
企業間においての手形の取引は当然のように行われていましたが、最近ではファクタリング導入により手形利用の減少が目立つようになりました。
売掛債権を回収する役割を持つファクタリングと手形割引ですが、その違いをご存知でしょうか?
もしも、ファクタリングと手形割引を同じ意味として捉えているのなら、事業において最適な判断が下せなくなる可能性があります。
そこで、こちらの記事では、ファクタリングと手形の5つのポイントを比較しながら、それぞれの特徴をご紹介していきます。
ファクタリングと手形割引は混同しがちですが、その違いを把握して事業運営や資金調達に活かしましょう。
ファクタリングと手形利用が減少傾向
日本の高度成長を支えてきた手形取引ですが、1995年度末ををピークにインターネットの普及やファクタリングの取引により少なくなってきました
下記の表で分かるように、1995年度には87兆円だったものが、2013年度末には25兆円と大幅に減少しています。
減少した理由には、手形発行や搬送コスト、印紙税などの事務コスト削減、ファクタリング取引などが考えられ、企業の売掛債権と比較してみても手形取引の占める割合も少なくなっているのが現実です。
中小企業の資金調達にファクタリング
経済産業省では中小企業が資金調達をするにあたって、いくつかの問題点を指摘されています。
中小企業は自己資本率が低く借入金の割合が高いために経営基盤が不安定であり、大企業と比べると信用にかけ、資金調達するための不動産を保有していない等の問題点が指摘されています。
このような資金調達の問題を解決するために、経済産業省ではファクタリングを含んだ売掛債権担保を活用した政策を推し進めています。
次に、ファクタリングと手形割引の仕組みについて、みていきましょう。
ファクタリングの仕組み
売掛債権には、売掛金や約束手形などがありますが、ファクタリングはそれらの売掛債権などを現金化する方法です。
事業を運営していく中で、サービスや商品を購入すれば売掛債権が発行されることになりますが、ファクタリング会社にこれらの売掛債権を売却し現金化してくれるサービスを行っています。
ファクタリングの流れ
ファクタリングのサービスを受けるためには、まずファクタリング会社と契約を結んで売掛金債権の譲渡を行います。
そして、売掛債権を譲った企業は、ファクタリング会社から前払いとして、手数料を引いた現金を受け取ることができるのです。
売掛債権の支払い期日には、取引先からファクタリング会社へ売掛金が振り込まれてサービスが完了します。
ファクタリングは借入金と異なり資金繰りがしやすいのですが、手形のような現物がないために、売掛債権譲渡の事実を明確にするのために「債権譲渡登記」などを行うことがあります。
手形割引の仕組み
手形割引では、所有している手形等を金融機関に譲渡し、支払い期日前に現金化してもらえるサービスです。
手形の現物に裏書きをして金融機関に渡し、手形の金額から利息相当分を割り引いた分が現金として受け取れます。
手形の支払期日には、金融機関が交換に回して決済を行うことで、手形取引は完了となります。
手形には、約束手形や為替手形がありますので、どのような特徴を持った手形なのかをみてみましょう。
約束手形
約束手形は、手形の振出人(支払人)が代金の受取人に対して、一般的には1ヶ月~120日以内に一定の金額を支払うことを約束する有価証券です。
文字通りに決済を約束する手形のことを言い、日本国内の9割以上がこの種類の手形に該当しています。
ビジネスで言う手形は、ほとんど約束手形のこととなるでしょう。
為替手形
為替手形は、手形を発行した振出人が、第三者となる支払人に依頼して、受取人に対して支払いを行ってもらう三者間で行われる形の手形です。
為替手形を利用して取引を行うと、手形を発行した会社は売掛金と買掛金が同時に解消できるために、債権の回収と支払いの手間を省くことができます。
ファクタリングと手形の共通点
売掛債権とは、会社の営業によって行われる商品やサービスの売上代金のなかで、未回収の代金を請求できる権利のことです。
商品やサービスの販売するたびに現金取引をすると、企業にとって手間やコストが必要となるために現金取引でなく売掛債権の信用取引によって行われています。
つまり、ファクタリングと手形割引の共通点は、入金される予定の債権を譲渡する資金調達方法ということです。
このように共通点があるために、ファクタリングと手形割引は混同されがちですが、ファクタリングと手形割引には大きな違いがあります。
ファクタリングと手形割引を徹底比較
ファクタリングと手形割引は、お金を請求する権利を第三者に譲渡するというところは共通していますが、異なる点がいくつかあるので利用する時にはきちんと把握しておく必要があります。
次に、ファクタリングと手形割引の比較のポイントとして、手数料、返済義務、不渡りリスク、審査基準、事務処理の5つを比較していきます。
1.手数料を比較
ファクタリングも手形割引も利用するためには、双方とも手数料が必要となりますが、手数料は同じではなく、手形割引の方が若干低めに設定されています。
手形割引の場合の手数料は1.5%~3.5%(銀行の場合)ですが、2社間ファクタリングの場合には20%~30%、3社間ファクタリングの場合には1%~5%程となります。
