新型コロナウイルス感染症の拡大が続き、防止策や経済への支援策が打ち出されていますが、世界各国では景気は落ち込みその影響は留まるところを知りません。
そのような状況の中、世界各国では新型コロナウイルス感染拡大に伴う景気の減速に歯止めをかけるために金融緩和策に力を入れ始めました。
世界各国や日銀は、コロナショックとも呼べる現在の状況をどのような金融政策で乗り越えていくのでしょうか?
こちらの記事では、世界各国が行っている財政政策を紹介しながら、4月27日に日銀のコロナ支援として設けられた3つの追加緩和について紹介していきます。
新型コロナウイルス感染症の拡大で落ち込んだ経済のなかで、日銀が踏み切ったコロナ金融緩和策をみていきましょう。
コロナショックの中での各国の財政政策
新型コロナウイルス感染症が中国から世界各国に拡大し、今や米国を筆頭に、スペイン、イタリア、英国、ドイツなどは10万人を超える感染者数となっています。
世界経済的においてもその影響は大きく、IMF(国際通貨基金)が発表したWEO(世界経済見通し)では、世界経済の成長率は前年比のマイナス3%と言われ、1930年代の世界恐慌以来で最悪の景気後退になると予想されています。
このような、コロナショックとも呼べる世界恐慌以来の経済の落ち込みに対して、世界各国ではどのような財政緩和策をとっているのでしょうか?
次に、先進国と新興国が行っている財政政策について見ていきましょう。
先進国:資産の買い入れを軸に金融緩和策を強化
FRB(米連邦準備制度理事会)ではFF金利の誘導目標を2008年のリーマンショック以来となるゼロ金利政策の状態に戻しています。
また、量的金融緩和を再開して、米国国債と住宅ローン担保証券の無期限を買い入れ導入しました。
さらには、消費者ローンや中小企業向けの融資を担保とした資産担保証券を買い入れ、各国中央銀行に対する米ドルの資金供給拡大し、中小企業支援、州政府支援、社債購入など、緊急資金供給策などの様々な措置を打ち出しています。
その他の先進国となる英国、カナダ、オーストラリア、ニュージランドなどの主要の中央銀行では、ゼロ金利付近までの利下げを行い、後に自国国債を買い取るといった量的金融緩和に踏み込んでいます。
先進国では限界的な水準まで利下げを行ったあとに、資産の買い入れの拡大をすることで金融緩和策を強化し、政府への資金融通、金利上昇の制御などにつなげることで財政政策の効果を高めていくと考えられそうです。
新興国:利下げを軸にした財政政策
新興国では、主に利下げを軸としての金融緩和策を強化しているようです。
政策金利の水準が高い新興国では、当面の間は金利の引き下げを軸とした金融政策を中心として行い、その後は資産の買い入れなどの金融政策に取り組んでいくと考えられます。
金融緩和を強化した日銀
日銀では、資産の買い入れ拡大することを主とした金融緩和策を強化しています。
上場投資信託、不動産投資信託の買い入れのペースを当面は年間約12兆円、約1800億円を上限に積極的に買い入れることとしさらに、CP(コマーシャル・ペーパー)や社債等の買い入れも増額しています。
また、4月27日に開催した金融政策決定会合で日銀は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響が経済に深刻な影響を及ぼしているとして、追加の金融緩和に踏み切ることに決定しています。
日銀が踏み切った3つの追加の金融緩和
4月27日の午前に、日銀は金融政策決定会合を開催しています。
通暁であれば、2日間という時間をかけて行うとことを1日に短縮した形で行われました。
新型コロナウイルス感染症拡大で経済の影響がさらに深刻となった状況をみすえて、3月に続いて2回連続で追加緩和に踏み切ることに決定しています。
会合後の記者会見では、黒田東彦総裁は新型コロナウイルスの影響で苦しんでいる企業の資金や市場安定化のために「できることは何でもやる」と強調しています。
追加の金融緩和の中身としては、①コマーシャルペーパー(CP)や社債の買入増額、②新型コロナ対応金融支援特別オペ(以下、特別オペ)の拡充、③国債のさらなる積極的な買入れの3つです。
①コマーシャルペーパー(CP)や社債の買入増額
社債やコマーシャル・ペーパー(CP)の購入枠を買う大することが決まり、金融市場に大量の資金を供給できる資金を整えています。
これによって、金利の急激な上昇を抑えると同時に、社債などの購入を通して新型コロナウイルス感染症によって打撃を受けた企業の資金繰りを支援ししようとしています。
『CP・社債等の追加買入枠を大幅に拡大し、合計約20兆円の残高を上限に買入れを実施する1。あわせて、CP・社債等の発行体毎の買入限度を大幅に緩和するほか、買入対象とする社債等の残存期間を5年まで延長する』
出典:新型コロナウイルス感染症関連情報:日本銀行 Bank of Japan
◆一発行体当りの買入残高の上限を、これまでの1,000億円から、CP等は5,000億円、社債等は3,000億円に緩和する。
◆一発行体の総発行残高に占める日本銀行の保有割合の上限を、これまでの25%から、CP等は50%、社債等は30%に緩和する。
