起業する、事業を展開する、会社の規模を大きくする、従業員に給与を支払う、取引先から商品を仕入れるなど、会社経営ではあらゆる場面で「資金」が必要となります。そのため起業家や経営者にとっては運転資金を確保することは非常に重要な課題となります。
逆に言えば、上手く資金調達が出来なければ資金ショートを起こしてしまい最悪の場合、廃業に追い込まれてしまうことも。
売掛金があるにもかかわらず回収までの期間が長期にわたるためすぐに回収出来ず、翌月の支払いに間に合わずに黒字倒産というケースもあるため、黒字だからと言って油断は出来ません。
資金調達の方法はいくつもありますが、大きく分けて3つです。
- アセットファイナンス…「資産」で資金調達する
- デットファイナンス…「負債」で資金調達する
- エクイティファイナンス…「資本」で資金調達する
この記事ではデットファイナンスについて詳しく解説していきたいと思います。事業資金の調達として馴染みのある銀行融資はこのデットファイナンスに分類されます。
⇒アセットファイナンスについて
⇒エクイティファイナンスについて
デットファイナンスによる資金調達について
デットファイナンスとは、「負債」を増加させ、株式の発行を伴わない資金調達方法のことで、企業にとって最も一般的な資金調達方法です。
デット(Debt)は借金・負債・債務を意味し、銀行や公的機関からの借り入れ、少人数私募債の発行はデットファイナンスに分類されます。
「資本」の増加を伴うエクイティファイナンスに対し、デットファイナンスでは「負債」が増加します。貸借対照表上でも「負債」として扱われるため、簡単に言えばデットファイナンスによる資金調達を行うと会社の借金が増加することになります。負債が増え過ぎると融資審査などの際に「経営難に陥っている企業」と判断される可能性が高まるため、注意が必要です。
資産で資金調達を行うアセットファイナンス、資本で資金調達を行うエクイティファイナンスの場合は返済の必要がないのに対し、デットファイナンスはいずれ必ず返済しなければいけない資金調達方法です。無理な借り方をすれば首が回らなくなってしまう可能性もあります。
また、融資の場合は審査を受け、通過しなければ借り入れを行うことは出来ません。銀行融資や公的融資の場合の金利は企業の信用力などによっても変動します。
調達額 | 資金化スピード | 金利 | 審査 | |
---|---|---|---|---|
銀行融資 | 1.0%~9.0% | 1~3ヶ月 | 1.0%~9.0% | 比較的厳しい |
公的融資 | 企業や融資制度によって異なる | 比較的時間がかかる | 1.0%~3.0% | 銀行融資よりは通りやすい |
少人数私募債 | 〜1億円未満 | 1~2ヶ月 | 2.0~5.0%ほどが妥当 | なし |
ビジネスローン | ~1000万円 | 最短即日~ | 6.0%~18.0% | 比較的通りやすい |
知人からの借入 | ~1000万円 | 最短即日~ | なし | なし |
銀行融資
事業資金の調達として一般的な方法が銀行融資で、その名の通り銀行からお金を借り入れて資金調達を行う方法です。しかしながら、銀行は起業したばかりの企業など信用力の低いベンチャー企業、スタートアップ企業への融資は行なってくれません。銀行融資が可能となるまでには創業から大体3期ほどが目安と言われています。
また、銀行融資にも種類があり、銀行が独自に行う「プロパー融資」と、信用保証協会の「保証付き融資」があります。プロパー融資を選ぶのか、それとも保証付き融資を行うのかの検討の他にも、審査に向けて様々な用意を行う必要があります。
審査は決算書や事業方針などをもとにして行われるため、審査に通りやすい決算書を作成しましょう。
- 資金化スピード:1~3ヶ月ほど
- 調達額:企業規模によって変動
- 金利:1.0%~9.0%ほど
公的融資
公的融資とは、日本政策金融公庫や、商工会組合中央金庫地方公共団体の制度融資など、公的機関からお金を借り入れるという資金調達方法です。
日本政策金融公庫は中小企業や個人事業主への融資を積極的に行なっているため、銀行融資の審査に落ちてしまったという場合でも借り入れ出来る可能性があります。また、他の借り入れ方法と比較すると圧倒的に低金利であるということも特徴です。
また、公的融資を受けることが出来ればそれによって信用力も向上するため次の資金調達を行いやすくなるなどのメリットもあります。必要書類が多くなる、比較的時間がかかるというデメリットもありますが、新創業融資制度など様々な融資制度があるため、日本政策金融公庫の融資制度は一度しっかりとチェックしておくことをオススメします。
- 資金化スピード:比較的時間がかかる
- 調達額:企業や融資制度によって異なる
- 金利:1.0%~3.0%ほど
少人数私募債
私募債とは、社債(企業が発行することが出来る債券)の一種のことを指します。私募債には「少人数私募債」と「プロ私募債」の2つがあり、株式会社の資金調達方法として利用されるのが「少人数私募債」です。少人数私募債では、50人未満の人に募集をかけて、1億円未満のお金を借りることが出来ます。
経営者の家族や親戚、友人、知人、取引先など関係者が少人数私募債の発行対象となることが一般的です。審査も保証人・担保も不要で、誰でも簡単に発行することが出来ますが、元金は一括返済する必要があるため、キャッシュフロー改善目的で利用することは出来ません。
少人数私募債の利率は企業が設定することが出来ますが、この時大切となるのが発行者と購入者、双方が納得出来る値を設定するということです。高い利率を設定すると会社の経営状態が悪いのではないかと思われてしまう可能性があります。
あまりに金利が低ければ購入者は魅力感じませんが、銀行融資やビジネスローンなどよりも金利が高くなればそもそも少人数私募債で資金調達をする意味が無くなってしまいます。
