
医療法人とは、「病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設しようとする社団又は財団」(医療法39条1項)と規定されています。
近年、医療技術の急速な発達により、日本人の平均寿命は男性は「81.25歳」女性は「87.32歳」となっています。(平成30年度厚生労働省調べ)
日本は現在、超高齢社会の中にいます。
超高齢社会とは、65歳以上の人口の21%を占めている社会を呼び、日本は世界で初めて超高齢社会に突入していることになっています。
高齢者人口が増えるに伴い、医療機関や医療従事者の不足が不安視されるようになっており、特に、医療機関の経営不振や統廃合には注目が集まっています。
国や地方自治体などでは補助金や助成金制度を用意して、医療機関の経営支援や、医療従事者の人材支援を後押ししています。
医療法人の設立は敷居が高く、手続きも複雑です。申請をする時期なども決まっています。
また、自治体ごとに申請窓口が異なっていたり、複数の窓口に同時進行で、手続きの相談や
申請を行う必要が出てきます。
場合によっては専門家の力を借りる必要もあります。
本記事では、医療法人の基礎知識と補助金・助成金の活用について解説していきます。
これから医療法人を設立しようと考えている人や既に医療法人で働いている人、医療法人や補助金、助成金に興味がある人はぜひ参考にされてみてください。
INDEX
医療法人とは?
医療法に規定されている医療法人についてご紹介しましたが、そもそも「法人」とはどんなものをいうのでしょうか。
簡単に説明すると、法人とは、法律上、法人格を認められた団体や組織のことを指します。
組織に人格を持たせることで、経営自体を法人が行うことができるようになります。
医療法人とは病院を経営する人格を認められた組織ということです。
医療法人と個人病院の違い
医療機関を受診すると、医療法人○○会などが病院の看板にある場合と何も表記がない場合があります。
これは個人病院と医療法人の違いの現れとも言えるでしょう。
簡単に違いを説明しましょう。
個人病院は個人事業主(以下、オーナー)として、経営をしている病院です。
医療法人とは、個人病院を法人化したものです。
個人病院を法人化すると、いままで、オーナーが個人事業主として経営していた病院は、法人格を持つことになります。
法人格を持つと病院経営の責任主体はオーナーから、医療法人に移ります。
当然ですが、オーナーと、医療法人の財産も、明確に分けられます。
例えば、オーナー時代の病院の運転資金をそのまま、医療法人に引き継ぐことはできません。
オーナーは個人事業主としてではなく、医療法人に所属する一人のスタッフとして活動することになります。
個人病院から医療法人になることで変わること
個人病院の経営を行う場合、オーナーが、自分の財産で経営を行うということになります。
医療法人になった場合、オーナーであった人は法人に所属する社員となり、経営主体は医療法人となります。
医療法人に財産が帰属するため、個人病院のオーナーのように自分の財産で経営をするのではなく、法人の財産とオーナーであった人の財産は明確に区別されます。
医療法人にするメリット
医療法人にするメリットは下記の3つがあります。
・個人で経営の負債や責任を負う必要がなくなる。
・所得控除を受けることができる。
・節税効果が期待できる
それぞれのメリットについて詳しくお話していきます。
1.個人で経営の負債や責任を負う必要がなくなる。
医療法人という法人が医療機関の開設者となり、個人病院のようにオーナーに病院の財産が帰属することはなく、医療法人に、病院経営に必要な財産が帰属することになります。
法人が経営主体になるので、資金確保がしやすくなることもメリットです。
2.所得控除を受けることができる。
医療法人から診療報酬を支払うことで、給与所得の控除を受けることができます。
家族を役員として法人の理事に加えることで、役員報酬を得ることも可能です。
3.節税効果が期待できる。
個人課税から法人課税に変更しますので、税率がさがり、節税効果が期待できます。
医療法人になったときの2つのデメリット
メリットについて説明しましたが、医療法人にする事によってデメリットも発生してしまいます。
・経営管理の複雑化
・「持ち分のない医療法人」のみしか設立できない
それぞれのデメリットについて見ていきましょう。
1.経営管理の複雑化があげられる
定期的な理事会の開催や、議事録の作成、事業報告など、煩雑な手間が増えてしまいます。
また、社会保険に加入しなければならず、その費用もかさんでしまいます。
2.「持ち分のない医療法人」のみしか設立できない
「持ち分」とは法人を設立する際の出資金のことです。
出資をすると通常の法人であれば、その法人が解散した時に出資金を取り戻すことができます。
