
人手不足、特に中小企業の人手不足が問題となっています。
「優秀な人材を確保できない…」「期待の人材が辞めていってしまう…」などの悩みを抱える方も多いのではないでしょうか?
人材確保の一手として、生産性向上や賃金引き上げがありますが、それらを支援する助成金があります。
本記事では、そんな助成金について5つの要点で解説します。
・業務改善助成金とは
・助成対象となる要件
・助成対象となる費用
・申請区分
・申請方法
業務改善助成金とは
業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援し、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引上げを図るための制度です。
生産性向上のために設備や人材育成などに投資し、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、それにかかる経費の一部が助成されます。
事業場とは
まず、“事業場”という言葉の定義ですが、原則として、同じ場所にあれば、一つの事業場とみなします。
ただし、労働状態が違う場合は、別々の事業場とみなします。
例えば、工場で生産にあたる労働者と、工場内の食堂で食事を作る労働者は、業態が全く異なるため、別々の事業場とみなすことになります。
最低賃金とは
「最低賃金」とは、最低賃金法に基づき、国が賃金の最低額を定めたものです。
最低賃金には、地域別最低賃金と特定最低賃金(特定の産業について設定されている最低賃金)の2種類があります。
その両方が同時に適用される場合には、使用者は高い方の最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。
最低賃金は、右肩あがりで上昇を続けており、平成28年10月1日から順次、すべての都道府県で改定地域別最低賃金額が発効されました。
平成27年度は798円だった全国加重平均は、改定後は823円まで上がり、25円の上昇となっています。
助成対象となる要件
支給の要件として以下の4点があり、それぞれ必要書類に明記されていなければなりません。
1.事業実施計画を策定すること
賃金引上計画 事業場内最低賃金を一定額以上引き上げる計画。(就業規則等に規定)
2.引き上げ後の賃金額を支払うこと
3.生産性向上に資する機器・設備などを導入することにより業務改善を行い、その費用を支払うこと
(1)単なる経費削減のための経費
(2)職場環境を改善するための経費
(3)通常の事業活動に伴う経費は除く
4.解雇、賃金引下げ等の不当交付事由がないこと
対象となる「中小企業事業者」の要件
助成金の対象となる中小企業・小規模事業者は、以下に該当する者です。
大企業が資本金の2分の1以上を所有しているような、「みなし大企業」であっても以下に該当する場合は助成対象となります。
<卸売業>
資本金額または出資総額:1億円以下、常時使用する労働者数:100人以下
<サービス業>
資本金額または出資総額:5000万円以下、常時使用する労働者数:100人以下
<小売業>
資本金額または出資総額:5000万円以下、常時使用する労働者数:50人以下
<上記以外の業種>
資本金額または出資総額:3億円以下、常時使用する労働者数:300人以下
助成対象となる費用
業務改善助成金の対象となる費用は、以下のようなものがあります。
・POSレジシステム導入による在庫管理の短縮
・リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮
・顧客・在庫・帳簿管理システムの導入による業務の効率化
・専門家による業務フロー見直しによる顧客回転率の向上 など
ただし、経費削減のための費用や職場環境を改善するための費用、通常の事業活動に伴う費用などは助成の対象外となりますので、ご注意ください。
助成事例
厚生労働省が公表している具体的な助成事例を一部ご紹介します。
<接骨院>
来院者数の増加が課題であったため、受付・精算時間の短縮や施術可能人数の拡大を検討していた。
来院者の受付・精算や施術に時間がかかっていた。また、有資格者数や受入 設備数の制約により、来院者を待たせてしまうことが度々あった。
そこで、助成金を活用して、コンサルタントによる業務フローの見直しとPOSシステムを導入したことで、業務の効率化と来院者数の増加につながった。
<葬儀業>
見積もり作成の負担軽減が課題であるため、営業担当を介さず、顧客自身が見積もりできるような仕組みを検討してきた。
顧客先を訪問したり顧客に来店してもらったりして、要望を1つ1つ確認しながらすべての見積もりを人手で作成するのは、時間がかかる状況だった。
そこで、助成金を活用してホームページに見積もりシステムを導入したことで、見積もり作 成業務の効率化と、成約率の向上につながった。
<行政書士・社会保険労務士業>
従業員のモチベーションアップが生産性や売上の向上につながると考えているため、従業員の業務負担の軽減や業務平準化、柔 軟な人員配置を図ってきた。
顧客データをCDROMやUSBメモリで管理していたため、管理が煩雑で安全面に不安があった。また、顧客の賃金計算も従業員が手入力で行っていたため、作業に時間がかかり、ミスも発生していた。