少数私募債の場合、2.0~5.0%ほどが妥当といえるでしょう。
- 資金化スピード:1~2ヶ月ほど
- 調達額:〜1億円未満
- 金利:企業が設定出来る(2.0~5.0%ほどが妥当)
⇒資金調達を私募債で行う際の3つの要点とメリットデメリットを解説
ビジネスローン
銀行融資も公的融資も利用することが難しい、そんな事業者向けに作られたのがビジネスローンです。その名の通り事業資金専用のローンで、担保や保証人無しで借り入れすることが可能です。
借り入れしやすいという一方で金利は高めに設定されており、借り入れ限度額も1000万円ほどと銀行融資や公的融資に比べると借り入れ可能額は低くなります。消費者金融のビジネスローンの場合、最短即日での借り入れも可能です。
- 資金化スピード:最短即日~
- 調達額:~1000万円
- 金利:6.0%~18.0%
⇒ノンバンクから事業資金を調達する時の5つのメリットと3つのデメリット
親族・知人からの借り入れ
親族や友人、知人からお金を借りるというのも選択肢の一つです。学生起業家の場合、このような手段で起業資金を調達することも多いようです。親しい間柄の人間ということで審査や金利もありませんし、返済についても柔軟に対応してもらうことが出来るでしょう。
とはいえ調達額も限られますし、何より、思わぬトラブルが起これば大切な人たちとの人間関係にヒビが入ってしまう、破綻してしまうなど最悪の結果になってしまう可能性もあります。どうしてもこの方法での借り入れしか行えないという場合でもしっかりと検討し、借用書を作るなどしてトラブルを回避しましょう。
- 資金化スピード:最短即日~
- 調達額:最大でも1000万円ほど
- 金利:無い場合が多い
⇒【7つの資金調達法】無職や失業中でもお金を借りるためには?
デットファイナンスのメリット・デメリット
お金を借り、負債によって資金調達を行うデットファイナンスにはメリットもデメリットも存在しています。
このようなデットファイナンスのメリットやデメリットが自社の経営にどのような影響を及ぼすのか?アセットファイナンス、エクイティファイナンスによる資金調達とも比較しながら自社に最も適した方法で資金調達を行うようにしましょう。
メリット
デットファイナンスの場合、借り入れした資金には返済義務があり元金と利息分を返済してもらうことが出来るので、投資家が負うリスクはエクイティファイナンスと比較すると小さくなります。また更に、投資家だけでなく銀行や公的機関、消費者金融なども融資元の選択肢に含まれるため、融資元を見つけやすく資金調達が行いやすいというのがメリットです。
また、株式によって資金調達を行うエクイティファイナンスの場合、経営権に大きく左右される可能性もありますが、デットファイナンスの場合は株式とは無関係なところで資金調達を行うため、経営権に影響することがありません。
デットファイナンスでは元金と利息分のみを返済すればいいため、もし事業が大きく成功を収めたとしても配当金を支払う必要がないというのもメリットでしょう。利息分は税務上は「損金」として扱われるため、節税効果も期待出来ますし、きちんと返済を行えばそれは「返済実績」として評価され、将来的により良い借入条件で融資を受けることが出来る可能性が高まります。
- 資金調達を行いやすい
- 経営権に影響しない
- 返済額が決まっている
- 節税効果がある
- 返済実績を作ることが出来る
デメリット
メリット以上に注目しておきたいのがデメリットです。ここからご紹介するようなデメリットが自社によって致命的であるという起業は他の資金調達方法の方が適していると言えます。
まず、当たり前ですが借りたお金は必ず返済しなければなりません。金融機関からの融資の場合、月々一定額を返済していくことになりますが、これが経営の負担になってしまうというケースも少なくありません。もちろん返済を怠ればマイナス評価となりますし、場合によっては訴訟を起されるなど深刻なトラブルに発展する可能性もあります。
金融機関がなぜ融資をしてくれるのか…それは「利息」による利益を得るためです。知り合いから借りるでも無い限り、借り入れには必ず利息が発生します。元金の他にもこの利息を返済する必要があるため余計なコストがかかります。
また、注意したいのがデットファイナンスによる資金調達は貸借対照表上で「負債」扱いとなるということです。負債が多ければ多いほど提出先に与えるイメージは悪くなり、融資審査の際にも不利になってしまいます。
自己資本比率(全て資本に対する自己資本の割合)が低下するということもデットファイナンスのデメリットです。借り入れによって調達した資金は「他人資本」に分類されるため、資金力のない企業だと判断されてしまうことになります。これは周りの評価が低くなるだけでなく、融資審査や補助金・助成金の審査にも影響します。
以上のようなデットファイナンスのデメリットを総合的に見てもわかるように、財務面での安全性は高いとは言えません。借り入れ額が増えれば経営を圧迫してしまうことにもなりかねませんので、慎重に検討する必要があります。
- 返済しなければならない
- 利息がかかる
- 貸借対照表で「負債」扱いとなる
- 自己資本比率が低下する
- 財務面での安全性が低い
まとめ
デットファイナンスは企業にとって最も一般的であり、資金調達を行いやすい方法でもありますが「負債」となるため借り入れの際には慎重に検討を行う必要があります。
返済計画をしっかりと立てる、借り入れ条件を比較する、キャッシュフローが悪化してしまわないよう気をつけるなど、借り入れ前には審査だけでなく様々なことに気を配りましょう。
また、貸金業者の中には悪徳業者も存在しているため、借り入れ先の安全性についても事前にチェックするべきと言えます。