今までになかった新しい技術や創造的なアイディアを基に今までになかったような商品やサービス、ビジネスモデルを展開するベンチャー企業。新しい試みに挑戦し、世の中にイノベーションをもたらし、社会に貢献するというベンチャー企業はその性質上どうしても資金面での悩みがついて回ります。
そこで大切になってくるのが事業拡大や会社を育てるために必要な資金を調達することです。どんなに高い技術、優れたアイディア、将来性があっても資金が尽きてしまえば事業を存続させることはできません。
しかしながら、起業したばかりで実績のないベンチャー企業はどうしても資金調達の手段が限られてしまいます。また、資金調達を行うにしてもベンチャー企業に合わせた資金調達手段を選ぶことが大切です。
この記事ではベンチャー企業における資金調達の重要性、考えられる資金調達の選択肢、資金調達を行うことのメリットやデメリットを詳しく解説していきたいと思います。
ベンチャー企業にとって重要な資金調達
ベンチャー企業の多くは創業間もない、規模の小さな会社で、経営基盤も確立されておらずビジネスモデルについてもまだ模索状態…というよりむしろ、新しいビジネスモデルを確立するためにあれこれ試しているという段階でしょう。
事業を成長させることに全力を注いでいるベンチャー企業は事業が形になるまでは利益はほとんど無いという場合も多く、赤字状態のまま突っ走り続けなくてはいけません。このような状態で広告宣伝費を確保したり、人材を獲得したりして事業を拡大していかないといけないわけですが財務的にはかなり厳しい状態です。
ベンチャー企業の中で成功するのは1割にも満たないと言われており、その9割以上は資金が尽きてしまったなどの理由によって廃業に追い込まれています。
しかし、最近は将来性のある有力なベンチャー企業に出資する機関や投資家も増えてきました。流行り廃りが目まぐるしい現代においてはベンチャー企業のスピード感が大きな武器となることもあるからです。
ベンチャー企業の資金調達手段は成長度合いによって異なる
ベンチャー企業の資金調達というと、まず思い浮かべるのがその「手段」ではないでしょうか?ベンチャー企業における資金調達の手段には様々あり、その手段を選ぶのかということもとても大切です。
しかし、それと当時に「企業の成長度合い・トラクション(実績や売上)」に応じた手段を選ぶということが重要となってきます。
企業の規模、実績、売上、信頼性など様々な要因から企業がどの程度成長しているのかということを見極め、事業の成長段階やタイミングと最も相性が良いと思える資金調達手段を選択するのです。
今どのような成長段階にあるのか、現実的に資金調達可能な手段はどれか、それぞれの資金調達手段のメリットやデメリットはどのようになっているのかなど、このような点をしっかりと客観視しておかなければ自社のためになる資金調達を行うことは難しいでしょう。資金調達によって手にした資金を活かすためにも、ここはしっかりと意識しておく必要があります。
ベンチャー企業の資金調達のメリット・デメリット
資金調達というと良い面ばかりが語られがちですが、メリットの多い資金調達にもデメリットというものは存在しています。
資金調達先が無数にあるからと言って何も考えずに闇雲に資金調達を繰り返してしまえば、会社にとって重大な悪影響を与えてしまうというリスクもあるのです。
資金調達のメリット
まず、資金調達のメリットといえば事業を拡大させたり、会社の成長に繋げられるということです。
有能な人材が揃い、無限のアイディアがあったとしても資金が無ければそれを実際に実践することが出来なくなってしまいます。するとその段階で会社の成長も止まり、イノベーションどころか新しいビジネスモデルすら誕生することなくくすぶってしまうことに。
また、ベンチャー企業にはライバルも多く、厳しい競争に勝ち抜くためにもどんどん事業を進めていかなければなりません。この時に資金の差があればそれは致命的な影響をもたらします。
このように、新しい分野を開拓していくというベンチャー企業にとって資金調達を行いアグレッシブに挑戦していくということは非常に重要なことなのです。
資金調達のデメリット
会社が成長することもある意味ではデメリットにもなります。ベンチャー企業は小規模だからこそ短い意思決定プロセスで素早く動くことが出来ることが強みですが、資金調達の成功により会社が成長し大きくなり、それに伴い人も増えればその分以前のようなスピード感は失われる可能性が高くなります。
意思決定が遅くなるだけでなく、元々在籍していたメンバーと新しい社員との間で対立が起こることも考えられます。大きく会社を成長させればさせるほど、ベンチャー企業らしいスピード感という強みは失われ、社内で意思を統一させることは難しくなるのです。
