
ペースメーカー装着者等の重度身体障害者の方々が働きやすい環境を整備することを目的とした場合に、その事業主が国から経済支援を受けることが可能な助成金制度は数多く存在しています。
障害者支援を目的とする助成金制度の実際に支給される助成金額は、障害者の労働支援にかかった経費のおよそ2/3~3/4と設定されており、他の助成金・補助金制度と比較しても高めに金額設定がされていることから、国が障害者支援に非常に力を入れていることが分かります。
様々な障害者支援制度がある中で、今回注目したい助成金制度は、事業主が対象となる障害者を継続して雇用する際に支援を受けることができる「障害者作業施設設置等助成金」や、対象障害者の方が可能な限り快適に通勤を行うことができるように支援する際に受給対象となる「重度障害者等通勤対策助成金」です。
特に、「重度障害者等通勤対策助成金」の中には、数多くの種類の助成金に分類されており、助成金制度の種類に応じて申請するタイミングなどに「違い」がありますから、申請者が、どの助成金制度を申請するのかを把握した上で申請を行うことが重要になります。
本記事では「障害者作業施設設置等助成金」「重度障害者等通勤対策助成金」について詳しく解説します。
INDEX
障害者作業施設設置等助成金の3つの要点
障害者作業施設設置等助成金とは、事業主が障害者を継続して雇用する場合に助成を受けられる制度で、その障害者が障害を克服して作業を容易に行うことができるように配慮された施設又は改造等がなされた設備の設置または整備を行う場合にかかった費用の一部を助成金として支援してもらえる制度です。
例えば、雇用した障害者の方が作業を容易に行えるように、建物の玄関やトイレなどを改装したり、車いすを購入した場合や新たに作業施設を設置するためにかかった経費の一部を支援してもらえます。
本助成金の目的は、障害者を雇用することを促進させることや、障害者が継続して雇用、就労することを目的としており、「身体障害者」「知的障害者」「精神障害者」「中途障害者」の方が対象障害者となります。(ペースメーカー装着者の方は重度身体障害者1級として認定されます。)
そして、障害者作業施設設置等助成金には2種類の助成金があり、「第1種作業施設設置等助成金」と「第2種作業施設設置等助成金」に区分されています。
・第1種作業施設設置等助成金
身体障害者・知的障害者・精神障害者・中途障害者が働くことを容易にするために作業施設等を「工事・購入」によって設置した場合に支給される助成金です。
・第2種作業施設設置等助成金
身体障害者・知的障害者・精神障害者・中途障害者が働くことを容易にするために作業施設等を「賃借」によって設置した場合に支給される助成金です。
つまり、必要な作業施設や道具を「購入」して導入したのか、「賃借」によって導入したかの違いによってどちらの助成金を申請するべきかが違ってくるということになります。
また、第1種、第2種どちらにもいえることですが、本助成金は設備や道具を導入しただけで受給できるものではなく、導入した設備や道具を、実際に障害者の雇用継続のために活用されていなければ、受給対象とはなりません。
障害者作業施設設置等助成金の対象となる事業主
・雇用保険に加入していること。
・雇用保険料の支払いが問題なく行われていること。
・同一障害者に「障害者作業施設設置等助成金」の支給が限度額(450万円)を超えていないこと。
障害者作業施設設置等助成金の対象となる雇用者
・重度身体障障害者(1級・2級)の勤務者
(ペースメーカー・ICD装着者は1級に認定されます。)
・重度身体障害者の短時間労働者
・雇用保険の被保険者であること
障害者作業施設設置等助成金の具体的な支給額
・障害者作業施設設置等助成金の助成率
かかった経費の2/3
・第1種作業施設設置等助成金の支給限度額
新たに「作業施設」を設けた場合 1人あたり450万円
新たに「作業設備」を設けた場合 1人あたり150万円
・第2種作業施設設置等助成金の支給限度額
新たに「作業施設」を設けた場合 1人あたり13万円/月
新たに「作業設備」を設けた場合 1人あたり5万円/月
※支給期間は最長3年間となります。
障害者作業施設設置等助成金の取り扱い窓口
・都道府県にある「高齢・障害・求職者雇用支援機構」の直轄窓口
・窓口業務を委託している関連協会
上記の場所で「申告・申請の受付・相談」を行えますので、受給を検討される事業主の方は一度相談してみることをおすすめします。
まずは最寄りのハローワークの事業主窓口で相談をすると、その他の関連する助成金も含めて案内をしてもらうことができるので、「最寄りのハローワークで相談」→「高齢・障害・求職者雇用支援機構で相談」という流れで行動すると、本助成金について確実に理解できると思います。
