
精神障害のある方の雇用を検討していても、「対応の難しさ」「スキルの不足」などに不安を感じて採用を躊躇する会社は少なくありません。
受け入れるためには、社内の理解や専門家のアドバイスなど、精神障害者を受け入れる環境整備が必要となるでしょう。
そのような時には、精神障害雇用安定奨励金ことピアサポート体制奨励金をぜひご利用ください。
ピアサポート体制奨励金は、精神障害者の雇用の促進と職場定着を図るために、働きやすい職場づくりを行った事業主に向けての補助金です。
こちらでは、精神障害雇用安定奨励金について詳しくご紹介していきます。
ピアサポートとは?
ピアサポートの「ピア」とは、同じような立場や境遇、経験等を共にする人たちを意味し、「サポート」は援助を意味しています。
ピアサポートは「仲間同士の支え合い」という言葉になります。
ピアサポートとは、同じような共通項と対等性を持つ人同士の支え合いを意味していますが、最近では障害の領域でも使われ始めました。
精神障害などに関する経験や共通項を通じたピア同士のつながりの中で、サポート関係を結び仲間同士で支えあうことです。
精神障害雇用安定奨励金の概要
精神障害雇用安定奨励金は、精神障害者の雇用の促進と、職場定着を図るために厚生労働省が実施している助成制度です。
精神障害者を雇用や職場復帰させるとともに、社内の理解や専門家のアドバイス等のピアサポートの業務を行ったときに奨励金が支給されます。
精神障害者が働きやすい職場づくりを行った事業主を支援しています。
対象となる取組
精神障害雇用安定奨励金の対象となる取組みは、下記の表の6つの取組みです。
6つの事業の中で、1つ以上を実施する事業主に奨励金が支給されます。
環境整備の取組 | 取組内容 | |
1 | 専門家の活用 | 精神障害者の雇用管理に関する業 務を行う精神保健福祉士等の精神 障害者支援専門家を新たに雇用又 は委嘱する |
2 | 専門家の養成 | 社内の専門人材を養成するため、 従業員に精神保健福祉士等の養成 課程を履修・修了させる |
3 | 社内理解の促進 | 従業員に精神障害者の支援に関す る講習を受講させる |
4 | ピアサポート体制 の整備 | 社内の精神障害者を他の精神障害 者に対する相談等を行う担当者と して配置する |
5 | 代替要員の確保 | 新たに雇入れた精神障害者が休職 したときに代替要員を確保する |
6 | 精神障害者のセル フケア | 新たに雇入れた精神障害者にスト レスケアに関する講習を受講させる |
対象となる事業主
精神障害雇用安定奨励金の対象となる事業主は、下記の7つの要件に該当することが必要となります。
①過去に本奨励金の支給を受けた場合は、労働局長が行った最後の支給決定の日の翌日以降に、新たに対象精神障害者及び助成対象となる取組みを行う事業主であること。
②本奨励金の支給を行う際に、雇入れ又は委嘱を行う事業所において成立する保険関係に基づく前々年度より前の年度に係る労働保険料を滞納していない事業主であること。
③不正行為により、本来支給を受けることのできない助成金等の支給を受け、又は受けようとしたことにより3年間にわたる助成金等の不支給措置を受けていない事業主であること。
④支給対象期間に対象精神障害者及び社内支援者に対する賃金を支払期日を越えて支給申請を行うまでに支払っていない事業主ではないこと。
⑤労働関係法令の違反(船員に適用される労働関係法令違反を含む。)を行っていることにより本奨励金を支給することが適切でないと認められる事業主ではないこと。
⑥労働局が立ち入って行う実地調査に協力する事業主であること。
⑦下記の「対象となる8つの措置」の1の各要件を満たして雇い入れた対象精神障害者の出勤状況および支払い状況等を明らかにする書類(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿等)、および2~8の各措置の状況とそれに要した費用を明らかにする書類等を整備・保管し、労働局等から提出を求められた場合にそれに応じること。
助成対象期間と支給対象期間
精神障害雇用安定奨励金の助成対象期間と支給対象期間は、下記の通りとなります。
◆助成対象期間
