ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達する3つのリスクと注意点

ベンチャーキャピタル

他に事業を行っており実績があるなどの場合を除いて、起業したばかりのベンチャー企業が銀行からの融資を受けることはかなり難しいと言えます。そこで、駆け出しのベンチャー企業にとって重要な資金調達先となるのが「ベンチャーキャピタル(VC)」です。

実際、これからベンチャー企業を起業しようと考えている方や、既にベンチャー企業を経営している方の中にはまさにこれからベンチャーキャピタルによる資金調達を行おうと考えている方もいるのではないでしょうか。

どんなに有能な集団が集まったベンチャー企業だったとしても資金が無ければその能力や技術をフルに活かしイノベーションを生み出すことは出来ません。

ベンチャーキャピタルは、そんな将来的に成功する可能性を秘めながら資金繰りに窮し、思うように事業を展開していくことが出来ないベンチャー企業に対して出資してくれるという、とてもありがたい存在ですよね。

しかし、ベンチャーキャピタルから出資を受けることにはリスクもあるということをしっかりと把握しておく必要があります。この記事ではベンチャーキャピタルから出資を受けることで生じるリスクについてわかりやすく、詳しく解説していきます。

ベンチャーキャピタルとは?

投資家たちから資金を集め、将来有望な未上場のベンチャー企業に投資を行う投資会社(投資ファンド)のことをベンチャーキャピタル(VC)と言います。

「投資会社」であるベンチャーキャピタルは個人ではなく企業形態であり、個人でベンチャー企業に投資を行っている人は「エンジェル投資家」と呼ばれます。

ベンチャーキャピタルが利益を得る仕組み

ベンチャーキャピタルはただ資金に困っているベンチャー企業に出資してあげるだけの慈善事業ではありません。将来的には、投資した資金以上の大きなリターンを得ることを目標としています。

ベンチャーキャピタルは未上場企業の株式を購入するという形で出資し、将来的にそのベンチャー企業が成功して会社としての価値が向上した時にIPO(株式上場)を行ない株式を売却したり、M&A(合併と買収)によって他のファンドに売ったりして利益を得るのです。

たとえばベンチャー企業の成功例として有名な「Facebook」の場合、会社設立時の2004年に1200万ドルを出資したベンチャーキャピタルが持っていた株式は2012年に上場した際には90億ドルにもなっていたとされており、700倍以上の利益を生んだことになります。

しかし、このように成功を収めることができるベンチャー企業はほんの一人握りに過ぎません。ベンチャー企業の90%以上は事業が失敗に終わったり、資金が尽きてしまうことによって廃業に追い込まれているというのが現状です。

このように、ベンチャー企業に投資することはベンチャーキャピタルにとってもハイリスク・ハイリターン。だからこそ、ただ資金を出資して終わりではなく、ベンチャーキャピタルはベンチャー企業の経営や事業に深く関わってきます。

ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達する3つのリスク

ベンチャーキャピタルとはどのような意味なのか、ベンチャーキャピタルが利益を得る仕組みについて以上でご説明しました。

では、そんなベンチャーキャピタルから資金調達を受ける際のリスクにはどんなものがあるのでしょうか?

  1. 経営の主導権を握られてしまう
  2. 投資打ち切りリスク
  3. 新規公開株(IPO)のタイミング

以上、詳しく解説していきます。

リスク1:経営の主導権を握られる可能性がある

多くのベンチャーキャピタルの運用者は投資家からの資金を預かり、期限のあるファンドとして運用し、それによって得た資金を投資家たちに還元しなければいけないという立場です。

そのため、何がなんでもファンドの期限までに最終目標であるエグジットに到達させたいと考えています。

【エグジット】投資資金を回収する手段や戦略のこと。IPOやM&Aという方法があり、多くの場合はIPOによる資金回収。

このように、ベンチャー企業は短期間で急激に成長することを要求されます。

そしてベンチャーキャピタルは投資したベンチャー企業がより早く大きく成長できるよう、経営方針や事業内容など深い部分にまで入り込み、コンサルティングを行ないます。経営の主導権を握られてしまうという場合もあり、当初自分やチームが思い描いていたような自由な経営が出来なくなってしまうという可能性も考えられます。

