資料、経営者との面談、ベンチャーキャピタル独自の調査を全てクリアして投資委員会に審査をかけるべき案件であると判断された場合のみ、投資条件を設定する会議が開かれます。
- 現在企業価値
- 株価を幾らで設定するか
- 株式をどれ位のシェアで持つか
- 出資額は幾らが妥当か
- いつ頃までに出資するのが妥当か
このような細かい条件をベンチャーキャピタル社内で決定され、投資契約書が経営者に提示されます。経営者の意向が考慮される場合もされない場合もありますので、この時点で交渉する事は可能です。
例えば「後○円出資額を追加して欲しい」であるとか「○○までに出資して欲しい」などの細かい要望はこの時点で交渉します。この時点で交渉してお互いに条件を合わせる事が出来なければ出資は決裂となりますので、慎重な対応が求められます。ベンチャーキャピタル側が有利すぎる出資になる可能性も十分に考えられますので、冷静な頭で判断する事が大切です。
ステップ5:投資委員会の審査
ベンチャーキャピタルから提出された投資契約書に納得し、投資条件と契約内容が決まったらベンチャーキャピタル内の投資委員会による最終審査です。この審査は大体1ヶ月~2ヶ月ほど必要になると言われていて、実際に投資する人達が資料や投資条件を見て最終判断を下します。
この投資審査が無事に通過すれば投資契約が締結されて、無事に出資が実行されるという訳です。
ベンチャーキャピタルで出資を受けやすいのはどんな企業?
上記で出資が締結するまでの大まかな流れを説明してきました。それではここからは実際にベンチャーキャピタルで資金調達が出来るベンチャー企業の特徴とは一体どういうものなのかを説明していきたいと思います。
ベンチャーキャピタルから出資を受けるのは簡単ではありません。30社に連絡を取り5社が面談してくれて1社から出資が決定する…ザックリ説明するとこれ位の確率であり、当然ですが全てのベンチャーキャピタルから断られる可能性の方が格段に高いです。
そんなベンチャーキャピタルから出資を受ける企業である為には以下の特徴やコツを掴んでおく必要があります。
- 自社に合ったVCへ申し込む
- 急成長企業や市場である事
- 経営陣の実績や能力
- 販売戦略
- IPOに対する道筋
以上5点をしっかりと理解し掴んでいるベンチャー企業はベンチャーキャピタルからの出資を受けやすくなると言われています。以下で一つずつ詳しく解説していきましょう。
ベンチャーキャピタルの種類を見極める
上記でも説明したように、ベンチャーキャピタルはまず問い合わせしてから面談するまでも大変です。見極める為に必要なポイントは以下の3点です。
- ステージによる分類
- 業種による分類
- 母体による分類
ベンチャーキャピタルの中には投資先をステージに分けて専門で投資を行っている企業が多いです。例えばスタートアップ企業のみに投資を行っているベンチャーキャピタルであったり、ステージAの商品やサービスの提供が始まって間もない企業のみに投資をしている会社であったり、企業方針によりどのステージに投資を行っているベンチャーキャピタルなのかを見極める必要があります。
例えばIPO間近で既に十分な売上や利益を出している会社のみを対象にベンチャーキャピタルを行っている会社に、起業した間近で売上をまだ作り出していないベンチャー企業がVCの依頼を行っても意味がありませんよね。自社のステージを見極めてベンチャーキャピタルがどのステージへ投資を行っている会社なのかをきちんと見極めてから問い合わせをするのが良いでしょう。
業種や母体に関しても同様の事が言えますが、ベンチャーキャピタルの中にはIT系にだけ投資を行っている会社であったり、バイオ系のみ、金融系のみに投資を行っているなどの特徴があります。母体も様々で、銀行系、政府系、IT系、保険系…親会社が違うと市場の理解や業界の事を深く理解していない可能性が高いので出資を受けられる可能性は減っていきます。
自社の市場や業界を深く理解してくれ、同じ業界に所属しているベンチャーキャピタルに出資をお願いするのが最もベターです。同じ業界であれば投資を受けて成長すれば、投資先間で新たなシナジーが誕生する可能性も高く、投資先企業もそれを狙って投資を行ってくれるかもしれません。
アグレッシブな投資家が多い事を理解する
