ICO(イニシャル・コイン・オファリング)に代わる新しい資金調達方法として注目されているのがSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)です。
セキュリティ(Security)とは「有価証券」を意味する言葉で、STOでは有価証券と同じように法規制が適用される「セキュリティトークン(Security Token)」を使って資金調達を行ないます。
既に存在している株式・不動産などの有価証券をトークン化して資金調達を行うというSTOは日本では金融商品取引法に基づいて2020年4月から実施されます。
2019年10月1月にはマネックス証券ほか証券会社5社が来年のSTO実施に向け、法令遵守や投資者保護などを徹底するためにて「日本STO協会」を設立しました。
この記事ではSTOとはどのような資金調達方法なのか、日本でも大ブームを巻き起こしたICOとの違い、STOのメリットやデメリットなど、STOについて知りたいことを詳しく、わかりやすく解説していきます。
INDEX
ICOに代わる資金調達法「STO(セキュリティ・トークン・オファリング)」とは
STO(Security Token Offering/セキュリティ・トークン・オファリング)はICOに代わる新しい資金調達として日本でも注目され初めてきた方法で、株式や不動産などの「証券」をブロックチェーン上でトークンとして発行し、資金調達を行ないます。
有価証券(株・債券・不動産など)と同じように法規制が適用されるセキュリティトークンを使うSTOはICOとは違い、各国の金融庁や証券取引委員会などの監視下で取引が行われるため、ICOよりも安全に、そして厳格に資金調達を行うことが出来ます。
トークンとは?
トークンとは「商品の引換券」「代用貨幣」という意味を持つ言葉で、「何か価値のあるものと引き換えることが出来るもの」です。
お金の代わりとして商品・サービスを購入できるギフトカードや、カジノでお金代わりとして使うチップもトークンの一種です。
STOにおいての「セキュリティトークン」はトークンの中でも証券としての価値があるトークンのことです。
詐欺が横行したICO
2017年には世界中で大きな盛り上がりを見せたICOでの資金調達ですが、明確な規制の整備がされないままにトークンが売買されたため詐欺や詐欺的手法が横行したり、投機性などの問題が浮上しました。
実際、情報開示や販売や広告などの方法に制限がないことを悪用し、相場操縦的手法で価格だけが上がっていく、プロジェクトが進んでいる形跡がないなど、明確に詐欺と断定することは出来ないものの、怪しいプロジェクトが横行し、多くの投資家が不要な損失を被ることになったのです。
その結果2018年にはトークンの価格が下落。ICOによる資金調達額は右肩下がりとなり、現在ではICOという手法自体がその信頼を失いつつあります。
アメリカのSTO
このように、ICOなど仮想通貨(暗号資産)による資金調達は課題や問題点が浮上しつつも進化を続け、その結果、最近提唱され始めたのがSTOです。先駆けとなったのはやはりアメリカで、その他にもシンガポールで事例があります。
アメリカでは、有価証券(=セキュリティトークン)は連邦政府機関であるSEC(Securities and Exchange Commission/証券取引委員会)の規制下に置かれるため、通常の株や債券などと変わらない情報開示や届け出が必要となります。
このように厳しい規制があるため堂々と投資家たちにもアピールすることができ、さらに従来の株・債券の売出しに比べればハードルは低くなるというのがSTOの特徴と言えるでしょう。
STOとICO、5つの違い
では、STOとICOにはどのような違いがあるでしょうか。以下では、表の内容をより詳しく解説していきます。
ICO | STO | |
---|---|---|
トークン | ユーティリティトークン | セキュリティトークン |
法規制 | 各国のICOの規制に準拠 | 各国の金融商品取引法に準拠 |
参加者の制限 | なし | 適格機関投資家などに限られる |
本人確認 | なし | あり |
期待出来る利益 | ・トークンの値上がり利益 ・サービス会員権・割引など |
・トークンの値上がり利益 ・配当 |
1:セキュリティトークンとユーティリティトークン
ICOに代わる形で登場したため「ICOの上位互換」とも言われるSTOですが、正確にはICOの上位互換ではありません。
規制の厳しいセキュリティトークンではなくユーティリティトークンを発行したとしても、上場するなど価値を持つことで事実上セキュリティトークンの性質を持っていると見なすこともあり、セキュリティトークンとユーティリティトークンの分類については難しいものがありますが、両者の大きな違いについて解説していきます。
