晩婚化などの影響で妊娠・出産を希望する年齢が高くなり、不妊の検査・治療を受ける人が増えています。
生殖補助医療の技術は年々進歩を遂げており、その技術を使って実際に生まれてくる子どもの数も増えていますが、加齢とともに妊娠する力は低下し、流産などのリスクも高くなります。
今回は不妊治療に対しての助成金を紹介します。
そもそも不妊とは?
不妊とは下記の内容に適合した際の状態を表します。
・避妊をせず性生活を続けても1年以上妊娠しない場合を「不妊症」と言います。
・晩婚化などの社会的背景から、加齢による卵子・精子の質の低下が不妊の要因としてクローズアップされています。
・不妊の原因はさまざまですが、約半数の夫婦に男性側の問題が存在しています。夫婦一緒に検査や治療に取り組むのが基本です。
・不妊治療には段階的に「タイミング法」「人工授精」「体外受精」「顕微授精」などがあり、不妊原因、体への負担、経済的負担、成功率などさまざまな角度から総合的に考え、原因に応じた治療法を選択します。
晩婚化、意識の変化で不妊治療は増えている
健康な男女が避妊をせず性生活を続け、一定期間を過ぎても妊娠しない場合を「不妊症」と言います。
この期間は年齢によって異なり、諸説あります。
以前は2年が一般的でしたが、晩婚化などの社会的背景から、日本産科婦人科学会は「1年」としています。
女性が妊娠できる年齢は限られているため、特に年齢が高い場合には、より早く検査と治療を始めた方がよいという考え方が広まってきました。
実際に、不妊治療を受ける人は増え、その年齢も年々上がっています。
背景には結婚年齢が上がり、子どもを望む年齢が高齢化していることに加えて、不妊治療が普及して検査や治療に対するハードルが低くなったことも影響していると考えられます。
加齢により卵子も精子も質が低下する
女性の卵巣内にある卵子は新しく作られることはなく、加齢とともに数が減り、質も低下していきます。
個人差はあるものの、生物学的には30歳を超えると自然に妊娠する力は少しずつ低くなり、35歳を過ぎると急激に低下します。
不妊治療の場合も、35歳前後から妊娠率は低下し、流産率が増加します。
つまり、「年齢が高くなると妊娠しにくくなるから不妊治療」ではなく、「年齢が高くなると不妊治療をしても授かりにくい」ということです。男性も同様で、女性ほどではありませんが、加齢とともに精子の質や精巣機能が徐々に低下します。
子どもを望むなら、不妊治療もできるだけ若い時期に始めることが重要なのです。
過去に妊娠をしたから不妊症ではないと思っている人もいますが、時間の経過とともに卵子や精子の質が低下したり、妊娠の妨げになるさまざまな合併症を併発したりするなど、不妊治療が必要となる可能性もあります。
そのときそのときで“今の状態”を知ることが大切です。
不妊治療は夫婦一緒に
不妊の原因はさまざまです。男性側の主な原因は、精子の数や運動率が少ない(造精機能障害)、勃起や射精に支障がある(性機能障害)などです。
まれに、精巣内では精子が作られているのに精液中に出てこない「閉塞性無精子症」も見られます。
女性側の不妊原因には、以下のようなものがあります。
・排卵因子
卵子を順調に発育して排卵する卵巣機能に問題がある
・卵管因子
クラミジア感染症などにより卵子が精子と出合う卵管が詰まったり、子宮内膜症などで卵
管周囲に癒着が起き、卵管が狭くなったり閉塞したりする
・子宮因子
子宮筋腫や子宮内膜ポリープなどにより、子宮内膣の変化が原因で受精卵が着床しにくく
なる
・頸管けいかん因子
子宮の入り口の粘液量が少なくなると射精された精子が卵子にたどり着きにくくなる
・免疫因子
何らかの免疫異常で精子の通過や受精を妨げることがある
子宮内膜症、甲状腺の機能異常などの病気も不妊の原因になります。
約10%の割合で原因不明のものも存在します。
女性の方が項目は多いですが、男性単独または男女両方に原因がある場合を含めて男性に何らかの原因がある可能性は48%と、原因の男女比はほぼ半々です。
若いうちから何年も不妊治療に取り組んでいても、妻だけが長い間検査や治療に取り組んだ後で、夫の検査をして原因が見つかったときには、妻は年齢的に妊娠しづらくなっていたということもあります。
男性の検査も先送りにせず、不妊治療は夫婦一緒に取り組むのが基本です。