気をつけなければいけないのは会社が大きくなってからだけではありません。立ち上げ時にも注意が必要です。
立ち上げ時にはメンバーも少ないため素早い意思決定が可能となりますが、これは逆に言えば暴走してしまうこともあるということ。成長を急ぎすぎて安易に資金を使ってしまったり、資金調達によって出来ることの選択肢が広がったことで意見の対立が起きてしまうことなどが考えられます。
このような対立がきっかけとなって空中分解してしまったり、新会社を立ち上げるはめになったベンチャー企業も少なくありません。資金調達の手段によっても手にする出来る調達額は異なりますが、大きな資金を手にすれば環境は急激に変化します。だからこそ成長段階に合った最も適した手段を選ぶことが大切です。
ベンチャー企業の7つの資金調達手段
ベンチャー企業の資金を調達するための手段はいくつか存在しています。それぞれの手段によって主に以下のような違いがあります。
- 誰から資金調達するのか
- 返済義務の有無
- 調達限度額はいくらか
- 資金調達のための申請手続きは必要か、不要か
- 資金をいつ手にすることが出来るのか
銀行から資金調達するのか、それともベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達するのか。融資なのか出資なのか…違いは数多くあります。その違いについて知り、どの資金調達方法が最も自分に適しているかを判断し、活用していきましょう。
1:ベンチャーキャピタル(VC)
数ある資金調達手段の中でもベンチャー企業と最も相性が良いと言われ、資金調達実績も多いのがベンチャーキャピタルによる出資です。
ベンチャーキャピタルとは投資家から集めた資金を未上場企業に投資し、IPOやM&Aなどイグジットによるハイリターンを狙う投資ファンド(投資会社)のことで、このベンチャーキャピタルからの資金調達は融資ではなく「出資」のため返済の必要がないだけでなく、利息もかかりません。
また、ベンチャーキャピタルから出資を受けているということはつまり、その企業に将来性があるということの証拠にもなります。そのため、次の資金調達で有利になるというメリットもあります。ただし、ベンチャーキャピタルも将来性や計画性のない企業に出資をしようとは思いません。出資を受けるためには将来的に大きく成長することが出来る事業だということを明確に示せる計画を立てなければいけません。しっかりした事業計画を立てないことにはベンチャーキャピタルから出資を受けることは難しいでしょう。
ベンチャー企業の株の購入という形での出資となるため、出資したベンチャー企業がIPOやM&Aによるイグジットを成功させることが出来るよう、ベンチャーキャピタルは必要に応じて経営にまでも入り込み、コンサルティングを行ないます。
起業したばかりで経営ノウハウを持っていない経営者からすれば、数多くのベンチャー企業を育ててきたベンチャーキャピタルから多くのノウハウを学ぶことが出来、さらに事業を発展させることに繋がるという、ベンチャーキャピタルによる資金調達のもう一つの魅力です。
ただし、ベンチャーキャピタルによるコンサルティングはデメリットになる可能性も考えられます。ベンチャーキャピタルが経営にまで関わってくるということは、今までは全て自分たちの意思で行うことが出来た意思決定が出来なくなってしまう可能性もあるということです。経営権を失ってしまうことがないよう持ち株は上手にコントロールする必要があります。
【メリット】
- 出資のため返済義務がない
- 次の資金調達で有利になる
- ベンチャーキャピタルのネットワークにアクセス可能になる
- 経営コンサルティングなど企業の成長のための支援を受けられる
【デメリット】
- 経営に自分の意思を100%反映させることが難しくなる
- 経営権を握られてしまう可能性がある
- ベンチャーキャピタルとコミュニケーションを取る必要がある
- 明確な計画がなければ出資してもらうことは出来ない
2:エンジェル投資家
ベンチャーキャピタルと同じ「出資」という形ですが、ファンドや会社ではなく個人からの出資を受けるという資金調達方法もあります。
エンジェル投資家とは、創業間もない企業に対して資金を提供する個人投資家のことです。ベンチャーキャピタルと違うのは、ベンチャーキャピタルは複数の投資家から預かった資金をベンチャー企業への投資という形で運用するのに対し、エンジェル投資家の場合は個人の資産から投資を行ないます。