意見の対立が起こってたとしても、出資してもらっている身である経営者としてはベンチャーキャピタル側の意見を無碍にすることが出来ず、フラストレーションが溜まってしまう可能性も考えられます。

しかし、今まで数々のベンチャー企業を育ててきたベンチャーキャピタルのノウハウを身につけることが出来たり、経営支援や育成によって会社を大きくすることができるなど、メリットと表裏一体な部分もあります。特にこの部分は経営スキルに乏しい経営者の場合、経験値をアップさせることにも繋がるでしょう。

リスク2:投資打ち切りリスク

ベンチャーキャピタルから出資を受けたとしても、事業が当初思い描いていたほど成長せず、今後の成長の見込みもないとみなされた場合、投資を打ち切られてしまう可能性もあります。

すると、ベンチャーキャピタルからの投資ありきで考えていた事業計画を進めることが出来なくなってしまったり、資金繰りが出来なくなり最悪の場合事業は失敗に終わってしまうことも。

ベンチャーキャピタルによる資金調達は「出資」の形であり、銀行などでの「融資」とは違って返済義務はないものの、実際にはベンチャーキャピタル側も必死になって投資資金の回収を行おうとします。

投資契約書に株式買取請求権の記載があれば、期限内に上場出来なかったとき株式を買い戻さなければいけなくなってしまい、ベンチャー企業側に事業運営に支障をきたすレベルの大きな損失が出る恐れがあります。

リスク3:新規公開株(IPO)のタイミング

新規公開株(IPO)、つまり株式上場と言えば多くのベンチャー企業が目標としていることでしょう。一種の「ゴール」とも捉えられている株式上場ですが、実際にはゴールではなく企業が行っている事業をより成長させていくための「手段」です。上場したのはいいものの、下方修正を連発したり株価を大きく下げてしまう企業も少なくありません。

【新規公開株(IPO)】自由な取引が制限されていた未公開株を株式市場に上場し、証券取引所で自由に売買可能にすること。

上場すれば証券取引所で自社の株式を自由に取引出来るようになるだけでなく、会社の知名度やブランド力、信用性が向上する、市場から資金調達先を見つけることが出来るなどのメリットも多いのは確かです。

しかし、金商法や取引所のルールに従い情報開示を行う義務が生じたり、上場管理のためにもコストが発生し続けます。上場によって起こる負担に耐えうるだけの体力や持久力が必要となるため、計画的な準備が必要なのです。

また、上場し自由に株式売買出来るようになるということは場合によっては株式公開買付(TOB)によって買収されてしまう可能性もあるということです。

更に、株主・従業員・取引先・地域社会・行政機関などのステークホルダーが増加することによって経営方針を全て自分の意思で決定するということが難しくなってきます。

【IPOのリスク】

  • 上場管理コストがかかる
  • 情報開始義務が生じる
  • 買収される可能性がある
  • 経営方針に自分の意思を100%反映させるのが困難になる場合がある

ベンチャーキャピタルから出資を受ける際の注意点

ここまででベンチャーキャピタルから出資を受ける際のリスクについてはおわかり頂けたと思いますが、実際に出資を受ける際には以下の「注意点」にも目を向けるようにしましょう。

ベンチャーキャピタルから資金調達を行うというときは契約内容について事前にしっかり調べておくことが大切です。

優先分配権・みなし清算条項

優先分配権・みなし清算条項によっては経営者とベンチャーキャピタルに利益相反が起こる可能性も考えられます。

優先分配権

事業が本格的に動き始め、顧客も増え企業が成長し始めた段階のことを「シリーズA」と言います。そしてこのシリーズAの段階では「A種優先株式」という種類株式をベンチャーキャピタルに対し発行することが多くなっています。

【シリーズA】企業にとって資金調達の段階、VCにとっては投資先のステージである「投資ラウンド」の段階の1つのこと。シリーズAは事業は軌道に乗り始めたものの利益の回収は不十分で資金不足に悩むことが多い時期。

