助成金をご存知でしょうか?
助成金という言葉は聞いたことはあるという事業主さんは多いと思いますが、実際に助成金をもらっている経営者さんはあまり多くありません。
助成金とはどのようなものなのでしょうか?
助成金としていくらもらえるのか、利用できる助成金にどんな助成金があるのかなど,
詳しく紹介します。
INDEX
雇用保険と助成金とは?
助成金とは簡単に言うと、雇用保険に加入している事業主さんが一定の要件を満たすことでもらえるお金のことです。
厚生労働省が管掌しており、事業主さんが納付する雇用保険料で賄われています。
納めている雇用保険料が原資になっているので、雇用保険に加入している事業主さんは、要件を満たしていれば、もらわないと損です。
ちなみに雇用保険は次のような従業員さんを雇用した場合に加入しなければなりません。
雇用保険の加入要件
・31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること。
・1週間の所定労働時間が20時間以上であること。
上記のようなスタッフさんを雇用する事業主さんは多いですよね。
多くの事業主さんが、雇用保険を適用し、スタッフさんが加入しておりますので、助成金をもらう第一ステップを満たしているのです。
ポイントとしては、事業主が納めている雇用保険料が財源ななので、助成金をもらったほううがお得という事になります。
助成金は、要件さえ満たせば返済義務はない
この助成金には2つの特徴があります。
まず、1つ目の特徴として、助成金は要件を満たしさせすれば、タダでもらえることが挙げられます。
融資であれば、返済しなければなりませんが、助成金は返済の必要がありません。 また、経済産業省が管掌する創業補助金やものづくり補助金などは、要件を満たしても、必ず採択されるものではありません。
しかし、厚生労働省の管掌する助成金は、要件を満たしている限り、原則としてもらえるものです。
助成金と補助金の違い
助成金は、厚生労働省が管轄 補助金は、経済産業省が管轄 助成金は、要件満たせば必ずもらえる 補助金は、要件満たしても、審査に通らなければもらえない
助成金を受ける事は、会社の信用に繋がる
第2の特徴として、間接的に会社の信用につながる、ということが挙げられます。
前述の通り、助成金は雇用保険に加入していて(これから加入もOK)、一定の要件を満たした場合にもらえるものです。
雇用保険料を原資にしていてタダでもらえるものですから、労働関係法令に違反していないことなどが要請されます。
逆に言えば、助成金をもらえるということは、ある種、厚生労働省にみとめられた事業主であると言えるのです。
助成金をもらえたことで、間接的に会社の労働環境が良いことがわかります。
場合によっては融資などでも有利になるかもしれません。
助成金をもらうための要件とは?
事業主には大変メリットのある助成金です。
では、このような助成金をもらうためには、どのような要件があるのでしょうか?
助成金は沢山あり、助成金毎に要件があるのですが、どの助成金についても共通した要件があります。
この共通した要件は厚生労働省から公表されています。 それでは共通の要件を見ていきましょう。
(1)雇用保険の適用事業所であること
助成金は、雇用保険料から賄われています。
ですので、雇用保険が適用されていて雇用保険料を納付している事業主にあげたいということです。
(2)不正受給をしていないこと、不正受給をしてから3年経過していること
公的なお金をタダでもらえるのですから、当たり前の要件ですね。
不正受給は助成金がもらえないだけでなく、悪質な場合刑事罰もあるので、絶対にしてはいけませんが、不正受給をしてしまった場合でも3年経過した場合、新たに助成金を申請することができます。
(3)支給のための審査に協力すること
助成金を受給するには申請書に様々な資料を添付し、制度を導入したり、正規登用したりしますが、これらが適正に実施されているかを審査します。
この審査に協力してくださいということです。
(4)過去1年間に労働保険料の滞納がないこと
助成金の原資である雇用保険料(≒労働保険料)を滞納しているともらえません。
滞納分を支払ってからの申請となります。
(5)風俗営業等関係事業主でないこと
これは、風俗やキャバクラ等の事業関係者ではないと審査が通りません。
(6)反社会的勢力でないこと
暴力談関係等はNGです。
公的なお金を使うので、当然です。
こうしてみていくと、当たり前のような要件です。
その他に、助成金ごとに見ていくと、「就業規則に規定が盛り込まれていること」「社会保険が適用されていて、対象者が加入していること」などの要件があるものもあります。
このあたりについては、各助成金中で説明していきます。
簡潔に言えば、労働環境を整えていくことで、助成金の要件を満たすようになるといったイメージですね。
キャリアアップ助成金とは?