不妊治療の種類と手順について
原因に応じて、負担の少ない方法から不妊治療を開始します。
一定期間治療しても妊娠しない場合は、次のように順を追ってステップアップして行われることがほとんどです。
夫婦の年齢や諸条件によってそのタイミングは異なります。
【第1段階】一般不妊治療
・タイミング法
妊娠しやすいと言われる排卵日の2日前から排卵日までに性交のタイミングを合わせる方法。
6回以上で妊娠しなければ、その後の妊娠率は停滞するため目安は6回。
・人工授精(2万〜3万円※)
採取した精液中から動きのよい精子(運動良好精子)を取り出して濃縮し、妊娠しやすいタイミングで子宮内に直接注入する方法。
妊娠成立のプロセスは自然妊娠と同じ。人工授精で妊娠する確率は1回あたり約10%です。
なお、一般不妊治療には、排卵誘発薬(内服薬、注射)で卵巣を刺激して、排卵を起こさせる薬物療法、子宮内膜症などに対する外科療法も含まれます。
【第2段階】高度生殖医療(ART:Assisted Reproductive Technology)
卵巣から卵子を取り出し(採卵)、体外で精子と受精させて数日後に受精卵を子宮に戻す(胚移植)。
受精の方法は以下の2つがあります。
・体外受精(30万〜60万円※)
卵子と精子を同じ培養液の中で培養して受精させ、得られた受精卵を子宮に戻す方法。
・顕微授精(30万〜60万円※)
動きがよく形の正常な1個の精子を卵子の中に細い針で注入する方法で、卵細胞質内精子注入法(ICSI:Intracytoplasmic sperm injection)が一般的です。
受精障害や重症精子減少症、重症精子無力症など体外受精では受精が起こらない可能性が高い場合に実施します。
高度生殖医療で子どもが生まれる確率は総治療あたり平均で11.7%です。
年齢によって異なり、32歳くらいまでは約20%ですが、年齢とともに下降し、40歳を過ぎると7〜8%となります。
治療の選択はケース・バイ・ケース
どの治療方法がふさわしいのかは、ケース・バイ・ケースです。
排卵誘発法もいくつか種類があり、刺激が強くなれば1回に採れる卵子の数は増えますが、その分、体への負担は大きく、費用もかかります。
高度生殖医療には、移植の方法に受精後の胚をそのまま移植する「新鮮胚移植」と採卵して受精した後に胚に育ったものを凍結して保存しておき、のちに解凍(融解)して子宮に移植する「凍結胚移植」があります。
原則として子宮に戻す受精卵は1つだけですので、複数の受精卵が採れた場合、残りは凍結しておけば次の周期は解凍して子宮に戻すだけとなり、採卵の負担がかからず費用も抑えられます。
どんな治療を選択し、どこまで行うのかは、夫婦で話し合い、決断します。
卵巣機能による選択もあれば、精子の状態によっても異なります。
例えば精子の数が少ないといっても、その程度は人によりさまざまで、その日の状態によっても変わるので、体外受精を予定していても当日検査をしてみたら顕微授精が必要という場合もあります。
場合によっては男性の精巣から直接精子を採取する治療(精巣内精子採取術)などが必要になることがあり、そうした外科的治療に対応していない施設では、男性が他施設で摂取して凍結した精子を女性の治療施設に移送するといった手順も必要になります。
施設ごとに得意とする治療方法や方針も異なるので、通院しやすく自分に合う治療ができる医療機関選びも重要になります。
体外受精などの生殖補助医療を行っている医療機関は日本産科婦人科学会のウェブサイトで検索することができます。
体への負担や通院回数は女性側に多くなりますが、夫婦二人の問題として向き合い、体への負担、経済的負担、成功率などさまざまな角度から総合的に考えることが大切です。
なお、体外受精と顕微授精を対象に、最大15万円(所得制限、年齢制限あり)の公費助成が受けられる制度もあります。
厚生労働省のウェブサイトなどを参考にするとよいでしょう。
東京都特定不妊治療費助成の概要
東京都は、高額の治療費がかかる特定不妊治療について、経済的負担の軽減を図るため、医療保険が適用されない治療費の全部又は一部を助成しています。
助成の対象となる治療は、体外受精及び顕微授精です。
助成額
治療1回につき、以下の助成額上限まで助成します。
(初めて助成を受ける場合、上限額額はカッコ内の額)
