ソフトバンク・ビジョン・ファンド とは

ソフトバンクビジョンファンドとは?特徴や投資実績など7項目で解説

ベンチャーキャピタル

日本では主に携帯電話会社、プロ野球チーム「福岡ソフトバンクホークス」の親会社として知られるソフトバンクグループは2016年10月に超大型ファンドの設立を発表。

それが「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」です。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資額はテクノロジーファンドとしては前代未聞の10兆円という規模で、日本のみならず世界のベンチャーキャピタルに大きな衝撃を与えました。

現在第4次ベンチャーブームを迎えた日本では数多くのベンチャー企業やスタートアップ企業が誕生しており、ベンチャーキャピタルも成長性のある企業に対しては積極的な投資を行っています。

そんな中で注目を浴びているソフトバンク・ビジョン・ファンドとは一体どのような会社なのか?特徴、投資の流れ、ビジネスモデルや投資方法、投資先企業などについて詳しく解説していきます。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドとは

ソフトバンク・ビジョン・ファンド とは

ソフトバンク・ビジョン・ファンド・エルピー(SoftBank Vision Fund L.P/SVF)はソフトバンク・ビジョン・ファンドとデルタファンド(SB Delta Fund (Jersey) L.P.)が運営を行う投資ファンドのことです。

2017年5月20日、ソフトバンクグループの孫正義とサウジアラビアのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)のムハンマド・ビン・サルマーン副皇太子らによって発足しました。

PIFが450億ドル、ソフトバンクが250億ドル、ムバダラ開発公社が100から150億ドル、アップルが10億ドル、クアルコムが10億ドル、ラリー・エリソン個人事務所が10億ドル、鴻海精密工業などの10社前後が出資を行ない、運用規模は10兆円を超える見込みで、投資先の選別など、運用についてはソフトバンクが行う予定

更に、日経新聞社はソフトバンクは8兆円規模の運用資産を持っているフォートレス・インベストメント・グループを共同買収したことについて「ノウハウを取り込み投資部門全体のバランスを取りつつ運用規模を20兆規模に拡大するのではないか」と予想しています。

ソフトバンク・ビジョン・ファンド デルタ・ファンド
主なリミテッド・パートナーシップ SoftBank Vision Fund L.P. SB Delta Fund (Jersey) L.P.
出資コミットメント総額 917億ドル 60億ドル
281億ドル(ソフトバンク)
636億ドル(外部投資家)
44億ドル(ソフトバンク)
16億ドル(外部投資家)
リミテッドパートナー ソフトバンクグループ
パブリック・インベストメント・ファンド
ムバダラ開発公社
Apple
Foxconn
Qualcomm
シャープ
ソフトバンクグループ
ムバダラ開発公社
ジェネラルパートナー SVF GP (Jersey) Limited
(ソフトバンク海外100%子会社)
SB Delta Fund GP (Jersey) Limited(ソフトバンク海外100%子会社)
アドバイザリー会社 ソフトバンク100%子会社(日・米)
運営会社 当社100%子会社(英国)
投資期間 最終クロージングから5年後まで(原則)
存続期間 最終クロージングから12年後まで(原則)

ソフトバンク・ビジョン・ファンドの全体像

以下の図がソフトバンク・ビジョン・ファンドの全体像です。

ソフトバンク・ビジョン・ファンド とは

引用元:ソフトバンク・ビジョン・ファンドのビジネスモデルと会計処理

緑部分が実際に投資ファンドの運用を行う「GP」、青の点線部分が出資する主体の「LP」ですが、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの場合、ソフトバンクグループがLPにもなり、外部からも資金調達を行っています。

また、緑部分の左側にある青部分は「投資助言会社」で、アメリカと日本に設立しています。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドのビジネスモデル

ソフトバンク・ビジョン・ファンドだけでなく、以下のようなプロセスでファンドは成り立っています。

ソフトバンク・ビジョン・ファンド とは

引用元:ソフトバンク・ビジョン・ファンドのビジネスモデルと会計処理

これから、1つ1つ詳しく解説していきます。

1:投資家を集める

まずはLP投資家を集め、出資コミットメント(資金を支払う約束)を取り付けます。

多くの場合、このような約束額を一括で支払うということはなく、この時は出資コミットメントのみで、出資額はキャピタルコール(この会社に投資をするから◯◯円振り込んでくださいという依頼)が行われた際に支払われます。