エンジェル投資家として活動している人は元経営者や元起業家という人も多いためビジネスを成功へ導くためのノウハウ、そして有力な人脈を持っています。良いエンジェル投資家に出会うことが出来れば創業期の企業の頼もしい味方、パートナーとなってくれることでしょう。実際、エンジェル投資家の中には投資によって大きな利益を上げることよりも後進を育成することを重視しているという人も少なくありません。
さらに、エンジェル投資家の場合は個人のため、その人に「良いな」と思ってもらうことが出来れば出資を受けることが出来ます。世間からは見向きもされないような内容のサービスや技術だったとしても、エンジェル投資家が気に入りされすれば考えられないような額の資金を調達出来る可能性もあるのです。
イベントや交流会、プレスリリースによる宣伝、マッチングサイト、知り合いからの紹介など、エンジェル投資家と知り合う場やきっかけは様々です。
【メリット】
- 出資のため返済義務がない
- 次の資金調達で有利になる
- 人脈を広げられる
- 経営についてのアドバイスを受けることが出来る
- 相性が良ければ資金調達が出来る可能性が高くなる
【デメリット】
- 経営に自分の意思を100%反映させることが難しくなる
- 経営権を握られてしまう可能性がある
- 相性が悪い場合も考えられる
- 大物エンジェル投資家と出会うことがそもそも難しい
3:融資(新創業融資・制度融資)
出資とは違い、融資では返済の必要があります。融資の審査では「貸したお金を返済出来るか」という信用力が重要となるため、起業したばかりで何の実績もないベンチャー企業では融資を受けるのは難しいとされていますが、中にはベンチャー企業でも利用可能な融資が存在しています。
返済義務のない出資は融資に比べてメリットばかりのように思えますが「株の発行=部分的な経営権譲渡」となるため、自由な経営を行ないたいという方は出資ではなく融資を選択することもあるでしょう。
上でもご説明の通り、銀行や信用金庫などの金融機関から直接融資を受けるという「プロパー融資」を受けることはベンチャー企業では難しいと言えます。
しかし、日本政策金融公庫の新創業融資はベンチャー企業にとって実現生の高い資金調達方法です。政府系の金融機関である日本政策金融公庫は経済政策の一環として起業をサポートする融資を行っているのです。
新創業融資の上限額は3000万円となっていますが、実際には上限額までの融資を受けられることはほとんどなく、平均して1件あたり300万円程度となっています。場合によっては1000万円の融資が受けられる場合もあるため、より多額の融資を受けたい場合には新創業融資への説明はきちんとするようにしましょう。新創業融資は最短2週間で融資が可能なため、スピード感が大切なベンチャー企業にとっても魅力的な融資だと言えるでしょう。
また、自治体が取り扱っている制度融資もベンチャー企業が利用できる可能性がある融資の一つです。制度融資では各種自治体がお金を出し、信用保証協会が保証を担当し、金融機関が窓口となります。
【メリット】
- 創業前でも申し込み可能
- 融資決定までが早い(2週間~1ヶ月)
- 無担保・無保証
- 審査を通過することにより信用力が上がる
【デメリット】
- ある程度の自己資金は必要
- 創業計画書を細かく作り込まなければならない
- 利用には制限がいくつかある
4:助成金・補助金
代表的な資金調達方法として、国や地方自治体により助成金・補助金があります。助成金・補助金は原則返済の必要がないだけでなく、国や地方自治体ともなれば安心感もありますよね。
しかし、助成金・補助金の場合、公募期間が決まっているため新しい情報を手に入れるために常にアンテナを張っていないといけないことや、助成金・補助金の申請にも手間と時間がかかることは忘れてはいけないでしょう。
ベンチャー企業の中には労働環境の整備が追いついていないというところも少なくありませんが、助成金は厚生労働省が管理しているため、雇用周りの整理が必要となることが考えられます。また、補助金の場合は審査が必要で、申請すれば確実に貰えるという訳ではありません。
どちらも後払いで、1年後に振り込まれるものもあり、助成金・補助金のみで資金調達を行うというのは現実的ではないと言えます。
【メリット】
- 原則返済の必要がない
- 国や地方自治体のため安心感がある
- 経営権に影響が出ない
【デメリット】
- 申請のためには手間と時間がかかる
- 申請可能な時期が決まっている
- 助成金は受給のため労働環境を整備しなけれなならない
- 補助金は審査があり確実に貰えるわけではない
