重大な被害を及ぼしてしまう農産物の病気や害虫は、農業を営む方にとってつねに頭を悩ましている問題ですが、令和2年においては、かんしょの生産に重大な被害を及ぼすとされる「サツマイモ基腐病」が確認されているのをご存じでしょうか?
「サツマイモ基腐病」は発病したつる(苗)や塊根などで伝染し、激しい雨風やほ場の停滞水によって発病が拡大が助長されてしまうために、しっかりと防除しなければなりません。
国では「サツマイモ基腐病」の次期作への影響を最小限にし、生産向上を行う取り組みを支援する「かんしょ生産性向上緊急支援事業」を設けています。
「サツマイモ基腐病」の防除の取組に対しての補助金となっていますので、「サツマイモ基腐病」でお悩みの方は補助金を資金調達の一つとしてご利用ください。
こちらの記事では、「サツマイモ基腐病」の解説と同時に、かんしょ生産性向上緊急支援事業について、詳しく解説していきます。
サツマイモ基腐病について
栽培作物ではサツマイモのみとなる「サツマイモ基腐病」は、ヒルガオ科植物全般が宿主の苗伝染、土壌伝染性の糸状菌です。
「サツマイモ基腐病」は、2018年に沖縄県、鹿児島県、宮崎県の3県で国内初の新病害として発生が確認され、近年においては、台湾や中国、韓国でも次々と確認されています。
「サツマイモ基腐病」が水の停滞しやすい場所での発病が多く、発病しているつるや塊根(いも)を植えることによって広がっていき、さらには害虫など傷によって菌の侵入が助長されていることも解ってきました。
また、収穫時に症状がなかった塊根であったとしても貯蔵中に腐敗することもあり、病原菌は土壌の中では長く生存できないと言われていますが、土壌中の植物残渣上で冬を越して翌年の伝染源となってしまいます。
主な農作物の症状
「サツマイモ基腐病」になると、地面近くの茎が黒く変色して、茎に近いいも部分が腐敗していきます。
さらに被害が進んでくると、茎の上部、いも部分全体に腐敗部分が大きく広がり、乾燥し固くなり株が枯死してしまいます。
サツマイモつる割病に症状と似ていますが、地面近くの症状が縦に裂けているかが見分け方の目安となります。
かんしょ生産性向上緊急支援事業
かんしょ生産性向上緊急支援事業は、重大な被害を及ぼすことが懸念されている「サツマイモ基腐病」の次期作への影響を最小限にし、生産性向上を行うための取組を支援している助成事業です。
かんしょの重要病害虫である「サツマイモ基腐病」の被害が発生したほ場を有する経営体が行う、当該病害の防除のために必要な経費の一部を補助しています。
応募要件
かんしょ生産性向上緊急支援事業の公募に応募要件は下記の通りとなります。
1.事業実施地区が福岡県、長崎県、熊本県、宮崎県、鹿児島県及び沖縄県の区域内にあって、かつ、サツマイモ基腐病が発生している市町村にあり、かんしょの生産振興の取組を行う次の①~⑦にあげるものとなります。
①生産者の組織する団体(②を除く)
②農業協同組合
③協議会(かんしょの生産振興に係る関係者により組織される団体をいう。)
④農事組合法人(農業協同組合法(昭和22年法律第132号)第72条の8第1項に規定する事業を行う法人をいう。)
⑤農事組合法人以外の農地所有適格法人(農地法(昭和27年法律第229号)第2条第3項に規定する法人をいう。)
⑥特定農業法人及び特定農業団体(農業経営基盤強化促進法(昭和55年法律第65号)第23条第4項に規定する法人及び団体をいう。)
⑦かんしょでん粉製造事業者
⑧かんしょでん粉製造事業者の組織する団体
⑨かんしょ加工品製造事業者
2.本事業の事業実施主体は、事業実施及び会計手続を適正に行い得る体制を有しているものとする。
3.「1.」の①の者が事業実施主体となる場合は、当該事業実施主体は、代表者の定めがあり、かつ組織及び運営について規約の定めがある団体とする。
4. 「1.」の③の者が事業実施主体となる場合は、当該事業実施主体は、農業協同組合、地方公共団体等のかんしょの生産振興に係る関係者により組織される団体であって、代表者、組織及び運営について規約の定めがあるものとする。