2:投資先を探す

投資先を見つけるため、成長性が見込めるベンチャー企業やスタートアップ企業の選定を行ないます。

3:投資を行ない、投資先企業の業績を改善

今後成長し事業が拡大していく見込みがあると見なされた企業に実際に投資を行ないます。ここで初めてキャピタルコールが行われ、振り込まれた出資資金で投資先企業への投資を行ないます。

4:投資成果を最大化、LPに分配

投資先からの配当や、投資先企業がIPOやM&Aというイグジットによって得た利益をLP投資家に分配します。

では、ファンドを運営するGPは一体どのような報酬を得ることが出来るのかと言うと「two/twenty」と呼ばれる報酬を得ることが出来ます。

two/twentyとは

two…毎年得られる固定のファンド管理報酬(総コミットメント100の場合2%に相当)

twenty…投資成果からLPの投資額、ファンド運営費を引いた金額の20%

※割合にはファンドによって違いがあるがソフトバンク・ビジョン・ファンドの構成については非公開

ソフトバンク・ビジョン・ファンドが収益性を高める方法

ソフトバンク・ビジョン・ファンドのファンドビジネスの重要なポイントはどこにあるかというとIRR(Internal Rate of Return=内部収益率)にあります。

これはファンドビジネスで1番大切なことでもあり、IRRを高めるための方法としてソフトバンク・ビジョン・ファンドでは具体的に以下の3つの方法を挙げています。

IRRを高める方法1「安く買って高く売る」

まずは、安く買って高く売るということです。これはつまり、可能な限り安いタイミングを狙って投資を行ない、そして高くなったタイミングで売却を行うという方法です。

IRRを高める方法2「投資期間の短縮」

投資を行う期間をできるだけ短くするというのもIRRを高めるための方法です。一般的に、投資から回収までは早くなればなるほどIRRは上昇します。

IRRを高める方法3「借り入れ」

3つめのIRRを高める方法は借り入れを活用するというもので、ハイリスクですがハイリターンな方法です。

例えば100の投資を行うとして、全て自己資金で投資を行うのではなく、自己資金25、借り入れ75という形で投資を行うことで、より少ない資本で大きな投資が可能となるのです。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドへの2種類の投資方法

ソフトバンク・ビジョン・ファンド とは

ソフトバンク・ビジョン・ファンドに投資する方法は「クラスA」と「クラスB」の2種類があります。

  • クラスA(成果分配型)
    1:投資成果の増減によってLP投資家が受け取る分配額も増減する
    2:LP投資家に対する投資成果の分配はクラスBに劣後
  • クラスB(固定分配型)
    1:投資元本に対し一定割合の分配
    2:LP投資家に対する分配はクラスAに優先

投資成果から出資比率に応じた分配が行われるというクラスAは「株式」に近い形です。

一方、投資額に対して一定の割合で分配が行われるクラスBは「債券」に近い形となります。

ファンドビジネスでは通常、クラスAの投資が多くなりますが、ソフトバンク・ビジョン・ファンドは金額が大きくなるためリスクを抑える形で出資が可能なクラスBも受け付けています。このように固定分配型で投資を受けるベンチャーキャピタルは非常に稀な存在です。

サウジアラビアの国営ファンドなどはクラスA、クラスBの両方でソフトバンク・ビジョン・ファンドへの出資を行っており、こうすることである程度リスクやリターンをコントロールすることが可能となります。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドの特徴

クラスBの固定分配型のようなリスクを抑えた出資を受け付けているという特徴を持つソフトバンク・ビジョン・ファンドですが、更に、ファンド全体もソフトバンクグループの連結対象となることも特徴の一つです。

ファンドを運用するGPの投資委員会は孫正義(本社社長)などソフトバンクグループの関係者で構成されており、実質ソフトバンクグループがファンドを支配しているということになるのです。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先企業15社