しかし、医療法人は解散した時に出資者に持ち分の返還はありません。
これは、医療法人を継ぐ人間がいなければ、解散した時に、法人化した時に用意したお金が戻ってこないことを意味するので、跡継ぎのいない個人病院のオーナーには持ち分の返還 がないことが大きなデメリットとなってます。
医療法人における補助金の意味
医療法人は、非営利団体である必要があります。
非営利団体には2種類あり、営利を目的とせず、かつ公益を目的とする団体と、営利を目的とせず共益を目的とする団体があります。
医療法人は、共益性を持つ団体に分類させます。
営利・非営利とは、団体が事業を通して得た利益を出資者である株主等に分配するか否かを意味しています。
なので、非営利団体が、収益をあげてはいけないということではありません。
医療機関における補助金は、医療法人の安定した経営や、人材の育成、医療サービスの向上や、地域医療の連携などの確保や向上に対して積極的に取り組んでいくために必要であるといえます。
医療機関が利用できる補助金について
厚生労働省が管轄する、医療法人に利用できる補助金があります。
医療施設等施設整備補助というもので、簡単に説明すると病院の設備を新しくしたり、整備をするときに利用できる補助金があります。
設備整備系の補助金は数多くありますので、詳細については厚生労働省のホームページなどでご確認ください。
ここでは、医療機関が利用できる一般的な補助金を2つ紹介します。
1.創業補助金(中小企業庁)
創業補助金は、中小企業庁が管轄する創業者の支援を目的とした補助制度で、起業を考えている人や創業者に幅広く利用されている補助金です。
対象事業者:法人の設立をした者
個人事業主として税務署に開業届を提出した者
補助を実施する自治体で補助制度開始日以降に、創業した人または操業予定の人が対象になります。
要件:①従業員を1名以上採用する予定があること(アルバイトも可)
※従業員の雇用が行われなかった場合は補助金不交付の対象になります。
②認定自治体から創業支援を受けること。
③認定連携創業支援事業者から支援を受けること。(これから受ける予定でも可)
公募期間:不定期(自治体により募集されている時期が異なるので、確認をしましょう。)
補助率:1/2
上限額 金融機関から融資がある場合 50万円以上200万円以内
金融機関から融資がない場合 50万円以上100万円以内
2.IT導入補助金 (経済産業省)
ITツール導入を導入することができる補助金で、業務改善による「労働生産性の向上」を目的にしています。
電子カルテの導入や普及、それらと連携したシステムの構築によって医療従事者の就業環境の改善を図ることがねらいです。
病院での活用例としては
・顧客情報の管理と電子カルテの連携・自動化
・レセプト業務と会計システムの連携・自動化
・検査機器と電子カルテのシステム連携
ITツールの導入と活用で経営を効率化するための補助金となっています。
対象事業者:中小企業・小規模事業者、医療法人・福祉法人・学校法人など(従業 員300人以下)
公募期間:例年で上四半期頃
補助率: 1/2
上限額:40万円~450万円まで
補助金を利用する場合の注意点
補助金とは国の政策において様々なジャンルで用意されている事業者支援のためのお金です。
国や地方自治体ではの多数の補助金を取り扱っています。
補助金を受給するには、国や地方自治体に対して、書類やインターネットで申請手続きを行う必要があります。
補助を受けることができる事業の範囲は、その事業の全部または一部の費用です。
補助金申請をしたからといって、すべての事業費用が補助金により受給できるわけではありません。補助率や給付の上限額なども存在します。
事業の範囲のどの部分にどのような補助金制度が活用できるか検討が必要です。
国や地方自治体は専用ホームページなどを用意しているのでしっかりと募集要項を確認しましょう。
まとめ
医療法人を設立すると、大きな節税効果が期待でき、法人としての信用も得ることができます。
個人病院が医療法人になることで、法人格をもった医療法人において、適正な財務管理をすることができるようになります。
オーナーの財産と医療法人の財産を明確に分けることで、個人の収入と、病院経営の収益を分けて、より適正な財務管理や病院経営が可能になります。
法人化による社会的信用の向上も見込まれるため、個人病院のときよりも、金融機関の融資が受けやすくなったり、医療設備の充実させたり、より高度な技術を持った人材の登用などを図ることができます。
また、医療法人を設立することで、分院の開設が可能になり、老人ホームや介護施設の開業も視野に入れることができます。
今回は補助金を中心に解説しましたが、補助制度の他にも、厚生労働省が所轄している助成金の制度もあります。
興味のある人は、助成金についても検討されてみても良いでしょう。