ベンチャーキャピタル(VC)やコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)からの資金調達を考えている起業家や経営者の方なら「ハンズオン」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
「手を触れる」という意味から、ハンズオンとはベンチャーキャピタルなどが投資先企業にコンサルティングを行ったり、経営に関わるということを指しています。
とはいえ、なるべく自分や周りの起業メンバーのみで経営方針や事業内容についての決定をしてきたいと思う起業家や経営者の方も少なくないでしょう。
そこでこの記事ではハンズオンとはどんなものなのか、ハンズオンの重要性や投資先起業に与える影響、そしてそれを踏まえた上でのベンチャーキャピタルの選び方について説明していきます。
ハンズオンについて
ハンズオンとは、投資先企業の事業や経営にベンチャーキャピタルが積極的に関わっていくことです。
ハンズオン支援を行うベンチャーキャピタルはコンサルティングを行ったり、役員を派遣したり、経営方針や事業内容についての相談や経営への参加、経営陣のモニターなど、企業の経営に関わるものから、提携先や販売先の紹介やアウトソーシング先の紹介、情報提供など様々な面から投資先企業に関わり、成長をサポートします。
ベンチャーキャピタルの中には今まで数多くのベンチャー企業やスタートアップ企業を大きくし、株式上場やM&Aというイグジッドまで導いた実績を持っているところも多く、そんなベンチャーキャピタルの様々なリソースや知識やノウハウを自分の企業の成長のために役立てることが出来るのは企業にとって大きなプラスとなることでしょう。
ちなみに、「ハンズオン」があれば「ハンズオフ」もあります。
具体的な例で例えれば、ミーティングをこまめに行なったり、一緒に営業先を開拓したり、事業の成長や拡大のために必要なことを投資先企業と一緒になって行うのが「ハンズオン」。
そしてその逆で「たまに報告してね。困ったことがあったら相談してね」という感じで事業についてはあくまで投資先企業に任せ、能動的に介入せず見守るスタイルなのが「ハンズオフ」です。
ハンズオンの内容
では、ハンズオン支援を行っているベンチャーキャピタルは具体的にはどのようなことを提供しているのでしょうか。具体的な内容は以下のような6つとなります。
- ファイナンス支援…資金提供や投資家の紹介など
- 戦略策定支援…ベンチャーキャピタルが投資先企業の事業計画書の作製を支援すること
- 人材支援…ベンチャーキャピタルのネットワークを活かした人材の斡旋や外部専門家の紹介
- 公開支援…幹事証券会社や監査法人の選定のアドバイス、公開時の株価形成や式の需給関係の分
- 営業支援…営業戦略立案のサポート、販売チャネルを持つ提携先の紹介
- 精神的支援…ビジネスパートナーとして相談相手になる
ハンズオン支援を行うベンチャーキャピタルはこのように様々な角度から投資先企業のサポートを行なっています。
日本のハンズオンの歴史
日本のハンズオンの歴史はまだまだ浅く、規制上の問題、組織上の問題、そして投資行動の特徴という3つの原因から1990年代半ばまではハンズオフ型が主体となっていました。
では、現在では一体どの程度のベンチャーキャピタルがハンズオンを行っているのでしょうか?実は、現在ではベンチャーキャピタルも確実にハンズオンを重要視しています。
それがわかるのが日本経済新聞社と日経産業消費研究所による2000年度ベンチャーキャピタル調査です。「投資先企業に役員を派遣することがあるか?」という問いに対し、「ある」と解答したベンチャーキャピタルは全体の47%(回答数116社に対し54社)にもなりました。
ChatWorkやAppBank、コロプラ、Design Tshirts Store graniphなど数多くの企業に投資を行ってきた大手ベンチャーキャピタルのジャフコは国内で投資した367社(2001年3月期まで)のうち、44社に取締役を派遣し、150社で取締役会参加のための権利を確保しており、合計すると53%の企業に積極的な経営参加を行っているということになります。
取締役を派遣している投資先企業の数 | |
---|---|
社名(ベンチャーキャピタル) | 社数(投資先企業) |
ジャフコ | 44 |
日本アジア投資 | 31 |