ソフトバンク・ビジョン・ファンド とは

莫大な資金力で積極的な投資を行っているソフトバンク・ビジョン・ファンドは様々な業種の企業への出資を行っています。

ここからはソフトバンク・ビジョン・ファンドが今まで出資を行ってきた中でも特に注目されている15社についてご紹介していきます。

1:スナップディール(Snapdeal)

スナップディール(Snapdeal)はインドのインターネット通販の大手です。当初は取引サイトとして開始したものの、結果的に大きく発展。今では30万を超える売り手を抱える大規模な電子商店街となりました。

創業 2010年
創業者 クナル・バール(Kunal Bahl)
ロヒット・バンサル(Rohit Bansal)
SVF出資額 6億2700万ドル(後に5億ドルの投資ラウンドにも参加)
調達総額 17億ドル

2:ワンウェブ(OneWeb)

低軌道衛星を使うことで遅延を500ミリ秒から20ミリ秒にまで改善。高速かつ遅延の少ないブロードバンド接続を提供しているのがワンウェブ(OneWeb)です。これにより光ファイバーに近い接続環境を実現することを目指している企業です。

創業 2012年
創業者 グレッグ・ワイラー(Greg Wyler)
SVF出資額 10億ドル
調達総額 17億ドル

3:ソーファイ(SoFi)

アメリカ最大級のオンライン融資仲介サービスの提供を行っているのがソーファイ(SoFi)です。学生ローン統合・借り換えから始まったソーファイ(SoFi)は2013年には住宅ローンも手掛けるようになり、現在では銀行業開始のための準備を本格的に行っています。

創業 2011年
創業者 マイケル・キャグニー(Michael Cagney)
イアン・ブレイディ(Ian Brady)
ダニエル・マックリン(Daniel Macklin)
ジェームズ・フィニガン(James Finnigan)
SVF出資額 10億ドル
調達総額 20億8000万ドル

4:アーム(ARM)

アーム(ARM)は半導体設計企業で、半導体の業界を塗り替えるほどの存在感があると言われている会社です。iPhoneを始め、世界中の9割ものスマートフォンにアーム(ARM)の技術を使った半導体が搭載されており、今や業界基準となっています。

創業 1990年
創業者 ヘルマン・ハウザー(Hermann Hauser)
チューダー・ブラウン(Tudor Brown)ほか
SVF出資額 243億ポンド(3.3兆円)で買収

5:ペイティーエム(Paytm)

インド政府が高額紙幣の流通を中止したことで電子決済スタートアップだったペイティーエム(Paytm)が急成長。電子ウォレットにチャージされたお金であらゆるものを購入することが可能です。

創業 2010年
創業者 ビジェイ・シェカル・シャルマ(Vijay Shekhar Sharma)
SVF出資額 14億ドル
調達総額 およそ18億ドル

6:ウィーワーク(WeWork)

ソフトバンク・ビジョン・ファンド とは

起業家向けのコワーキングスペースを提供している企業で、29カ国111都市に528カ所以上の拠点、50万人の会員を有しています。2017年7月18日にはソフトバンクグループと合弁でWeWork Japanを設立。

現在では日本でも東京や大阪や名古屋を始め横浜、神戸、福岡にウィーワーク(WeWork)のオフィススペースが存在しています。

創業 2010年
創業者 アダム・ニューマン(Adam Neumann)
ミゲル・マッケルビー(Miguel Mckelvey)
SVF出資額 5億ドル
調達総額 55億ドル

7:オラ(Ola)

ウーバー(Uber)に対抗し事業を急速に拡大シているインドの配車アプリ大手で、普通のタクシーの他、オートリキシャと呼ばれる改造三輪車タクシーや電動リキシャの予約が可能。

創業 2010年
創業者 バービッシュ・アガーワル(Bhavish Aggarwal)
アンキット・バティ(Ankit Bhati)
SVF出資額 2億5000万ドル(以前の4億ドル投資ラウンドにも参加)
調達総額 約15億ドル

8:OSIソフト(OSIsoft)

幅広い企業で使われている産業用ソフトウェアの開発を行う企業で、その幅はエネルギー関連企業からプロ野球チームまで様々。

創業 1980年
創業者 パトリック・J・ケネディ(Patrick J. Kennedy)
SVF参加の最大投資ラウンド規模 非公開
調達総額 1億3950万ドル

9:インプロバブル(Improbable)