- 助成金・補助金のいずれも後払いのためすぐに資金として利用出来ない
5:M&A
M&Aによって資金調達を行うという方法もあります。大手企業に買収されることで経営に関する決定権が損なわれる可能性はありますが、資本の傘下に入ることで経営基盤を強化出来るため資金問題は解決することとなります。
日本ではM&Aはネガティブなイメージを持たれがちですが、アメリカではむしろM&Aが主流で、M&Aを行なうことを最終的な目標として創業する企業も少なくありません。
【メリット】
- 大企業の資本傘下に入ることで経営基盤を強化できる
- 事業の継続と拡大
【デメリット】
- 想定した買収額よりも安い
- 雇用や労働条件が変更される場合がある
- 変化によって従業員が離職する場合がある
- 取引先や顧客から反発を受ける可能性がある
6:クラウドファンディング
現代らしい新しい資金調達方法と言えるのがクラウドファンディングです。最近では新事業のためにクラウドファンディングによって一般の人たちからインターネットを通じて資金調達を行うという事例も多く、実際にクラウドファンディングによる資金調達のおかげで事業を実現したというケースも多くなっています。
SNSなどを活用することは会社を知ってもらうことになるだけでなく、エンジェル投資家との出会いのきっかけとなる可能性もあります。クラウドファンディングはベンチャー企業の新しい資金調達方法となることでしょう。
ただし、クラウドファンディングでは一般人から資金を募ることになるため、調達額には限界があります。また、事業が成功しなかった場合、その企業のイメージを大きく下げてしまうというリスクがあるというのも忘れてはいけないポイントです。
支援者がお金を寄付するという「寄付型クラウドファンディング」、製品アイディアなどに出資し、金額に応じたリターンを受け取るという「購入型クラウドファンディング」、資産運用した個人から集めた小口の資金を融資する「融資型クラウドファンディング(ソーシャルレンディング)」、資金出資の見返りに未公開株を提供する「株式投資型クラウドファンディング」など、クラウドファンディングには様々な種類があります。どんなクラウドファンディングを選択するかによってもそれぞれメリットやデメリットが存在しているため、実際にクラウドファンディングで資金調達を行うという際には事前にしっかり確認するようにしましょう。
【メリット】
- スピーディーな資金調達が可能
- 市場の反応を見る事ができる
- 想像していた以上の額を調達できる可能性もある
- 会社の名前を広めることが出来る
【デメリット】
- 必ず資金調達出来るという訳ではない
- 支援者に何らかのリターンが必要となる
- 手数料がかかる
- 事業に失敗した場合のイメージダウンが大きい
7:友人・家族からの借り入れ
友人や家族からの借り入れという資金調達方法もあります。融資は返済の必要があるだけでなく金利も発生しますが、知り合いから借りるならば金利も発生しませんし、何となく手を出しやすいというイメージがありますよね。
しかし、大抵の場合は借り入れ額もそこまで大きなものにならないだけでなく、トラブルに発展する可能性もあります。友人や家族からの信頼を失うことになれば会社だけでなく今後の人生にまで大きく影響してしまうことになります。
やむを得ずこのような方法で資金調達をしなければならないという時には必ず契約書を交わすこと、しっかりと説明を怠らないことが必要です。
まとめ
事業が軌道に乗るまではどうしても赤字は避けることが出来ないベンチャー企業にとって、資金調達は事業を拡大していくためにもとても重要な手段です。ただし、資金調達はあくまで「手段」であり、目的ではないということは忘れてはいけません。安易な資金調達はむしろ会社の首を締めてしまうこともあるのです。
企業の成長フェーズを見極め、最も適した方法で資金調達を行うということが企業をより大きく成長させるために大切なのです。
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来年の4月に市原市の認可を受けて、小規模保育園を開園するために株式会社を立ち上げました。開園の為の準備は園舎の建設、など順調に動いていました。しかし資金調達の段階で銀行から当初の融資を協力して頂けるというお話しが一転してしまいました。今動きを止めることは、開園に繋がらないことは勿論のこと、地域への待機幼児の対策や、待機児童、子育て中のお母さん、お父さんを支援して行こうというかんがえの実現が遠退いてしまいます。何とかその第一歩を進めたい。そのためのご支援を何とかご協力をしていただきたいのです。