国際社会で急速に拡大していることで日本でも耳にするようになってきた「グリーンボンド」。2019年9月時点のデータでは全世界で1709億ドル(約18兆円)にも上る発行額になったということがわかっており、日本の法人でも100億円規模での発行事例が見られるようになってきます。
環境問題の改善に役立てることが出来る事業(グリーンプロジェクト)のための資金調達を目的として企業が地方自治体が発行する債券(ボンド)がグリーンボンドです。
グリーンボンドは発行する企業側にも、投資する投資家側にもメリットがあるたけでなく、環境や社会面にもメリットがあるため、世界中が注目しています。日本でも2017年に環境省がグリーンボンド発行に関するガイドラインを定めたのをきっかけに発行額は増加中ですが、日本の発行額は世界全体のたった1%にしか過ぎず、日本が世界第3位の経済大国であることを考えれば現在の市場規模は極めて小さいものだと言えるでしょう。
グリーンボンドとはどんなものなのかということや、グリーンボンドのメリット、日本国内での事例についてこの記事では詳しく解説していきたいと思います。
グリーンボンドとは?
出典元:https://www.kkc.co.jp/service/env_energy/pdf/research_vol_05.pdf
環境改善効果のあるグリーンプロジェクトに使途を限定し資金調達を行うために発行する債券のことをグリーンボンドと言い、国際資本市場協会(ICMA)によって「グリーンボンド原則(The Green Bond Principles/GBP)」が2014年1月に策定されたことをきっかけとして発行事例が急速に拡大しており、今後も増加していくと考えられています。
グリーンボンドには以下のような特徴があります。
- 調達した資金の使い道がグリーンプロジェクトに限定される
- 調達資金は確実に追跡され、管理される
- 発行後のレポーティングを通じ、透明性が確保される
グリーンプロジェクトと似た概念としてはある特定の社会問題を解消や改善を目指す社会事業のための「ソーシャルボンド」や環境問題及び社会問題改善という2つを兼ね備えた事業のため「サステナビリティボンド」などがあります。
グリーンボンドの主な発行主体は以下のようになります。
- 自らが行うグリーンプロジェクトの原資調達を行う一般事業者
- グリーンプロジェクトへの投資・融資の原資調達を行う金融機関
- グリーンプロジェクトにかかる原資調達を行う地方自治体
グリーンボンドへの主な投資家は以下です。
- ESG投資を表明している保険会社や年金基金の機関投資家
- ESG投資の運用を請け負う運用機関
- グリーンプロジェクトに関心があり投資を行いたいと考える個人投資家
ESG投資とは
環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮している企業を重視、選別して行う投資のこと
グリーンボンドの種類
ICMAが発行したグリーンボンド原則では、グリーンボンドには以下のような4つの種類があると示されています。現時点では4つですが、市場が発展すれば新しい種類が生まれる可能性もあります。
Green Use of Proceeds Bond(標準的グリーンボンド)
グリーンプロジェクトに使用する資金を調達することを目的として発行する債券。特定の財源によらず、発行体全体のキャッシュフローを原資とし、償還を行う標準的な債券。
Green Use of Proceeds Revenue Bondd(グリーンレベニュー債)
グリーンプロジェクトに使用する資金を調達することを目的として発行する債券。調達した資金を使う対象となる公的なグリーンプロジェクトのキャッシュフロー、それに係る公共施設の利用料金、特別税などを原資とし、償還を行う。
例:外郭団体による廃棄物処理事業に必要な施設設備・運営などを資金の使い道とし、その事業の収益のみを原資として償還を行う債券など。
Green Use of Proceeds Project Bond(グリーンプロジェクト債)
グリーンプロジェクトに使用する資金を調達することを目的として発行する債券。調達した資金を使う対象となる一つもしくは複数のグリーンプロジェクトのキャッシュフローを原資とし償還を行う。
例:再生可能エネルギー発電事業を行うSPC(特定目的会社)が発行するその事業に必要な施設設備・運営などを資金の使い道とし、その事業の収益のみを原資として償還を行う債券など。
Green Use of Proceeds Securitized Bond(グリーン証券化債)
融資債権、リース債権、信託受益権などの含めたグリーンプロジェクトにかかる通常複数の資産を担保とし、このような資産から生まれるキャッシュフローを原資とし、償還を行う債券。
