
「従業員の時間給(事業場内最低賃金)を上げたい」「作業効率を良くしたい」「設備を新しくしたい」と思っていても、予算の制約ですぐには出来ない事業場も少なくないのではないでしょうか?
しかし、国が実施している業務改善助成金を活用すれば中小企業・小規模事業者でも可能となります。
ここでは、業務改善助成金の具体的な内容や申請方法の解説と、以下における実際の活用事例3つを紹介していきます。
①ベルトコンベア導入による弁当の盛り付け作業の効率化
②セミセルフPOSレジの導入によるレジ業務の効率化
③新型食器洗浄機の導入による洗浄業務の効率化と光熱・洗剤費用の削減
業務改善助成金とは?
業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援し、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引上げを図るための制度です。
生産性向上のための設備投資やサービスの利用などを行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部を助成します。
過年度に業務改善助成金を受給したことのある事業場も助成対象となるので、繰り返し申請できる点もポイントです。
最低賃金を上げる必要性
最低賃金を上げる理由には、国が平成28年6月2日に閣議決定した「ニッポン一億総括プラン」があります。
現在の日本は少子高齢化が急速に進み、それによって労働人口の低下や生産性の低下などの問題を引き起こしています。
このままでは日本経済が低速してしまう可能性があり、経済の成長のためにはじまった政策です。
三本の矢
政府は「ニッポン一億総括プラン」実現のために「戦後最大のGDP600兆円」「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」という強い大きな目標に掲げ、そこに新しい三本の矢を放ちました。
1.「希望を生み出す強い経済」
イノベーションと働き方改革による生産性の向上と労働力の確保により、サプライサイドを強化するとともに、経済の好循環を回し続け、潜在的な需要を掘り起こして内需を拡大していきます。
地方に眠る可能性を更に開花させる。既存の規制・制度の改革を断行する。あらゆる政策を総動員していくことにより、「戦後最大の名目 GDP600 兆円」の実現を目指します。
2.「夢をつむぐ子育て支援」
一人でも多くの若者たちの、結婚や出産の希望を叶える。
これが「希望出生率 1.8」の目標であり、あくまで一人ひとりの希望であって、結婚したくない人、産みたくない人にまで、国が推奨しようというわけではありません。
安心して子供を産み育てることができる社会を創る。日本の未来、それは子供たちです。
子供たちの誰もが、頑張れば大きな夢をつむいでいくことができる社会を創り上げようということです。
3.「安心につながる社会保障」
介護離職者は年間10万人を超えています。
離職を機に、高齢者と現役世代が共倒れする現実があります。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される今年には、いわゆる団塊の世代が 70 歳を超えると予想されます。
日本の大黒柱、団塊ジュニア世代が大量離職すれば、経済社会は成り立たちません。
安心につながる社会保障は介護をしながら仕事を続けることができる、「介護離職ゼロ」という明確な目標を掲げ、現役世代の「安心」を確保する社会保障制度へと改革を進めてい行こうという試みです。
大きな目標達成のためには、この新しい三本の矢がすべて揃っていないことには意味がありません。
さらに、「成長と分配の好循環を形作っていくためには、新・三本の矢に加えて、三本の矢を貫く横断的課題として働き方改革と生産性向上という重要課題に取り組まなければならない」と示しています。
受給の要件
助成金を受けるにあたっては、以下の要件を満たす必要があります。
・賃金引上計画を策定すること
事業場内最低賃金を一定額以上引き上げる(就業規則等に規定)
・引上げ後の賃金額を支払うこと
・生産性向上に資する機器・設備などを導入することにより業務改善を行い、その費用を支払うこと
(1) 単なる経費削減のための経費
(2) 職場環境を改善するための経費
(3)通常の事業活動に伴う経費
は除きます。
※解雇、賃金引下げ等の不交付事由がないこと など
対象となる「中小企業事業者」の要件
助成金の対象となる中小企業・小規模事業者は、以下に該当する者となっています。
大企業が資本金の2分の1以上を所有しているような、いわゆる「みなし大企業」であっても下記に該当する場合は助成対象となります。
業種 | 資本金額または出資総額 | 常時使用する労働者数 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5000万円以下 | 50人以下 |
上記以外の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
助成額
申請コースごとに下表で定める「引上げ額」以上事業場内最低賃金を引上げた場合、生産性向上、労働能率の増進に資する設備投資などのために要した費用に下表で定める「助成率」を乗じた金額を助成します(千円未満切り捨て)。
なお、生産性向上、労働能率の増進に資する設備投資などのために要した費用に助成率を乗じた金額が下表で定める「助成上限額」を超えた場合には、助成上限額が支給される助成金の額となります。
