補助金の資金調達により、事業で利用する機器や施設を購入できればとても助かりますが、もしも事業が廃止や中断となったり、機器が不要になったりしたら、売却を考える方は少なくないのではないでしょうか?
しかし、補助金の補助対象となる物を事業者が勝手に処分してしまうと、補助金の返還義務が生じてしまう場合がありますので注意が必要です。
このような事にならないように、こちらの記事では返還義務が生じる場合や機器や財産の売却処分を行う時の注意事項を解説していきます。
補助金を返還することにならないように、補助金の対象物の取扱には充分注意を払ってください。
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補助金に返還義務が生じる場合
国や地方自治体では、返済の必要がない補助金や助成金を設けて企業や個人を支援しています。
補助金は税金から賄っている公的なお金ですから、使う時には相応の責任が生じ「知らなかった」で済まされません。
ニュースで報じられているような不正受給によっての返還はもちろんですが、それ以外にも返還義務が生じることもあります。
もしも、処分内容が「認定や交付決定の取り消し」となった場合には、補助額全額の返還となってしまうでしょう。
まずは、補助金の返還義務が生じる場合について、確認しておいてください。
補助対象事業の確定および処分のルール
補助対象事業の確定および処分のルールは、「経済産業局:補助事業における事務手続きについて(一般事項)」により、下記のように定められています。
補助対象と認められた場合でも、その後確定検査での検収ができない時には補助対象としてと認められず、下記のような行為等を行うと処分の対象となりますのでご注意ください。
①事情変更による交付決定の取消し等 (補助金等適正化法第10条)
交付決定後の特別な事情の変更により、補助事業を継続する必要がなくなった場合、行政庁は交付決定を取り消すことがあります。
②義務違反に対する交付決定の取消し (同法第17条)
補助事業者が、補助金等を他の用途へ使用し、その他法令、交付決定の内容・条件に違反したときは、行政庁は交付決定を取り消すことがあります。補助金の額の確定後も同じです。
③補助金返還命令 (同法第18条)
交付決定の取消しに伴い、補助金を返還しなければなりません。
④加算金及び延滞金 (同法第19条)
補助金の返還を命じられたときは、補助金額に加えて、納付の日までの当該利息に相当する加算金を併せて納付しなければなりません。
⑤補助金の不正受給に対する罰則 (同法第29条)
不正の手段により補助金を受給した者は、5年以下の懲役若しくは、100万円以下の罰金に処せられます。
⑥補助金の他の用途への使用に対する罰則 (同法第30条)
事業遂行義務に違反して、補助金を他の用途に使用したものは、3年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金に処せられます。
⑦補助事業遂行上の各種義務に違反した者に対する罰則 (同法第31条)
以下に該当する者は、3万円以下の罰金に処せられます。
・行政庁による事業の一時停止命令に違反した者等。
・ 補助事業の成果報告等をしなかった者等。
・報告徴収命令を履行しなかった者、虚偽報告をした者、立入検査又は質問を拒否したもの、虚偽の答弁をした者等。
⑧両罰規定 (同第法32条)
法人の代表者等が法人の業務に関し、補助金の不正受給、他用途使用等の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、法人についても上記第29条、第30条、第31条に従い処罰されます。
補助事業完了後の取得財産の管理と処分
補助事業が完了した後でも、取得した機器や財産などは管理者によって管理され、補助金交付の目的に従って効果的運用を図ることになります。
特に、取得価格や効用の増加価格が50万円以上である取得財産の管理については、「取得財産等管理台帳」により行い錯誤や失念、不正行為にならないように注意しなければなりません。
また、事業が完了した後であっても、補助対象物件を処分するにあたっては、事前に「取得財産等処分承諾申請書」を事務局に提出し、事務局の承諾を受ける必要があります。
もしも取得財産を処分したことによって収入があった場合には、交付した補助金の全額または一部に相当する金額を納付させることもあります。
財産の処分にあたらない場合
ただし、売却処分をするにあたって下記の場合には処分にあたりません。
◆業務時間外や休日等を利用して、補助の目的である事業の実行に支障を来さない範囲で、一時的に転用する場合。処分を制限されている財産(施設のみ)の一部(施設の延べ床面積がおおむね10%を超えない範囲。ただし、150平方メートルが上限)について、付帯設備の設置を行う場合。その他、転用が極めて軽微であると認められるような場合。
◆補助の目的である事業を実行するために必要と思われるような、処分を制限されている財産の機能を維持すること、回復すること、強化を図るために改造する場合。
◆技術開発の補助金における処分を制限されている財産について、その補助事業の成果の全部や一部を商品化するために必要な技術開発(試作品をもとに需要者の意見等を踏まえて商品化に向けた改良を行う等、本格的に商業ベースでの生産を行う段階に入る直前までの段階を含む)に使用する場合。
補助金の交付決定の対象となった事業の目的を達成するために、必要と認められる関連技術の開発(基礎研究、応用研究、実用化研究等のいかなる段階にあるかを問わない)に使用する場合。
財産を売却処分した際の対応と計算方法
補助金によって取得した財産を補助事業期間の終了後に処分した場合(成果活用型生産転用に該当する場合を除く)で、収入が生じた時には収益納付を提出する必要があります。
納付額の計算方法は、下記の通りとなります。
(計算方法)
E=(A-B)D/C
なお、記号のABCDとは、下記のとおりとなります。
・A:当該財産処分したことにより得た収入、ただし、目的外使用する場合は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年大蔵省令第15号)及び補助事業等により取得し、又は効用の増加した財産の処分制限期間(昭和53年通商産業省告示第360号)に基づき減価償却した後の価格(残存簿価)をもって処分したことにより得た収入とみなす。
・B:補助事業の終了後に加えられた加工費、処分のための撤去費等の費用
・C:当該処分財産に係った補助対象経費…交付規程様式第6の別紙2の決算総表のうち「決算額」から求める。
・D:Cに対する当該補助金の確定額(原則としてCの2/3とする)
・E:全国中央会への納付金額
財産処分が発生する補助金の具体例
機器や財産の売却が発生する補助金には、どのようなものがあるのでしょうか?
