
企業経営において、資金繰りは起業準備だけでなく、事業が軌道に乗った後でも常に考えなくてはならない課題です。
順調に企業経営を行っていても、不測の事態が生じ急な資金調達が必要になる場合も発生します。
ビジネスローンは、銀行借り入れに比べて審査のスピードが速く、申し込んでから早ければ即日で融資を受けることができます。
そのため、短期的な資金需要に適した資金調達手段であるといえます。
しかし、ほとんどのビジネスローンの審査では、「業歴が2年以上」という条件が設けられています。
そのため、業歴が1年未満の企業は、ビジネスローンで資金調達をすることが難しいです。
そこで本記事では、ジネスローンの審査において、なぜ「業歴2年以上」という条件が課せられているのか、業歴が浅い企業が活用できる3つの資金調達手段を紹介していきます。
企業経営における資金調達の重要性
起業にあたり、まとまった額の資金が必要になります。
起業準備のために設備や備品などを準備するためには、予め一定額の自己資本を準備しつつも、残りを融資などの借り入れに頼る形が一般的です。
また、起業後に事業が軌道に乗った段階になっても、企業経営において資金繰りは重要な課題です。
仮に売上が順調に増加していても、費用の支払いに売上債権の回収が追い付かないと、一時的にキャッシュが足りなくなり、急な資金調達が必要になる場合もあります。
このように、一時的に運転資金が必要になる場合にビジネスローンを検討されている事業主も多いのではないでしょうか?
ビジネスローンは業歴1年未満では使いにくい
ビジネスローンは、業歴が1年未満の企業にとっては、あまり有効な資金調達手段ではありません。
以下では、その理由について説明していきます。
ビジネスローンの概要
まず、ビジネスローンがどのような資金調達手段であるのか、簡単に説明します。
ビジネスローンは、企業や個人事業主の事業運営を目的とした無担保ローンです。
銀行、信用金庫ほか、ノンバンク(消費者金融やクレジットカード会社など)で広く取り扱っています。
個人向けローンと異なり、事業運営に必要な資金の借り入れのため、総量規制である「年収の1/3」以上の金額を借り入れることができます。
資金使途は「事業用」として限定されていますが、事業に用いる為であれば、運転資金や事業拡大、設備投資など幅広い用途に利用することができます。
審査は「スコアリング方式」で行われるため、早ければ申し込んだ即日に融資を受けることができます。
スコアリング方式では、決算書情報を中心とした企業の情報を、統計的モデルに基づいた一定のロジックに読み込ませます。
そして企業の信用度を点数化(スコアリング化)して審査を行います。
融資と異なり審査が機械的に行われるため、審査が簡易である分、銀行融資よりも借入金利が高め(5%~15%)に設定されています。
ビジネスローンの審査の特徴
ビジネスローンの概要を理解したところで、ビジネスローンの審査における特徴について確認しましょう。
審査では、主に下記の3つの点が重視されます。
①業歴が2年以上あること
②事業内容に将来性があること
③業績や財務状態が健全であること
それぞれについて、詳しく説明していきます。
①業歴が2年以上あること
ビジネスローンの審査では、業歴が重要視されます。
これは、ビジネスローンが「事業用」資金を対象にしており、企業の「事業継続性」を重視しているためです。業歴が短い企業は、事業継続性の有無が評価できず、リスクがあるとみなされます。
銀行系のビジネスローンの審査では、大抵2年以上の業歴が求められます。
ノンバンク系のビジネスローンでも、1年以上の業歴が審査の条件になっています。
②事業内容に将来性があること
事業内容に将来性があるかどうかも重要な項目です。
事業計画書を作成する際には、以下の点に注意しましょう。
・企業理念や自社の強みが明確になっているか。
・企業の略歴や事業内容が具体的か。またターゲットとする市場が明記されているか。
・仕入れ先や販売先を具体的に記載しているか。
③業績や財務状況が健全であること
審査では、複数年度分の決算書類(法人概況説明書、貸借対照表、損益計算書、製造原価報告書など)の提出が求められます。
提出された決算書類をスコアリンスシステムに読み込ませ、融資の可否や融資額を決定します。
スコアリングでは、下記がポイントになります。
・返済を十分にまかなえる売り上げや利益を実現しているか。
・財務の内容に問題が無いか。例えば、流動比率や自己資本比率などの安全性指標は一定水準に達しているか。
・過去年度に比べて業績の低下や財務状況の悪化が生じているか。低水準の経営指標があった場合、改善の材料はあるか。
業歴1年未満では審査に通りにくい
審査の特徴から言えることは、ビジネスローンの審査においては企業の実績が重視されていることです。
「実績が少なくても企業理念や将来計画が魅力的であれば審査を通るのではないか」と考える事業主の方もいらっしゃると思います。
しかし、業歴が浅いことは企業運営の実績が乏しいことを意味しており、将来の返済リスクが高いとみなされます。
また業歴が浅いと、販売先や仕入れ先と中長期的な関係構築を築くまでに至っていません。そのため、優良企業との取引実績があったとしても、今後のビジネスでも継続できるのか不安が残ります。
決算書類についても、業歴が1年未満では本決算を経ていないことから、数字に厚みがありません。
また、過去年度との業績や財務状況の比較ができないため、仮に今期の業績が好調だったとしても、将来的に業績の伸びが継続されるか判断が難しくなります。
このように、スコアリング審査では実績を重視しているため、業歴が少なく実績が乏しい企業は、スコアリングで低評価になってしまいます。
創業したての企業が活用できる3つの資金調達手段
