会社を経営していく上で、「資金繰り」に悩まされたことがない人は少ないのではないでしょうか?
資金繰りに関しては、大企業であれば財務部門が担当しているところが多いです。
その一方で、中小企業のほとんどは、経営者である社長が行っています。
そして、経営者にとって、支払い不足になることないようにお金をやりくりすること(資金繰り)は、最も重要な仕事だといえます。
そこで今回は資金繰りに関する概要と、資金繰りを改善するために覚えておきたい以下の5つのポイントを紹介していきます。
①手元資金を知っておく
②資産を資金化する
③銀行と交渉する
④費用の見直しをする
⑤資金繰り表を作成する
資金繰りとは?
「資金繰り」とは、経費などの支払いを踏まえて、会社に入ってくる資金の流れをコントロールすることを指します。
ここでいう「資金」とは、現金・当座預金・有価証券など、すぐに支払いに使えるもので、すぐに支払いに使うことができない定期預金・貸付金・売掛金や、現金化に日数がかかる不動産などは「資金」には含まれまず、「資産」に該当します。
資金は時として会社にとっての血液や空気に例えられます。血液や空気の流れが止まってしまうと、会社は生きることができず、倒産してしまうことになります。
「資金繰り」とは、このようにならないよう会社の収入と支出を管理することを意味します。
資金と利益の違い
「資金」とは、会社を運用するために使用できる現金や預金残高などの「手元にあるお金」を指します。
売上が多くあったとしても、その支払いがまだ行われていないのであれば資金にはなりません。そのため、会社が利益を上げていても資金が不足している、という状態になることもあります。
次に「利益」とは、一言でいうと、会計上の「儲け」です。利益は以下の式で求めることができます。
利益 = 収益-費用
収益とは、会社が事業などの活動によって得たお金のことで、その多くは売上金です。一方の費用とは、給料や家賃、仕入れ代金など、事業活動に伴い出ていくお金です。
事業によって得た全てのお金から、出ていったお金を除いたものが利益となります。
売上代金の未回収額が多ければ、手元に残る資金が少ない状態になっていきます。
逆に売上代金を回収し利益があれば、新しい商品を企画する、広告を出す、人を雇い入れる、など事業を継続するために使う資金が増えるということになります。
黒字倒産とは
そもそも「倒産」とは、返済しなければならない債務の返済ができず、借入もできずに会社の経営が行き詰まった状態のことです。
では、黒字倒産とは何でしょうか。黒字倒産とは、損益計算書上では利益が出て黒字の状態であるにもかかわらず、企業などが倒産してしまうことを言います。
損益計算書では、1事業年度(4月~翌3月など)の売上から経費を差し引いて利益を計算することができ、その1事業年度で会社が儲かったのか、損をしたのかを知ることができます。
損益計算書上では黒字で利益が出ているにも関わらず、会社が倒産してしまうのは奇妙に思えますが、お金の流れの仕組みを知れば、黒字倒産が起こる理由を理解できるようになります。
黒字倒産が起こる理由
では、黒字倒産はどうして起こるのでしょうか。これには、会計上の記録ではなく、実際のお金の動きが関係しています。
商品売買の決済では、通常1ヶ月から3ヵ月後の決済となるため、その期間の利益が損益計算書に計上されても、現金がすぐに入ってこない状態になります。
この現金が入ってこない期間に、実際のお金の入金と出金が一致せず経費の支払いなどで資金繰りが困難になることがあります。
仮に損益計算書上では黒字であったとしても、自己資金で支払いができず、銀行からの借入もできなくなると、仕入代金が払えなくなるため、倒産状態となってしまうのです。
その後に、銀行取引の停止処分を受けたり、裁判所に破産手続きを申請したりすることで倒産が確定してしまいます。
こうした黒字倒産をする会社では、倒産状態に陥っているにも関わらず、会計上では黒字決算となっているのです。
キャッシュフローは資金繰りではない
また、資金繰りと「キャッシュフロー」の違いを把握していない人も少なくありません。
キャッシュフローとは、その名の通り、「お金の流れ」のことをいいます。
