未上場または起業間もない企業の資金調達手段として重宝されているベンチャーキャピタルとエンジェル投資家からの投資。どちらも似たような資金調達方法なので一括りにされる事が多いのですが実は明確な違いがあり、それぞれに違った特徴があります。
この記事ではベンチャーキャピタルとエンジェル投資家の特徴と違い、自分の企業が今どのステージにいるかでどちらを選択するのが良いのかを選ぶ事で事業の発展を有利に進める事が可能です。一見似ている2つの資金調達方法について解説していきましょう。
VCとエンジェル投資家の違い
発展前ベンチャー企業の資金調達方法として重宝されているVCとエンジェル投資家ですが、将来発展していく見込みがある企業に対して投資するという意味ではどちらも同じように感じます。しかしこの2つには明確な違いがあり、どちらもメリットとデメリットがあるのが特徴です。
VC | エンジェル | |
出資者 | 投資会社 | 個人 |
方針 | 数字に厳しい | 経営の仕方に厳しい |
金額 | 1億円~ | 500万~数千万円 |
ステージ | 主に事業拡大資金 | 初期の成長資金 |
審査 | 厳しい | 個人レベルで決まる |
ベンチャーキャピタルとエンジェル投資家には以上のように5つの明確な違いがあるのが特徴です。以下で一つずつ詳しく解説していきましょう。
出資者が企業か個人か
最大の違いと言っても良いのが出資者が企業か個人かという点です。エンジェル投資家は個人的に投資を行うものですから企業間での距離が近く、個人的な資金を使っての投資ですから個人的な繋がりが非常に強くなります。企業からの投資よりも繋がりが強くなりますので経営のアドバイスを受けられたりするといったメリットがある一方、経営方針に対して口うるさく指摘されるなどのデメリットもあります。
エンジェル投資は個人ですがベンチャーキャピタルは投資会社です。投資家が出資した資金を法人として代わりに投資を行うというものです。出資者が法人か個人であるかという差は実はかなり大きく、VCの場合はある程度の距離を保ち過度な口出しや投資を行う企業を乗っ取るなどの策略はありませんが、エンジェル投資では少なからずそういう策略がある可能性がありますので、どちらも良い面と悪い面があるということは理解しておきましょう。
経営への関与の度合い
ベンチャーキャピタルは企業で投資を行っていますので経営方針よりも数字を出す事にこだわっています。それと変わってエンジェル投資は数字よりも経営方針に厳しい側面があり、自分がやりたいと思っている事と違う事を要求される場合もあります。多額の資金を投資してもらっている場合エンジェル投資家に対抗できない場合が多いので、気が付けば経営権を乗っ取られてしまっているということも考えられます。
ベンチャーキャピタルは数字に厳しい面がありますが基本的には必要以上に経営方針には口出しはしません。しかしプロトタイプしか完成していない企業の場合はVCからの資金調達は難しい事が多く、どうしてもエンジェル投資家に頼らざるを得ない状況に陥る事が考えられます。しかし個人の裁量による所が多いので、経営方針に全く口出しをしないタイプのエンジェル投資家も沢山いらっしゃいます。それは個人レベルの性格で変わっていきます。
出資金額の違い
投資側が行う出資金額もベンチャーキャピタルとエンジェル投資家では大きな違いがあります。エンジェル投資家は個人の資金を使って投資をするものなので、出資する金額は少なめです。目安としては500万円~数千万円というのが一般的。しかしこれも個人レベルで全く変わってきますので、莫大な資産を持っている方が、ベンチャー企業の未来に大きな価値を見つけた時は数億円の出資も可能です。
エンジェル投資家よりも出資が多いのがベンチャーキャピタルです。顧客である複数の投資家から資金を集めて出資を行うので出資額が高くなります。目安は最低1億円からで、最大では数億円、数十億円という規模になる事もあります。エンジェル投資家から数十億円規模の投資を行える可能性は極めて低いので、より多くのお金が必要な場合はベンチャーキャピタルを利用する方が良いと言えるでしょう。
企業の成長ステージ
ベンチャー企業は『シード、アーリー、ミドル、レイター』と呼ばれる4つの成長ステージに分類されます。エンジェル投資家とベンチャーキャピタルの投資はこの企業の成長ステージにより分類されると言われています。エンジェル投資家が投資をする企業は最初の成長初期に必要な成長資金である事が一般的です。投資する側からしてもある程度の設定金額を投資して、ハイリスクハイリターンを目指します。成長ステージで言うと、会社創世記のシードと呼ばれる所に分類されるベンチャー企業への投資です。
反対にベンチャーキャピタルの投資は、顧客でもある複数の投資家から資金を集めて出資を行う為、リターンの確実性が求められます。よってリスクの高い成功するかどうか分からないシードステージへの投資ではなく、ある程度実績を積んでいる会社の拡大資金として出資する事が多いです。ハイリスクハイリターンを求めるエンジェル投資家と確実なリターンを求めるベンチャーキャピタル。これは出資先が個人か企業かで冒険できるか否かで変わってくるという訳です。
審査の厳しさ
エンジェル投資家に審査というものはありません。出資を行うかどうかは投資家の個人的なレベルで決定する事ですから、企業や経営者のプレゼンを聞き共感させる事で出来て、思いを伝える事ができれば個人の裁量で出資が決定します。
反対にベンチャーキャピタルは法人として投資を行っているので、出資を行うかどうかは厳正で厳しい審査が伴います。扱う金額が大きく、もしも失敗した時は会社経営にも関わりますので金融機関と同様の審査が行われます。
資金調達でどっちを選べば良いの?
