経営が安定したら、社員の定着や社員募集の際のPRにつなげるために、福利厚生の充実に着手する経営者の方は多いでしょう。
福利厚生の中でも育児休暇を推奨する制度の充実は、共働き世帯の多い現代の従業員に対して大きなアピールポイントとなります。
しかも、育児休暇は政府も推進している制度ですから、一定の要件を満たすことで助成金が支給されます。
助成金は数十万円~最大300万円(東京都独自のもの)と、高額です。
育児に関する助成金にはいくつかの種類があり、中にはあまり知られていない助成金もあります。また、会社の規模や、対象となる人数に制限がありますので注意が必要です。
そこで今回は、育児に関する助成金の種類について整理し、「実際にいくらの助成金がもらえるのか?」「助成金申請の注意点」などについて解説します。
INDEX
育児休暇に関する助成金とは?
助成金とは、国や自治体が推し進める政策の実現のための努力などに対する、返済義務のない交付金のことを指します。
助成金に返済義務はありません。
育児休暇に関する助成金の目的
少子化や労働力不足に伴い、子どもを産んだ後も女性が働き続けられるよう設けられたのが育児休暇に関する各種助成金です。
育児休暇に関する助成金の対象
育児休暇の関する各種助成金は中小企業限定のものや、中小企業のほうが大企業よりも条件面で優遇されているものが多いです。
育児休暇に関する助成金のメリット
育児休暇に関する助成金の利用は、従業員・会社・国や自治体すべてにとってメリットがあると言えます。
助成金の交付によって、国や自治体は政策の実現に至ることができ、従業員は育児休暇を取りやすくなります。
会社は従業員が育児休暇を取ることにより一時的に支出が増えますが、助成金によりそのデメリットを抑えることができ、従業員の定着やモチベーションアップ、新規雇用促進につながり長期的にみるとプラスになることが期待できます。
育児に関する助成金の種類
育児に関する助成金には、国(厚生労働省)の管轄するものと、各自治体の管轄するものがあります。
今回は厚生労働省管轄の助成金と、東京都管轄の助成金(2018年度現在)をご紹介します。
育児休暇を取りたい男性社員がいる会社向け
両立支援等助成金にはいくつかのコースがあり、出生時両立支援コースでは、男性が育児休業を取得しやすくすることを狙いとしており、イクメン助成金などとも呼ばれています。
男性社員が育児休暇をとることは、実際はとてもハードルが高いものです。特に重要なポジションにいるメンバーだと、一人欠けるだけで売上が下がったり、それを補うために他社員の負担が大きくなったりします。
助成金を活用することで、男性従業員の育児休暇導入による金額的な負担を軽くできます。
両立支援等助成金(出生時両立支援コース)
両立支援等助成金とは、仕事と家庭生活の両立や女性の活躍推進に取り組む事業主を、国が応援する制度でほとんどの会社が利用できます。
出生時両立支援コースの支給額は、会社の規模や取得した育児休業期間によって異なります。
<1人目の支給額>
上記の支給額は育児休暇取得者が初めて生じた場合のみ適用されます。
はじめて男性社員に育児休暇を取らせる場合は、5日間の休みだけでも57万円、一定の要件を満たしていれば『72万円』支給されるのです。
<2人目以降の支給額>
出生時両立支援コースの支給要件
出生時両立支援コースの主な支給要件には以下のようなものがあります。
・男性社員が育児休暇を取りやすい職場づくり(管理職による男性社員への育児休業取得の推奨など)
・子の出生後8週間以内に連続して5日間(大企業の場合は14日)以上の育児休業を取得
・育児休暇制度の導入
・一般事業主行動計画(従業員がワークライフバランスの取れた働き方ができるように会社が立てる計画)の策定・届出・公表・従業員へ周知するための措置
・雇用保険に加入していること
出産を控えた社員がいる中小企業向け
従業員から妊娠を報告されたとき、検討したいのが育児休業等支援コースの利用です。
育児休業からの復帰を支援することは会社にとっても従業員にとってもメリットがあります。
さらに助成金を支給されれば、代替要員の確保も容易になり、会社の負担も減るでしょう。
両立支援等助成金(育児休業等支援コース)
両立支援等助成金の中でも、育児休業等支援コースは中小企業のみが対象です。
「育休取得」「職場復帰」「代替要員確保」「職場復帰後支援」の4種類の支援が受けられます。
育児休業等支援コースの支給額
①育休取得時
28.5万円『36万円』
②職場復帰時
28.5万円『36万円』
③代替要員確保時
支給労働者1人当たり47.5万円『60万円』
④職場復帰後支援
育児休業等支援コースの支給要件
①育休取得時
・「育休復帰支援プラン」の作成
・「育休復帰支援プラン」に基づいた引継ぎの実施
・3カ月以上の育児休業の取得
・育休取得者と人事担当者(または上司)の面談とその記録
②職場復帰時
・「育休復帰支援プラン」に基づいた、育休期間中における職場の情報提供
・育休復帰前・復帰後の人事担当者(または上司)との面談とその記録
・原職等への復帰と、6カ月以上の継続雇用
③代替要員確保時
・原職等へ復帰させる旨の就業規則等への規定
・3カ月以上の育児休業取得と、その期間中の代替要員を新たに確保すること
・原職等への復帰と、6カ月以上の継続雇用
④職場復帰後支援
