
補助金とは、国や地方公共団体などから交付される返済不要の給付金です。
それゆえ、一部の経営コンサルタントや悪徳業者が「補助金の手続きに詳しい、より有利な補助金を受けられる方法を知っている」など不正受給にあたる助言をしている例が多発しています。
しかし、うまい話には裏があります。
ちょっとした気の緩みや、どうせバレないだろうといった安易な気持ちが破滅を招きます。
昨今の森友学園をはじめとする補助金の不正受給問題は世間の注目を浴びており、不正受給で社会の目を引いてしまうことは事業に影響が出かねません。
不正受給とはどういうものなのか?不正受給してしまったらどうなるのか?という点について本記事で解説していきます。
どのような行為が不正受給にあたる?
例えば、やってもいない活動で補助金を申請をする、実態とは異なる書類を作成して申請する、もともと存在しない書類を作成して提出して申請をする、これらはすべて不正受給にあたります。
ここで注意したいのが、「実際に補助金が支給されたか否かは問われない」という点です。
つまり、申請する行為だけでも不正受給として扱われることがポイントです。
これらの不正受給は、書類の偽造により公金を詐取しようとする犯罪(※)にあたります。
※刑法第246条
・人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
・前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
では、具体的にどういったケースが考えられるか見ていきましょう。
発注書の日づけの改ざん
よくあるケースは発注書の日づけの改ざんです。
ものづくり補助金やIT導入補助金は、事業期間内に発注した分のみ補助金の対象となります。
つまり、たとえ事業のために発注したとしても、定められた期間内の発注でないと補助金対象にはならないということです。
なんとか補助金の対象になるように、発注書の日づけを書き換えてしまうケースがあります。これが改ざんにあたります。
ほんの一週間、一日だけ書き換えただけだとしてもれっきとした不正行為であり、いわゆる「虚偽報告」にあたります。
領収書の金額の改ざん
購入した物品やサービスについて、実際よりも高い金額で領収書を発行してもらい、本来受けられるべき額よりも多額の補助金を受けることです。
これは詐欺行為にあたり、領収書を発行した相手も同様に罪に問われる可能性があります。
関係のない事業での計上
私用目的で自宅の給水設備を設置したにもかかわらず、会社の給水設備を設置したことと偽って補助金を申請することです。こちらも同様に詐欺行為にあたり、不正受給に問われるケースとなります。
不正受給が発覚したらどうなる?
2019年4月より、補助金の不正受給が厳罰化されました。
これは、安易に補助金申請を促す業者が多かったことが背景にあります。
厳罰化の主な内容は
・不正受給額の20%に相当する額を追加で納付する
・不支給期間が3年から5年に延長され、不支給対象者も拡大
・助成金の申請サポートを行なった社会保険労務士等も罰則の対象
となります。
補助金の不正受給が明るみになった場合、まずは「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」に基づき、受け取った補助金を返還しなければなりません。
この法律の19条には、延滞金に関する事項が定められております。
第19条 補助事業者等は 第17条第1項の規定又はこれに準ずる他の法律の規定による処分に関し、補助金等の返還を命ぜられたときは、政令で定めるところにより、その命令に係る補助金等の受領の日から納付の日までの日数に応じ、当該補助金等の額(その一部を納付した場合におけるその後の期間については、既納額を控除した額)につき年10.95パーセントの割合で計算した加算金を国に納付しなければならない。
それだけではなく、事業所名の公表や、場合によっては詐欺罪での告訴などを受け、社会的信用が大幅に失墜するだけでなく、自分自身、家族・親族の人生を狂わせることになりかねません。
全額返還だけでなく加算金が請求される
当たり前の話ですが、不正受給した金額をすべて返還しなければなりません。
それだけではありません。
元本と元本に対する年10.95%の延滞金、そして2019年4月から厳罰化され、さらに元本の20%の追加納付金を支払う必要があるのです。
仮に1000万円の補助金を不正受給していた場合で1年間何も返還をしなかった場合、
元本1000万円+納付金200万円+延滞金109万5000円=1309万5000円を返還する必要があります。
受け取った元本の約1.3倍もの金額に膨らんでしまいます。
不正受給が発覚したらすみやかに全額を返還しましょう。
会社名が経済産業省のホームページに公表される
不正受給が発覚した場合、「補助金交付等停止及び契約に係る指名停止措置企業」として経済産業省のホームページに公表されてしまいます。
