新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって、仕事が減少している企業がある一方で、人手が足りなくなり、人員の確保が難しくなっている企業も出てきました。
従業員の雇用を守るためには、減少している企業から人手不足の企業へ従業員を出向することが必要となってくるのではないでしょうか?
厚生労働省では、このような状況を踏まえて、産業雇用安定助成金を設けています。
事業活動の縮小を余儀なくされた、出向元と出向先に対して支援している助成金となっていますので、ぜひご利用ください。
こちらの記事では、産業雇用安定助成金について、詳しく解説していきます。
産業雇用安定助成金
厚生労働省が実施している産業雇用安定助成金は、新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主等を支援するために設けられています。
在籍型出向によって労働者の雇用維持に取組んでいる事業主、在籍型出向によって人材を確保したい事業主の方が、利用できる助成金です。
在籍型出向により労働者の雇用を維持する場合、出向元と出向先の双方の事業主に対して、出向に必要な経費の一部を助成しています。
支給対象となる出向について
産業雇用安定助成金の支給対象となる出向とは、新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図ることを目的に行う出向です。
支給対象となる事業主が「対象労働者」に対して、下記の①~⑬のすべてを満たす出向が助成対象となります。
「対象労働者とは?」
対象労働者は、助成金を受けようとする出向元事業主に雇用され、本助成金の出向の対象
となりうる雇用保険被保険者です。
なお、次の労働者は除かれますので、ご確認ください。
◆ 出向計画期間の初回の出向した日の前日時点において、出向元事業主に引き続き被保険者として雇用された期間が6ヶ月未満である方
◆解雇を予告されている方、退職願を提出した方、事業主による退職勧奨に応じた方
・離職の日の翌日に安定した職業に就くことが明らかな方を除きます。
・それらの事実が生じた日までの間は対象労働者として扱われます。
◆日雇労働被保険者
「支給対象の出向」
① 雇用調整を目的として行われるものであって、人事交流・経営戦略・業務提携・実習のため等に行われるものではなく、かつ、労働者を交換しあうものでないこと。
② 労使間の協定によるものであること。
③ 出向労働者の同意を得たものであること。
④ 出向元事業主と出向先事業主との間で締結された契約によるものであること。
⑤ 出向先事業所が雇用保険の適用事業所であること。
⑥ 出向元事業主と出向先事業主が、資本的、経済的、組織的関連性等からみて、独立性が認められること。
⑦ 対象期間内に実施されるものであること。
⑧ 労働者ごとの出向期間が1ヶ月以上2年以内であって出向元事業所に復帰するものであること。
⑨ 出向元事業所または出向先事業所が出向労働者の賃金の全部または一部をそれぞれ負担していること。
⑩ 出向労働者に出向前に支払っていた賃金とおおむね同じ額の賃金を支払うものであること。
⑪ 出向元事業所から出向先事業所に出向させ、かつ、当該出向先事業所において就労することとなるものであること。
・ただし、当該出向労働者について、同一出向期間内で異なる2つ以上の出向先事業所において就労するものでないこと。
⑫ 労働組合等によって出向の実施状況について確認を受けること。
⑬ 出向元事業主および出向先事業主の双方がそれぞれ支給要件を満たすこと
対象となる出向元事業主
産業雇用安定助成金の対象となる出向元事業主は、下記の「雇用調整の実施」と「その他の要件」を満たすことが必要となります。
◆ 「雇用調整の実施」
「新型コロナウイルス感染症に伴う経済上の理由」により、「事業活動の縮小」を余儀なくされた場合に、その雇用する対象労働者の雇用の維持を図るために、「労使間の協定」に基づき出向を実施する出向元事業主が支給対象となります。
◆「その他の要件」
① 出向元事業所および出向先事業所が雇用保険適用事業所であること。
② 出向元事業主と出向先事業主が資本的、経済的、組織的関連性等からみて、独立性が認められること。
③ 「受給に必要な書類」について、
a 整備し、
b 受給のための手続に当たって労働局等に提出するとともに、
c 保管して労働局等から提出を求められた場合にそれに応じて速やかに提出すること。
④ 労働局等の実地調査を受け入れること
⑤ 出向元事業所で、本助成金の支給対象となる期間に他の事業所の雇用保険被保険者を出向により受け入れ、他の事業所の事業主がその出向について本助成金、雇用調整助成金(出向)又は通年雇用助成金の支給を受けていない(受けようとしていないことを含む)こと
⑥ 出向先事業所で、自己を出向元事業所とする出向を行い、出向元事業主として本助成金、雇用調整助成金(出向)又は通年雇用助成金の支給を受けていない(受けようとしていないことを含む)こと
対象となる出向先事業主
産業雇用安定助成金の対象となる出向先事業主は、下記の「解雇等の雇用量の減少がないこと」と上記の「その他の要件」を満たすことが必要です。
◆「解雇等や雇用量の減少がないこと 」
① 「解雇等がない」こと 出向期間の開始日の前日から起算して6ヶ月前の日から支給申請を行う支給対象期の末日までの間にお いて、当該出向労働者の受入れに際し、その雇用する被保険者を事業主都合により離職(雇用保険制度に おける喪失原因コード3に該当)させた事業主以外であること。