・精神障害雇用安定奨励金は、下記の「助成対象となる措置」の取組みの3~8に対応の内容に応じて、支給対象者の雇入れの日を「起算日」とした下表の「助成対象期間」に示す期間を対象として助成が行われます。
◆支給対象期間
・助成対象期間のうち、起算日から起算して6ヶ月間(起算日前に助成対象期間がある場合はその期間を含む)を第1期の「支給対象期」、その後の6ヶ月間を第2期の「支給対象期」とし、この支給対象期ごとに最大2回にわたって支給されます。
助成対象となる取組み
助成対象となる取組み | 助成対象期間 |
①精神障害者を支援する専門家の活用 | 起算日から1年間 |
②精神障害者を支援する専門家の養成 | 起算日の前6か月間および起算日 から1年間 |
③ 精神障害に関する社内理解の促進 | 起算日の前6か月間および起算日 から1年間 |
④ ピアサポート体制の整備 | 起算日から1年間 |
⑤ 休職した精神障害者の代替要 員確保 | 起算日から1年間 |
⑥ 精神障害者のセルフケア | 起算日から1年間 |
助成対象経費
精神障害雇用安定奨励金の対象となる経費は、それぞれの取組によってことなっています。
各取組ごとの助成対象経費は、下記の表の通りとなります。
助成対象となる取組み | 対象経費 |
①精神障害者を支援する専門家の活用 | 対象期間において精神障害者支援専門家に支払われた賃金 精神障害者支援専門家を委嘱した場合は、その委嘱に要する経費 |
②精神障害者を支援する専門家の養成 | 履修者が養成課程の履修に要した費用 ・入学金、授業料、施設整備費、実習費用等 |
③精神障害に関する社内理解の促進 | 履修者が養成課程の履修に要した費用 ・講師謝金、講師旅費、講習を実施する会場使用料、教材費・資料代、外部機関が実施する講習の受講料等 |
④ピアサポート体制の整備 | 社内精神障害者に支払われた賃金 |
⑤休職した精神障害者の代替要員確保 | 代替要員に支払われた賃金(6ヶ月分を上限とします) |
⑥精神障害者のセルフケア | 履修者がストレスケア講習の履修に要した費用 ・講師謝金、講師旅費、講習を実施する会場使用料、教材費・資料代、外部機関が実施する講習の受講料等 |
なお、「賃金」には、臨時的に支払われる賃金および3ヶ月を超える期間ごとに支払われる
賃金が含まれます。
支給額
精神障害雇用安定奨励金の補助率と補助上限額は、下記の通りとなります。
◆補助率
・環境整備に要した経費の1/2
◆補助上限額
・100万円を上限に支給
・ただし、一部メニューは対象経費の上限額を設定
対象となる8つの措置
精神障害雇用安定奨励金は、対象となる事業主が、下記の「1:対象精神障害者」の対象精神障害者を「2:雇入れの条件」により雇い入れるとともに、次の3~8の措置うちの1つ以上を実施した場合に奨励金の対象となります。
1:対象精神障害者
精神障害雇用安定奨励金における「対象精神障害者」とは、下記の①と②に該当する求職者です。
1.精神障害者
2.雇入れ日現在において満65歳未満の者
◆ 具体的には、障害者雇用促進法第2条に規定する精神障害者が該当となり、次のいずれかに該当する者であって、症状が安定し就労が可能な者をさしています。
① 精神保健福祉法第45条第2項の規定により「精神障害者保健福祉手帳」の交付を受けている者
② 統合失調症、そううつ病(そう病・うつ病を含む)またはてんかんにかかっている者
なお、いずれかに次に該当する者は、「対象精神障害者」となりませんので、お気をつけください。
・過去3年間に当該事業所において職場適応訓練(短期の職場適応訓練を除く)を受けた
ことがある者又は現に受けている者
・過去3年間に当該事業所において雇用保険の被保険者として雇用されていた者(障害者ト
ライアル雇用又は短時間トライアル雇用の終了後に引き続き一般被保険者として雇い入れら
れた者を除く)
・対象精神障害者の雇入れ日の前日から起算して1年前の日から当該雇入れ日の前日までの
間において、対象精神障害者を雇用していた事業主と、資本的・経済的・組織的に密接な関
連性のある事業所で雇用されていた者
2:雇入れの条件
対象精神障害者を次の1と2の条件によって雇い入れることとなります。