そして、資金繰りとキャッシュフローは、共に「お金の流れを表している」という点では同じです。
ただ、資金繰りとキャッシュフローでは、それぞれを把握する目的が異なります。
具体的には、資金繰りは「未来のお金の流れ」を考えるためのものであるのに対して、キャッシュフローは「過去のお金の流れ」を把握するためのものです。
例えば、資金繰りであれば、「今月に○○円の入金があったけど、2ヵ月後に□□円の支払いがあるから、このままでは2ヵ月後にお金が足りない」ということを考えます。
その一方でキャッシュフローは、「今期の決算は黒字だったけど、現金は○○円増えた(減った)」といったように、過去の情報を表しているのです。
そのため、資金繰りを把握することは、「今月どうしたら良いのか?」という短期間に行うべきことを明確にすることにつながります。
それに対してキャッシュフローは、「今期の結果を元に、来期はどうしていったら良いのか?」というように、長期的に行っていくべきことを決めるために役立つのです。
このように、資金繰りとキャッシュフローでは、それぞれを把握する目的が異なるということを知っておく必要があります。
資金繰り表
資金繰り表とは資金の収支をあらわす表で、資金が不足しないようにする調達予定表の役割もします。
利益計算は発生主義によって行い、資金繰り計算はお金の出入れだけで計算します。
利益は出ているにお金が足りないということのないように、資金繰り表を作ってしっかり管理しましょう。
資金を把握するための資金繰り表には、決まったフォーマットがあるわけではございませんが、押さえておきたい項目を確認しておきましょう。
⑴営業収支
営業収支とは、本業において現金をどれだけ生み出しているのかを表しています。売上高から、販売する商品などの仕入原価である売上原価を差し引いたものが「売上総利益」となります。
この売上総利益から「販売費及び一般管理費」を差し引くことで、営業収支のうちの利益を求めることができます。
販売費及び一般管理費とは、企業の本業に関わる費用のうち、商品を販売するために仕入れた代金以外の費用を指します。
営業収支がプラスであると資金が安定しているといえますが、たとえ営業収支がプラスであっても一時的な収入なのか、利益となっているのかなどを確認することが大切です。
⑵財務収支
財務収支とは、銀行からの借入金の収支のことです。
財務収支がプラスになっていると、借入金が増えていることになります。
借入金の返済額はマイナスとして記載します。
営業収支の収入によって、借入金を返済することになりますので、借入金が増えすぎていると経営上、危険だと判断することができます。
⑶経常収支
経常収支とは、本業以外の財務活動などによる収入と支出のことです。
そのため、本業で営業収支がプラスになっていても、借入金の返済や利息の支払いの負担が大きい場合は、経常収支のプラス額が小さくなったり、マイナスになったりします。
経常収支は、企業の経営成績を最も把握しやすい数字とされています。
⑷経常外収支
設備投資や税金の支払いについて、経常外収支としてまとめることもあります。
設備投資の金額などによっては、経常外収支が大きなマイナスになることがあります。
資金繰りの改善のためにチェックしておきたい5つのポイント
入金より支払を少なくするか遅らせるのが資金繰り改善の王道です。
しかし、設備投資で多額の資金が必要になるときや、取引先の倒産で資金繰りに行き詰まったときなどは、日々の資金繰り改善だけでは対応しきれません。
このようなときに備えるための方法を5つご紹介します。
①手元資金を把握する
自社にどれくらいの資金があるのか把握することが大切です。
また、毎月入ってくるお金、出て行くお金についても把握しておきましょう。
これらはいってみればお金の流れを知るということです。
一見すると当たり前のことのように思えますが、意外とこれを把握できていないケースも存在します。
そういった状況だと、無駄なお金を使っていることに気づかない、削減できる経費の存在を知らない、適切な設備投資のタイミングがわかっていない、といった事態に陥る可能性があります。
