資金繰りや資金調達が厳しくなった時には、新たな融資を検討しますが、借入が増えていくことに不安を感じている企業は少なくありません。
そのような時には、自己資本とみなされる資本性劣後ローンを利用してみてはいかがでしょうか?。
劣後ローンは、資本的な性格を持った一般の債権などよりも支払い順位が劣るローンです。
資金調達によって自己資金を増やそうとする方は、ぜひ劣後ローンをご検討してみてください。
こちらの記事では、資本性劣後ローンの説明に加えて、日本政策金融公庫の「挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)を詳しく解説していきます。
INDEX
資本性劣後ローンをご存知ですか?
融資を受けている方でも、資本性劣後ローンはあまり聞き慣れない言葉ではないでしょうか?
資本性劣後ローンは、一定期間が経過した後に一括償還するローンのことを言い、一括返済するまでの期間は、金利のみの支払いとなるローンのことを言います。
このような劣後ローンは、他の特定の債権や一般の債権よりも支払い順位が低く、資本的な性格を持っているために、金融検査では自己資金としてみなされます。
また、会社が倒産した場合には、債権の優先順位の高いものから債権の回収が行われますが、資本性劣後ローンは、他の負債よりも返済順位が劣るために最後に回収されることになるのです。
このような性質がある資本性劣後ローンは、負債であるにも関わらず資本的な性質も持ち合わせているローンと位置づけられています。
◆資本性劣後ローン=資本のような性質を持つ「資本性ローン」
資本性劣後ローンの特徴
通常のローンと異なる性質を持つ資本性劣後ローンは、日本政策金融公庫や商工中金が主に行っており、下記のような特徴を持っています。
◆一定期間(10年が一般的)返済が不要で金利のみの支払い
◆業績に応じて変動する金利
◆もしも会社が倒産した場合には、弁済は劣後となる
◆資本性劣後ローンは金融検査では資本金とみなされる
◆一定期間(5~15年)が経過した後に一括償還
資本性劣後ローンのメリットとデメリット
資本性劣後ローンのメリットは、金融審査においての審査基準の中で、資本性ローンにおいては金融審査上「自己資産」とみなされることです。
自己資本率が上がり、自己資本率が高く経営が安定していると認識されますので融資が受けやすくなります。
また、返済は利息のみとなるためにキャッシュフローが大きく改善されます。
デメリットな部分は、他のローンと比較して利率が高いということがあげられます。
利率は、貸付期間や経常利益率などによって決定されますが、6.0%ほどになることもあります。
金融機関にとってはリスクが高い商品となるために、融資を受ける際には、事業計画書や資金繰り表、融資実行後には予算と実績管理、資金繰り表の提出なども求められることになります。
- ◆メリット
金融検査上の場合には自己資本とみなされる - 融資が受けやすくなる
- キャッシュフローが改善される
- 無担保・無保証で利用できる
- 一定期間は利子のみの返済
- ◆デメリット
他のローンよりも利率が高い - 融資を受ける前には、事業計画書や資金繰り表が求められる
- 融資後には、予算と実績管理、資金繰り表の提出なども求められる
- 業績による金利設定により、業績が好調な時には金利が高くなる
日本政策金融公庫が実施している資本性劣後ローン
日本政策金融公庫では、国民生活事業と中小企業事業のそれぞれが「挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)」を設けています。
国民生活事業と中小企業事業では、利用する方などや融資限度額が異なっていますので、ご自身の事業の内容に合った「挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)」をご活用ください。
次に、国民生活事業と中小企業事業それぞれの挑戦支援資本強化特例制度(資本ローン)をご紹介していきます。
国民生活事業の挑戦支援資本強化特例制度(資本ローン)
日本政策金融公庫の国民生活事業が実施している挑戦支援強化特化特例制度(資本性ローン)は、ベンチャー企業・スタートアップ企業や新事業展開・海外展開・事業再生等に取り組む方に向けて行われています。
財務体質や、ベンチャーキャピタル・民間金融機関などからの資金調達力を強化できる制度です。
◆本特例による債務については、金融検査上自己資本とみなすことができます。
◆本特例による債務については、法的倒産手続きの開始決定が裁判所によってなされた場合、全ての債務(償還順位が同等以下とされているものを除く)に劣後します。
利用できる方
国民生活事業の挑戦支援強化特化特例制度(資本性ローン)を利用できる方は、下記の①および②を満たす法人または個人企業の方となります。
①適用できる融資制度
下記のいずれかの融資制度の対象となる方
- 新規開業資金
- 女性、若者/シニア起業家支援資金
- 再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)
- 新事業活動促進資金
- 中小企業経営力強化資金
- 食品貸付
- 一般貸付(ただし、「食品貸付」の対象者にかかる運転資金に限る)
- 海外展開・事業再編資金
- 事業承継・集約・活性化支援資金
- 企業再建資金
- 生活衛生新企業育成資金
- 生活衛生企業再建資金
- 生活衛生事業承継・集約・活性化支援資金
②その他の条件
下記のいずれの要件も満たしている方
・地域経済の活性化にかかる事業を行うこと。
・税務申告を1期以上行っている場合、原則として所得税等を完納していること。
融資限度額・返済期間
国民生活事業の挑戦支援強化特化特例制度(資本性ローン)の融資限度額と返済期間は下記の通りとなります。