一方で、実績は乏しくても、他社と差別化できる優れた技術やアイディアを持つ企業も確かに存在します。
そうした企業は、将来的に成長する可能性を秘めているにも関わらず、ビジネスローンのスコアリングが低く出てしまい資金調達が厳しくなります。
創業したてで業歴が少ない企業が資金調達を行うためには、どのような手段があるのでしょうか。以下では、そうした企業が活用できる主な資金調達手段を3つ説明していきます。
日本政策金融公庫の「新創業融資制度」
1つ目は、日本政策金融公庫による融資です。
日本政策金融公庫は、中小企業等の支援を目的とした政府系金融機関です。
日本政策金融公庫には、多くの融資制度がありますが、新たに事業を始める事業主や、起業して間もない企業を対象とした融資制度としては「新創業融資制度」があります。
新創業融資制度には、次の3つの特徴があります。
①最大3,000万円が無担保・連帯保証人不要で融資可能
新創業融資制度では、最大3,000万円まで、無担保で融資を受けることができます。加えて、ビジネスローンで行われるような、経営者本人が連帯保証人となることも不要です。
②融資実行までのスピードが速い
新創業融資制度では、申込みから融資実行までに1ヶ月程度と、融資実行までの期間が短くて済みます。急な支払いや、ビジネスチャンスをつかむための投資などにも対応できます。
③自己資金割合の要件が緩い
一般的に融資の審査においては、企業の安全性評価のため、一定以上の自己資金割合が必要になります。
※自己資金割合 = 自己資金 ÷ 創業資金(=事業全体で必要な資金)
新創業融資制度では1/10以上の自己資金割合が条件になっており、民間や地方自治体からの借り入れに比べると少ない自己資金で融資を受けることができます。
地方自治体の制度融資制度
2つ目は、地方自治体の制度融資制度です。
制度融資制度では、各地方自治体と信用保証協会が連携し、個人事業主や中小企業が融資を受けやすい仕組みを提供しています。
民間金融機関の貸し付けに対し、信用保証協会が信用保証を付けることで、中小企業や業歴が短い企業も借りやすくなっています。
信用保証協会は、日本全国に52(各都道府県に47ほか、横浜、川崎、名古屋、岐阜、大阪の5都市)展開しているため、お住いの地域で利用することができます。
借入金額の上限は3,000万円、借入金利は2.1%~2.7%と、好条件での借り入れが可能です。返済方法も、運転資金では7年以内、設備資金では10年以内の分割返済が可能です。
借り手にとって非常に魅力的ですが、以下のようにデメリットもあります。
まず、申請から融資まで2か月程度と長い期間が掛かります。これは、金融機関に加えて地方自治体や信用保証協会の審査が発生するためです。
また、自己資金要件が厳しく、1/2(50%)と、新創業融資制度よりも厳しくなっています。
不動産担保ローン
3つ目は、不動産担保ローンです。
不動産担保ローンには、個人向けの不動産担保ローン、法人(個人事業主)向けの不動産担保ローンの2種類があります。法人(個人事業主)向けの不動産担保ローンは、事業資金として様々な用途に利用することができます。
審査期間は1週間程度と、ビジネスローンよりも時間が掛かりますが、前述の2つの融資よりもずっと早く済みます。
不動産担保ローンは「不動産担保」により貸し倒れリスクを抑えています。
そのため、不動産の担保価値が評価されれば、業歴が1年未満の企業でも借り入れが可能です。
加えて長期ローンの借り入れも可能であり、最大で35年ローンを組むこともできます。機械設備の購入資金など、長期の資金調達方法としても活用できます。
逆に、審査が甘いことは、ローン返済が滞った際に担保不動産が売却されるリスクも高いことを意味しています。
上述の2つの融資では、厳しい審査が行われますが、審査過程での金融機関とのやり取りによって企業経営が改善される効果もあります。
そうした効果が期待できない以上、ローンの活用にあたっては確実な返済計画と慎重な対応が求められます。
お勧めの資金調達手段
これまで、創業したての事業主が利用できる3つの資金調達手段を説明してきました。
さまざまな条件を考慮すると、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」が一番のお勧めです。
ただし、融資限度額が3,000万円となっているため、多額の資金が必要になる場合は、制度融資制度との併用を検討することも一案です。
不動産担保ローンは、借入は容易であり、長期的な資金調達も可能です。
しかし、これは不動産の評価によるものです。
ローン返済が滞った場合には、担保不動産が売却され企業運営が大きな打撃を受けてしまうリスクもあるため、安易な活用は避けるべきです。
まとめ
ビジネスローンは、審査がスコアリングによって行われるため、申し込んでから早ければ即日で融資を受けることができます。
しかし、スコアリングでは、「業歴」や「決算書」など実績が重視されるため、業歴1年未満の企業には向かない資金調達手段です。
そこで本記事では、業歴が1年未満の企業が利用できる3つの資金調達手段を紹介しました。
・日本政策金融公庫の「新創業融資制度」
・地方自治体の制度融資制度
・不動産担保ローン
3つの資金調達手段のうち最もお勧めなのは、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」です。
しかし、借入の上限額が3,000万円となっているため、上限を超える資金が必要な場合、地方自治体の制度融資制度の併用をお勧めします。
不動産担保ローンは、担保不動産の価値が重視されるため、企業業績や財務状況に多少問題があってもローンを受けることができます。
一方で、返済不能になった場合は担保不動産が清算されるため、リスクは高いといえます。
確実な返済計画の下での慎重な対応が求められるでしょう。