STO=セキュリティトークン
STOで取り扱われる「セキュリティトークン」は証券という性質を持ったトークンであり、株式(企業の所有権)など、価値を裏付けられているモノの所有権をトークン化したものです。
トークンが一体どのようにして証券価値があると判断されるかについて、アメリカでは「ハウェイテスト(Howey test)」という基準が設けられています。
ハウェイテストで、下記のような4つの点を満たすと証券=セキュリティトークンと判断されます。
- 金銭による投資である
- 投資に対し、収益が期待出来る
- 投資先が企業である
- 第三者の努力によって利益が生じる
ICO=ユーティリティトークン
一方、ICOで主に取り扱われているのはあるサービスやシステムなどを利用する権利である「ユーティリティトークン」で、発行体が展開しているサービスやプロジェクトの中で利用されます。
例えば、スマート・コントラクトを動かすGASと呼ばれる手数料の支払い通貨として使われるイーサリアムはユーティリティトークンと言えます。
法規制が適用される証券扱いとなるセキュリティトークンに対し、ユーティリティトークンの場合は証券には該当しないため取引所で比較的自由に売買を行うことが出来ます。
2:法規制
前述の通り、ICOはまだ法規制が整備されて居ない中でトークンの発行・取引が行われていたため、詐欺的手法や投機性の問題が浮上しました。
しかし、STOでは各国の金融庁や証券取引委員会などが監視を行ない、金融商品取引法に準拠したトークンの発行・取引が行われます。
STOはICOのような手軽さはなくなったものの、ルールが明確になったことで投資家は安心して投資を行うことが出来るようになるのです。
3:参加者の制限
ICOはほとんどの場合、発行者側にも参加者側にも資格や制限が設けられていませんでした。単価も100円以下という安いものもあり、誰でも手軽にトークンを購入することが出来たのです。この手軽さも、ICOが爆発的に流行した理由の一つと言えるでしょう。
しかし、STOの場合はトークンを購入出来る参加者は制限されており、資産が100万ドル(約1億1,100万円)以上、もしくは年収20万ドル(約2,200万円)以上あるなど、プロ投資家(適格機関投資家)に限定されているものがほとんど。投資経験や専門知識を持った投資家(個人・法人)だけがセキュリティトークンを購入することが出来るのです。
4:本人確認
ICOでは基本的に本人確認は必要ありませんでしたが、STOでは必ず本人確認を行う必要があります。
そもそも銀行、証券会社などの金融機関は顧客が暴力団など反社会的勢力に属していないか、つながりを持っていないか等を確かめる「反社チェック」を必ず行わなければならず、セキュリティトークンを販売する際にはこのような反社チェックや本人確認が必須となります。
5:期待出来る利益
気になるのが期待出来る利益についてですが、STOとICOではこれについても違いがあります。
ユーティリティトークンを取り扱うICOでは値上がりで生じる利益の他、発行体が展開するサービスの利用権利や割引が適用されるなどのリターンを期待することが出来ます。
これに対してセキュリティトークンを取り扱うSTOでは値上がりで生じる利益だけでなく、発行体(企業)からの配当や、トークンから生まれる金利などを受け取ることが出来るのです。
STO(セキュリティ・トークン・オファリング)のメリット
STOには以下のようなメリットがあります。
メリット1:安全に取引できる
法規制が整備されていなかったICOとは違い、STOでは各国の金融商品取引法に基づいて証券の性質を持ったセキュリティトークンが発行されます。定められた規制をクリアしたトークンのみに投資を行うことが出来るため、投資家は安心して投資を行うことが出来ます。
また更に、ブロックチェーン上に取引記録を記録出来るセキュリティトークンならば詐欺を撲滅し、高い透明性を維持することにもつながります。
メリット2:所有権の分割
従来では管理コストが上昇してしまうため金融資産を分割することはあまり行われず、これによって沢山の投資機会が失われてきました。
しかし、STOでは資産をトークン化することで今まではなかなか出来なかった小さな単位の所有権の分割も行えるようになります。アートや不動産の分野で注目されており、美術作品を裏付けに発行される「The Art Token」が登場しています。
メリット3:24時間365日取引が可能
複雑な取引が交わされる証券市場は取引可能な時間が限られています。例えば東京証券取引所の場合、株式の取引時間は平日9~15時までとなっています。