1.ハローワーク等または民間の職業紹介事業者の紹介により雇い入れること
2.雇用保険一般被保険者として雇い入れ、継続して雇用することが確実であると認められること
3:精神障害者を支援する専門家の活用
精神障害者を支援する専門家の活用とは、下記の通りとなります。
◆精神保健福祉士等の精神障害者支援専門家を、継続して雇用する雇用保険被保険者(短期雇用特例被保険者および日雇労働被保険者を除く)として雇い入れまたは委嘱し、対象精神障害者の雇用管理に関する業務を行わせること
4:精神障害者を支援する専門家の養成
精神障害者を支援する専門家の養成は下記の通りとなります。
◆精神障害者の雇用および職場定着に係る業務を行う社内精神障害者支援専門家を養成するため、当該事業所の労働者(雇用保険一般被保険者として当該事業所において3年以上雇用されている者に限る)に、次のいずれかの精神障害者の支援に関する専門的知識および技術を修得させる課程であって期間が2年以内のものを履修させ、当該養成課程修了後に対象精神障害者の雇用管理に関する業務を担当させること
【奨励金の対象となる養成課程】
①精神保健福祉士の養成課程(精神保健福祉士短期養成施設、精神保健福祉士一般養成施設等の課程)
② 財団法人日本臨床心理士資格認定協会が指定する大学院(第1種)又は専門職大学院の課程
③ 社会福祉士の養成課程(社会福祉士短期養成施設、社会福祉士一般養成施設等の課程)
5:精神障害に関する社内理解の促進
精神障害に関する社内理解の促進の措置は、下記の通りとなります。
◆精神障害者の支援に関する知識を習得するため、次のいずれにも該当する講習を当該事業所の労働者に受講させること
【対象となる講習】
・講習時間 1回につき2時間以上
ただし、同一の対象者に対する講習で内容に連続性がある講習は、初回から最終回までを1回とします。
・対象者
雇い入れた精神障害者と同じ職場の労働者
・講習用法および講習内容
下記の①から⑥までのいずれかに該当する者を講師とする講習又は当該事業所以外の機関が実施する精神障害者の支援に関する講習
① 精神科医
② 精神保健福祉士、臨床心理士、臨床発達心理士、社会福祉士、作業療法士、看護師又は保健師
③ 精神障害に関する専門的知識及び技術を有する学識経験者
④ 精神障害者の就労支援に係る経験を3年以上有する者
⑤ 精神障害者の雇用管理に係る経験を3年以上有する者
⑥ 事業所で雇用されている精神障害者
6:ピアサポート体制の整備
ピアサポート体制の整備は、当該事業所で既に1年以上安定して雇用されている精神障害者(ただし対象精神障害者および精神障害者の雇用管理又は支援に関する業務を行っている者を除く)に、次の①~③に該当する精神障害者の雇用管理に関するピアサポート業務を新たに担当させることとなります。
①対象精神障害者の職場定着を進めるために必要とされる配慮事項等に係る事業所への助言
②当該事業所の産業保健スタッフ等の協力の下で行われる、対象精神障害者に対する、経験に基づいた職場生活、職場復帰等に関する情報提供、助言等
③ ①または②のほか、対象精神障害者の職場定着に資する業務
7:休職した精神障害者の代替要員確保
休職した精神障害者の代替要員確保の措置は、下記の通りとなります。
◆対象精神障害者が1ヶ月以上の期間を休職した場合に、休職した対象精神障害者の代替要員を確保すること
8:精神障害者のセルフケア
休職した精神障害者の代替要員確保の措置は下記の通りとなります。
◆新規雇用した精神障害者に対し、自らのストレスケアに関する講習を受講させること
まとめ
精神障害のある方を雇用した時に利用できる精神障害雇用安定奨励金(ピアサポート体制奨励金)について、奨励金の対象となる取組や事業主、助成対象期間や支給対象期間、助成対象経費、支給額、さらに対象となる8つの措置をご紹介してきました。
精神障害者を雇用する際には、ピアサポート等に対して補助金を支給してくれる精神障害雇用安定奨励金を積極的にご活用ください。
雇用する事象者にとって、精神障害のある方の雇用は難しく感じられるかもしれませんが、精神障害などに関する経験や共通項を通じたピア同士のつながりのサポートによって、働きやすい職場づくりを目指していきましょう。