第4次ベンチャーブームが到来したと言われている日本では数多くのベンチャー企業、スタートアップ企業が立ち上げられています。顧客の需要の高度化、複雑化によって大企業は今までに無い、新たなサービスやビジネスモデルなどを展開していくことを迫られていますが、それを自社で一から開発するのでは時間もコストもかかりすぎてしまいます。
そこで大企業が目をつけたのが、新しい技術、革新的なアイディアを持っているベンチャー企業やスタートアップ企業です。ベンチャー企業は資金は無いものの、独自性の高い技術やアイディアを有しています。それをすぐに利益につなげたり、付加価値を得るということは出来ませんが、成長ステージに合わせて段階的に適切な資金を投入していくことで事業を拡大し企業を大きくしていくことが出来るのです。
そうなれば、最初は認知度も無くそんなことが本当に実現可能なのかと期待すらされていなかった技術が徐々に認められるようになり「価値」を持つようになります。企業価値が上がることで株式の価値は大きくなるため、IPOを行い株の売却をすれば大きなリターンを得られます。
一般的なベンチャーキャピタル(VC)であればこのように、企業が小さいうちに安く株を買って投資を行い、企業が大きくなった時に売却することで大きなキャピタルゲインを得ますが、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の場合はキャピタルゲイン以上に自社との事業シナジー効果を期待しているという特徴があります。
今回この記事では国内大手のシステムインテグレーターであるTIS株式会社のコーポレートベンチャーキャピタルについて詳しく解説していきます。
会社概要、特徴、投資実績や投資方針など、TIS株式会社のコーポレートベンチャーキャピタルで気になる部分がある方は是非チェックしてみてください。
TIS株式会社について
TIS株式会社(ティーアイエス)国内大手のシステムインテグレーターで、1971年に三和銀行(元・三菱UFJ銀行)のシステム子会社として設立されました。
システムインテグレーターとは、個別のサブシステムを一つにまとめ、それぞれのシステムが正しく確実に機能するように完成させるシステムインテグレーションを行っている事業のことです。
TIS株式会社ではこのようなビジネスの基幹を支えるようなシステムの構築から、競争力を有したアプリケーション、システムの基盤となるプラットホームなど、ITサービスを幅広い分野に提供している総合ITサービス企業と言えるでしょう。歴史ある企業の強みとも言える経験と技術を活かし、経営課題を把握、そして潜在的なニーズを先取りしたサービスを提供することでクライアントのデジタルビジネスに貢献しています。
TIS株式会社の強みとも言えるのがJCBを中心にしたクレジットカード会社の基幹システム開発で、国内市場シェアは首位の50%。近年ではブランドデビットカードのシステム開発にも強みを見せており、国内市場シェアは80%と圧倒的です。
TIS株式会社はITを単なる省コストや効率化のためのツールとは捉えておらず社会課題の解決に貢献することも出来うるものだとしてとらえており、自社の得意分野であるIT分野での新しい市場の開拓や新しいビジネスモデルを持つベンチャー企業やスタートアップ企業の発掘や育成に力を注いでいるということがわかります。
会社名 | TIS株式会社(TIS Inc.) |
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資本金 | 100億円 |
創業 | 1971年4月28日 |
設立 | 2008年4月1日 |
従業員 | 連結:19,483名 単体:5,506名 (2019年3月31日時点) |
売上高 | 連結:420,769 (百万円) 単体:181,070(百万円) (2019年3月期) |
上場市場 | 東証第一部(3626) |
所在地 | 〒160-0023 東京都新宿区西新宿8丁目17番1号 |
Webサイト | https://www.tis.co.jp/ |
TIS株式会社の特徴
TIS株式会社は2016年にベンチャー企業への投資を行うコーポレートベンチャーキャピタルを設立しました。2008年のリーマンショックでベンチャー企業への投資は一時期低下していたものの徐々に回復しつつあり、優良ベンチャー企業への投資画像化する中で、TIS株式会社はベンチャー企業との事業シナジー効果を活かすことで事業を拡大していこう考えたのです。
通常のベンチャーキャピタルの場合、複数の投資家や事業会社から資金ヲ集め、ベンチャー企業に投資します。しかしながらTIS株式会社のコーポレートベンチャーキャピタルはプリンシパル投資(プリンシパル・インベストメントとも)と呼ばれる自己資金を使った投資のため、ファンドのように決められた期間で投資効果を高める義務は無く、投資案件に応じて期間や投資額を決定することが出来ます。企業としては投資成功した時に配当を行う必要がなく高収益であることが挙げられますが、その分、リスクは全て自分で負担することになるためかなりハイリスク・ハイリターンな投資法と言えます。