(*)生産性要件とは
決算を元に、厚生労働省所定の算定シートから算出された労働者1人あたりの付加価値を「生産性」と定義し、業務改善助成金では以下のような「生産性要件」が設けられています。
・生産性が3年度前に比べて6%以上伸びていること
・生産性が3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びている、かつ金融機関から一定の「事業性評価」を得ていること
上記いずれかの生産性要件を満たした場合、助成率割増などの優遇措置を受けることができます。
業務改善助成金のほかにも、たとえば「労働移動支援助成金」「両立支援等助成金」「キャリアアップ助成金」といった助成金においても生産性要件が設定されています。
業務改善助成金申請の流れ
申請書類は厚生労働省の業務改善助成金のページよりダウンロードすることができます。
また、交付要綱、交付要領に詳細が記載されていますので、申請前に必ずよく読むようにしましょう。
業務改善助成金の申請手続きの流れは以下の通りです。なお、平成31年度(令和元年度)分の申請期限は2020年1月31日までとなっています。
⑴助成金交付申請書の提出
業務改善計画(設備投資などの実施計画)と賃金引上計画(事業場内最低賃金の引上計画)を記載した交付申請書を作成し、各地域の労働局に提出します。
⑵助成金交付通知
各地域の労働局において交付申請書の審査が行われ、内容が適正と認められれば助成金の交付決定通知がなされます。
⑶業務改善計画・賃金引上計画の実施
提出した業務改善計画に基づく設備などへの投資、ならびに、賃金引上計画に基づく事業所内最低賃金の引き上げを行いましょう。
設備などへの投資は「⑵助成金交付通知」に行う必要があるので注意しましょう。
⑷事業実績報告書の提出
業務改善計画の実施結果と賃金引き上げ状況を記載した「事業実績報告書」を作成し、各地域の労働局に提出します。
⑸助成金額の確定通知
提出した「事業実績報告書」の審査が行われ、内容が適正と認められれば助成金額が確定し、通知がなされます。
⑹助成金の受け取り
助成金額の確定通知を受けたら労働局へ支払請求書を提出することで、助成金が受け取れます。
業務改善助成金を利用した事例
実際に業務改善助成金を利用した事例を見ていくことで本助成金の要点が見えてくると思います。
ぜひ参考にしてみてください。
①ベルトコンベア導入による弁当の盛り付け作業の効率化
〇企業概要
・従業員数:40人
・事業の種類:食品製造販売業
〇助成金利用前
ベルトコンベア導入前は、配膳台の周りを従業員が移動しながら弁当の盛り付けを行っていたが製造に時間がかかり非効率でした。
〇助成金利用後
ベルトコンベアの導入により、弁当の盛り付け時間が2時間から1時間半に短縮し、さらに、弁当を10%も多く製造することができるようになりました。
弁当の製造時間の短縮、製造数も向上できたので従業員28人の事業場内最低賃金を30円引上げました。さらに、事業場内最低賃金以外の従業員の賃金の引上げもできました。
②セミセルフPOSレジの導入によるレジ業務の効率化
〇企業概要
・従業員数:24人
・事業の種類:生鮮食品小売業
〇助成金利用前
購入代金やお釣りの受け渡しまでのすべてを行っていたため、繁忙時間になるとレジの前には行列ができる状態となっていました。そこでレジ精算業務の効率化をすることにしました。
〇助成金利用後
助成金を利用し、セミセルフPOSレジを導入。商品バーコードの読み取りは従業員が行い、その後の精算を顧客が機械で行うことで精算時間がこれまでよりも短縮し、1.5倍も速くなりました。
また、預り金やお釣りの受け渡しの間違いが無くなりました。
レジ業務の効率化によって生産性が向上し、23人の従業員の時給(事業場内最低賃金)を52円に引き上げることができました。さらに事業場内最低賃金以外の従業員の賃金の引上げもできました。
③新型食器洗浄機の導入による洗浄業務の効率化と光熱・洗剤費用の削減
〇企業概要
・従業員数:61人
・事業の種類:ホテル業
〇助成金利用前
25年前に導入した食器洗浄機を使用していたため、洗浄に要する人員・時間・経費がかかり、業務が非効率になっていました。助成金を利用して新型の食器洗浄機を導入できました。
〇助成金利用後
新型食器洗浄機を導入したことにより、洗浄・乾燥にかかる人員を6人から5人に減らすことができ、時間・電力・水・洗剤の削減もすることができました。
時間が2/3に短縮したことから清掃や整理整頓などの他の作業をする時間が作ることができました。
食器洗浄にかかる人員や時間の削減ができたことによって生産性が向上し、1人の従業員の時給(事業場内最低賃金)を40円引上げることができました。
さらに、事業場内最低賃金以外の従業員の賃金の引上げができました。
まとめ
今回は業務改善助成金の概要と業務改善助成金を利用した事例3つを紹介してきました。
労働生産性の向上をさせるための取り組みとして、機材や仕組みの導入を導入して生産性を向上し、労働賃金を向上させることで得られる助成金が業務改善助成金です。
施策の内容としては各社によって様々で、単純に労働生産性を向上させるためのものもあれば、他者との差別化やサービス品質の向上の結果、業績も向上するなど様々あります。
自社の課題に対する施策に取り組む上で、人件費や設備投資などの費用がネックになっているのであれば、是非業務改善助成金を検討してみてはいかがでしょうか。