申請方法
①申請
上記窓口で年4回(9,12,3,6月)の1日~14日の期間に申請をしなければなりません。
この定められた期間に実施計画書を高齢・障害・求職者雇用支援機構に提出し、受給資格認定申請を行いましょう。
②審査
助成金・補助金の申請を行うと必ず「審査」が行われます。
審査に合格して、助成金を受給できることが決まれば、次の手順に進みましょう。
※助成金には予算が決められているため、全ての申請が受け付けられる保証はありません。
③事業実施
認定を受けてから1年以内に、提出した計画のとおりに作業設備等の設置や導入を行いましょう。
④報告・支給申請
当初の計画通りに設備の設置や導入を実施したか、障害者雇用継続のために活用しているか等を報告し、助成金の支給申請を高齢・障害・求職者支援機構に対して行いましょう。
⑤助成金受給
ここまでの流れを実施した後、助成金が申請した事業主に対して支払われます。
※後払いになりますので、そのことを踏まえた資金計画を立てることが重要なことになります。
重度障害者等通勤対策助成金の8つの種類
重度障害者等通勤対策助成金とは、一定の基準以上の障害を持つ労働者の方に対して、その通勤を容易にする措置をとった一定の事業主に対して支給される助成金であり、障害者の雇用促進を目的としています。
重度障害者等通勤対策助成金には下記の8つがあります。
①重度障害者用住宅の貸借助成金
②指導員の配置助成金
③住宅手当の支払助成金
④通勤用バスの購入助成金
⑤通勤バス運転従事者の委嘱助成金
⑥通勤援助者の委嘱助成金
⑦通勤のための駐車場の貸借助成金
⑧通勤用自動車の購入助成金
それぞれの助成金で要件や助成額が異なるため、一つ一つ解説していきます。
①重度障害者用住宅の貸借助成金
「受給対象となる障害者の障害を考慮した上での特別な設備や構造がある住宅」の貸借の実施をおこなった場合に受給することが可能な助成金です。
(助成額)
かかった経費の3/4
(上限額)
世帯 / 月10万円
単身 / 月8万円
(支給対象期間)
10年間
(申請期限)
賃貸借契約の予定日の前日の二ケ月前~契約締結の翌日から3ケ月後
②指導員の配置助成金
対象となる障害者が住んでいる住宅で通勤を簡単にするために、「健康管理」「生活指導」「その他に対象の障害者が通勤する際の課題克服に必要な業務」を行う指導員の配置を行った場合に受給することが可能な助成金です。
(助成額)
かかった経費の3/4
(上限額)
月15万円
(支給対象期間)
10年間
(申請期限)
指導員配置を実施する前日まで
③住宅手当の支払助成金
受給対象の従業員自らが住宅を賃借して家賃を支払っている場合、対象の障害者へ2つの要件を満たす住宅手当を支払うことで受給することができる助成金です。
・会社の賃金規定等に規定された住宅手当であること。
・支払う住宅手当の金額が他の従業員への住宅手当の金額を超えていること。
(助成額)
かかった経費の3/4
(上限額)
対象者1人につき / 月6万円
(支給対象期間)
10年間
(申請期限)
住宅手当を支払う前日の2ケ月前~住宅手当の支払日翌日から三ケ月後まで
④通勤用バスの購入助成金
通勤を行うことが困難な受給対象障害者5人以上を対象とした通勤用バスを購入することで受給することができる助成金です。
(助成額)
かかった経費の3/4
(上限額)
バス1台 / 700万円まで
(申請期限)
バス購入予定日の前日から二ヶ月前まで
⑤通勤バス運転従事者の委嘱助成金
受給対象障害者の従業員のうち通勤が困難であると認められた障害者5人以上の通勤を容易にするために利用する通勤バスの運転手を委嘱した場合に受給可能な助成金です。
(助成額)
かかった経費の3/4
(上限額)
委嘱1回 / 6,000円
(支給対象期間)
10年間
(申請期限)
通勤用バスの運転手委嘱実施日の前日まで
⑥通勤援助者の委嘱助成金
通勤が困難である障害者の従業員に対して、5つの要件を満たす場合に通勤援助者を委嘱することで受給可能な助成金です。
・新しく受給対象の障害者を雇用した場合
・中途障害者が職場復帰する場合
・対象障害者の障害が悪化し、通勤の援助が必要になった場合
・通勤経路がやむを得ず変更になった場合
・上記4つの他に通勤援助をする者の援助が必要であると判断された場合
(助成額)
かかった経費の3/4
(上限額)
委嘱1回 / 2,000円
障害者の交通費 / 3万円
(支給対象期間)
1カ月
(申請期限)
通勤援助者委嘱実施日の前日まで
⑦通勤のための駐車場の貸借助成金