ワールドビューティーテクノロジーベンチャーキャピタル | 25 |
エヌ・アイ・エフベンチャーズ | 24 |
東京中小企業投資育成 | 14 |
エイパックス・グロービス・パートナーズ | 11 |
グローバルベンチャーキャピタル | 10 |
シュローダー・ベンチャーズ | 9 |
日本テクノロジーベンチャーパートナーズ | 9 |
インキュベイトキャピタルパートナーズ | 7 |
ハンズオンの重要性
ハンズオンの重要性については、大手ベンチャーキャピタルのジャフコが実際に53%の投資先企業に対し積極的な経営参加を行っていることからもわかるように、多くのベンチャーキャピタルがその重要性を感じています。
ベンチャーキャピタルは投資先企業を成長させ、イグジッドとして大きな利益を得なければいけないため「投資の成功確率をアップさせるための戦略」「経営者の良き相談相手になる」など、ベンチャーキャピタルによっても考え方やハンズオンの内容ややり方、力を入れているポイントは異なりますが、ベンチャー企業に積極的に関わっていくことでイグジットを目指すことも少なくありません。
日本初のハンズオンVC「グロービス・キャピタル・パートナーズ」
日本初のハンズオンベンチャーキャピタルと言われているのがグロービス・キャピタル・パートナーズ(GLOBIS CAPITAL PARTNERS/GCP)です。
1996年に設立されたグロービス・キャピタル・パートナーズは現在では老舗ベンチャーキャピタルと呼ばれており、投資を行った企業の成長性、そして投資リターンが圧倒的に高いことで知られています。
国内最大級のベンチャーキャピタルであるグロービス・キャピタル・パートナーズは2018年の時点でファンドを5つ持っており、およそ600億円にも上る資産運用を行ってきました。
ワークスアプリケーションズ、グリーなど現在では大きく成長した企業の多くがグロービス・キャピタル・パートナーズからの出資を受けており、150社以上に投資を行ない、うち20%である30社が上場を果たしています。
また、2017年にForbesが発表した1年間のキャピタルゲインが最も多かった人物の順位を表す「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家BEST10」では1位の仮屋薗聡一氏、5位の今野穣氏、7位の東明宏氏とグロービス・キャピタル・パートナーズの投資家が3人もランクイン。仮屋薗聡一氏は日本ベンチャーキャピタル協会の会長でもあります。
ベンチャーキャピタル選びの5つのポイント
以上のことを踏まえ、ここからはベンチャーキャピタルを選ぶ時のポイントについてご説明していきたいと思います。
どんなに良い条件だったとしても、企業の事業内容や経営方針と合わない、担当のキャピタリストとの相性が良くないなど、問題があればいずれそれは高い確率で企業に悪影響を与えることになります。
独立性を保つためにもベンチャーキャピタルは慎重に検討するようにしましょう。
1:自社の状況に合ったVCを選ぶ
ベンチャーキャピタルは駆け出しのベンチャー企業を支援してくれるという、起業家や経営者からしたらありがたい存在ですが、もちろん慈善事業ではありません。ベンチャーキャピタルにはイグジットによってハイリターンを得るという明確な目的があります。
そんなベンチャーキャピタルですが、投資対象となる企業については会社によって異なっています。将来性のあるベンチャー企業やスタートアップ企業なら業種を限定せずに幅広い支援を行っているところもあれば、主にIT企業のベンチャー企業に投資を行っていたり、シード~アーリー期ベンチャー企業など様々です。
ベンチャーキャピタルから出資を受ける際に、重要なのが自社の状況を把握することです。ニーズにマッチするベンチャーキャピタルなのかどうか、色々なベンチャーキャピタルについて情報を集めたり、自社の情報を発信するなどして注目を集めておきましょう。
2:信頼性
ベンチャーキャピタルにも個性があります。ベンチャーキャピタルの中にはとにかく利益優先で、そのためなら事業内容を大幅に変更したり、完全に方向転換することを厭わないということも少なくなく、自分が当初思い描いていた通りの経営が出来なくなってしまったというケースもあります。また、投資と回収のサイクルが早すぎるため長期的な成長支援を見込めないこともあり、新しいベンチャーキャピタルを探す必要が出てきてしまったり、株の売却など様々なリスクが出てきます。