具体的には「特定のツールを導入する際の補助金」「設備投資に対しての補助金」「経営を改善する目的に対しての補助金」などがあります。
次に、財産処分が発生する補助金の具体例として、「ものづくり・商業・サービス高度連携促進補助金」と「IT導入補助金」を紹介していきます。
ものづくり・商業・サービス高度連携促進補助金
ものづくり・商業・サービス高度連携促進補助金は、「コネクテッド・インダストリーズ」の取り組みを日本経済を支える中小企業や小規模事業者などに広く普及させ、地域経済への波及効果を高めるために設けられています。
複数の中小企業者や小規模事業者などが生産性向上に役立ち革新的サービス開発、試作品開発、生産プロセスの改善、連携して行う設備投資、幹事企業が主導して取り組む中小企業や小規模事業主による面的な高度連携を支援し推し進めています。
ものづくり・商業・サービス高度連携促進補助金には、「企業間連携型」と「サプライチェーン効果化型」の2つの種型が用意されています
企業間連携型
企業間連携型の対象となるプロジェクトは、複数の中小企業が連携して行う下記のプロジェクトを、最大2年支援します。
◆事業者間でデータ・情報を共有し、連携体全体として新たな付加価値の創造や生産性の向上を図るプロジェクト
◆地域未来投資促進法に基づく地域経済牽引事業計画の承認を受けて、連携して新しい事業を行い、地域経済への波及効果をもたらすプロジェクト
企業間連携型の補助上限と補助率は、下記の通りとなります。
◆補助上限 2,000万円/者
◆補助率
・中小企業 1/2
・小規模企業者・小規模事業者 2/3
サプライチェーン効果化型
サプライチェーン効果化型の対象となるプロジェクトは下記の通りとなります。
◆幹事企業・団体等(大企業含む)が主導し、中小企業等が共通システムを面的に導入し、データ共有・活用によってサプライチェーン全体を効率化する取組等の支援。
サプライチェーン効果型の補助上限額と補助率は下記の通りとなります。
◆補助上限 1,000万円/者
◆補助率
・中小企業 1/2
・小規模企業者・小規模事業者 2/3
なお、大企業が幹事企業になることは認めますが、大企業への補助はありません。
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する際に、経費の一部を補助してくれる補助金です。
「通常枠」と「特別枠」が設けられており、「通常枠」にはA類型とB類型が、「特別枠」にはC類型-1とC類型-2があります。
「特別枠」はコロナウイルス感染症が事業環境に与えた影響への対策と同時に、同感染症の拡大防止に向けて創設されています。
「特別枠」はサプライチェーンの毀損への対応、非対面型ビジネスモデルへの転換、テレ
ワーク環境の整備等)に取り組む事業者によるITツールの導入を優先的に支援しています。
通常枠
IT導入補助金の通常枠の補助金額、補助率、補助対象は下記の表の通りとなります。
通常枠 | 補助金申請額 | 補助率 | ツール要件 | 賃上げ目標 | 補助対象 | |
ソフトウェア費導入関連費等 | ハードウェアレンタル費用 | |||||
A類型 | 30万~150万未満 | 1/2 | ーー | 加点 | ○ | ☓ |
B類型 | 150万~450万以内 | ーー | 必須 | ○ | ☓ |
特別枠
IT導入補助金の特別枠の補助金額、補助率、補助対象は下記の表の通りとなります。
特別枠 | 補助金申請額 | 補助率 | ツール要件 | 賃上げ目標 |
C類型-1 | 30万~150万未満 | 2/3 | 「甲:サプライチェーンの毀損への対応」のみ導入 | 加点 |
150万~450万以内 | 必須 | |||
C類型-2 | 30万~300万未満 | 3/4 | 「乙:非対面型ビジネスモデルへの転換」、「丙:テレワーク環境の設備」のどちらか1つ以上導入 | 加点 |
300万~450万以内 | 必須 |
「特別枠」では、ハードウェアレンタル費用・ソフトウェア費導入関連費ともに補助対象となっています。
まとめ
補助金を利用して機器や財産を取得した場合、その後の売却や処分について、詳しく解説してきました。
補助金にはルールがあり、返還義務が生じる場合、処分のルール、事業完了後の財産管理と処分、財産の処分にあたらない場合、売却した時の計算方法など、様々な決まりが設けられています。
補助金を利用して調達した機器や財産を売却しても処分に当たらない場合もありますが、利益を得たときには収益納付をしなければならない時もありますので、自身の処分がどうなるのかを、事前に確認したうえで売却するようにしてください。
特に50万円以上の取得財産を処分する場合には、事前に「取得財産等処分承諾申請書」を事務局に提出しなくてはならないので、忘れないようにしておきましょう。