上記でベンチャーキャピタルとエンジェル投資家のそれぞれの違いを解説してきましたが、投資を受ける側としては『一体どちらを選択すれば良いのか』という事で迷ってしまいそうですよね。資金調達でどちらを選択すればいいのか迷った時は以下の点を確認してみるようにしましょう。
- 自社のステージ
- いくら資金調達したいのか
- 業種
- 成長率
- 自社の評価
以上5点をチェックし、最適な選択をするのが良質な資金調達を受ける為のコツです。それぞれどういう事なのかを以下で解説していきます。
まずはステージのチェック
上記でも説明したようにベンチャー企業は4つの成長ステージに分けられ、それぞれで受けられる投資額が変わり、それによりエンジェル投資家かベンチャーキャピタルを選択するかを選ぶのが適切です。
シード | アーリー | ミドル | レイター |
構想段階 | 不十分な認知度 | ユーザー増加中 | 新規製品開発 |
赤字 | 少し赤字 | 低い | 安定した黒字 |
500万円 | 1000万円~ | 数億円 | 数億円~ |
シード<アーリー<ミドル<レイターという順番で企業規模が変わります。エンジェル投資家が投資を行うのは基本的にはまだ構想段階で企業立ち上げ前の段階であるシードです。ハイリスクな反面、当たれば大きいハイリターンを得る事ができ、そういった企業に投資を行っているエンジェル投資家は非常に多いです。
企業運営が順調に進んでいき、企業の拡大と成長の為に資金が必要になった時にお願いするのがベンチャーキャピタルです。ミドル以上で更なる市場規模拡大の為に資金が必要になった時はVCを利用して多くの資金を調達するのが良いでしょう。自分の企業の成長ステージが今どこにいるかでどちらを選択するか決めるのがまず第一です。
資金調達額で決める
自分の会社が幾ら資金を調達したいと考えているのかでどちらを選択するのか決めるのも良いでしょう。エンジェル投資家の投資額は個人の資産からの投資ですから基本的には500万円~数千万円が相場です。反対にベンチャーキャピタルは法人の投資会社ですから数億円以上の資金調達も行えます。
経営が安定していて売上も確実に獲得できる状態である事が証明されれば、ベンチャーキャピタルからまとまった金額の出資を受ける事が可能ですが、創世記であれば熱意をエンジェル投資家に伝えて出資を得るしかありません。自身の企業のステージはどこか、資金調達額は幾らが希望なのか、この2点をしっかりと見極めましょう。
エンジェル投資家が好む業種
基本的にエンジェル投資家はハイリスクハイリターンを好みます。起業前の会社への投資はリスクが大きい変わりに、もしも大成功すれば大きな利益を得る事が出来ますので、ハイリスクでもハイリターンがある業種は特に好まれます。
特にエンジェル投資家が好んで出資を行う業種は、医療機器、ヘルスケア、スフトウェアなどのネット関係です。形になるまでのリスクは全てエンジェル投資家が資金を投資するという形で背負うものになりますので、相談して形になるまでの期間とそこからのマネタイズ方法を伝えておくのが良いと思います。
更に言えば一口にベンチャーキャピタルと言ってもターゲットにする業種によって様々な形で分類されます。銀行系ベンチャーキャピタル・政府系ベンチャーキャピタル・保険系ベンチャーキャピタル…色々な分野に分かれていますので、自らの業種に当てはまり、出資をしてくれそうなVCをきちんと見極めるのも実はとても大切です。
まとめ
起業家にとって有り難い資金調達方法であるエンジェル投資家とベンチャーキャピタルの違いと特徴について解説してきましたがいかがでしたでしょうか。エンジェル投資家については個人の裁量による所がとても多く、投資額も個人により様々です。経営について口うるさく指摘してくる人もいれば、相談されれば聞くけど勝手に頑張って!と言った感じで野放しにする方もいます。人それぞれ特徴が違い、経営とどう関わってくるのかも全く違います。
そういったシガラミを持ちたくないという方はベンチャーキャピタルを利用するのが良いと思います。審査が厳しくシードステージでは出資を受ける事が難しいという側面はありますが、シード期にも出資してくれるベンチャーキャピタルはありますし、業種によっては専門の会社もありますので、そういった所を見てみるのが良いと思います。大切なのは事業内容と情熱、将来性があるかどうかの事業プランです。どちらが良いか…冷静な判断で見極めていきましょう!