
レセプト(診療報酬債権)をファクタリング業者に売却する事で、医療業界の支払いサイトを大幅に早めて資金調達を行う診療報酬ファクタリング。医療業界では非常に認知度の高いサービスではありますが、仕組みやメリットデメリットを理解していなければ馴染みのない方は手軽に手を出せる代物ではありません。
医療業界関係者のみが行う事が可能な診療報酬ファクタリングは、他業種の方が行う一般的なファクタリングとは大きな違いがあり、特徴や仕組みも大きく異なります。この記事ではレセプト(診療報酬債権)を取り扱うという、少し特殊な診療報酬ファクタリングの全容を分かりやすく解説していきたいと思います。
診療報酬ファクタリングとは
ファクタリングには大きく分けて、債権買取型と回収保証型の2つのタイプがあります。診療報酬ファクタリングは債権買取型に分類されますが、利用できるのは医療業界に従事している方のみという事で、かなり限定的なファクタリングとなっています。
まずは診療報酬ファクタリングの仕組みなどの、利用前に絶対に知っておきたい仕組みについて解説していきたいと思います。
サービスの仕組み
診療報酬ファクタリングを簡単に説明すると…
病院やクリニックなどが患者さんが加入している保険から受け取る医療報酬をファクタリング会社に売却する事で早期の資金調達を行う
これが簡単な診療報酬ファクタリングの仕組みです。日本では国民皆保険の制度がありますので、病院で診察を受ける患者は医療費の30%だけを支払い、残りの70%は患者が加入している保険が支払う形になります。
病院やクリニックなどの医療関係事業者は、医療行為を行った後に残りの70%を国民健康保険、全国健康保険協会、健康保険組合のいずかれに請求しているという訳です。
しかしここで問題になってくるのが支払いサイトの長期化です。社保や国保に提出するレセプト(診療報酬債権)は翌月5日か10日に提出するのが一般的なので、診療報酬が発生してから実際に病院やクリニックに入金されるまでに最低でも2ヶ月程度の期間を要します。
医療事業者の方は支払いサイトが長いという事で資金繰りに悩むケースが多く、2ヵ月後に入金される診療報酬債権をファクタリング会社に売却する事で資金調達を行い、2ヵ月後に入金されるまでの病院運営の資金繰りに充てるという訳です。
資金調達の流れ
診療報酬債権を売却してから資金調達するまでの流れは各ファクタリング会社により多少の違いはありますが、概ね以下の手順で実行されていきます。
- 医療事業者がレセプト(診療報酬債権)を国保や社保に提出する
- 診療報酬ファクタリング業者に申し込み
- 診療報酬債権をファクタリング業者が査定してから審査が通れば契約
- ファクタリング業者から国保や社保へ債権譲渡通知(※)を行う
- 契約が完了してから3日~5日以内に依頼者の医療事業者の口座へファクタリング業者から入金
- 支払い期日に国保や社保からファクタリング業者へ診療報酬が入金
上記のような流れで診療報酬ファクタリングは行われます。通常であれば2ヵ月後の入金となる診療報酬を、申し込みから5日以内で入金がされるという事で、医療事業者の支払いサイトはかなり短縮されます。
※債権譲渡通知とは
債権を事業者からファクタリング業者へ譲渡した旨を証明するものです。ファクタリングをビジネスとして成立させる為に必要不可欠な契約で、この契約をきちんと締結させなければ支払い期日に国保や社保からファクタリング業者へ診療報酬は入金されません。
診療報酬ファクタリングは非常に多く利用されているサービスであり、国保や社保も多く契約を交わしていますし、医療事業者がこの通知に関する何かを行う必要はありませんので、こういった契約が交わされているという事だけ覚えておきましょう。
掛け目と手数料
実際に診療報酬債権を売却して支払いサイトを早めた資金繰りを行おうと考えている医療事業者の方に1つ注意して頂きたいのは、早期に入金されるのは『手数料と掛け目を引いた金額』であると言う事です。
診療報酬1000万円で掛け目が90%、手数料が2%の場合、実際に入金されるのは『1000万円-100万円-20万円=880万円』となります。
掛け目とは不動産担保と同質のもので価値を査定するものです。診療報酬ファクタリングの掛け目は80%~90%程である場合が多く、そこからファクタリング企業の手数料が引かれた額が振り込まれるという事になります。
しかし、上記例で言うと掛け目を引いた分の100万円は、正規の支払い期日に国保や社保からファクタリング会社へ入金が確認された後に依頼者へ返還されますので、実質的に引かれる額はファクタリング会社へ支払う手数料分だけという事になります。
必要書類