キャリアアップ助成金は、非正規雇用の従業員を事業主が、正規登用(正規雇用への転換)、人材育成、処遇改善などの取り組みを実施した場合にもらえる助成金です。
助成金の中でも最ももらいやすいものの1つです。 このキャリアアップ助成金は、次のコースに分かれています。
キャリアアップ助成金のコース
(1)正規雇用等転換コース
(2)多様な正社員コース
(3)人材育成コース
(4)処遇改善コース
(5)健康管理コース
(6)短時間労働者の週所定労働時間延長コース
コースの詳細か個別にみていきますが、簡単に説明しますと、次のような場合にもらえる助成金です。
簡潔にいうと、有期雇用契約の従業員のキャリアアップにつながる措置をした事業主がもらえる助成金ですね。
特に正規雇用等転換コースの利用が多く、他コースと併用する事業主も多い助成金です。
【正社員化コース】有期雇用社員や派遣社員を正社員へと転換する助成金
非正規労働者である有期契約労働者を、正規雇用労働者に転換または直接雇用するなど、正社員化の取り組みは、キャリアアップ助成金(正社員化コース)の対象となります。
【支給対象】
キャリアアップ助成金の支給対象となる事業主
【中小企業に対する支給額】
中小企業が、有期契約労働者等を正規雇用労働者等に転換または直接雇用した場合キャリアップ助成金が支払われます。
1事業所の1年度あたりの申請上限人数は(1)~(3)合わせて20人です。
【正社員化された労働者1人あたりの支給額】
※< >内は「生産性要件」を満たしている場合
支給対象者 支給額(大企業は下記額の75%支給)
(1)有期雇用労働者 → 正規雇用労働者 57万円 <72万円>
(2)有期雇用労働者 → 無期雇用労働者 28万5,000円 <36万円>
(3)無期雇用労働者 → 正規雇用労働者 28万5,000円 <36万円>
【助成金が加算されるケースと加算額】 ※< >内は「生産性要件」を満たしている場合
上記(1)~(3)のパターン毎に、支給額が異なります。
支給対象者 支給額(大企業は下記額の75%支給)
■派遣労働者を派遣先で正規雇用労働者 or 正社員として直接雇用した場合
(1)(3)28万5,000円 <36万円>
■母子家庭の母等 or 父子家庭の父を転換等した場合
(1)95,000円<12万円>、(2)(3)47,500円<60,000円>
■若者雇用促進法に基づく認定事業主が35歳未満の者を転換等した場合
(1)95,000円<12万円>、(2)(3)47,500円<60,000円>
■勤務地・職務限定正社員制度を新たに規定し、転換または直接雇用した場合 (1)(3)95,000円<12万円>
有期契約の従業員の定義
(1)勤続3年未満であり、通算して6か月以上雇用された有期契約の従業員
(2)事業主が実施した有期実習型訓練※を受講し、終了した従業員
(3)同一の業務について6か月以上継続して労働者派遣を受け入れている派遣先の事業所に派遣されている派遣労働者
※有期実習型訓練については「キャリアアップ助成金 人材育成コースとは?」で説明します。
いずれも「6か月以上」という点がポイントです。
それでは要件はどうでしょうか。このコースでは、次のような要件があります。
まず、就業規則などに転換に関する条項を規定しなければなりません。
規定すべき内容は厚生労働省から参考例が公表されています。
就業規則または労働協約とされていますが、せっかくですから就業規則を作成したほうが、労働トラブル防止等の会社のメリットが大きいと思います。
転換後に6か月雇用することが要件となっていますから、採用時からみると1年かかります。
そしてネックの1つとなるのが、賃金台帳とタイムカード等の勤怠記録の整備です。
助成金の受給申請時に、これらを添付しなければならないのですが、労働法令に照らして未払いの残業代がないか?も確認されます。
給与は労働時間1分単位で計算しなければならず、タイムカードで勤怠を記録し、毎日15分を切り捨てして計算している場合、未払いとみなされ、未払い分を払ったあとでないと助成金がもらえません。
とは言え、有期契約で勤務態度や成績を見てから正規登用する経営者さんは多く、助成金の中でも最ももらいやすいものの1つです。
それでは、最後に、このコースの流れを見ていきましょう。
<受給までの主な流れ>
①有期雇用契約の従業員を採用。
↓
②就業規則等を整備。
↓
③転換の1ヶ月以上前に計画の届出
↓
④無期・正規へ転換し、6か月給与を支給する。
↓
⑤6か月経過後2ヶ月以内に受給申請
↓
⑥助成金受給
転換の1ヶ月前に計画を届出する点がポイントです。
転換してからでは受給できませんのでご注意ください。
キャリアアップ助成金 人材育成コースとは?