5.法人等(個人、法人及び団体をいう。)の役員等(個人である場合はその者、法人である場合は役員又は支店若しくは営業所(常時契約を締結する事務所をいう。)の代表者、団体である場合は代表者、理事等、その他経営に実質的に関与している者をいう。)が暴力団員(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2条第6号に規定する暴力団員をいう。)でないこと。
補助対象事業
かんしょ生産性向上緊急支援事業の事業の対象となる重要病害虫は、令和2年産において発生したサツマイモ基腐病とします。
令和3年産に向けた防除に関する取組の具体的な内容は下記の通りとなります。
①ほ場の残渣処理
・サツマイモ基腐病に感染したほ場における次期作についての当該病害の蔓延リスクを最小限に抑えるため、当該病害に感染したつる、塊根その他の残渣を処理するための処理場所までの輸送費及び処理費。
・処理費には腐熟促進剤の購入を含む。
②ウイルスフリー苗及び健全な種いもの利用
・ウイルスフリー苗(ウイルスフリー苗から増殖された苗を含む)及びサツマイモ基腐病に罹病していない種いもの購入費及び他地域からの輸送費。
・補助の対象となる種いもの購入量は、作付面積10アールに対して80キログラム、価格は、キログラム当たり270円を上限とする。
③苗及び苗床の消毒
健全なかんしょ苗を生産することを目的として、当該苗及び苗床を消毒するために必要な薬剤等の購入費。
④種いも及び苗の罹病検査
次期作に使用する種いも及び苗がサツマイモ基腐病に感染していないことを確認するための検査費用。
⑤トンネル栽培等早期栽培の推進
かんしょの梅雨明け後の栽培期間の短縮を目的に、令和3年2月末日までに植付けを行う早期栽培に必要なトンネル用資材の購入費。
⑥防除用機械の導入
重要病害虫対策を図るために農業機械等を導入又はリース導入する場合に必要な経費。
ア:事業の対象となる農業機械等
(ア)防除用機械
(イ)マルチャー
(ウ)深耕プラウ(概ね60センチメートル以上の反転耕が可能なものに限る。)
(エ)整地用機械(ロータリーを除く。)
(オ)レーザーレベラー
(カ)乗用トラクター
イ:アの(イ)については(ア)と、(エ)については(ウ)と併せて導入するものに限る。
ウ:アの(カ)の導入については、以下に掲げる要件を全て満たす場合に限るものとする。
(ア)専ら、サツマイモ基腐病の防除に係る取組に使用すること。
(イ)アの(ウ)、(エ)又は(オ)をけん引するためのものであり、これらの機械と併せて導入すること。
(ウ)乗用トラクター規格が、導入を予定する機械に対して適切なもの
であること。
⑦被害が著しいほ場への対策サツマイモ基腐病のまん延により、令和2年産の単位面積当たり収量が、サツマイモ基腐病の被害が発生していない直近の年産に比べ、3割以上減少したほ場に使用する以下の資材等に係わる経費について助成する。
なお、本取組の対象となるほ場面積は、次に掲げる計算式により算定するものとする。
・サツマイモ基腐病の被害が発生していない直近の年産(A):経営体ごとのかんしょ総出荷量(全ての用途)をかんしょ総作付面積で除した単位面積当たり収量。
・本年産(B):サツマイモ基腐病が発生したかんしょほ場の総出荷量(全ての用途)を当該ほ場の作付面積で除した単位面積当たり収量。
・対象ほ場面積:1-(B÷A)=0.3以上の経営体のうち、Bを算定した際に用いたほ場の作付面積。
なお、(B)から算出される被害割合は、ほ場ごとに算定することを基本とするが、ほ場ごとの算定が困難な場合については、経営体全体での算定でも可能となります。
ア 土壌消毒
・土壌消毒剤(殺センチュウ剤を除く。)の購入費。
イ 被覆資材の導入
・土壌消毒に使用する被覆資材(生分解性マルチを除く。)の購入費。
ウ 堆肥の散布
・堆肥の購入費及び散布を委託した場合の委託費。
エ 他作物への転換
・著しい被害が出た年産の翌年に被害発生ほ場においてかんしょ以外の作物を栽培し、サツマイモ基腐病菌の密度を低減する取組(かんしょの再作付けを目的とするものに限る。)に要する経費。
オ 輪作の実証
・輪作体系の対象となる他作物の導入実証に追加的に必要な農業機械の導入又はリース導入に係る経費。
・トラクターについては、輪作対象作物の生産に追加的に必要な作業機を牽引する必要がある場合のみ対象とする。
⑧継続栽培の取組