◆買入対象とする社債等の残存期間を、これまでの1年以上3年以下から、1年以上5年以下に延長する。
②新型コロナ対応金融支援特別オペの拡充
新型コロナ対応金融支援特別オペの拡充では、3月に導入、開始した新型コロナウイルス感染症にかかる企業金融支援特別オペについて、金融機関が企業を中心に幅広く民間部門に対して金融仲介機能をよりいっそう発揮できるようにするために、日銀はしっかり支援を行っていきます。
◆対象担保範囲の家計債務を含めた民間債務全般への拡大
対象担保:約8兆円→約23兆円(3月末)
◆対象先の拡大(新たに、系統会員金融機関等を含める)
◆本オペの利用残高に相当する当座預金への+0.1%の付利
上記の3つの措置の名称は「新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ」と改められました。
これに加えて、日銀として中小企業等の資金繰りをさらに支援するため、下記のような金融機関への新たな資金供給手段の検討を早急に行おうとしています。
①資金供給を受けられる金額
対象先の金融機関が、緊急経済対策における信用保証付き融資の保証料・利子減免制度を利用して行う貸出の状況等を踏まえて算出した金額。
対象とする貸出の範囲などについては、今後、検討する予定。
②資金供給の方法
全ての共通担保を担保とする貸付け。
③貸付利率
貸付利率はゼロ%。
④「マクロ加算残高」への加算措置
利用残高の2倍の金額を「マクロ加算残高」に加算する。
⑤当座預金への付利
利用残高に相当する当座預金へ+0.1%を付利する。
③国債のさらなる積極的な買入れ
追加の金融緩和策のひとつである国債については「年間80兆円をめど」としていた買い入れの上限を当面の間撤廃することにしています。
それによって、さらに低い金利でたっぷりとある資金を低金利で市場に供給することになります。
『債券市場の流動性が低下しているもとで、政府の緊急経済対策により国債発行が増加することの影響も踏まえ、債券市場の安定を維持し、イールドカーブ全体を低位で安定させる観点から、当面、長期国債、短期国債ともに、さらに積極的な買入れを行う』
出典:新型コロナウイルス感染症関連情報:日本銀行 Bank of Japan
日銀の今後の景気予測
日銀は今後の景気予想として、今年度の経済成長率をマイナス3%程度~マイナス5%程度、またはリーマンショックの影響を受けた2008年度のマイナス3.4%と同じ程度、さらにはそれ以上の大きな落ち込みとなると予想しています。
このような新型コロナウイルス感染症の対応として、世界各国の中央銀行では今までにない金融緩和を打ち出しており、FRB(連邦準備制度理事会)では国債などを制限なく買い入れる量的緩和策を続けています。
日銀でも、政府が国債の新規発行を増やして行う大規模な経済対策に乗り出すことと連動する形で、追加の金融緩和で政策を全力で行う姿勢を打ち出しました。
◆西村経済再生担当大臣
「今回の日銀の措置は、政府の緊急経済対策における資金繰り支援策を日銀の立場から、さらにしっかり支えてもらえるものだと評価している。政府・日銀のまさにポリシーミックス、政策の組み合わせを強化するものだ」
「日本経済を早期に回復させるべく、引き続き政府・日銀の間で危機感を共有し緊密に連携をしていく」
日銀の追加緩和策を受けての株価上場
日銀の追加緩和策の発表を受けて、日経平均株価および九州地銀の株価や全銘柄が上昇しています。
日経平均株価の年初来の前日比上昇率順位表をみると、新型コロナウイルス感染症の影響が続くなか、4月が5回トップテンに入っています。
これらからも、政府や日銀の精一杯の努力が見て取れます。
また、九州地銀については、27日の株価では、ふくおかFG、九州FG、大分銀行、宮崎銀行の株価が20年3月期末の株価を上回っているのも注目したい部分です。
このように日経株価は上昇していますが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響はこの先も続くとみられており、日経平均株価は乱高下することからは避けられないのかも知れません。
今後も新型コロナウイルス感染症の影響が長く続くと予想されますので、中小企業のみならず、上場企業においても苦境に立たされる企業が増えてくるのではないでしょうか?
まとめ
新型コロナウイルス感染症拡大に対する各国の財政対策の紹介と同時に、日銀が打ち出した3つの追加緩和策について詳しく解説しました。
日銀の黒田総裁は新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえて、「できることは何でもやる」として、3つの追加緩和策を示しています。
また、5月7日に公表された市中に出回る現金と金融機関が日銀に預ける当座預金を合わせたマネタリーベース(資金供給量)の4月末の残高が、2019年6月末以来10カ月ぶりに過去最高を更新しました。
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って、緊急事態宣言も5月31日までに延長となり、経済の低迷が続くと思われますが、日銀は追加の金融緩和策をかかげて今の危機を乗り超えようとしています。