通勤が困難な受給対象障害者の従業員に対して、駐車場の賃借を行い、対象の方に利用してもらうことで受給可能な助成金です。
(助成額)
かかった経費の3/4
(上限額)
月5万円
(支給対象期間)
10年間
(申請期限)
駐車場の賃貸借契約予定日の前日の2ケ月前~契約締結日翌日から3ケ月後まで
⑧通勤用自動車の購入助成金
受給対象障害者のために、通勤用自転車を購入した場合に受給可能な助成金です。
(助成額)
かかった経費の3/4
(上限額)
1台 / 150万円
(申請期限)
通勤用自転車購入日の前日から2ケ月前まで
上記のような、障害者の方の通勤を簡単にするための措置をとった事業主が受給することが可能です。
重度障害者等通勤対策助成金の対象となる障害者の8つの要件
助成対象となる従業員は以下の要件を満たし、助成金の申請を行う事業主に継続的に雇用されている必要があります。
①重度身体障害者(ペースメーカー装着者は1級認定)
②3級の体幹機能障害者
③3級の視覚障害者
④3級又は4級の下肢障害者
⑤知的障害者
⑥精神障害者
⑦3級又は4級の乳幼児期以前の非進行性の脳病変による移動機能障害者
⑧5級の次の障害を重複する者
・下肢障害
・体幹機能障害
・乳幼児期以前の非進行性の脳病変による移動機能障害者
上記のような障害を持った方が本助成金の対象障害者として認定されます。
重度障害者等通勤対策助成金の受給可能な事業主の3つの要件
重度障害者等通勤対策助成金を受給するためには下記3つの要件を満たす必要があります。
・助成金対象措置の実施がない場合、対象障害者の採用が困難である事業主
・過去に障害者関係の助成金で不正受給を行った場合、不支給措置が行われていない事業主
・不正受給の返還金を完済している事業主
重度障害者等通勤対策助成金の申請方法
申請方法の主な流れは①申請→②審査→③事業実施→④報告→⑤助成金受給と前項で解説した障害者作業施設設置等助成金の申請手順と同じような流れになります。
申請する助成金の種類によって申請日の期限(申請するタイミング)が違いますので、自分がどの助成金を申請するのか事前にはっきりとさせておきましょう。
措置を実施するタイミングは受給資格認定が行われた後に、実際に通勤を容易にする措置を実施します。
認定が行われる以前の費用は助成金の受給対象外となりますので、十分に注意が必要です。
そして、措置の実施後一定期間内に、支給申請書を「高齢・障害・求職者雇用支援機構」に提出し、支給要件をきちんと満たしていると判断されれば、申請した事業主に対して助成金が支払われます。
まとめ
ペースメーカー装着者等の重度身体障害者の方が継続して働くことができるように支援した事業主が受給対象となる助成金制度「障害者作業施設設置等助成金」「重度障害者等通勤対策助成金」について解説したしました。
「障害者作業施設設置等助成金」は障害者の方が作業など労働を行う施設において、可能な限り障害を克服して働くことができるように、その施設の環境を整備する際にかかった費用の一部を支援してくれる助成金制度です。
障害者作業施設設置等助成金の受給資格を得るためには、要件によって定められた対象となる障害者の方を継続して雇用する必要があるという点が大きな特徴として挙げられます。
そして、障害者作業施設設置等助成金は「第1種」「第2種」の2種類に分類されており、第1種は障害者支援のための施設や道具を「工事・購入」によって導入する際に用いられる助成金であり、第2種は「賃借」によって導入する際に用いられ、「購入」したのか「借りたのか」という導入方法の違いによって分類されているといえます。
「重度障害者等通勤対策助成金」は、重度身体障害者の方(ペースメーカー装着者含む)が通勤する際にかかる負担を可能な限り減らし、通勤を容易にする措置を実施した事業主に対して支援してくれる助成金制度です。
重度障害者等通勤対策助成金は、事業主が障害者に実施する措置の内容に応じて、8種類の助成金に分類されています。
①重度障害者用住宅の賃借助成金
②指導員の配置助成金
③住宅手当の支払助成金
④通勤用バスの購入助成金
⑤通勤用バス運転従事者委嘱助成金
⑥通勤援助者委嘱助成金
⑦駐車場の賃借助成金
⑧通勤用自転車の購入助成金
以上8つの助成金から構成されている助成金制度を総称して重度障害者等通勤対策助成金といいます。
内容は名称からもある程度想像ができると思いますが、どの助成金も対象の障害者の方が通勤することを容易にするための制度です。
今回ご紹介した助成金制度の助成額はかかった経費の2/3~3/4の金額を助成してもらうことができるので、積極的に活用してペースメーカー装着者等の重度身体障害者の方々が困難を克服して働き続けられる環境づくりを実現しましょう。