労働条件通知書と雇用契約書は、助成金を申請する時に非常に重要な書類です。
事業者は労働条件通知書と雇用契約書を管理しておかないと、助成金を受給することができなくなってしまいます。
助成金だけでなく、労働者との条件・契約を明確にすることができる書類です。
いざ、作成するとなった時、どのようなことを記載すればいいのか?など疑問が多いと思います。
必要事項と正しい知識を知り、スムーズに助成金を申請して受給できるようにするために是非参考にしてください。
助成金の対象と対象外を解説
様々な種類の助成金があるため、皆さんが利用する助成金によって対象が変わってきます。
ですが、これから解説する対象と対象外は殆どの助成金に当てはまるため、書類を作成する前にもう一度確認しておきましょう。
助成金の対象
殆どの助成金に該当する対象者は以下になります。
・人を雇い入れたい
・雇用を維持したい
・職場環境を改善したい
・従業員をスキルアップさせたい
・妊娠・出産・育児・介護を考えて、仕事と家庭を両立させたい
以上に該当する人は助成金を利用できる対象者です。
事業を向上したい人、従業員が安心して仕事ができるように環境を改善したい人に向いている助成金が細かく、数多く揃っています。
自分に合う助成金制度がきっと見つかります。
助成金の対象にならないこと
助成金は事業者なら誰でも貰えるわけではありません。
助成金を申請しても断られる場合もあります。
対象外になってしまうよくあるケースは以下です。
・普通解雇をした
・労働法違反をした
・雇用保険または社会保険に加入していない
・労働保険料を支払っていなくて滞納している
・不正受給をした
普通解雇をすると助成金が受け取れない場合がありますが、中には普通解雇しても貰える助成金もあります。
検討している助成金の条件の詳細をよく確認してみることをおすすめします。
もし不正受給が発覚した場合は、
・事業所名が公表される
・受給した助成金を全額返還
・不正受給した金額の20%に相当する額も追加で支払う
・5年間支給されない
・詐欺罪になる可能性もある
・社会保険労務士または代理人も罰則対象になってしまう
などの罰があります。
実際に不正受給をしてしまう人がいて、近年では助成金申請の審査が厳しくなっています。
労働条件通知書と雇用契約書の違いは何?
労働基準法には「労働契約をするには一定の事項を労働者に明示しなければならない」とされており、その明示する書類が労働条件通知書と雇用契約書ということです。
労働条件通知書と雇用契約書、どちらも労働契約のことが書かれている書類ですが、違いは何なのでしょうか?
次は、労働条件通知書と雇用契約書それぞれの説明と違いを解説します。
労働条件通知書
労働条件通知書は、雇用契約を結ぶ時、事業者が労働者に「労働条件について示すための事項」が記載されている書類です。
雇用契約書
雇用契約書は、雇用する時に事業者と労働者の契約書です。
署名し押印した後は、雇用者と労働者が保管します。
2つの違い
労働条件通知書と雇用契約書、どちらも契約が記載されていて内容は殆ど同じですが、違いは署名と押印が必要が不要かです。
雇用契約書は会社と従業員が、書類の内容を同意したことを示すために署名と押印をします。
労働条件通知書は会社が従業員に通知する書類で、これには署名と押印は不要になる場合が殆どです。
近年では電子署名したり、紙ではなくメールで通知する会社も増えてきています。
労働条件通知書と雇用契約書は作成した方が良い
労働条件通知書と雇用契約書を作成していないと、もし労働でトラブルが起きた時に「契約内容と労働条件通知書が違う」「そんな書類は貰ってない」など口論になったりややこしいことになってしまう可能性もあります。
トラブルが起きないために、きちんと契約したという証明になる雇用契約書が役に立ちます。
とくに雇用契約書は助成金以外でも非常に重要な書類なので、2つの書類は大切に保管しておくべきと言えるのです。
助成金申請に必要な理由
助成金は従業員を解雇していないかなど、事業者だけでなく現在雇っている従業員も関わってくる条件が含まれる場合もあります。
労働条件通知書と雇用契約書によって、本当に雇っている証明になり、厳しい審査で不正受給だと勘違いされないためにも役立ちます。
労働条件通知書は法的に必要
「通知書ってどうして必要なの?」「雇用契約書だけで良いんじゃないの?」と思うかもしれません。
ですが、労働基準法には「立場が弱い従業員を保護するために、雇用契約が成立したら労働条件を従業員に明示すること」とされています。
それが労働条件通知書です。
厚生労働省は長年、紙で作成した労働条件通知書を交付し、労働条件を明示する必要がある立場でした。
しかし近年はコンピューターの普及とIT化がどんどん進んでおり、テレワーク導入などが増えています。
効率良くするために、ネットでの添付ファイルやメールに記載するやり方で通知を送りたいという声が多いため、2019年から紙の他にメールなどでやり取りができるようになりました。
逆に雇用契約書は法的に不要
労働条件通知書は労働基準法で必要なものとされていますが、雇用契約書は契約を成立させるには絶対必要というわけではありません。
日本の民法では、契約成立には書類など形ではなく意思主義を基本としているからです。
なので、割賦販売契約や任意後見契約など法律で定められた一部の例外を除くものは、口約束だけで契約が正式に成立できるのです。
そのため、雇用契約は口約束だけでも契約成立ができます。
書類作成のポイント
助成金を申請するために、労働条件通知書と雇用契約書を作成する時に注意しておきたいポイントを4つ解説します。