・労働者の責めに帰すべき理由による解雇、天災その他やむを得ない理由により事業の継続が不可能となった事による解雇以外の解雇に勧奨退職等を加えたものをいいます。
② 「雇用量の減少がない」こと 雇用保険被保険者数および受け入れている派遣労働者数による雇用量を示す指標(雇用指標)が一定 以上減少していないことを指します(雇用量要件)。
具体的には、下記のa又はbのいずれかに該当しなければなりません。
ただし、bにより比較するのは雇用保険適用事業所設置後、1年未満の事業所に限られます。
a:雇用指標の最近3ヶ月間の平均値が1年前の同じ3ヶ月間に比べ、大企業の場合は5%を超えてかつ6人以上、中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上減少していないことです。
b: 雇用指標の最近1ヶ月の値が、計画届を提出した月の1年前の同じ月から計画届を提出した月の前々月までの間の適当な1ヶ月に比べ大企業の場合は5%を超えてかつ6人以上、中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上減少していないことです。
受給対象となる経費
産業雇用安定助成金の支給対象となる経費(出向経費)の時期と内容は、下記の通りとなります。
◆出向開始日が令和3年1月1日以降の場合
出向開始日以降の出向運営経費および1月1日以降の出向初期経費が助成対象となります。
◆出向開始日が令和3年1月1日より前の場合
1月1日以降の出向運営経費のみ助成対象となります。
◆支給対象となる出向運営経費は、対象期間中の出向期間中において出向元事業所または出向先事業所が出向に要した次の①~⑤のいずれかに該当するものになります。
・出向労働者以外の従業員に係る賃金や「出向初期経費」に含まれるものは該当しませんので、お気をつけください。
① 出向元事業主または出向先事業主が出向労働者に賃金(社会保険料は除く)として支払った(負担した)額
② 出向労働者の労務管理、人事評価に要する経費
③ 出向先事業所または出向労働者から出向元事業所への報告、面談に要する経費
④ 出向先事業主が負担した出向先事業所における教育訓練(Off-JT)に要する経費
・新型コロナウイルス感染症の影響により、教育訓練を事業所内や外部の教育機関に集合して行うなどの通常の形態で実施することが困難な状況に鑑み、自宅等で行う学習形態(インターネット等を用いたものも可能)の教育訓練等も含みます。
⑤ ①~④の他、出向期間中における出向の運営に要すると認められる経費
助成額
産業雇用安定助成金の「出向運営経費」と「出向初期経費」のそれぞれの補助率と補助上限額、加算額は下記の通りとなります。
◆出向運営経費
出向元事業主及び出向先事業主が負担する賃金、教育訓練および労務管理に関する調整経費など、出向中に要する経費の一部を助成しています。
中小企業 | 中小企業以外 | |
出向元が労働者の解雇などを行っていない場合 | 9/10 | 3/4 |
出向元が労働者の解雇などを行っている場合 | 4/5 | 2/3 |
上限額(出向元・出向先の合計) | 12,000円/日 |
◆出向初期経費
就業規則や出向契約書の整備費用、出向元事業主が出向に際してあらかじめ行う教育訓練、出向先事業主が出向者を受け入れるための機器や備品の整備などの出向の成立に要する措置を行った場合に助成しています。
出向元 | ||
助成額 | 各10万円/1人当たり(定額) | |
加算額 | 各5万円/1人当たり(定額) |
産業雇用安定助成金の流れ
産業雇用安定助成金を利用するには、出向元事業主と出向先事業主の契約を始めとして、下記の順序で進められて行きます。
①出向元事業主と出向先事業主と契約を交わします。
・労働組合などと協定
・出向予定者の同意をとる
②出向計画届提出・要件の確認
③出向の実施
④支給申請・助成金受給
⑤労働局における審査・支給決定
⑥支給額の振込
「契約」では
・出向元事業主と出向先事業主との間で、出向期間、出向中の労働者の処遇、出向労働者の賃金額、出向元・先の賃金などの負担割合などを取り決めてください。
「出向計画届提出・要件の確認」では
・出向元事業主と出向先事業主が共同事業主として出向計画届を作成し、出向開始日の前日(可能であれば2週間前)までに都道府県労働局またはハローワークへ提出してください。
・手続きは出向元事業主が行ってください。
「支給申請」では
・1ヶ月以上6ヶ月以下の任意で設定した期間(月単位)ごとに出向元事業主と出向先事業主が共同事業主として支給申請書を作成し、都道府県労働局またはハローワークへ提出が必要です。
・手続きは出向元事業主が行ってください。
「助成金受給」では
支給申請書に基づき、出向元事業主・出向先事業主それぞれに助成金が支給されます。
まとめ
厚生労働省が実施している産業雇用安定助成金の支給対象となる出向、対象となる出向元事業主と出向先事業主、受給対象となる経費助成額、さらには産業雇用安定助成金を利用する際の流れについて、詳しくご紹介してきました。
コロナ禍によって、仕事が減少している反面、人員が足りなくなっている企業も存在していますが、一時的に従業員の出向を行うことによって、雇用の安定を図ることができるようになります。
厚生労働省では、雇用の安定を図るために出向元と出向先に対して助成金を交付していますので、新型コロナウイルス感染症拡大により事業活動を余儀なくされた企業は、資金調達の一つとして産業雇用安定助成金をご活用ください。