ベンチャーキャピタルはハイリスクハイリターンです。ハイリターンを目指している投資家が多い為にアグレッシブな投資を行う方が多いです。そういう方が多いという事は、堅実に利益を出す事はできるが市場規模が限定的で小さい企業よりも、安定性はないが急成長できる無限の可能性を秘めている会社に投資を行おうとする方が多いという事です。
つまりベンチャーキャピタルで出資を求める際に重要な事は、企業や市場の将来性です。急成長を見込めることが出来るかどうかは出資を受けられるかどうかの大きなポイントになりますので、経営者の方はこの点を積極的にアピールして行く事が非常に大切です。
経営陣の過去の実績
ベンチャーキャピタルが出資を検討する時に大切になってくるのが経営陣の質です。新しく実績が少ない企業の場合は決算書などで経営力を見る判断材料が少ない為に経営陣の能力が判断材料になる事は非常に多いです。どのような人材が揃っていて、それをどのように事業に活かす事が出来るのか。それをきちんとアピールする事が非常に重要です。
経営陣にどのようなスキルがあってどんな経歴なのか、どこでどのような実績をあげてどのような人脈があるのか…ベンチャーキャピタル側が注目すべき点はここにある事が多いです。経営陣の経営能力の資質と、それを自社の成功にどのよいうに結びつけることが出来るかを具体的に示すことが出来れば、ベンチャーキャピタルから出資を受けられる可能性はかなり高まります。
販売戦略が明確かどうか
どれだけ魅力的かつ革新的なサービスや商品であっても、販売戦略が描けていなければ売上が伸びることはありません。ベンチャーキャピタルが出資をする前に注目する点としては、『その魅力的なサービスをどのようにして売っていくか』という点です。
- 誰がどのように営業をするのか
- 営業するエリアはどこでどれ位の予算を費やすのか
- 広告展開はどうするのか
- ネットをどのように活用するのか
- 営業を指揮するのは誰でどのような実績があるのか
以上の点は出資前にかなり注目される点です。販売戦略が明確で、販売戦略と営業戦略に長けた実績のある人材を確保している場合は出資を受けられやすくなるでしょう。そのサービスをどう売っていくのかという点はベンチャーキャピタルではかなり重要視される所なので、明確に記載して説明できるようにしておくと良いと思います。
上場までの道のりが明確であるかどうか
ベンチャーキャピタルの目的はIPOによる資金回収です。つまり上場までの道筋が明確に描けている事業計画であれば投資家は投資をしたいと考えやすくなるという訳です。
- IPOまでの事業計画ロードマップ
- IPOをする時に事業規模
- IPOまでの利益上昇数字が具体的
この会社はIPOをリアルな目標として描いているという事を明確にする為には、細かい事業計画書を作成する必要があり、具体的に明確にしておく事で投資家の人達を納得させる必要があります。具体的な戦略やスケジュール、具体的な数字を事業計画にする必要がありますので、きちんとしたIPOまでのロードマップを描くようにしましょう。
IPOまでの事業計画書の作成はベンチャーキャピタルと共同で作成して投資家の人に見せるという事もありますが、あまりに拙く具体的根拠が全くない事業計画書だった場合はベンチャーキャピタル側で門前払いになってしまう事もありますので、ある程度の完成度にしてから持ち込みましょう。その後はベンチャーキャピタルに相談しながらブラッシュアップしていくという方法で精査していくのが良いと思います。
まとめ
ベンチャー企業の資金調達方法として定着しているベンチャーキャピタルですが、出資を受けるまでには高いハードルがあり、簡単に資金調達できる訳ではありません。出資を受けるまでの手順や出資を受けやすい企業の特徴を上記で説明してきましたが、いかに出資までのハードルが高いか納得して頂けましたでしょうか。
ベンチャーキャピタルはハイリスクハイリターンであるという特性上、投資家達も簡単に出資を決める事はできません。審査や調査に時間がかかってしまうのはそれが原因でもあります。しかし自社が魅力的な企業であり、かつ将来性があって事業計画書も具体的なものであれば出資を受ける事は可能であり、ベンチャーキャピタルは難しくてもエンジェル投資家のような個人投資家からの出資を受けられるかもしれません。
まずは自社の魅力を伝える為の事業計画書の精査が最も大切な事になります。出資を受けたいと考えている経営者の方は、ベンチャーキャピタルから出資を受ける為のコツや特徴を理解し、自社に合った資金調達を行っていくようにしましょう。