治療ステージA 20万円(30万円)
治療ステージB 25万円(30万円)
治療ステージC・F 7.5万円
治療ステージD・E 15万円(30万円)
初回の助成上限額拡大(30万円)についての注意点
複数回の治療を受けた場合、「治療終了日」の早い順番で承認されます。
初回(1回目)として助成を受けた治療よりも前に終了していた治療を、後から承認することはできません。ご注意ください。
「1回の治療」とは、採卵準備のための投薬開始から、体外受精・顕微授精1回に至る治療の過程を指します。
また、以前に行った体外受精・顕微授精により作られた受精胚による凍結胚移植も1回とします。
助成回数
初めてこの助成を受けた時の治療開始日時点で、下記の状態が助成対象です。
■妻の年齢が39歳までの夫婦 通算6回まで
■妻の年齢が40歳以上の夫婦 通算3回まで
ただし、1回の治療期間の初日における妻の年令が43歳以上で開始した治療は全て対象外です。
年齢は特定不妊治療費助成事業受診等証明書(第2号様式)に記載のある治療開始日時点の年齢です。
通算の助成回数は、初回の助成認定時における治療開始時点の年齢で固定されます。
39歳までに初めて助成を受けた場合、40歳を超えても通算回数は6回のままです。
助成を受けた回数が上限に満たない場合でも、妻の年齢が43歳以上で開始した治療は全て助成の対象外となります。
助成回数は、他の自治体(道府県・指定都市・中核市)での助成を含みます。
平成26年4月の制度変更に伴う通算回数のリセットはありません。過去の助成回数を全て合算します。
男性不妊治療(精巣内精子生検採取法等)に係る医療費助成について
特定不妊治療(体外受精及び顕微授精)に至る過程の一環として行われる、精巣内精子生検採取法(TESE)、精巣上体内精子吸引採取法(MESA)、経皮的精巣上体内精子吸引採取法(PESA)、又は精巣内精子吸引採取法(TESA)の費用の一部を助成します。
1.特定不妊治療の治療終了日の属する年度の前年度(4月1日)以降に行われた手術1回につき、15万円を上限に助成します。平成31年4月1日以降に行った手術は、初回の治療に限り助成額が30万円に拡大されました。
2.特定不妊治療費助成の妻の助成上限回数の範囲内で申請できます。
3.指定医療機関又は指定医療機関から紹介等をされた医療機関において手術を受けたことが必要です(指定医療機関の主治医の指示のもとに行われた治療に限ります。)。
4.助成対象費用は、医療保険が適用されない手術代及び精子凍結料です。
5.男性不妊治療単独での助成申請はできません。特定不妊治療費助成の申請と同時に申請することが必要です。
6.特定不妊治療費が助成の対象とならなかった場合は、男性不妊治療についても助成の対象とはなりません。
申請期限
申請期限は、助成対象となる「1回の特定不妊治療が終了した日」の属する年度末(3月31日消印有効)です。
申請期限を過ぎた場合は助成対象となりません。
「1回の特定不妊治療の終了した日」とは、妊娠の確認(妊娠の有無は問いません)の日、
又は医師の判断によりやむを得ず治療を終了した日を指します。
申請日は郵便局の消印日になりますので御注意ください。
<例>令和元年8月6日に治療終了の場合 申請期限=令和2年3月31日(消印有効)
まとめ
今回は、不妊治療の助成金をまとめました。
夫婦間でも負担がかかる問題の不妊治療で助成金を知る事は重要です。
子どもを望むなら、できるだけ早く不妊対策に取り組むことが第一です。
妊娠を望む年齢が高いということは、卵管炎、子宮筋腫、子宮内膜症など不妊につながる婦人科疾患や内科疾患のリスクも高く、いざ不妊治療を始めようと思っても、そうした疾患の治療が優先されることがあります。
遠回りとならないよう、定期的な検査を受け病気を予防しましょう。また、喫煙は卵巣機能低下を早め、骨盤内の血流を悪くします。
これは卵巣機能や子宮環境に悪影響を及ぼす可能性もあります。
日ごろから生活習慣全般について体内リズムが狂わないような規則正しい生活を送る、禁煙するなど、子どもが欲しいと思ったときに安心して産めるよう、全身の健康管理も大切です。
年齢、家庭環境や経済状況、子どもの将来までよく考えたうえで、納得のいく選択をしたいものです。
ぜひ、不妊症のお困りの方は、助成金を視野にいれましょう。