事業を展開したり、会社を大きくするなど資金調達は経営において欠かすことが出来ないものです。そのために銀行や公的機関からの融資を検討しているという経営者の方、既に融資を行なっている経営者の方も多いでしょう。
資金調達にはいくつかの方法がありますが融資による資金調達を行う際には「必ず返済する必要がある」ということを忘れてはいけません。資金繰りに必死になるあまり、借りることだけど考えてしまうと後々になって返済に苦しんだり、返済不能に陥ってしまうかもしれません。
そうなれば最悪の場合、財産を差し押さえされてしまう可能性もあるなど、経営どころでは無くなってしまいます。
資金調達について考える時には、銀行や公的機関の「融資」やベンチャーキャピタル、エンジェル投資家などによる「出資」の他にも内部調達と呼ばれる「減価償却」についても考えておくことが大切です。
資金調達と減価償却の関係性について、経営者なら覚えておきたい3つのポイントを詳しく解説していきます。
減価償却とは
減価償却とは、設備などにかかった支出を耐用年数(その設備が使える年数)に応じ、一定期間で分割して費用化することです。
具体的な例を上げてみましょう。
【例:100万円のガスコンロを買った場合】
経営している飲食店で100万円のガスコンロを買ったと考えてみましょう。そして、その年にガスコンロの全額である100万円を計上したとします。ガスコンロを100万円で購入したから、100万円で計上する…本当にそれでいいのでしょうか?
ガスコンロのような設備は1年使って終わりではなく、この先何年間も使っていくことを想定して購入するはずです。何年にも渡って使っていくものの費用を、最初の年だけに計上してしまうのはおかしいですよね。
また、もしもその年に100万円全額計上してしまった場合、翌年は0円でガスコンロを使っていることになってしまいますので、これもおかしいと言えます。
例でご紹介のように、設備費用など長期間使うことを想定した上で支払った費用は支払った年に全て費用として計算してしまうのではなく、耐用年数に応じて費用にするべきだ、というのが「減価償却」という考え方となっています。
上の例では100万円でしたが、例えば一気に新しい設備をいくつも購入し数千万円もの費用がかかったとして、それを1年間で一括処理してしまったら赤字になってしまい、決算書がとんでもないことになってしまいますよね。当然、資金調達も行いにくくなってしまいます。
また、購入した初年度だけで100万円全額を費用として計上してしまうと、設備投資後の損益を正確に出すことが難しくなってしまいます。もし100万円全額計上した場合、初年度の決算書は大きなマイナスに、そして翌年以降は大きなプラスになるなどめちゃくちゃになってしまうのです。
資金調達と減価償却の関係性について
減価償却については以上ですが、そんな減価償却は資金調達と一体どんな関係性があるのでしょうか?これからそれについて、3つのポイントで解説していきます。
1:資産評価について
費用を分割することで均等化するだけでなく、資産評価のためにも減価償却という考え方は使われます。
上の100万円のガスコンロの例で考えてみましょう。購入した初年度が終わってもガスコンロは残っていますよね。これは会社の所有物であり、資産です。資産は年度末に金額として財産簿に載せなければいけないのです。
ここで考えるのが、ガスコンロの価値についてです。100万円で購入したガスコンロは、1年後も同じ100万円の価値があるでしょうか?1年間使用し続けたことで汚れていたり古くなっているのに、1年後も2年後も100万円の価値があるというのはおかしいですよね。
そこで、1年使用した分を踏まえてガスコンロの価値を評価しなければいけません。では一体いくらにすればいいのかというと、100万円から減価償却費を引いた金額をガスコンロの資産評価額とすればいいのです。
100万円のガスコンロを10年で償却すると考えた場合「100万円÷10年=10万」という計算になるため、毎年10万円ずつ費用に計上するということになります。初年度が終わった後での帳簿上のガスコンロの価値は90万円、翌年は80万円、翌々年は70万円…というようになります。
2:キャッシュフロー
上記の例で言えば、ガスコンロ代の100万円は初年度に支払ってしまっているため実際には支出しているお金ではありません。それでは毎年、減価償却費として計上している10万円についてはどのように考えればいいのでしょうか?
このガスコンロによって毎年50万円を売り上げたと考えてみましょう。すると「50万円(売上)-10万円(減価償却費)=40万円」となります。しかし、実際には初年度にガスコンロ代の100万円は支払ってしまっているので手元に入ってくるのは50万円となるのです。
これはつまり、初年度に行なった設備投資の100万円の少しずつ回収しているということです。
3:減価償却費は返済能力と考えられる
以上のように、減価償却費は帳簿上では差し引かれるものの実際に支出している訳ではないため、現金として手元に残ります。つまり、このお金は会社として自由に使うことが出来る資金なのです。そして、この減価償却費を借り入れ金の返済に充てるというケースも数多くあります。飲食店の場合はほとんどが減価償却費を返済に充てているようです。
ガスコンロの例ならば、減価償却費は10万円なので年間10万円までは返済能力がると考えられるということです。このように、自社の減価償却費を知ることは返済能力について知ることが出来るため、借り入れ可能金額について考えることが出来ます。このケースの場合、年間10万円以内の返済となる借り入れならば資金ショートを起こすことはないでしょう。
逆に、返済額がこの減価償却費を上回ってしまうと利益を切り崩して返済に充てる必要が出てくるため、資金繰りに苦しむことになってしまうリスクが出てくるのです。
減価償却の2つの計算方法
減価償却費を計算するための方法には「定額法」と「定率法」という2つの計算方法があります。それぞれの計算方法は以下のようになっています。
- 定額法…取得金額×耐用年数に応じて決められた定額法償却率=減価償却費
- 定率法…前期末の帳簿価額(取得年は取得価額)×耐用年数に応じて決められた定率法償却率=減価償却費
1000万円のものを5年で減価償却していくと考えた場合、定額法ならば1年目200万円、2年目200万円、3年目200万円、4年目200万円、5年目200万円と毎年定額ずつ費用とします。
定率法の場合は少しややこしくなり、「毎年同じ割合で減価償却」していきます。定額法と同じく1000万円のものを5年で減価償却していくと考えた場合でも、定率法では1年目400万円、2年目240万円、3年目144万円、4年目108万円、5年目108円となります。1年目は金額が大きく、年数が経過するほどに減価償却費が減っていきます。
定額法と定率法、有利なのは?
毎年の額は異なるものの、トータルの減価償却費は同じです。しかし、毎年定額か初年度に多く減価償却費を計上出来るかなど違いがあるため、利益を出したい会社の場合は「定額法」、早めに費用にしたいという場合には「定率法」など、目的によって定額法か定率法かを決めておくことがほとんどです。
定率法では計算出来ない場合も
全てのものが定額法でも定率法でも計算出来るというわけではなく、定率法では計算出来ないものもあります。
- 建物
- 建物附属設備及び構築物
- 無形固定資産及び生物
以上のようなものは定額法でしか計算することが出来ません。
まとめ
資金調達と減価償却は一見何の関係もないように思えるかもしれませんが、減価償却は内部調達の方法の一つです。減価償却費を把握することは融資での資金調達における借り入れ可能額を確認することにもなり、資金ショートのリスクを回避することに繋がります。
融資での資金調達を行うならば、返済額は減価償却費を下回るように設定しましょう。なお、耐用年数は資産によって異なっていますので、国税庁の耐用年数表をチェックしてみるといいでしょう。