事業所にとって省エネ化は経費節減効果だけでなく、低炭素社会の実現に向けた企業の社会的責任を果たすうえでも重要になっています。
しかし、初期投資コストの大きさから、導入するとなると二の足を踏む事業者も多いのではないでしょうか。
このとき、国からの補助金は大きな後押しになりますが、制度が幅広く申請を受け付ける窓口も多いため、煩雑になりすぎているのが難点です。
ここでは、事業場・工場の省エネについて、どのような補助が受けられるのか代表的なものを紹介していきたいと思います。
柱となる3つの施策
地球規模の気候変動への対策として、低炭素社会の実現が国をあげて推進されています。
この施策の二本柱とされているのが、「再エネ導入」と「省エネ」です。
このうち、事業所や家庭での対応が容易なのは省エネの推進です。
省エネ関連の補助金はさまざまな種類がありますが、多く使われているのは次の3つになります。
■経済産業省「省エネルギー投資促進に向けた支援補助金」
■環境省「先進対策の効率的実施によるCO2排出量大幅削減事業」
■国土交通省「既存建築物省エネ化推進事業」
これらは毎年継続的に予算があり、さまざまな省エネ設備に使用可能です。
このうち、工場の省エネ化に利用できるのは経産省・環境省の施策です。
経済産業省―省エネルギー投資促進に向けた支援補助金
経済産業省による「省エネルギー投資促進に向けた支援補助金」は、主に次の3つに対する補助金です。
■事業者の省エネ化支援:工場・事業場での、省エネ効果の高い設備への入れ替えを支援
■ZEH/ZEB:ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の導入・実証を支援
■住宅の断熱:高性能建材を用いた住宅の断熱改修を支援
この補助金制度について、平成29年度の予算総額は約672億円。次年度以降も同水準が期待できると考えられます。
事業者の省エネ化支援
「事業者の省エネ化支援」は、エネルギー使用合理化等事業者支援事業(通称:エネ合)という名称で、省エネルギー対策事業・ピーク電力対策事業・エネマネ事業に適用できます。
申請単位により一般的な照明や空調設備だけでなく、工作機械やショーケース等の生産設備の高効率化も対象になります。
補助額は年間100万円以上15億円以下と規模の幅が広く、工場・事業場単位は事業総額の1/2~1/3、設備単位は設備金額の1/3が補助の対象となります。
ZEH/ZEB
国をあげて推進をしているのがZEHと、ZEBです。
大幅な省エネを実現したうえで再生可能エネルギーにより年間消費エネルギーをまかなうことを目指した住宅・建築物のことです。
経産省、環境省、国土交通省がそれぞれビルの省エネ化への補助を行っています。
国交省の既存建築物省エネ化推進事業は、既存のオフィスビル等を対象に民間事業者等が行う省エネ改修工事・バリアフリー改修工事に費用の一部を支援するものです。
平成29年度の予算総額は約103億円。5000万円を上限に事業費の1/3が補助されます。高効率空調、断熱材、窓断熱などが対象になります。
環境省―アセット
環境省による「先進対策の効率的実施によるCO2排出量大幅削減事業」(通称:アセット)は先進的な設備導入、費用効率性向上をうながす支援施策です。
平成29年度の予算総額は37億円で、先進対策と運用改善が対象となります。
補助額は1.5億円を上限にL2-Tech認証製品は1/2、それ以外の機器等は1/3の補助が受けられます。
L2-Tech認証とは、先導的、低炭素技術の二つのLを満たした機器に対して認証を与える制度です。
ヒートポンプ、コジェネから空調機器やLED照明など幅広く対象になっています。
平成31年 電力需要の低減に資する設備投資支援事業費補助金
平成31年(2019年)3月27日、平成31年度予算等が成立したと発表されました。
本記事では産業用、業務用に関わりの深い経済産業省管轄の省エネ設備投資に関わる補助金について取り上げます。
経済産業省の省エネ補助金と言えば「エネルギー使用合理化等事業者支援事業(通称:エネ合補助金)」が有名です。
毎年度注目度の高いこのエネ合補助金は、29年度からは「省エネルギー投資促進に向けた支援補助金」というくくりでZEB、ZEH、省エネ建材の実証支援と一緒に予算付けをされていました。
毎年度さほどの変動なく続いてきたエネ合補助金ですが、今回創設される補助金が変化をもたらすかもしれません。
平成31年に発表された補助金の名前は、「電力需要の低減に資する設備投資支援事業費補助金」です。
なんと100.4億円の予算を計上しています。
ここででは、その補助金を詳しく説明します。
省エネルギー設備への入替支援
経済産業省のHPを確認すると下記の内容が記載されていました。
工場等における省エネ設備や省電力設備への入替促進のため、対象設備を限定しない「工場・事業場単位」及び申請手続が簡易な「設備単位」での支援を行います。また、複数事業者が連携した省エネ取組への支援を強化します。
省エネルギー投資促進に向けた支援補助金 551.8 億円(600.4 億円)
(電力需要の低減に資する設備投資支援事業費補助金、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスを活用したレジリエンス強化事業費補助金を含む)産業・業務部門の省エネ化の推進や、自然災害等による大規模停電リスク・被害を低減するため、工場等の省エネ設備の入替等を支援。また、複数事業者が連携した省エネ取組への支援を強化。
複数事業が連携する取組についてはこれまでも存在しましたし、省エネ法の改正で一層強化されましたので特筆すべき部分ではありません。
特筆すべき部分とは、やはり“省電力設備への入替促進”です。
省エネ法で言う「エネルギー」といえば、電気、都市ガス、LPG、LNG、高炉ガス、ガソリン、灯油、軽油、重油、石炭など色んなものがありますが、ここでは「電気」に限っています。その理由はもちろん“自然災害による大規模停電リスク・被害を軽減するため”でしょう。
これは近年度重なる災害で重要視されている「重要インフラの強靭化」「防災、減災、国土強靭化対策」の一環なんですね。
(他にガス、水道、石油コンビナートに対しても補助金や支援事業が組み込まれています)
具体的にどんな補助金なのか?
