現在働いてもらっている派遣社員を正社員に迎え入れたい、と思ったことはありませんか?
厚生労働省が行っている「キャリアアップ助成金」を使えば、派遣社員を直接雇用にすると、助成金がもらえる場合があります。
そこで今回は、派遣社員を直接雇用にするときに使えるキャリアアップ助成金と以下の注意点3つを解説していきます。
①期間制限に違反して労働者派遣を受け入れた場合
②労働者派遣の禁止業務に従事させた場合
③偽装請負の場合
キャリアアップ助成金 正社員化コースとは
キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、派遣社員などの労働者を正社員に転換した場合、助成される制度です。
助成により、従業員のモチベーション向上や、優秀な人材確保などの効果が期待されます。
転換パターン&支給額
下記の⑴~⑶の3パターンに該当すれば、助成金の対象となります。
大きな特徴は、以下の2つです。
「中小企業事業主」に該当すれば、支給額が多くなる。
「生産性向上要件」を満たす場合には、さらに上乗せがある。
というものです。
金額は、1人当たりです。1年度に1事業所当たりの申請上限は20人までとなっています。
転換パターン | 中小企業 | 大企業 |
⑴有期雇用 → 正規社員 | 57万円 <72万円> | 42万7,500円 <54万円> |
⑵有期雇用 → 無期雇用 | 28.5万円 <36万円> | 21万円3,750円 <27万円> |
⑶無期雇用 → 正規社員 | 28.5万円 <36万円> | 21万円3,750円 <27万円> |
< >内は、生産性要件を満たした場合です。
〇中小企業とは
中小企業は中小企業基本法上では「中小企業者」と呼ばれ、業種別に「資本金の額又は出資の総額」と「常時使用する従業員の数」によって定義されています。その定義を表にして見ると、以下のようになります。
業種分類 | 資本金の額又は出資の総額(会社) | 常時使用する従業員の数 |
製造業その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5千万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5千万円以下 | 100人以下 |
生産性要件というのは、「3年前と比較して生産性が6%以上改善している」という場合に当てはまります。
具体的には、「営業利益+人件費+減価償却費+賃借料+租税公課」の合計を雇用保険の被保険者数で割ります。その金額が3年前に比べて、6%以上改善していると助成金の割増の対象になります。
主な支給要件
・ 派遣労働者を正規雇用労働者または多様な正社員として直接雇用する制度を労働協約または就業規則その他これに準じるものに規定している事業主であること。
・ 派遣先の事業所その他派遣就業場所ごとの同一の組織単位において6か月以上の期間継続して労働者派遣を受け入れていた事業主であること(6か月以上の期間継続して派遣就業していた同一の派遣労働者を直接雇用した場合に限ります。)。
・ 直接雇用された労働者に対して直接雇用後6か月分の賃金を支給した事業主であること。
※ 助成金の受給には、事前にキャリアアップ計画の提出が必要です。
手続について
助成金の申請は、 転換後6か月経過したときから、2か月以内に行ってください。
〇提出書類
・支給要件確認申立書、支払方法・受取人住所届
・キャリアアップ計画書(認定を受けていること)
・就業規則等、労働条件通知書等、賃金台帳、雇用契約書等、タイムカード等
・会社の登記事項証明書
・その他、加算する場合に要件を証明する書類(若者雇用促進法の認定、生産性要件を満たしている、など)
派遣社員を直接雇用にするときのポイント
派遣労働者が正社員として採用されるよう事業主はポイントを押さえておいた方がいいでしょう。
派遣社員を直接雇用にするときのポイントの3つを紹介していきます。
派遣期間中に雇用契約の締結をする場合
紹介予定派遣とは、事業主と派遣労働者が派遣終了後に雇用関係の成立を見越したうえでの派遣契約のことをいいます。
通常の派遣が所属している派遣元からの人材として企業で業務を行うのに対し、紹介予定派遣では派遣期間は正社員登用や直接雇用のための試用期間として企業で業務を行います。
つまり、派遣先事業主と派遣社員が雇用契約を締結することを目的とした制度といえます。
この目的をふまえて平成15年の法改正により、派遣契約期間中でも派遣先事業主と派遣社員が雇用契約を締結することが可能となりました。
紹介予定派遣に限っていえば、派遣契約期間中であっても雇用契約の締結は可能といえます。
直接雇用に関しての確認事項
派遣社員を派遣先事業主が雇用する場合は、派遣契約が一般の労働者派遣契約なのか紹介予定派遣なのか、契約内容を確認しておくことが重要です。
一般の派遣労働者の場合は、履歴書の提出や面接は禁止されていますが、派遣先企業への転籍が前提の紹介予定派遣の場合は、派遣社員の履歴書の提出を要求ことや面接を行なうことが可能です。
派遣契約の締結後に直接雇用となった場合の労働条件の明示については、派遣社員本人に直接伝えるのではなく、派遣元事業主を介して行なうようにします。
いずれにしても、派遣者社員に説明する事項は単なる労働条件だけではなく、求められる役割や責任についての説明も十分に行なうことが必要です。
派遣社員からしてみると、雇用形態が変わったとしても就労場所が変わることに違いはありません。
そのため、派遣社員として働くか、正社員として働くかについていての区別がつきにくい、といったことも起こると思います。
しかし、直接雇用する派遣先事業主にしてみると、派遣社員と直接雇用する社員とでは、求める役割や職務、責任や権限が大きく異なります。
お互いに意識の食い違いが発生しないようにしておくこともとても重要です。