出資を受ける前に、そのベンチャーキャピタルが投資先企業とどのような付き合い方をしているのか、どのような方針で投資を行っているのかなどを知っておけばそのようなリスクを回避することに繋がります。
とにかく資金調達することを最優先にしてしまうと、将来的に「こんなはずじゃなかった」という状況に陥ってしまう可能性もあります。いくつかあるベンチャーキャピタルの中でも最も信頼出来ると感じたところから相談を始めるようにしましょう。
3:VCから求められているものを考える
ベンチャーキャピタルから出資を受ける際に注意すべきなのが経営にどの程度、干渉してくるかということです。つまり「ハンズオン」についてですが、ハンズオン支援をしているベンチャーキャピタルの中でもそのやり方は様々です。
モニタリングを行う程度なのか、経営コンサルティングという形で関わってくるのか、細かい部分まで干渉し実質ベンチャーキャピタルが経営権を握ることになるのか…ベンチャーキャピタルは利益を追求しているため、少なからず経営に干渉してくるということは考えられますが、その程度ややり方についてはベンチャーキャピタルによっても異なります。
経営ノウハウの無い経験の浅い経営者の場合、ベンチャーキャピタルによる干渉がプラスに作用することもありますが、意見が真っ向から対立してしまうという可能性もあります。また、株の発行や譲渡を求められることもあり、これは応じてしまえば将来的に大きな影響が出てしまうことが考えられます。
自主性を重んじるベンチャーキャピタルであるのか、ベンチャーキャピタルは自社に対しどんな事を求めているのかを知ることはベンチャーキャピタル選びにおいてとても重要です。中でも、ベンチャーキャピタルがどのようなイグジットを望んでいるのか、その方法やタイミングについてはよりしっかりと注意しておく必要があるでしょう。
4:複数のVCから出資を受ける
ベンチャーキャピタルにも規模があり、数億円単位での出資を行っている大規模なベンチャーキャピタルもあれば、数百万円単位の出資を行う小規模なベンチャーキャピタルもあります。
そのため、ベンチャーキャピタルの規模によっては目標としていた調達額に届かないというケースもあります。このような場合は複数のVCから小口で少しずつ出資を受けるというのも選択肢の一つです。実際、多くのベンチャー起業がこのように複数のベンチャーキャピタルからの出資を受けています。
これにはメリットもあり、出資者が分散されることで絶対的な権力を持つ1社のベンチャーキャピタルに支配されるという可能性を避けることにも繋がります。
しかし、意見の調整や資金の返済が難しくなってしまったり、意見がまとまらず小回りが効かなくなるなどのデメリットも考えられます。株を発行する場合などには出資を受けているベンチャーキャピタルに同意を求める必要がある場合も多く、違反すれば最悪の場合、違約金を求められてしまうこともあるので十分注意しましょう。
5:キャピタリストとの相性
ベンチャーキャピタルは投資会社ですが、一般的に、ベンチャーキャピタルから支援を受けたあとで実際にやり取りするのはベンチャーキャピタルに属しているキャピタリストという担当者です。
出資を受けた後は、このキャピタリストが企業の経営について直接関わることになります。このキャピタリストとの相性は非常に重要で、相性が悪かった場合、その後の経営にも大きな悪影響を及ぼす可能性が高くなります。逆に言えば、相性が良く尊敬出来る、お互いに刺激し合うことが出来るキャピタリストならそれが相乗効果を生み、経営にもプラスに作用することが考えられます。
中でもシード期やアーリー期のベンチャー企業の場合、ベンチャーキャピタルとは長い付き合いになっていくことが考えられるため、ベンチャーキャピタルを選ぶ際にはキャピタリストとの相性も非常に重要な要素の一つとなります。
まとめ
以上、ハンズオンについて、そしてその重要性についてやベンチャーキャピタル(VC)選びの5つのポイントについてご説明させていただきました。
ベンチャーキャピタルによる出資は銀行からの融資を受けることが出来ない駆け出しのベンチャー企業にとっては非常に重要な資金調達の手段ですが、どのベンチャーキャピタルから出資を受けるのかということは企業の将来にも大きく影響するため、非常に重要です。
くれぐれも慎重に検討するようにしましょう。