そこで、助成金を活用して顧客のデータ管理をクラウド化し、給与計算システムを導入したことで、管理業務の効率化につながった。
申請区分
業務改善助成金には「①25円コース(850円未満) ※」「②60円コース(850円未満) ※」「③90円コース(850円未満) ※」「④30円コース」「⑤30円コース(850円未満)」の5つの区分があり、それぞれのコースで以下の条件をすべて満たす事業場が対象となります。
※新規追加された3つの区分で、2020年1月上旬より受付開始
①25円コース(850円未満)
(1)助成対象事業場
・事業場内最低賃金850円未満
・事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内
・事業場規模100人以下
(2)賃金を引き上げる労働者(助成上限額)
・1人(25万円)
・2〜3人(40万円)
・4〜6人(60万円)
・7人以上(80万円)
(3)助成率
・4/5(生産性要件を満たし場合は9/10)
②60円コース(850円未満)
(1)助成対象事業場
・事業場内最低賃金850円未満
・事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内
・事業場規模100人以下
(2)賃金を引き上げる労働者(助成上限額)
・1人(60万円)
・2〜3人(90万円)
・4〜6人(150万円)
・7人以上(230万円)
(3)助成率
・4/5(生産性要件を満たし場合は9/10)
③90円コース(850円未満)
(1)助成対象事業場
・事業場内最低賃金850円未満
・事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内
・事業場規模100人以下
(2)賃金を引き上げる労働者(助成上限額)
・1人(90万円)
・2〜3人(150万円)
・4〜6人(270万円)
・7人以上(450万円)
(3)助成率
・4/5(生産性要件を満たし場合は9/10)
④30円コース(850円未満)
(1)助成対象事業場
・事業場内最低賃金850円未満
・事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内
・事業場規模100人以下
(2)賃金を引き上げる労働者(助成上限額)
・1〜3人(50万円)
・4〜6人(70万円)
・7人以上(100万円)
(3)助成率
・4/5(生産性要件を満たし場合は9/10)
⑤30円コース
(1)助成対象事業場
・事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内
・事業場規模100人以下
(2)賃金を引き上げる労働者(助成上限額)
・1〜3人(50万円)
・4〜6人(70万円)
・7人以上(100万円)
(3)助成率
・3/4(生産性要件を満たした場合は4/5)
生産性とは
ここでいう生産性とは、企業の決算書類から算出した労働者1人当たりの付加価値をいい、助成金の支給申請時の直近の決算書類に基づく生産性を比較し、伸び率が一定水準を超えている場合に加算して支給されます。
申請方法
業務改善助成金の申請手続きの流れは以下の通りです。
2019年度(令和元年度)分の申請期限は『2020年1月31日(金)』までとなっています。
1.助成金交付申請書の提出
業務改善計画(設備投資などの実施計画)と賃金引上計画(事業場内最低賃金の引上計画)を記載した交付申請書を作成し、各地域の労働局に提出します。
2.助成金交付通知
各地域の労働局において交付申請書の審査が行われ、内容が適正と認められれば助成金の交付決定通知がなされます。
3.業務改善計画・賃金引上計画の実施
提出した業務改善計画に基づく設備などへの投資、ならびに、賃金引上計画に基づく事業所内最低賃金の引き上げを行いましょう。
4.事業実績報告書の提出
業務改善計画の実施結果と賃金引き上げ状況を記載した「事業実績報告書」を作成し、各地域の労働局に提出します。
5.助成金額の確定通知
提出した「事業実績報告書」の審査が行われ、内容が適正と認められれば助成金額が確定し、通知がなされます。
6.助成金の受け取り
助成金額の確定通知を受けたら労働局へ支払請求書を提出することで、助成金が受け取れます。
申請書類や詳細が記載されている交付要綱・要領は、厚生労働省の業務改善助成金のページよりダウンロードすることができます。
<厚生労働省 / [2]業務改善助成金:中小企業・小規模事業者の生産性向上のための取組を支援>
まとめ
業務改善助成金についての概要から要件、申請方法までを解説しました。
業務改善助成金は、生産性向上のための助成金で、生産性向上に向けた設備投資やサービスの利用と、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部を助成するものだと分かりました。
生産性向上のために機器の導入や人材育成への投資、最低賃金の引き上げは、従業員の労働環境や満足度の改善に寄与し、さらなる企業の発展につながります。
申請にあたって業務改善計画や賃金引上計画を作成する際には、施策内容や目的、費用、業務改善効果などを明確にして、助成金の受給だけでなく、具体的な生産性向上が実現できるようにしましょう。