
少子高齢化、共働き世代の増加などによる保育ニーズの増加、障害者数の増加などにより、日本においては社会福祉事業に対するニーズが高まっています。
一方で、同分野では、慢性的な人材不足が続いています。
このように、今後ますます社会福祉へのニーズが高まる状況において、担い手の人材不足から満足なサービスを提供できない社会福祉施設が増えていくことが予想されます。
こうした状況を改善するため、政府は社会福祉施設の整備に対する補助金制度を打ち出しています。
ニーズが高い分野のため、補助金制度を活用し社会福祉施設の運営を軌道に乗せることができれば、大きなビジネス機会をつかむことができます。
一方で、施設経営にあたっては、人材確保が最大の課題です。
採用による人材確保に加え、離職防止のための取り組みも求められます。
以下で(1)~(3)の構成で、社会福祉施設の整備で助成される補助金を解説し、施設運営にあたっての3つの留意点を解説します。
(1)社会福祉施設の整備で助成される補助金
(2)福祉施設の整備が求められる社会的背景
(3)施設運営にあたっての3つの留意点
①労働条件の改善
②ICT化の推進
③ヒューマンスキル教育の実施
社会福祉施設の経営を検討されている方は、施設運営における留意点を念頭に置きつつ、補助金制度の活用を検討してはいかがでしょうか。
社会福祉施設の整備で助成される補助金
補助金の対象となる社会福祉施設は、お年寄り、子供、障害者など多くの分野が対象になります。補助金に加えて融資制度も活用できるなど、とても良い条件で活用することができます。
補助金制度の概要
まず、補助金制度の概要を説明します。
制度の詳細は、厚生労働省のホームページをご確認ください。
[社会福祉施設の整備・運営]
(1)補助金の名称
社会福祉施設補助金(「社会福祉施設の整備」という施策に含まれています)
(2)管轄
厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部
(3)目的
お年寄り、子ども、障害のある方々など、福祉サービスを必要とする方々が自立して能力を発揮するために必要な支援、技術指導を行う施設の設立・運営に関わる費用を助成します。
(4)対象施設
【保護施設】
救護施設、厚生施設、医療保護施設、授産施設、宿所提供施設
【児童福祉施設】
助産施設、乳児院、母子生活支援施設、保育所・幼保連携型認定こども園、自動構成施設、児童養護施設、障害児入所施設、児童発達支援センター、情緒障害児短期治療施設、児童自立支援施設、児童家庭支援センター
【障害者施設】
障害者厚生施設、障害者授産施設、生活施設、地域利用施設
(5)支給額
原則として、国から整備費の1/2、都道府県から1/4が支給されます。
単純計算では、施設の建設費用に1億円かかったとすると、国から5,000万円が、都道府県から2,500万円が支給されます(実際には税金が控除されます)。
(6)融資制度
補助金の受給にあたっては、施設設置者による一定の自己負担が義務付けられています。この自己負担額に対し「独立行政法人福祉医療機構」による融資制度が利用可能です。
【融資限度額】
融資限度額は、以下の(A)、(B)のうち金額が低い方が適用されます。
(A)基準事業費 - 補助金 × 融資率
(B)担保評価額 × 70%
例えば基準事業費が1億円、補助金が7,500万円、融融資率が70%、担保評価額が5,000万円とします。この条件を上記(A)、(B)にあてはめると下記の通り計算されます。
(A)1億円-7,500万円×70%=1,750万円
(B)5,000万円×75%=3,750万円
この場合、金額が低い(A)の1,750万円が融資金額となります。
【貸付金利】
貸付金利は、貸付時の市場利率をもとに適用されます。
概ね0.2%~0.9%の範囲内であり、返済期間や使用する資金の種類により異なります。
【融資期間】
融資期間は、融資の対象や資金の種類等によって異なります(5年以内~30年以内)。
また、返済を計画的に行えるよう、融資期間に応じた据置期間も設けられています(6カ月以内~3年以内)。
(7)補助金の申し込み
補助金の申し込みは各都道府県ごとになります。申し込みに必要な書類は、各都道府県庁のホームページから取得できます。また、不明点は、都道府県庁の福祉担当窓口への問い合わせが可能です。
社会福祉施設の整備が求められる社会的背景
次に、社会福祉施設の整備が必要とされる社会的背景を抑えておきましょう。
社会的背景を抑えることで、社会福祉の分野におけるニーズの高さや、施設運営にあたっての課題を把握できます。
少子高齢化の進展
まず最初に注目したいのは「少子高齢化」です。
内閣府が平成31年に行った試算によると、45年後の2065年にかけて64歳までの人口は大幅に減少する一方で、65歳以上の人口は横ばいで推移します。
その結果2065年において、日本の65歳以上の人口比率は約4割にまで増加します。
同時期の欧米諸国における65歳以上の人口比率が概ね3割程度のため、日本の少子高齢化は欧米諸国よりも深刻です。
待機児童の増加
少子高齢化と並び、日本社会における社会福祉上の深刻な問題は「待機児童の増加」です。
(1)日本社会における待機児童の現状
待機児童とは、認可保育施設への入園を希望しているにもかかわらず、入園できない未就学児を指します。
厚生労働省によると、待機児童数は2013年4月の22,741人から2017年4月には26,981人まで増加しました。