各保険と税務関係の手続き
派遣社員が派遣先企業に直接雇用されると、派遣元企業で加入していた社会保険・労働者災害補償保険・雇用保険は派遣先企業で引継ぎで加入することになります。
派遣元企業の源泉徴収票を派遣先企業に提出して年末調整処理に反映させることになります。
つまり、手続きや社会保険、雇用保険、所得税は通常通り中途採用者扱いとなります。
就業場所は同じでも雇用関係は新規スタートとなりますので、有給休暇などの労働条件についても入社日を起算日として考えます。
注意点
派遣労働者は、どのような業務にでも従事させられるわけではありません。次のような派遣労働者を受け入れた場合は、違法派遣として判断されますので、注意が必要です。
①期間制限に違反して労働者派遣を受け入れた場合
〇事業所単位の期間制限同一の派遣先事業所に対し、派遣できる期間は、原則3年が限度となります。延長する場合は、派遣先事業所の過半数労働組合等から意見を聴く必要があります。
〇個人単位の期間制限同一の派遣労働者を、派遣先事業所の同一の組織単位(課、グループ等)に派遣できる期間は、3年が限度となります。
▢抵触日を迎えたときにとれる選択肢は以下の2つです。
・派遣先企業の同じ部署で同じ業務を続けることはできなくなるため、派遣会社から別の派遣先のお仕事を紹介される。
・派遣先企業が抵触日以降も働いてほしいという場合、派遣先企業で直接雇用されます。ただ、この選択肢は、派遣先企業と派遣スタッフ間での同意が必要なため、3年経ったら必ず直雇用されるというわけではありません。
▢.派遣の3年ルールの例外ケース
以下の場合は例外的に期間制限が適用されません。
・派遣元に無期雇用されている場合
・60歳以上である場合
・終期が明確な有期プロジェクトに派遣される場合
・日数限定業務(1ヶ月の勤務日数が、派遣先の通常の労働者の半分以下かつ10日以下)の場合
・産休、育休、介護休業などを取得する人の代わりに派遣される場合
▢同じ派遣先で働くための方法
どうしても同じ派遣先企業で働き続けたいという場合は、部署を異動すれば大丈夫です。 労働者派遣法では、「派遣先の事業所における同一の組織単位で、3年以上働くことができない」と定めているので、部署を異動して同じ派遣先で働くことは問題ありません。
②労働者派遣の禁止業務に従事させた場合
派遣禁止業務(適用除外業務)として、以下の5つが指定されています。
⑴港湾運送業務
港湾運送業務とは、埠頭における貨物の輸送・保管・荷役・荷さばきなど、積卸しを主体とする業務です。
港湾運送業務には、波動性といって需要のピークとオフピークの差が激しく、また循環的に発生する特徴があり、その特殊性から、港湾労働法において港湾労働の実態を踏まえた特別な労働力需給調整制度として「港湾労働者派遣制度」が導入されています。
この制度は1986年の労働者派遣法成立の前からすでに運用されており、新たな労働力需給調整システムの導入は必要がないことから、派遣禁止業務となりました。
⑵建設業務
建設業務とは、建築土木現場における作業のことで、その準備も含みます。
また、建設業務の特殊性を考慮して建設業務有料紹介事業や建設業務労働者就業機会確保事業についても定められています。
⑶.警備業務
警備業務とは、事務所・住宅・興行場・駐車場・遊園地などの施設における事故の発生を警戒し、防止する業務のことです。
警備業法上では請負形態で業務を処理することが求められています。労働者派遣を認めてしまうと、業務が適正に行われなくなってしまう恐れがあるため、派遣禁止業務とされています。
⑷医療関連業務
病院・診療所のほかに、介護医療院への派遣も原則禁止されています。ただし、助産所・介護老人保健施設などでは、薬剤師など一部の業務は派遣可能です。
⑸士業
労働者派遣が禁止されている士業は、以下の通りです。
・弁護士
・税理士
・外国法事務弁護士
・弁理士
・司法書士
・社会保険労務士
・土地家屋調査士
・行政書士
・公認会計士
これらの業務は、資格者個人がそれぞれ業務の委託を受けて行うことから、指揮命令を受けることがありません。
その他にも建築士事務所の管理建築士の業務は、建築士法において専任でなければならないとされているので、労働者派遣の対象になりません。
③偽装請負の場合
偽装請負とは、実態は労働者派遣又は労働者供給であるにも関わらず、業務処理請負や業務処理委託などの名称が用いられる請負契約を偽装して行われるものを言います。
実態は労働者派遣(または労働者供給)ですが、業務処理請負・委託を偽装して行われているもので、以下のようなタイプに分けられます。
⑴労働者派遣タイプ
業者Aが業者Bから業務処理を請け負い、自己の雇用する労働者XをBの事業場に派遣し就労させているが、Xの就労についての指揮命令(労務管理)を行わず、これをBに委ねているものが典型的なものです(労働者派遣タイプ)。
⑵個人請負タイプ
業者Aが業者Bから業務処理を請け負い、その遂行を個人事業主である業者Xに下請けさせて(再委託し)、XがBの事業場でBの指揮命令を受けて業務処理に従事するという個人請負タイプもあります。
業務処理請負・委託が労働者派遣または労働者供給とみなされないための要件を満たさず、違法な労働者派遣または労働者供給とみなされてしまいます。
まとめ
今回は派遣社員を直接雇用にするときに使えるキャリアアップ助成金の正社員化コースと、直接雇用するときに気をつけておかなければならない注意点3つを解説していきました。
厚生労働省は、派遣社員雇用を直接雇用に切り替えられるような制度を積極的に運用しています。
キャリアアップ助成金で派遣社員から直接雇用すると、責任が重くなるというデメリットもある一方で、事業主としても、社員のモチベーションが高くなるなどのメリットがあるので、継続的に契約を予定している派遣社員であれば、直接雇用を検討するほうがおすすめです。