2社間ファクタリングに比べて、3社間のファクタリングの手数料には大幅に低くなります。
3社間のファクタリングは、ファクタリング業者、利用者、売掛金の3者で売掛金の売買をするために、信用度が高くリスクが抑えられるので手数料が低く、その反対に2社間ファクタリングは回収に失敗すると業者が責任を負うことになるために手数料が高く設定されています。
ファクタリングでは事務処理の代行や信用調査、さらに経営に関する相談できるなどのサービスが充実していますので、「手数料を抑えるか?」「手厚いサービスをとるか?」ということが選ぶ際のポイントとなるでしょう。
◆手形割引 1.5%~3.5%(銀行の場合)
◆ファクタリング
・2社間ファクタリングの場合には20%~30%
・3社間ファクタリングの場合には1%~5%
2.返済義務を比較
ファクタリングと手形割引の返済義務を比較してみると、ファクタリングは売掛金を譲渡するだけなので、借入は行っておらず支払義務は発生しません。
その反対に、手形割引の場合には、手形を担保した融資という形となりますので、担保である手形の価値が無くなれば、企業は返済義務を負うことになります。
◆ファクタリング 返済の義務なし
◆手形割引 返済の義務が生じる
3.不渡りリスクを比較
不渡りが生じた場合には、ファクタリングと手形割引では違いが生じてきます。
ファクタリング会社の多くは、償還請求権が無いノンリコースとなっていますので、万が一に取引先が倒産し売掛金債権が焦げ付いたとしても、ファクタリングを申し込んだ企業は返済する必要はありません。
手形割引の場合には、上記でも説明したように融資となりますので、取引先が倒産し不渡りを出した場合には、手形の価値は無くなり手形を譲渡された銀行等は全額返還を求めてくることになります
◆ファクタリング 不渡りになっても返済義務はない
◆手形割引 不渡りになると全額返還を求められる
4.審査基準を比較
ファクタリングと手形割引では審査基準が異なっており、ファクタリングは申込みを行った企業を審査することは殆どありませんが、手形は融資として扱われますので審査が行われます。
手形割引の審査は申込みを行った企業の返済能力を調べることになりますので、「決算の赤字はないか?」「税金の未払い」「債務超過の有無」などが審査されることになります。
もしも、赤字決算や税金の未払いが生じているのなら審査に通過できず、契約が成立しなくなるでしょう。
◆ファクタリング 申込み企業の審査なし
◆手形割引 申込み企業の審査あり
また、手形割引の審査にはおよそ3日ほどの時間を費やすことになりますので、急ぎの資金調達には間に合わない可能性もでてきます。
ファクタリングの場合には、償還請求権がないために、債権が焦げ付くとファクタリング会社が損を被ることになります。
ですから、申込み企業ではなく取引先が確実に支払いができるのかのみを審査し、審査時間は手形割引と比べて早く、最短即日に現金化することも可能です。
手形割引の審査は必要書類と面談というのが一般的で、ファクタリングは電話のみや書類を郵送するだけというところがほとんどです。
◆ファクタリングの審査時間 短く即日の現金化も可能
◆手形割引の審査時間 平均して3日程度
5.事務処理を比較
ファクタリングと手形割引を利用した場合には、経理上の事務処理においても違いが生じてきます。
ファクタリングの場合には、借方に現金や預貯金の増加となり、貸方には売掛金の減少という仕訳になります。
手形割引の場合には、借方の現金や預貯金の増加はファクタリングと同じですが、貸方には「短期借入金の増加」と言う仕訳になります。
手形割引においては、銀行や業者からの借入となるので借入金が増加する形です。
◆ファクタリング 借方:現預金の増加 貸方:売掛金の減少
◆手形割引 借方:現預金の増加 貸方:短期借入金の増加
総資産の面から見た場合には、ファクタリングに資産の変動はありませんが、手形割引の場合は負債である借入金が増加すると同時に資産が増加しするために、貸借対照表の結果が違ってきます。
企業によっては「ROA」という資産の効率性を重視しているところもあります。
ファクタリングでは総資産の変動がないのでROAが劣化してしまうことはありませんが、手形割引の場合には総資産の変動してしまいますので、利用を検討する際にはファクタリングと手形割引の違いをきちんと把握しておくことが大切です。
◆ファクタリング 総資産額の変動なし
◆手形割引 総資産額の変動あり
まとめ
混同しがちなファクタリングと手形割引の「手数料、返済義務、不渡りリスク、審査基準、事務処理」5つの違いを、わかりやすく比較しながら解説してきました。
また、ファクタリングや手形割引の仕組みや共通点にも触れています。
売掛債権を現金がするという意味では、ファクタリングと手形割引の目的は同じですが、「手数料、返済義務、不渡りリスク、審査基準、事務処理」といった、5つのポイントを踏まえた上で、企業にあった資金調達法を検討してみてください。
早急に資金調達したいのであればファクタリングを、手数料を抑えたいのであれば約束手形ということが考えられます。
しかし最近では、インタネットの普及や債権の電子化に伴って、ファクタリングの取引が中小企業間で増えてきました。
取引先の不渡りなどのリスクが抑えられ、安全に素早く現金化できるファクタリングは、今後も増加していく資金調達法となるでしょう。