厚生労働省による「子育て安心プラン」(2018年度~2020年度を期間とした3か年計画)の効果もあり、待機児童数は2018年4月には19,895人、2019年4月には16,772人と減少傾向にあります。
一方で認可保育施設への希望者数も年々増加しており、予断を許さない状況が続いています。
さらに下記のように、認可保育施設に入園していなくても待機児童にカウントされない「隠れ待機児童」問題も深刻です。
①保護者が育休中である場合。
②保護者が求職活動を休止している場合。
③未就学児が認可外保育施設へ通っている場合。
隠れ待機児童は、平成29年度時点で日本全体で約7万人にのぼります。
待機児童問題の実態は、厚生労働省の公表している数字よりもはるかに深刻といえるでしょう。
(2)待機児童問題の背景
待機児童問題には下記のような背景があり、育児施設の拡充が今後も求められます。
①共働き世帯の増加や女性の社会進出による就業率向上に伴う、保育ニーズの高まり。
②核家族化により、祖母や祖父による父母に代わっての子育が難しくなっていること。
③慢性的な保育士不足による、保育施設の定員人数の制限。
障害者数の増加
少子高齢化、待機児童に加え、障害者数の増加も深刻です。
以下では、内閣府が令和1年に公表した最新の「障害者白書」を紹介します。
2018年時点で、日本全体の障害者数は約963万人おり、身体障害者が約436万人、知的障害者が約108万2千人、精神障害者が約419万3千人となっています。
これは、国民のおよそ7.6%が何らかの障害を有していることを意味しています。
身体障害者に占める65歳以上の割合は急激に増加しており、2016年には約7割を占めるまでになっています。
一方で知的障害者と精神障害者数は、どの年代も増加しています。
障害者白書によると、これは障害に対する理解が高まり、療育手帳の取得者が増えたためです。
施設運営にあたっての3つの留意点
このように、日本においては社会福祉分野の拡充が課題になっています。
一方、そのためには解決すべき問題があります。
特に深刻な問題は、社会福祉に携わる人材の慢性的な不足です。
この点は、実際に施設運営を行うにあたっても留意する必要があります。
以下で人材不足が生じている理由と、施設運営にあたっての3つの留意点を説明します。
人材不足が発生する理由
①採用による人材確保の困難さ
第一の理由は、採用による人材確保の困難です。
社会福祉の分野は「給与水準が低い」「労働条件が悪い」などのイメージがあり、人材が集まりにくい状況が続いています。
②離職率の高さ
第二の理由は、離職率の高さです。
社会福祉の分野での平成29年10月1日~平成30年9月末における離職率は15.4%と産業の平均レベルです。
勤続年数別で最も多いのは「1年未満の者」が38.0%、次いで「1年以上3年未満の者」が26.2%と人材の定着率は低い状況です。
離職理由で最も多いのは「職場の人間関係」が22.7%、次いで「結婚・出産・妊娠・育児」が20.3%となっています。
社会福祉の分野はチーム対応による職員間のコミュニケーションが求められます。加えて、経験の浅い若手職員が、意図せず年配患者の自尊心を傷つけてしまうこともトラブルの原因となっています。
また、社会福祉の分野の給与水準は約20万円と産業全体の平均(約30万円)の2/3程度と低い状況です。この事も、離職率の高さにつながってます。
施設運営における3つの留意点
上述のとおり、人材不足の背景には労働条件の厳しさや、特有の人間関係の難しさ、給与水準の低さなどの問題があります。
そのため、施設運営においては、下記に留意する必要があります。
①労働条件の改善
給与水準の他業種並みの引き上げに加え、有給休暇や育児休暇、時短勤務などの社内制度の整備が求められます。
加えて患者からの時間外や休日の緊急の呼び出しに無理なく対応できるよう、シフト制度の整備も必要です。
②ICT化の推進
社会福祉の分野は、食事の用意、清掃、排せつや入浴補助、介護記録、リハビリ支援など労働集約的な作業が大半を占めます。
補助ロボットや位置確認用タブレットの導入などのICT化によって職員の業務負荷を下げることが可能です。
③ヒューマンスキル教育の実施
人間関係のトラブルの防止には、ヒューマンスキル教育が効果を発揮します。肉体労働が大半で多忙な現場であるからこそ、チームワークが求められます。
職員の間の縦・横の情報共有を密にし、効率的に動きつつ互いに補完し合う関係性の構築が求められます。
加えて、患者の自尊心を傷つけないよう、年配者に対する敬意をもった接し方を、ビジネスマナー研修などを通じて習得させることも効果的です。
まとめ
これまで見てきたように、社会福祉の分野は、少子高齢化や待機児童の増加、障害者数の増加に見られるように、今後ますます重要性を増していきます。
一方で、社会福祉事業の担い手となる人材不足が問題となっています。
この点は、補助金制度を活用し施設経営を進めるにあたっても留意する必要があります。
採用の強化に加え、早期離職を防ぐための社内制度の整備や、ICT化による職員の負荷軽減、ヒューマンスキル教育による職員間の信頼関係の醸成、などの取り組みが求められます。
困難な課題は、大きなビジネス機会でもあります。
社会福祉の分野で起業を検討されている方は、人材不足への対処方法を念頭に置きつつ、補助金制度の活用を検討しては如何でしょうか。