しかし、セキュリティトークンならば今までの仮想通貨の取引と同じ様に24時間365日稼働させることも出来る可能性があり、流動性が向上することが見込まれています。
メリット4:自動化とコスト削減
スマート・コントラクトを利用することで配当の支払いや証券の小口化などを自動化させることも可能となっているため、大幅にコストを削減ができ、流動性の低い不動産などの資産の取引が活性化するのではないかとも言われています。
STO(セキュリティ・トークン・オファリング)のデメリット
このように数々のメリットがあるSTOですが、デメリットも存在しています。
デメリット1:資金調達のハードルが上がる
ICOでは規制がなかったため比較的自由に資金調達を行うことが出来ました。しかし、STOで資金調達を行う場合には各国の金融商品取引法に基づいたセキュリティトークンを発行する必要があります。
これは投資家にとっては安全に投資を行うことが出来るようになるというメリットとなりますが、企業側からすると資金調達のハードルが上がるというデメリットとも考えられます。自由度が低下したことからコストも増加し、反社チェックや本人確認などもあるため、企業やSTOを行うためには高度な技術的アプローチが求められるようになるのです。
デメリット2:各国の法令に従う必要がある
STOは各国の金融商品取引法に従う必要がありますが、現状、条例の統一は取れていません。今後、基準を統一するかもしくは新しい枠組みを作り上げて行く必要があり、それには時間やコストの発生が考えられます。
デメリット3:投資参加者が限定的になる
ICOの場合は参加者側に制限がなく誰でも手軽にトークンを購入することが可能となっていました。ネット環境さえあればどこからでもトークンを購入することが出来たため、価格が上昇していきそうなICO銘柄を見つけたらすぐに購入することが出来たのです。
しかし、STOの場合は安定した高収入、もしくは1億1,100円以上の資産をを持つプロ投資家(特定投資家)が対象となっているため、一般の投資家はまず投資に参加することが出来ません。
セキュリティトークンはICOで取引されていたようなトークンと比べると売買範囲が限定されるため流動性も下がるのではないかという指摘もあります。
2019年10月1日「日本STO協会」が設立
2019年10月1日、マネックス証券がSBI証券、カブドットコム証券、大和証券、野村證券、楽天証券の証券会社5社と共同で「日本STO協会」を設立しました。
STOは2019年5月31日に成立し2020年4月から施工となる「金融商品取引法」に基づいて実施予定となっており、日本STO協会はSTO業界の健全な発展のため、自主規制の策定などを行ないます。
マネックス証券を始めとした証券会社5社はは2019年10月1日に以下のようなプレスリリースを出しています。(一部抜粋)
日本STO協会は、証券会社を中心に証券業に係る知見を結集し、我が国におけるSTOのビジネス機会を模索・実現させていくとともに、不公正取引やマネー・ロンダリングなどの違法行為を防止し、法令遵守や投資者保護を徹底させることを目的としております。
かかる目的を達成するために、日本STO協会は金融商品取引法に基づく認定金融商品取引業協会としての認定を取得し、自主規制機関の機能を発揮していくことを予定しております。
引用元:「日本STO協会」設立のお知らせ
日本STO協会が認定を予定している「金融商品取引業協会」とは、金融商品取引法で設置が認められている団体のことで、認可金融商品取引業協会と公益法人金融商品取引業協会という2つの形がありますが、認可金融商品取引業協会は有価証券の売買やその他の取引などを高生活円滑に行ない、金融商品取引業者の健全な発展や投資者の保護を目的として金融商品取引業者によって設立されます。
まとめ
有価証券と同等の法規制が適用されるセキュリティトークンを取り扱うSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)。
日本では2020年4月から金融商品取引法に基づいて実施される予定となっており、日本STO協会を始め実施に向けて様々な動きがあります。
ICOに代わる新しい資金調達方法と言われているSTOですが、金融商品取引法に準拠されるため安全性は高くなるものの、資金調達を受けるためのハードルが高くなったり、投資に参加することが出来るのも適格機関投資家に限られるなど、多くの部分で違いがあります。
まだまだ規制面などで見直しが必要でもあり、今後STOが主流となれば既存のシステムに代わる新しい基盤が生まれる可能性もあります。日本での実施に向け、STOは注目すべきトピックと言えます。