例:ソーラーパネル、設備、住宅、省エネ性能の高い機器、電気自動車や水素自動車など低公害車などに係る融資債権などを裏付けとしたABS(資産担保証券)など。
グリーンボンド原則(GBP)を構成する4つの要素
グリーンボンドは基準や要件を決める世界共通のルールは存在していませんが、ICMAによって策定されたグリーンボンド原則(GBP)が自主的なガイドラインとして広く市場に認知、依拠されています。
よって、グリーンボンドの発行を行う際にはグリーンボンド原則をもとに、情報の開示を行うことが推奨されており、客観的評価が必要だと考えられる場合には外部機関によるレビューの活用が推奨されています。
- 調達した資金の使い道を明らかにする
- 投資家への事前説明(プロジェクトの評価・選定プロセス)
- 調達資金の管理
- レポーティング
1:調達した資金の使い道を明らかにする
グリーンボンドとは、既にご紹介通り「グリーンプロジェクトのための資金調達を目的として企業が地方自治体が発行する債券」です。そのため、グリーンボンドで調達される資金は明確な環境改善効果があると考えられるグリーンプロジェクトに使われるということが最も重要です。
目的とする環境改善効果と比べ、環境面のネガティブな効果(例えば太陽光発電設備を設置する際、生態系や景観を損ねてしまうことなど)が過大とならないと発行体が評価するものが「明確な環境改善効果があると考えられるグリーンプロジェクト」にあたります。
適格なグリーンプロジェクトとしては以下のような事業があります。
- 再生可能なエネルギー(発電、送電、商品、装置を含む)
- 省エネルギー(スマートグリッド、地域暖房、エネルギー貯蔵、新築・リフォーム済み建物など)
- 汚染の防止・管理(温室効果ガス管理、大気排出の削減、土壌浄化、廃棄物の発生抑制・削減・リサイクルおよび省エネや省排出型の廃棄物発電)
- 自然資源の持続可能な管理(環境持続型農業、環境持続型畜産、環境持続型漁業、環境持続型林業など)
- 生物多様性保全(海洋や河川の環境保護を含む)
- クリーンな運輸(公共交通、鉄道、電気自動車、ハイブリッド自動車や有害物質の排出を削減するのためのインフラなど)
- 持続可能な水資源管理(飲料水や清潔な水を確保するための持続可能なインフラなど)
- 気候変動に対する適応(気候観測や早期警戒システムなどを含む)
- 環境配慮製品、環境に配慮した製造技術、プロセス(エコラベル認証を取得した製品の開発・導入、資源消費量の少ない包装・配送を含む)
調達資金の使い道は法定書類や目論見書などの書類によって事前説明を投資家に対して行うべきとされており、発行体のウェブサイトでこれらの書類を公開するというのが一般的です。
また、既に開始されているグリーンプロジェクトのリファイナンス(借り入れ金の組み換え・借り換えのこと)にあてることも出来ます。
リファイナンスの具体例
・金融機関等がグリーンボンドで調達した資金をプロジェクトへの融資の原資にあてる。
・グリーンボンドで調達した資金によってグリーンボンドに係る金融機関等からの融資を返済する
2:投資家への事前説明(プロジェクトの評価・選定プロセス)
グリーンボンドによってどのようなことを実現するのかについて、概要を投資家へ事前説明することが推奨されています。事前説明が推奨される事項は以下の3つです。
目標(Objective)
グリーンボンドによってどのような環境面での目標を実現するのかということについて説明します。「生物多様性を保全する」「気候変動を防止する」「廃棄物の発生を抑制する」など、具体的に環境面のどのような点を改善するのか、どのような効果を目指すのか、自社事業や計画、目標との関わりということについてなどです。
基準(Criteria)
プロジェクトを評価し選定する際に判断の根拠となる基準について説明します。環境面の目標として設定した内容に適ったプロジェクトが評価・選定されるためには具体的な判断基準を設定するのが望ましいでしょう。
プロセス(Process)
基準に基づき、どの部署でどのように評価や選定を行っていくのか、その適切性はどこの部署で検証するのかなど、プロジェクトの具体的な選定プロセスについての説明を行います。
3:調達資金の管理
グリーンボンドにより調達した資金はグリーンプロジェクトに使われるよう、追跡・管理が行われるべきであり、発行体はこれを内部統制の対象とし、グリーンボンドが償還されるまで調整を定期的に行うべきだとされています。
また、投資家には「グリーンボンドによる調達資金の追跡・管理の方法」「未充当資金の運用方法」などについても事前説明を行うべきとされています。
4:レポーティング
発行体のウェブサイトなどでグリーンボンド発行についての最新情報を公開し、進捗情報を提供することがレポーティングです。
投資家を保護するという観点からも、透明性の高い、即時性のある情報開示が求められます。
開示する情報の例
・調達資金の使い道であるグリーンプロジェクトの進捗や概要