診療報酬ファクタリングを利用するのに必要な書類も企業により異なりますが、概ね以下の書類は必須で揃えておく必要があります。
- 決算書
- 病院開設許可証
- 医療免許
- 印鑑証明書
- 保険医療機関指定通知書
- 支払決定通知書
- 納税証明書
- 確定申告書
診療報酬ファクタリングを利用する前に注意すべき点は診療報酬の差し押さえです。医療機関で納税しなければいけない税金を納税していない場合、診療報酬を差し押さえられるケースがあります。
そうなるとファクタリング会社は貸し倒れになってしまいますので、国税局から診療報酬を差し押さえられるリスクがないかどうかを調べる為に納税証明書の提出が求められます。
その時に滞納している税金の額があまりに多額であった場合はファクタリング会社から税務署へ問い合わせを行われ、差し押さえのリスクがあると判断された場合は契約締結に至らないケースがあります。
診療報酬ファクタリングのメリット
医療事業者は長い支払いサイトによる資金繰りに困窮する事が多いのですが、それを改善する事が出来る診療報酬ファクタリングには多くのメリットがあります。
- 資金繰りを改善できる
- 負債にならない
- 手数料が格安
- ほぼ100%審査が通る
以上の4点が診療報酬ファクタリングの大きなメリットとなります。以下で1つずつ詳しくそれぞれの特徴を解説していきましょう。
早期現金調達で資金繰りを改善
上記でも説明したように、医療事業者は国保や社保から診療報酬を受け取るまでの支払いサイトが長いことで、資金繰りに悩むケースが非常に多いです。
- 6月1日に患者を診察
- 7月10日までに診療報酬を請求
- 8月末に国保や社保から入金
6月末に治療した患者さんであれば2ヶ月、6月頭に治療した患者さんの診療報酬を入金されるのは約3ヵ月後となります。膨大な資金力を持つクリニックや病院であれば、診療報酬が入金される2ヶ月の資金繰りに困窮する事はないかと思いますが、経営体力のない病院やクリニックであれば、診療報酬が入金されないと手元にある資金で何とかやり繰りしなければなりません。
医師や看護師への給料、良い医師を増やさなければ患者さんは増えませんし、高額な医療機器を購入する為の支出や新規事業への先行投資などで急遽現金が必要になるケースは多くあります。そういった時の資金繰りに最適なのが診療報酬ファクタリングで、最短3日ほどで入金が完了しますので、急を要する資金調達に非常に最適であるという訳です。
借り入れじゃないから負債にならない
ファクタリングによる資金調達は借り入れではなく売掛金の売買ですから、負債になりません。負債にならないという事はつまり、決算書に与える影響が少ないという事です。
融資枠を利用する事がありませんので、更なる事業拡大や資金調達の為に銀行から融資を受けようと考えた時も、ファクタリングは借り入れではありませんので、決算書を見て悪影響を与える心配がないという訳です。
更なる資金調達を行う場合でも、決算書をクリーンな状態で資金調達が出来るというのは、医療事業者からすると大きなメリットであると言えるかと思います。
手数料が格安
診療報酬ファクタリングの手数料相場は0.5%~2.0%と格安です。その理由は公的機関である国保や社保から債権を回収するという事が大きな理由となっているからです。
他のファクタリングの場合、債権を回収する相手は民間企業である場合がほとんどです。例え上場している民間企業であっても倒産リスクは0ではありませんので、貸し倒れリスクがある場合はファクタリング会社の手数料相場は高くなります。ファクタリングは基本的にノンリコースなので、売掛先企業が倒産した場合の損失は全てファクタリング会社が負う事になるからです。
しかし公的機関である国保や社保が相手である場合はどうでしょうか。倒産するリスクは0で、債権を回収できないという心配も全くありません。つまり貸し倒れリスクが0なので、手数料を安くして窓口を広げた方がファクタリング会社としても得策であるという訳です。
ほぼ100%審査が通る
銀行融資や別のファクタリングもそうですが、資金調達を行う場合は赤字決算じゃないか、財務状況はどうなっているのか、借り入れの額は幾らで売上はどれ位出ているのか…融資を受ける際は厳しい審査があり、それに通過しなければ融資や借り入れを行う事は出来ませんよね。
しかし、上記でも説明したように診療報酬ファクタリングは債権回収相手が公的機関なので、貸し倒れリスクの可能性が極めて0に近いです。
- 赤字決算
- ビジネスローンの審査に落ちた
- 銀行融資の審査に落ちた
- 税金未納
このように、普通の融資や借り入れ審査であれば落ちるような経営状態であっても、医療報酬ファクタリングであれば利用できる可能性が極めて高いです。