令和2年産においてサツマイモ基腐病の被害が発生したほ場を耕作する農業者が、令和3年産におけるサツマイモ基腐病の対策を行いつつ、令和3年産のかんしょ作付を継続するために要する経費。
補助額
かんしょ生産性向上緊急支援事業の補助率と補助額は、下記の通りとなります。
◆補助率および補助額
・上記の「補助対象事業」の⑦の「エ」および⑧を除き、事業に要した経費の1/2以内
・上記の「補助対象事業」の⑦の「エ」は、かんしょ以外の農作物作付面積10アール当たり30,000円とする。
・上記の「補助対象事業」の⑧は、令和2年産においてサツマイモ基腐病等の被害が発生した
ほ場のうち同年産の単位面積当たり収量が、サツマイモ基腐病の被害が発生していない直近の年産に比べ、3割以上減少したほ場については10アール当たり 20,000 円、3割未満の減少にとまったほ場については10アール当たり 10,000 円とする。
・なお、対象となるほ場面積は、上記の「補助対象事業」の⑦の「エ」における対象ほ場面積と加工業者等と植付前に出荷を契約した面積のいずれか小さい面積とする。
補助対象経費
かんしょ生産性向上緊急支援事業の補助対象経費は、下記の通りとなります。
①事業の実施に直接必要な経費であって本事業の対象として明確に区分できるものであり、かつ証拠書類によって金額等が確認できるものとする。
また、その経理に当たっては、他の事業等の会計と区分して経理を行うものとする。
なお、以下に掲げる取組であって、令和3年産に係るものについては、公募前の取組も対象にできるものとする。
ア:ほ場の残渣処理
業者等に支払った輸送費及び処理費の領収書等の証拠書類が保存されているもの。
イ:ウイルスフリー苗及び健全な種いもの利用
業者等に支払った苗・種いもの購入費及び輸送費に係る領収書等の証拠書類が保存されているもの。
ウ:苗及び苗床の消毒
業者等に支払った消毒するために必要な薬剤等の購入費に係る領収書等の証拠書類が保存されているもの。
エ:種いも及び苗の罹病検査
業者等に支払った検査費用に係る領収書等の証拠書類が保存されているもの。
オ:トンネル栽培等早期栽培の推進
業者等に支払った資材の購入費に係る領収書等の証拠書類が保存されているもの。
カ:被害が著しいほ場への対策のうち土壌消毒、被覆資材の導入及び堆肥の散布業者等に支払った資材の購入費及び堆肥の散布委託費に係る領収書等の証拠書類が保存されているもの。
②上記の「補助対象事業」の⑥及び⑦のオについては、導入の場合は購入価格、リース導入の場合はリース物件価格とする。
なお、購入契約及びリース契約は、事業費の低減を図るため一般競争入札等によるものとし、次に掲げる要件を全て満たすものとする。
ア:承認された事業実施計画に記載された農業機械等に係るものであること。
イ:リース導入の場合は、リース期間が4年以上で法定耐用年数以内であること。
③本事業に係るリース料助成額は、対象となる農業機械等ごとに、次に掲げる算式により計算し、それぞれ千円未満を切り捨てた額のいずれか小さい額の合計とする。
なお、算式中、リース物件価格及び残存価格は消費税を除く額とし、リース期間は事業実施主体が農業機械等を借り受ける日から当該リースの終了予定日までの日数を365で除した数値の小数第3位の数字を四捨五入して小数第2位で表した数値とする。
ア:リース料助成額=リース物件価格×(リース期間/法定耐用年数)×1/2以内
イ:リース料助成額=(リース物件価格-残存価格)×1/2以内
まとめ
「サツマイモ基腐病」の防除の取組に対して支援しているかんしょ生産性向上緊急支援事業の応募要件、補助対象事業、補助額、補助対象経費を紹介するとともに、「サツマイモ基腐病」の解説をしてきました。
「サツマイモ基腐病」は、かんしょの生産に重大な被害を及ぼすことが懸念されています。
国では、かんしょ生産性向上緊急支援事業を設けて、「サツマイモ基腐病」の防除に必要となる経費の一部を補助していますので、被害にあわれた方は積極的にご活用ください。
「サツマイモ基腐病」は翌年の伝染源となりえ病原菌ですので、被害にあわれた方は資金調達として活用できるかんしょ生産性向上緊急支援事業を活用して「サツマイモ基腐病」の根絶に力を入れていきましょう。