公表される項目は以下の通りとなります。
・法人名(法人番号)
・住所
・補助金等交付停止期間
・指名停止期間
・理由
つまり、会社名でネット検索をすると、上位に経済産業省のサイトが表示され、事件の概要が広く世間に知れ渡ってしまいます。
理由欄には、詳細が事細かに記載されているわけではないですが、およそどのような行為をしたかは知ることができます。
例として
・申請事業の操業が無いにも関わらず、操業実態があるかのように偽るなど、補助金等を不正に受給していた。
・代表取締役社長が主導し外注費の架空請求を行うなど、補助金等を不正に受給していた。
・従事実態と異なる不適切な労務費の計上を行っていた。
などの記載がされてしまいます。
インターネット社会において悪名が轟いてしまうと、消費者、取引先、金融機関、入社を希望する学生、様々な利害関係者にからの信用が失墜してしまいます。
さらに、社会保険労務士などが関与していた場合は、その名前や住所なども併せて公表されてしまうことになります。
信用が第一の企業経営において、これは死活問題となってしまいます。
5年間の補助金支給停止
以前は支給停止期間が3年間でしたが、2019年4月から厳罰化され、5年に延長されました。
不正受給を受けてから5年間は、雇用保険を財源とした補助金は受けることができません。
また、不正受給に関わった役員等が他の企業でも役員等になっている場合には、その企業も5年間補助金を受けることができません。
そして関与した社会保険労務士も5年間の補助金申請ができなくなります。
悪質な場合は刑事告訴される可能性もある
不正受給があった場合、多くは補助金の返還等で済んでいるケースが多いですが、
補助金の不正受給は、いわば国や地方公共団体、労働局などの公的機関を相手に行った詐欺とみなされる罪です。
そのため、特に悪質なケースには刑事告訴が行われます。
過去には「新エネルギー・産業技術総合開発機構」の補助金を不正受給したとしてスーパーコンピューター開発のPEZY Computing社が補助金交付等停止措置を取られた事件がありました。
外注費の架空請求を行い、補助金の不正受給を主導したとして、開発会社の社長が詐欺罪により起訴されています。
不正受給にならないために
近年、公的機関から委託を受けた者と装って、補助金の申請対象の診断、受給額の無料査定などをするとった記載の文面を一方的に送付(FAX)し、補助金の活用を勧誘する業者が存在することが多発しています。
公的機関が特定の業者に補助金の勧誘や委託をすることはありません。これらの業者は手数料や報酬などを目的に本来受けることができない補助金について提案している可能性があるので十分に注意が必要です。
そして、たとえそのような業者にそそのかされて虚偽の申請した場合でも、
「事業主が不正受給を問われる」ため、こちらも注意が必要です。
不正受給をした事業主の中には、申請作業を経営コンサルタントや外部の社労士などの外部の者に依頼しているため、自分自身が「不正をした」という認識を持っていないことが多々あります。
「助言に従って申請したので不正受給とは思わなかった」、
「多くのお金をもらえる方法だと思った」
「まわりはみんなやっていると聞いていた」
補助金申請のプロがやってくれているのだから間違いはないだろうという思い込みに陥ってしまいます。
しかし、これらの認識はすべて誤りであり、上記であげてきた行為は、不正受給にあたり、場合によっては詐欺行為にあたります。
こうならないためにも、自分が責任を負うことになることを第一に理解すること、そして補助金の申請先となる機関が発行する案内をしっかりと確認することが大切です。
そして、少しでも何か疑問、不安に感じることがあった場合には自己判断をせずに国や地方公共団体、労働局に相談をしましょう。
補助金申請に「抜け道」、「裏ワザ」は存在しません。
まとめ
補助金はいわば国民の税金です。そして、その名の通りあくまでも事業を補助するためにあるものです。
単純に「お金が欲しいから」「資金繰りが厳しいから」「もらえるものはもらっておこう」「補助金申請のプロがいるから全部お願いしてしまえばいいや」といって安易に申請すべきものではありません。
不正受給が明るみになれば、社名公表や、受給額超える罰金が加算される、そして最悪の場合には、刑事告訴により社会的信用が大幅に失墜してしまいます。
先にも述べましたが、特に昨今は森友学園問題をはじめとする補助金不正受給問題により、社会的・世間的にも関心が高まっています。そんな中、不正受給を行ってしまうと大打撃を被ってしまうことは明らかです。
会社だけの問題ではなく、その家族、親族の将来を台無しにしてしまうことになりかねません。
一番大切なことは正しいルールに沿って、補助金を申請することです。
もし不正受給が明るみになってしまったら多くの人々を不幸にする、それくらいの覚悟をもってしっかりと責任を持って申請をするようにしましょう。