①現在の法律に一致しているか
②割増賃金が正確に支払われる規定になっているか
③定額残業制の場合、固定残業手当も記載されているか
④有期契約の場合、契約更新される度にきちんと再作成をしているか
以上のポイントに注意して作成していきます。
定額残業制を導入している職場なら、「残業手当がある」「何時間分か」「記載した時間を超えた場合は差額を支給する規則」を記載しましょう。
有期契約をしている職場なら、「契約更新がきちんと行われているか」を記載します。
記載しなければいけないこと
労働条件通知書と雇用契約書には以下のことを記載します。
・労働契約の期間
・就業場所
・業務内容
・始業・終業時刻
・休憩時間
・休日・休暇
・賃金の計算と支払い方法・支払いの時期・賃金の締め切り
・退職に関する事項(解雇を含む)
・昇給・退職手当・賞与の有無
以上が必ず記載する必要がある項目です。
口頭で明示しても構わないこと
続いて以下の項目は、制度を設ける場合に記載するまたは口頭の明示でも構わない項目です。
・昇給に関すること
・退職手当の計算と支払い方法・支払いの時期
・支払う賃金・賞与などに関すること
・労働者が負担する食費・作業用品などのこと
・安全・衛生に関すること
・業訓練に関すること
・災害補償・業務外の傷病扶助に関すること
・表彰・制裁に関すること
・休職に関すること
昇給に関することは必ず記載しなければなりませんが、書面ではなく口頭でも大丈夫です。
書類作成で分からないところがあれば、社会保険労務士に相談するのもおすすめです。
キャリアアップ助成金の場合で解説
以上が、助成金を申請する際に労働条件通知書と雇用契約書に記載しなければならない事項でした。
次は、人気助成金制度のキャリアアップ助成金を例にして、申請時に必要な書類や注意点を解説していきます。
労働条件通知書と雇用契約書の写し
殆どの助成金に必要な書類なので、キャリアアップ助成金でも労働条件通知書と雇用契約書を作成します。
厚生労働省のホームページではサンプルがあるため、参考にして作成ができます。
記載しなければならない事項は、上記の「記載しなければいけないこと」と同じです。
その他の書類
キャリアアップ助成金申請で、労働条件通知書と雇用契約書の写しの他に必要な書類は以下です。
・就業規則の写し
・賃金台帳の写し
・出勤簿またはタイムカードの写し
・登記事項証明書
・助成金申請書
助成金申請書は、助成金全てに当てはまる必要書類です。
労働条件通知書と雇用契約書以外の書類にも、記載しなければならない事項がたくさんあります。
続いては、就業規則の写し・賃金台帳の写し・出勤簿またはタイムカードの写しについて詳しく解説していきます。
就業規則の写し
就業規則は、従業員が働くうえで守るべき規則や労働条件が記載されている書類です。
法に定められていて必ず記載する事項を解説していきます。
必ず記載する必要がある事項は以下になります。
・労働時間に関すること
・賃金に関すること
・退職に関すること
労働時間は始業から終業の時間・休憩時間・休日・休暇などを記載します。
賃金は計算方法や支払い方法・支払い時期・締め切り日など。
退職は解雇の事由を含み、退職関係の事項です。
賃金台帳の写し
賃金台帳は、以下のことが記載されている帳簿です。
・氏名
・性別
・賃金の計算期間
・労働日数
・労働時間
・時間外労働・休日労働・深夜労働をした時間
・基本給
・賃金の一部を控除した場合はその金額
賃金は毎月支払う必要があるもので、正しく賃金が計算されているか、支払っているかが確認できます。
賃金台帳にはいくつか注意点があります。
・出勤簿またはタイムカードに記載してある労働時間分の給料を払っているか
・時間外労働・休日労働・深夜労働の割増賃金を正しく計算できているか
・最低賃金を下回っていないか
・労働条件通知書と雇用契約書に記載している通り、賃金を払っているか
出勤簿またはタイムカードの写し
出勤簿またはタイムカードは、従業員の労働時間を記録するものです。
一般的にはタイムカードと呼んでいる人が多いと思います。
出勤簿またはタイムカードには以下のことを守っているかも大事です。
・始業・就業・休憩時間が明確に記載してあり、1日1日の労働時間を把握できているか
・時間外労働・休日労働・深夜労働がある場合も明記しているか
・法定通りに休憩時間をとれているか
・日々記録できているか
出勤簿またはタイムカードの作成は義務づけられているため、殆どの会社にあるものですが、もし作成していない場合は過去3年分を作成するのが良いです。
キャリアアップ助成金や他の助成金では最低でも、正規雇用労働者等へ転換する前6か月分または転換した後6ヶ月分を作成しないと申請ができません。
以上が、キャリアアップ助成金を例にして書類をそれぞれ解説してきました。
実際に助成金を申請する際は、上記のように項目や注意点に気を付けながら作成していきます。
労働条件通知書と雇用契約書に記載する項目は、どの助成金も同じです。
まとめ
助成金に必要な労働条件通知書と雇用契約書について解説してきました。
助成金は国からお金を貰うことなので、近年はさらに審査や罰が厳しくなっており、労働や書類の管理ができていないと助成金を受け取ることができません。
労働条件通知書と雇用契約書は、事業者・会社と従業員との労働契約を交わした証明書になります。
助成金を申請する時以外でも、今後起きるかもしれない万が一の時にも役に立つため、まだ作成していない人は直ちに作成しましょう。
本記事で解説した必要事項やポイントを参考にしていただければ幸いです。