・充当資金額
・環境改善効果の実績や予測
・未充当資金のある場合には、その金額もしくは割合、充当予定時期についてや未充当期間の運用方法
外部機関によるレビュー
以上のようなグリーンボンド原則による4つの要素について、客観的な評価が必要だと判断された場合、外部機関のレビューを活用することが推奨されています。
外部機関によるレビューには「レーティング(Rating)」「検証(Verification)」「認証(Certification)」「コンサルタント・レビュー(Consultant review)」など名称がいくつかあり、更に同じ名称であっても評価基準や評価事項が異なることがあるため、外部機関はそれについて明確に示すことが期待されます。
グリーンボンドの7つのメリット
世界的に急速な広がりを見せているグリーンボンドには、以下のようなメリットがあります。
企業による発行のメリット1:社会的支持を得られる
グリーンボンドを発行するということはつまり、地球の環境を改善することに積極的であるという姿勢をアピール出来るということでもあります。それによって、社会的な支持の獲得が期待出来ます。
企業による発行のメリット2:投資家層の拡大による資金調達基盤の強化
ESG投資に高い関心を持っている投資家と新たに関係を築くことが可能となり、資金調達の基盤を強化することに繋がります。
国連の気候行動サミットでのスウェーデンの高校生環境活動家グレタ・トゥンベリさんの演説が全世界に大きな衝撃を与えたことは記憶に新しいですが、世界各国の機関投資家はす既に環境問題に対しての取り組みを行う希望への投資や融資を重視するという方向性を明確にしています。
逆に言えば、これからの時代は環境問題への貢献を行う企業でなければ有利に資金調達を行えないのではないかとも言われています。
投資家による投資のメリット1:社会に貢献しつつ利益を得られる
グリーンボンドを発行する企業だけでなく、支援する姿勢を見せる投資家もまた社会的支持を得ることが出来ます。また、それだけでなくESG投資は投資家にとっても一般的なプロセスになりつつあり、債券投資による利益を得ながら持続可能な社会の実現に貢献することが可能です。
投資家による投資のメリット2:オルタナティブ投資でリスクヘッジが可能
グリーンボンドはプロジェクトボンドとして発行されるため、株式や通常の債券などの伝統的資産との価格連動性が低いオルタナティブ投資の性質を持っています。投資家はグリーンボンドへの分散投資によって、リスクヘッジが可能です。
環境や社会面のメリット1:温室効果ガス削減・自然資本劣化防止
グリーンプロジェクトへの民間資金導入が拡大されることで、温室効果ガスが削減されたり、自然資本劣化の防止に役立ちます。
環境や社会面のメリット2:社会問題や経済問題への貢献
グリーンプロジェクトを推進することによって、地域活性化、エネルギーコストを削減したり、災害の際のレジリエンス向上に役立ちます。
環境や社会面のメリット3:個人の啓発
グリーン投資についてや、自らが投資した資金の使い道など個人の関心を向上させることに繋がります。
日本国内のグリーンボンド発行事例
日本法人によるグリーンボンド発行事例は、2014年の日本政策投資銀行によるものが一番最初の事例となっています。
発行体 | 調達額 | 発行年 | 使途 |
---|---|---|---|
野村総合研究所 | 100億円 | 2016 | 環境への配慮がされた不動産の取得など |
東京都 | 100億円 | 2017 | 2020年東京オリンピックを契機とした環境対策やスマートエネルギー都市づくり |
鉄道建設・運輸施設整備支援機構 | 200億円 | 2017 | 都市鉄道利便増進事業 |
戸田建設 | 100億円 | 2017 | 浮体式洋上風力発電設備建設 |
三菱UFJリース | 100億円 | 2018 | 太陽光発電向けの融資事業 |
日本リテールファンド投資法人 | 80億円 | 2018 | グリーン適格資産の取得もしくは取得に要した借り入れ金の借り換えなど |
日本郵船株式会社 | 100億円 | 2018 | 環境対応船の技術ロードマップで予定する投資(新規と一部リファイナンス) |
まとめ
日本での相次ぐ台風被害を見ても気候変動対策は非常に重要な課題であるとされており、今後欧州ではEUグリーンボンド基準(Green Bond Standards/EU GBS)の策定も予定されています。
グリーンボンドという言葉が初めて使われたのは2008年、世界銀行グループの国際復興開発銀行(IBRD)がグリーンボンドという名称で初めて債券を発行してからになりますが、国際社会の環境問題への関心の高まりとともに市場規模は年々拡大しています。
これからのグリーンボンドの役割また更に大きくなることが予想されるため、その動向にはしっかりと注目する必要があるでしょう。