【優先株式】利益の配当や残余財産の分配を優先的に受け取ることが出来る地位が与えられた株式のことで、「参加型」と「非参加型」に分けられる。

会社を清算をする際、弁済後に残った財産は株主で分配することになるが、優先分配権を持っていれば他の株主よりも優先的に残余財産の分配を受けられる。

A種優先株式は投資額の1倍という場合が多いものの、交渉力の強いベンチャーキャピタルの場合、投資額の2、3倍の優先分配権を認めさせられる場合もあります。

みなし清算条項

みなし清算条項が定められていた場合、ベンチャー企業の買収によって生じた買収対価はA種優先株式を持っているベンチャーキャピタルなどに優先的に分配されることとなります。

【みなし清算条項】ベンチャー企業が買収された場合、会社精算とみなし優先分配権の取り決めに従い、買収対価を株主間で分配することを定めた条項のこと。

そのため、買収対価によっては優先株主であるベンチャーキャピタルには買収対価が分配されるもののの、普通株主である経営者には買収対価が分配されないということも有り得るのです。

特に、上でご説明した優先分配権が2倍3倍となる場合にはベンチャーキャピタルと経営者で利益相反が起こります。

同時売却請求権

ベンチャーキャピタルから出資を受ける際、同時売却請求権を求められることがあります。

しかし、これを認めてしまうと、例えば経営者が買収によるエグジットに積極的ではない場合でも、ベンチャーキャピタルが買収に前向きならばベンチャーキャピタルを主導にして買収が行われてしまうリスクが生じます。

【同時売却請求権(ドラッグ・アロング・ライト)】一定の条件(多数の賛成を得るなど)を満たした時、経営者を含めた株主全員が買収によるエグジットに応じることを請求できる権利のこと。

このようなリスクを考えると、もしもベンチャーキャピタルから同時売却請求権を求められたとしても可能な限り応じるべきではありません。

それによって交渉が難航することも十分考えられますが、同時売却請求権の行使に何らかの条件を定めるよう求めるなど、ギリギリの交渉を行うことが必要となるでしょう。

株式買取請求権

ベンチャーキャピタルとの投資契約において認められるよう求められることが多いのが「株式買取請求権」です。

【株式買取請求権】ベンチャー企業が契約に違反したなどの際、ベンチャーキャピタルがベンチャー企業に対して株式の買い取りを請求することが出来る権利のこと。

ベンチャー企業は急激に会社を成長させる必要があるため、出資を受けた後は時間の経過とともにその企業価値は高まり、それによって株式の価格も上昇していくことが予定されています。

つまり、ベンチャーキャピタルから買い取りを求められた際の株式の価格は非常に高額になるということが考えられます。そんな状態で買い取りを求められてしまえば企業側に多額の損失が生じ、事業運営に大きなダメージを与えかねません。

株式買取請求権についても可能な限り応じるべきではなく、強く求められた場合でも「契約違反の場合は損害賠償請求を」と株式買取請求権の削除を求めるようにしましょう。

人としての相性

ベンチャーキャピタルは企業ですが、実際にやり取りをするのは「人」であるということは忘れてはいけないことでもあります。

出資を受ける時には、実際に関わることになる人々のことを尊敬出来るか、人として好きと思えるか、有益な助言を貰えるかなど人としての相性もとても大切です。尊敬出来る人、相性のいい人だからこそ良い相乗効果が生まれ、結果的にそれが会社にとってプラスに作用していくのです。

ただ出資してくれるだけではなく、今後自社の経営方針や事業に深く関わってくる可能性のあるベンチャーキャピタルだからこそ、このような点も重要な点と考える必要があるでしょう。

まとめ

将来性のあるベンチャー企業に資金不足を解消してくれるベンチャーキャピタルからの投資はとても重要なものです。

とはいえ、ベンチャーキャピタルからの出資を受けることはメリットばかりでなく、リスクもあるということを知らずに投資契約を結んでしまえば「こんなはずじゃなかった」と後悔することになりかねません。

事業に集中するためにも内容をきちんと把握してからベンチャーキャピタルとの投資契約を進めるようにしましょう。

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