予算成立前、1月25日にはもう執行団体の公募が開始されており、3月5日には毎年度エネ合補助金を執行している一般社団法人環境共創イニシアチブ(略称:SII)が採択を受けています。
そこで公表されていた情報は下記のようなものです。
間接補助事業の概要について(予定)
【1.補助対象者】
全業種の法人及び個人事業主
【2.間接補助対象事業】
(1)工場・事業場単位:既設設備・システムの入替えや製造プロセスの改善等の改修やエネルギーマネジメントシステムの導入により、工場・事業場等における省電力対策を行う事業。
(2)設備単位:既設設備を、補助対象設備ごとに定められた省電力効果の高い設備への更新を行う事業。
【3.補助対象設備】
(1)工場・事業場単位:一定の要件を満たす全ての設備を対象とする。 ※具体的な要件については、経済産業省と協議の上決定する。
(2)設備単位:想定する補助対象設備は以下のとおり。 なお、補助対象設備については今後追加等があり得る。
<想定補助対象設備>
①高効率照明 ②高効率空調 ③産業ヒートポンプ ④業務用給湯器 ⑤高性能ボイラ ⑥低炭素工業炉 ⑦変圧器 ⑧冷凍冷蔵庫 ⑨産業用モータ
※具体的な基準については、経済産業省と協議の上決定する。なお、トップランナー制度対象機器の場合、トップランナー基準以上の設備を補助対象とする。
【4.間接補助対象経費(消費税及び地方消費税額は対象外)】
(1)工場・事業場単位:【2.間接補助対象事業】に要する経費のうち、機器又は設備の設計費・設備費・工事費
(2)設備単位:【2.間接補助対象事業】に要する経費のうち、機器又は設備の設備費
【5.1事業当たりの補助率】
(1)工場・事業場単位:1/4以内、1/3以内、1/2以内とする。 ※なお、補助限度額(上限額及び下限額)については、経済産業省と協議の上、決定する。
(2)設備単位:1/3以内とする。 ※なお、補助限度額(上限額及び下限額)については、経済産業省と協議の上、決定する。
【6.募集方法】 一定期間の公募により実施する。
エネ合補助金とそんなに変わらないのか?
上記の内容を確認すると、疑問を抱く方がいると思います。
内容が、エネ合補助金とそんなに変わらない。という事です。
ちなみにこんな文言もあります。
補助対象経費は“10%以上の電力需要低減のためであって、その普及を図ることが特に必要な設備・技術の導入に要する経費です。
この10%以上というのは工場・事業場単位でよく言う「工場全体の省エネ率」ではなく「電力需要の低減に資する設備投資支援事業費補助金」の目的でしょう。
エネルギー需要全体では2013年比▲13%の省エネを目指していますので、それに比べるとちょっと緩いかな?
でもエネ合補助金では申請の足切りが省エネ率1%ですから、それと比べると厳しいかな?
ただし採択平均は20%~22%と高いですが、ここでも色んな考え方が出来ると思います。
まとめ
現時点ではエネ合補助金と「電力需要の低減に資する設備投資支援事業費補助金」の違いをどうとらえるべきか何とも言えません。
しかし、あえて「電力需要の低減に資する設備投資支援事業費補助金」が創設されたということは当然何らかの意味があります。
自然災害による大規模停電リスク、被害を軽減するためとあるので蓄電池や独立型電源の導入に加点がされるかもしれません。
(だからエネ合補助金からピーク対策が削除されたのかも?)
そもそもガス空調を電気空調に変更する事業、照明をLED化するのみの事業をお考えであれば、前者はエネ合補助金、後者は「電力需要の低減に資する設備投資支援事業費補助金」しか使えない可能性があります。
(工場・事業場単位、設備単位でも違いますので一概には言えません)
いずれにしろ似通った制度であることは確かなので、今のうちから事前準備や資料の収集を始めておき、どちらが公募開始されても申請できる準備をしておくことが肝要でしょう。
事業所の省エネ化は、以上3省庁の代表的な制度を中心に考えると理解がしやすくなっています。
これらは、空調の効率化やLED化など、幅広い事業所が対象となる施策はもちろん、炉や工作機械などの生産設備や外壁・コジェネレーションシステムなども対象となります。
ほかにもフロンを使わない業務用冷凍空調機器を対象とするものなど特定の分野・技術に特化した補助、単年度の施策もあり、地方自治体独自の施策もあります。
自社の施策にあった制度を探してみるとよいでしょう。