そもそも、ベンチャー企業への投資というのはハイリスク・ハイリターンであることが普通です。それをプリンシパル投資で行うとなると、投資先企業の選考はかなり厳しくなるということが予想出来ます。
TIS株式会社の投資方針
TIS株式会社が投資対象としている企業の成長ステージはアーリーステージからミドルステージという、急成長期のベンチャー企業です。投資先企業の発掘や投資判断は外部有識者からなる「諮問委員会」、そして「コーポレートベンチャーキャピタル投資委員会」が連携を取りながら最短1ヶ月ほどで行われます。
また、TIS株式会社は通常ベンチャーキャピタルのようにキャピタルゲインを一番の目的として投資を行っているわけではなく、自社との事業シナジー効果を生むことを目的として運用されています。よって、TIS株式会社では以下のようなポイントを最重要視しています。
- 現在や将来的にTISグループの事業とのシナジー効果を期待することが出来る
- 革新的な技術、サービスを有している
- B2B/エンタープライズ向けであればより望ましい
更にTIS株式会社は2018年5月23日にAI(人工知能)関連のベンチャー企業に出資する「AI特化コーポレートベンチャーキャピタル(AI-CVC)」の新設を発表。
既存のコーポレートベンチャーキャピタルと比べ、出資枠の上限の拡大、更にAI分野に特化したコーポレートベンチャーキャピタルとなっており、出資対象としては既存のコーポレートベンチャーキャピタルと同じくアーリーステージからミドルステージのベンチャー企業が対象。
AI特化コーポレートベンチャーキャピタルでは、将来性のあるAIベンチャー企業にTIS株式会社が出資や多面的なサポートを行い、連携しながらTIS株式会社が持っている顧客基盤や多様なパートナー、マーケットにアプローチしていくことが出来ます。
2018年から2020年の3年間で最大800億円という額の投資を想定しており、人材投資に80億円、ソフトウェア投資に170億円、先端技術獲得のための研究開発投資に50億円、更にM&A等を含めた戦略ドメイン伸長のための投資で500億円という構成となっています。
TIS株式会社の投資実績
TIS株式会社はこれまでにAI関連企業を中心にFinTech、ビッグデータ、ロボティクス、IoT、VR、音声認識、ヘルスケア関連企業に投資を行ってきており、2018年6月27日には投資先企業である音声合成エンジンの「株式会社エーアイ」が東京証券取引所マザーズ市場に上場を果たしています。
日本だけでなく世界各国に拠点やグループ企業を持つTIS株式会社は国内のベンチャー企業だけでなく、アメリカ・シリコンバレーのベンチャー企業の連携による新規事業創出の強化を目指し、Sozo Ventures, L.L.C.が運営する「Sozo Ventures Ⅱ-S」というファンドへの出資も行っています。
TIS株式会社から投資を受けるメリット
TIS株式会社から投資を受けるメリットとしては、やはり何といっても巨大なTISグループとのつながりを得られるということでしょう。TIS株式会社のコーポレートベンチャーキャピタルの特徴として、資金提供だけでなくTISのエンジニアなどの「ヒト」、IT資産、ワークスペースなどの「モノ」の提供も受けることができるため、様々な角度からのサポートを受ける事ができます。
投資後も迅速に新規ビジネス立ち上げが行えるよう、インキュベーションセンターや顧客ネットワークの活用、PDCA管理を行うなど手厚いサポートは単なる出資に留まらない大きなメリットと言えるでしょう。
まとめ
国内大手のシステムインテグレーターであるTISはAI関連のベンチャー企業への出資に特に力を入れており、既存のコーポレートベンチャーキャピタルの他にAI関連企業へ的を絞って投資を行う「AI特化コーポレートベンチャーキャピタル」も設立しています。
このことからも、TIS株式会社がAI技術に力を注いでいるということがわかります。また、投資先企業の選考基準としては新しい技術、革新的なサービスを有しているかどうかだけでなく、それが現在、もしくは将来的にTISグループの事業とのシナジー効果を期待することが出来るのかということが最重要視されています。
また、投資対象となる成長ステージはアーリーステージやミドルステージとなっているため、まだ創業しておらずビジネスモデルの構想段階や立ち上げて間もない状態のシードステージのベンチャー企業では出資を受けることは難しいと考えるべきでしょう。
歴史ある企業であるTISグループは今まで培ってきた経験やノウハウ、独自のネットワークを持っており、ベンチャー企業が事業を拡大したり企業を大きくしていくために力強いサポートをしてくれるはずです。TISグループとの事業シナジー効果を生み出せそうな事業を行っているというベンチャー企業は自社の成長ステージや事業計画なども踏まえつつ、出資を受けることを検討してみたらいいのではないしょうか。