借り入れではなく債権の譲渡であるというのが大きな点で、ファクタリング企業としてみれば、債権を譲渡された相手がきちんと支払いを行ってくれれば良いだけですから、公的機関が相手である診療報酬ファクタリングであれば申し込み先企業の経営状況がどれだけ悪くても大した問題にはならないという訳です。
診療報酬ファクタリングのデメリット
国保や社保から支払われる診療報酬を早めることで円滑な資金繰りを行う事が可能な診療報酬ファクタリングですが、利用前に気をつけなければいけないデメリットが3つあります。
- 大規模な資金調達手段には向かない
- 1度導入すると抜け出せなくなる可能性
- 金融機関に比べると利率は高い
債権額以上の資金調達は行えない
新規店舗を出店したいから5000万円の資金調達を行いたいと考えたとします。銀行融資などであれば調達できる可能性は充分にありますが、診療報酬ファクタリングでは、どう頑張っても債権の請求額以上の資金を調達する事は不可能です。
その為、医療事業者が頭を抱える大規模な資金調達手段には向かないというデメリットがあります。多くて2か月分の診療報酬債権を買い取ってくれるファクタリング企業もありますが、それでも大規模な資金調達とは言えないでしょう。あくまで、切羽詰まった時の資金繰り方法としてファクタリングは利用するのが吉であるという事になります。
計画的に利用しないと苦しくなる
掛け目が90%だった場合、ファクタリングを利用すると診療医療報酬が2ヶ月前払いされるという事になりますので、2ヵ月後は本来入金予定だった金額の10%しか入金されません。言うまでもありませんが、ファクタリングを利用して前払いされた資金を、無計画に散財し支出を増やしてしまう行為は絶対NGです。
長期的なキャッシュフロー改善の見込みがあるのであれば、早期現金化できるファクタリングは非常に有効な手段ですが、ファクタリングを優先的に利用して経営を行おうと考えると必ずどこかで苦しくなります。上手に利用すれば有効な資金調達手段となりますが、他の資金調達の上位互換ではないという事はしっかりと理解しておきましょう。
金融機関と比較すると利率は高い
メリットの項目で診療報酬ファクタリングの手数料は格安と説明しましたが、それはあくまで他のファクタリングに比べたらという話です。銀行や金融機関などで融資を受けられるのであれば、そちらを利用した方が利率はかなり安いのが現状です。
ファクタリングのみで資金繰りを改善しようとすると、手数料の高さが後々に大きな負債となるケースも考えられます。銀行融資や金融機関が駄目だった場合の繋ぎとして利用するのがベストなので、長い目で長期的なキャッシュフロー計画がない場合は気軽な気持ちで利用しない方が良いでしょう。
こんな医療事業者にオススメ
診療報酬ファクタリングの仕組みとメリットデメリットを解説してきました。銀行融資や他の資金調達の代替手段として様々なニーズで活用できるとして医療業界で高い認知度を誇っていますが、具体的にどのような医療事業者が活用しているのかを説明していきます。
- 病院やクリニックなど医療事業の開業直後の資金繰り
- 今後大型機器設置の為に融資枠を利用したくない医療事業者
- 開業したばかりで銀行からの融資が受けられない
- 連帯保証人や担保を用意する事が出来ない
- 人件費捻出など少額の資金ニーズがある場合
病院はクリニックなどを開業したばかりでは資金繰りが非常に大変です。ある程度の資金を確保した上で事業を開始しなければ、診療報酬を受け取れるのは2ヶ月から3ヶ月必要になりますので、その間の人件費や必要経費などを捻出する事が難しいです。
ある程度実績を積まなけば開業したての医療事業に銀行融資をしてくれる所も少ないので、それまでの繋ぎとしてファクタリングを利用するケースは非常に多いです。連帯保証人や担保を用意する事ができない時もファクタリングは利用できますし、少額でもニーズがある場合は銀行融資よりも診療報酬ファクタリングの方が効率的であると言えるでしょう。
まとめ
医療業界における長い支払いサイトを改善する事が可能な診療報酬ファクタリング。医療業界では知名度も高く、利用している方も多くいらっしゃるかと思いますが、長期的なキャッシュフローには向かず、あくまで銀行融資や、開業直後の資金繰りを行う際の緊急用に利用するケースが多いです。
メリットデメリットをしっかりと理解しておく事で、より効果的に診療報酬ファクタリングは利用する事が出来るかと思います。既に利用されている方も、知っているけどまだ利用していないという方も、是非診療報酬ファクタリングを上手に活用し、支払いサイトの長さで苦しくなる資金繰りの改善に活用してみて下さい。