ゲームやスマートシティのモデリングなども使われる高度な仮想世界を作り出すVR(仮想現実)のスタートアップ企業です。

創業 2012年
創業者 ハーマン・ナルーラ(Herman Narula)
ロブ・ホワイトヘッド(Rob Whitehead)
ピーター・リプカ(Peter Lipka)
SVF参加の最大投資ラウンド規模 5億ドル
調達総額 5億5400万ドル

10:ガーダントヘルス(Guardant Health)

ガーダントヘルス(Guardant Health)はがん検査を簡略化することを目指しており、患者から採取した血液サンプルから遺伝子情報を解析。そこから最適な治療方法を見つけるという「リキッド・バイオプシー(血液を利用した生検)」テストを開発しました。

創業 2013年
創業者 ヘルミー・エルトーキー(Helmy Eltoukhy)
アミールアリ・ハジホセイン・タラサズ(AmirAli Hajhossein Talasaz)
SVF出資額 3億6000万ドルの投資ラウンドを主導
調達総額 5億ドル

11:ブレイン・コープ(Brain Corp)

自律型の機械やロボットに使用されるAI(人工知能)の企業で、サンディエゴに拠点を置いています。

創業 2009年
創業者 ユージン・イジケヴィッチ(Eugene Izhikevich)
アレン・グルーバー(Allen Gruber)
SVF参加の最大投資ラウンド規模 1億1400万ドル
調達総額(未発表投資ラウンドを除く) 1億2500万ドル

12:ボストン・ダイナミクス(Boston Dynamics)

2012年にGoogleに買収されたものの、2017年6月にソフトバンクに売却された軍事用ロボット企業で、旋回したりジャンプしたり出来る車輪付きロボットや見た目の恐ろしいロボットなど、様々なロボットを開発しています。

創業 1992年
創業者 マーク・レイバート(Marc Raibert)
SVF買収額 非公開

13:プレンティ(Plenty)

ソフトバンク・ビジョン・ファンド とは

農作物を畑より効率的に、更に低コストで栽培しようと試みるインドア農業のスタートアップで、横ではなく垂直方向に並べて農作物を栽培すれば、従来の畑にくらべ350倍生産できるとしています。

創業 2014年
創業者 ネイト・ストーリー(Nate Storey)
マット・バーナード(Matt Barnard)
ネイト・メイゾンソン(Nate Mazonson)
SVF参加の最大投資ラウンド規模 2億ドル(ソフトバンク・ビジョン・ファンド主導)
調達総額 2億2600万ドル

14:グラブ(Grab)

ウーバーの競合企業で、インドネシア、シンガポール、タイ、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ミャンマーと東南アジアを中心に65都市で事業を展開しています。

創業 2012年
創業者 アンソニー・タン(Anthony Tan)
タン・フーイ・リン(Tan Hooi Ling)
SVF参加の最大投資ラウンド規模 25億ドル
調達総額 34億ドル

15:ナウト(Nauto)

自動運転車の開発速度を速める可能性があると期待されている自動運転技術のスタートアップ企業で、カメラ、センサー、AIを組み合わせた運転状況把握を行うことで安全性の向上を図っています。

創業 2015年
創業者 ステファン・ヘック(Stefan Heck)
フレデリック・スー(Frederick Soo)
SVF出資額 1億5900万ドルのシリーズBラウンドをソフトバンクが主導
調達総額 1億5900万ドル

まとめ

LP投資家からベンチャーキャピタルとプライベートエクイティのハイブリッドのような形で資金調達を行っていること。そして、借り入れを行ないながらアグレッシブな資金調達、そして出資を続けているということ。

以上のことからもわかるように、ソフトバンク・ビジョン・ファンドは10兆円規模という非常に大きなベンチャーキャピタルでありながら、これまでのベンチャーキャピタルとは全く違う新しいベンチャーキャピタルと言えるでしょう。

しかし、海外からは「ソフトバンクは資金を武器に使っている」と批判的、懐疑的な意見も少なくないという事実もあります。

これからソフトバンク・ビジョン・ファンドが積み上げていくことになる投資実績、そして投資リターンについても日本の企業は学ぶべきことは多くあるため、しっかりと注目していきたいところです。

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