キャリアアップ助成金の人材育成コースは、有期契約の従業員に、一般職業訓練・有期実習型訓練・中長期的キャリア形成訓練・育児休業中訓練のいずれかを実施した場合にもらえるコースです。
このコースの金額は、次の通りです。
金額は、(1)賃金に関する助成と(2)経費に関する助成の2種類です。
(1)賃金に関する助成
①O-JTの場合 1人1時間あたり800円(500円)
②OFF-JTの場合 1人1時間あたり800円(700円)
賃金助成はその訓練を受けた従業員の一部給与を助成する主旨のものです。
(2)経費に関する助成(OFF-JT)
経費助成は、会社が経費を負担して、外部訓練を受講させた場合に関する経費の助成です。
※( )内は大企業の場合の金額です。
※経費助成は、事業主が負担した実費が上記を下回る場合は実費(受講料や講師謝金等)が限度額となります。
いずれも、正規雇用等転換コースと同様に有期雇用契約の従業員が対象となります。
なお、マナー的な訓練や、趣味・教養と区別のつかない訓練などは対象外となります。
次にそれぞれの訓練の定義を見ていきましょう。
一般職業訓練とは?
OFF-JTであって、次の①から④のすべてに該当する職業訓練であること
①1コース当たり1年以内の実施期間であること
②1コース当たり20時間以上の訓練時間数であること
③通信制の職業訓練(スクーリングがあるものを除く)でないこと
④訓練実施事業主以外が設置する施設に依頼して行われる訓練(講師の派遣も含む)であり、特定の施設に委託して行う事業外訓練等であること
有期実習訓練とは?
OFF-JTとO-JTを組み合わせる職業訓練で、正社員経験が少ない従業員を対象として、正規雇用への転換を目指し、基準を満たした職業訓練であること
【主な基準】
①企業でのOJTと教育訓練機関などで行われるOff-JTを効果的に組み合わせて実施する訓練であること
②実施期間が3か月以上6か月以下であること
③訓練時間が6か月当たりの時間数に換算して425時間以上であること
④総訓練時間に占めるO‐JTの割合が1割以上9割以下であること
⑤訓練修了後にジョブ・カードにより職業能力の評価を実施すること
このコースでは、訓練基準に適合するカリキュラム内容であるか、事前に確認しておいたほうが安心です。
キャリアコンサルタントにジョブカードを作ってもらう必要があります。
中長期的キャリア形成訓練とは?
Off-JTであって、従業員の中長期的なキャリア形成に資する専門的かつ実践的な教育訓練として厚生労働大臣が指定する専門実践教育訓練
※専門実習教育訓練は、「●●士」などとつくものが多く、厚生労働省から公表されています。
育児休業中訓練とは?
OFF-JTであって、通学制か通信制(スクーリングがあるものを含む)の訓練で、次の①から④を満たした訓練を言います。
①対象労働者が育児休業期間中に受講を開始するものであること
②1コース当たり1年以内の実施期間であること
③1コース当たり20時間以上の訓練時間数であること
④訓練実施事業主以外が設置する施設に依頼して行われる訓練(講師の派遣も含む)であり、特定の施設に委託して行う事業外訓練等であること
上記の要件を見てみると、いずれも最低でも訓練時間が20時間以上であることが必要ですね。
それでは、このコースの流れを見ていきましょう。
受給までの主な流れ
(1)訓練開始の1ヶ月前までに計画等を届出
↓
(2)計画認定後、訓練開始(有期実習型の場合、事前にキャリアコンサルティングの実施)
↓
(3)訓練終了後、2ヶ月以内に受給申請
↓
(4)助成金受給
この助成金は、例えば、フランチャイズ加盟して本部の訓練を受ける場合などに効果的な助成金ですね。
まとめ
助成金は、政府がよりよい雇用を創出するために実施している施策のひとつです。
この仕組みを上手に活用することで、企業も労働者もよりよい結果を出しやすくなります。
ただし、内容や手続きに変更がある可能性がありますので、必ず最新の情報を、厚生労働省、労働基準監督署、ハローワークなどで入手するようにしましょう。
また、助成金に関しては、社会保険労務士に申請を依頼することができます。
手続きに不安がある場合などは、社会保険労務士会やインターネットを通じて、助成金申請に対応している社会保険労務士を探すこともひとつの手段であると言えるでしょう。