◆融資限度額 4,000万円
・「事業継承・集約・活性化支援資金」「生活衛生事業継承・集約・活性化支援資金」の融資制度に限り、別枠4,000万円となります。
◆返済期間 5年1ヶ月以上15年以内
◆無担保・無保証人
返済方法
国民生活事業の挑戦支援強化特化特例制度(資本性ローン)の返済方法は下記の通りとなります。
◆期限一括返済(利息は毎月払)
利率(年)
国民生活事業の挑戦支援強化特化特例制度(資本性ローン)の年利は、融資後1年ごとに直近の決算の業績に応じて、貸付期間ごとに下記の表のような3区分の利率が適用となります。
売上高減価償却前経常利益率 | 貸付期間 | |||
5年1ヶ月以上7年以内 | 7年超9年以内 | 9年超12年以内 | 12年超15年以内 | |
5%超 | 5.30% | 5.60% | 5.95% | 6.20% |
0%以上5%以下 | 3.20% | 3.35% | 3.50% | 3.65% |
0%未満 | 1.05% | 1.05% | 1.05% | 1.05% |
融資条件等
国民生活事業の挑戦支援強化特化特例制度(資本性ローン)の融資の条件は下記の通りとなります。
- 審査時に事業計画書を提出すること。
- 税務申告を1期以上行っている場合、原則として所得税等を完納されていること。
- 四半期ごとの経営状況の報告等を含む特約を締結すること。
中小企業事業の挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)
日本政策金融公庫の中小企業事業の挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)は、新規事業や企業再建などに取り組む中小企業に対して、財務体質強化を図るために資本性資金を供給する制度となります。
①本特例による債務については、金融検査上自己資本と看做すことができます。
②本特例による債務については、法的倒産手続きの開始決定が裁判所によってなされた場合、全ての債務(償還順位が同等以下とされているものを除く)に劣後します。
利用できる方
中小企業事業の挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)の利用できる方は、直接貸付において、新企業育成貸付、企業活力強化貸付(一部の制度を除く)または企業再生貸付(一部の制度を除く)を利用される方となります。
また、地域経済の活性化のために、一定の雇用効果(新たな雇用または雇用の維持)が認められる事業、地域社会にとって不可欠な事業、技術力の高い事業などに取り組む方が利用できます。
融資限度額・返済期間
中小企業事業の挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)の融資限度額と返済期間は下記の通りとなります。
◆融資限度額 1社あたり 3億円
・ただし、事業承継・集約・活性化支援資金(企業活力強化貸付)については、1社あたり別枠3億円
◆返済期間 15年10年・7年、5年1ヵ月(期限一括償還)
◆無担保・無保証人
利率(年)
中小企業事業の挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)の利率は、適用した貸付制度に基づき、貸付後1年ごとに直近決算の業績に応じて3区分の利率が適用となります。
◆新企業育成貸付又は企業活力強化貸付を適用した場合
貸付期間 | 15年 | 10年 | 7年 | 5年1ヶ月 |
利率(年) | 5.45% | 5.00% | 4.65% | 4.00% |
3.75% | 3.40% | 3.15% | 2.70% | |
0.45% | 0.45% | 0.45% | 0.45% |
◆企業再生貸付を適用した場合
貸付期間 | 15年 | 10年 | 7年 | 5年1ヶ月 |
利率(年) | 5.50% | 5.45% | 5.40% | 5.30% |
3.35% | 3.30% | 3.25% | 3.15% | |
0.45% | 0.45% | 0.45% | 0.45% |
貸付条件等
中小企業事業の挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)の貸付条件には、下記のような条件も含まれています。
◆四半期毎の経営状況のご報告などを含む特約を締結すること
◆公庫が適切と認める事業計画書を提出すること
なお、挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)を利用する際には、財務内容、事業の見通しなどについて、日本政策金融公庫の中小企業事業によっての審査が必要になります。
審査を通過しないと、挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)本制度は、利用することができませんので、ご注意ください。
まとめ
資本性劣後ローンについての特徴やメリットやデメリットの紹介に加えて、日本政策金融公庫で実施している挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)を詳しく解説してきました。
資本のような性質を持つ劣後ローンは、他のローンと違い無担保、無保証人で幅広い分野に利用できるローンです。
資本性劣後ローン一定期間は利息のみを返済し、一定期間後に一括返済を行っていきます。
金融検査で資本金とみなされる資本性劣後ローンは、事業の発展や継続に役立つ資金調達となるのではないでしょうか?
新規分野に挑戦している方、最新の技術や新事業展開などの取り組みを行っている方で資金調達に悩んでいるのなら、日本政策金融公庫の資本性劣後ローンを検討してみてください。