・育休からの復帰後の仕事と育児の両立のため、育児・介護休業法に定められているものを上回る「子の看護休暇制度」または「保育サービス費用補助制度」を導入
・1カ月以上の育児休業から復帰したあと、6カ月以内に上記制度の一定の利用実績があること
妊娠・出産・育児を理由に退職した従業員がいる会社向け
妊娠、出産、育児、介護を理由に退職した元従業員が復職を望んでいる場合に利用を検討したいのが再雇用者評価処遇コースです。
両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)
復職後に適切な配置や処遇をすることにより、元従業員の復職を促し、助成金の交付も受けられます。
再雇用者評価処遇コースの支給額
<1人目の支給額>
<2~5人目の支給額>
再雇用者評価処遇コースの支給要件
再雇用者評価処遇コースの主な支給要件は次のとおりです。
・妊娠・出産・育児・介護を理由とした退職者につき、退職前の勤務実績等を評価し、復職後の処遇に反映させることを明記した再雇用制度の導入
・再雇用制度に基づき、離職後1年以上経過している対象者を再雇用・無期雇用者として6カ月以上継続雇用する
「育児休業から復帰予定の都内在住の女性社員」がいる東京都内の中小企業向け
東京都では、1年以上の育休取得を実施し雇用を継続する環境整備を行いたい企業への奨励金があります。
働くパパママ育休取得応援事業(働くママコース)
働くママコースでは、1年以上の育児休業から原職等(もとの職場)に復帰後3カ月以降継続雇用されている都内在住の従業員のいる、東京都内の中小企業が対象です。
働くママコースという名称ですが、男性従業員も対象です。ただし働くパパコースとの併給はできません。
働くママコースの支給額
■奨励金額125万円
ただし、申請は1事業者につき1事業年度に1回のみです。
申請受付期間は平成31年3月29日までで、予算の範囲を超えた場合は受付が終了します。
募集枠は1,000件です。
働くママコースの支給要件
働くママコースでは、次のような取り組みをすることが支給要件となっています。
・育児・介護休業法に定める取り組み(育児休業期間の延長・看護休暇の取得日数上乗せ・時間単位の看護休暇導入・短時間勤務制度利用年数の延長のうちいずれか)を上回る制度を就業規則に定める。
・テレワーク制度を就業規則に定める
・復帰支援の面談や社内情報の定期的な提供
育児休業を取った都内在住の男性社員がいる東京都内の会社向け
東京都ではイクメン支援として新たな助成金を設けたことが話題になりました。
東京都の育休取得応援事業・働くパパコースについてみていきます。
働くパパママ育休取得応援事業(働くパパコース)
働くパパコースの要件はママコースほど厳しくなく、育休を連続15日以上取得し、原職等(もとの職場)に復帰後3カ月以上継続して雇用されている都内在住の男性社員がいる東京都内の会社が対象となっています。
働くパパコースの支給額
■奨励金額最大300万円(連続15日育休取得で25万円、以降15日ごとに25万円加算)
ただしこちらも申請は1事業者につき1事業年度に1回まで・申請受付期間は平成31年3月29日まで・予算の範囲を超えた場合は受付が終了します。
募集規模は50件です。
育児に関する助成金申請の失敗事例・注意点
募集規模に限りのある地方自治体の助成金と違い、国の助成金(両立支援等助成金)は、要件をすべて満たしていれば基本的には支給されます。
しかし、要件を満たしているはずが、不支給となってしまうケースもあります。
よくある失敗事例・注意点をみてみましょう。
雇用保険関係
両立支援等助成金の申請は雇用保険適用事業者でないとできません。
従業員を雇っていれば雇用保険へ加入していると思われますので、問題にはなりにくいのですが、対象の従業員が雇用保険に加入していない場合などは見落としがちですから注意しましょう。
書類の不備
助成金の申請にはさまざまな書類を添付しなければなりません。
申請書・対象の従業員の就労実績がわかる書類・子の出生日が確認できる書類・要件を満たす環境整備を行ったことが証明できる書類など、もれなく準備する必要があります。
申請書への記入もれにも注意しましょう。
申請期間を過ぎてしまった
申請期間を過ぎてしまって申請できなくなるという失敗もあります。書類の準備や環境の整備にてこずってしまい、申請をあきらめるケースもあるようです。
助成金申請の準備は早めに行いましょう。
受給できない事業者とは
両立支援等助成金を受給できない事業者もいます。
労働保険料を納入していなかった事業者や、3年以内に不正受給をした事業主、1年前までに労働関係法令の違反をした事業主、性風俗関連営業を行う事業主、暴力団とかかわりがある・暴力主義的破壊活動を行った(行う恐れのある)団体に属している事業主や役員がいる場合などです。
実態とは異なる書類を作成することにより助成金を受給しようとすると、助成金が不支給になるだけではなく、詐欺罪で刑事告発される恐れもありますから注意しましょう。
まとめ
今回は育児に関する助成金を紹介しました。
男性も育児に積極的に参加することが奨励される時代です。
助成金を上手く利用することで、男女問わず育児休暇を取りやすくし、人材の確保、従業員のモチベーションアップ、ひいては会社の評判アップに役立ててみてはいかがでしょうか。