お金の流れを把握するためには、複数の預金口座を作ることがおすすめです。
口座はそれぞれ、売上を預け入れるもの、企業の運転資金を預け入れるもの、緊急時に備えた資金を預け入れるもの、将来に備えた資金を預け入れるもの、といった形で分けます。
各口座の残高を確認することで、それぞれの用途の資金を把握でき、それぞれの残高を合計すれば手元にある資金を把握することができます。
②資産を資金化する
企業における資金は、現金や当座預金だけではありません。
例えば、売掛債権や未請求のお金があれば、それを回収することで資金を得ることができます。
また、売れる見込みがないのに抱えている在庫があれば、無駄に在庫管理のお金がかかることになるため、それを手放せば資金が浮くことになります。
同様に慣習でずっと所有しているものの特に使用していない固定資産があれば、売却することで資金化することができます。
売掛債権や未請求のお金に関しては、回収のルールを決めることで未回収のリスクを回避することができるでしょう。
定期的に資産の確認を行い、不要なものがあれば手放す、売却するなどすれば資産が資金へと変わります。
③銀行と交渉する
資金調達のメジャーな方法である、銀行からの融資を受けることで資金に余裕を持たせることができます。
融資を受けることによって金利負担が発生することや、設立直後の会社は融資が受けられないなどのデメリットもありますが、きちんとした事業契約を立てるなどすれば融資を受けるチャンスは十分あります。
融資を申し込む場合、事業計画をしっかりと作り、資金繰り表なども必要に応じて提出できるようにしておき、銀行に「この会社なら安心してお金を融資できる」と信じてもらうことが重要です。
自社の状況や資金繰り状況がわかっていないのに融資を申し込むと、断られる可能性も高いですが、しっかりと準備をすれば融資を受けられる可能性は高まるので、自社の状況をしっかりと把握しておくことが大切になります。
④費用の見直しをする
売上を増やして資金に余裕を持たせるのと同時に、無駄な費用の見直しに取り組むことが重要です。
売上は毎月変動するものなので、コントロールするのは難しいですが、固定費などの経費は比較的コントロールしやすいものです。
そのため必要以上に購入しているものや、使っていないのにお金を支払っているもの、その他削減できる費用があれば積極的に見直しましょう。
ただし固定費の削減は、仕事が円滑に進まなくなる恐れがあるほか、従業員のモチベーションが下がることもあるので、費用の見直しを検討する際は慎重に行いましょう。
また固定費の見直しが難しいようなら、業務の効率化を図り、無駄な残業代を減らすことで経費を圧縮することもできます。
いずれにしても、企業として無駄なお金がないか?無駄なお金があるならどこに使っているのか一度確認してみることをおすすめします。
⑤資金繰り表を作成する
上でも述べましたが、もし資金繰り表を作っていないのであれば、まず資金繰り表を作るようにしましょう。
毎月どれくらいの売上があるのか、どれくらいの支出があるのかといった、基本的な資金繰りの状況をきちんと把握することができます。
資金繰り表は、単純に会社のお金の状況がわかるだけでなく、将来の予測にも活用することができます。
また、継続して作成することで予測が正しかったのかどうか、赤字になっている月は何が悪かったのかといった点も把握することが可能です。
そして、資金繰り表は銀行に融資を依頼する際の資料にもなるため、万が一の備えのためにも作っておくことが重要です。
資金状況を把握し、適切な資金繰りを行うためにも資金繰り表を作ることをおすすめします。
まとめ
利益が出ていると、資金の収支確認が後回しになってしまいがちです。
しかし、売上が黒字であっても、資金がショートすると企業は倒産してしまいます。資金繰り表を定期的に作成し、将来の資金繰りの見通しを立てることが重要です。
法人経営では、創業計画書・事業計画書・収支計画書・収支決算書などさまざまな書類の作成が求められます。
資金繰り表はテンプレートを有効活用することで、会計の知識が少ない方でも作成することが可能です。資金の動きを把握し、安定した経営を行うようにしましょう。