
債権を早期に現金化して資金調達したい。そう考えた時に思い浮かべるのが「ファクタリング」や「手形割引」ではないでしょうか?
ファクタリングと手形割引は「債権の現金化を早める」という共通点があるため、同じようなものと思われがちですが、実は全く異なるものです。
売掛金を現金化する「ファクタリング」、受取手形を現金化する「手形割引」、この2つの違いについてこの記事では詳しく解説していきます。
日常生活では商品を買う時に代金を支払えばよく、売掛債権(後で商品の代金を受取ることが出来る権利)は発生しません。しかし、企業間の取引ともなると取引の度に現金を使うというケースはほとんどありません。多くの場合、一定期間に発生した代金を売掛金や受取手形として、後で契約で決めた期日に代金をまとめて支払います。
つまり、基本的に企業間の取引では売掛債権が伴うのです。売掛金も受取手形も同じ売掛債権ですが、その性質は異なっています。
ファクタリングは売掛金を現金化するもの
ファクタリングとは、売掛債権の中でも「売掛金」をファクタリング会社に買い取ってもらい早期に現金化するという資金調達法のことです。
【売掛金】掛取引で商品を販売した際、商品の代金を受け取ることができる権利のこと。
掛取引では「商品代金を○ヶ月後に払いますよ」という契約に基づき、決められた期日に代金が支払われます。このように、売掛金は後で代金をもらうことが出来るというものですが、売掛金は現金ではないため資金として使うことはできません。
そのため、経営状況によっては支払われるまでの間の資金が不足してしまうということが起こります。会社が黒字なのに倒産してしまうという黒字倒産が起こるのも、「売掛金はあるものの手元に使える現金がない」という状態に陥ってしまうためです。
そこで、より早く売掛金を現金として運用できるようにするためファクタリングという方法を使うのです。
手形割引は受取手形を現金化するもの
対して、手形割引とは支払い期日が来ていない「受取手形」を銀行などの金融機関や手形割引会社に換金してもらい早期に現金化するという資金調達法です。
【受取手形】掛取引で商品を販売した際、商品の代金を受け取ることができる権利のことで、更に手形を保有している場合のこと。
このように、同じ売掛債権でも売掛金と受取手形が違うのは、手形があるかないかということです。
売掛金と受取手形の違い
売掛金を現金化するならファクタリングという方法で、受取手形を現金化するなら手形割引という方法を行いますが、そもそも「売掛金」と「受取手形」には一体どんな違いがあるのでしょうか?
- 売掛金…信用に基づく取引
- 手形割引…法律に基づく取引
売掛金には法律上の強制力がない
売掛金は、「仕入れた商品の代金は来月払うからツケておいてね」という取引先との信用に基づいたものです。ここで注意しないといけないのが、売掛金は約束通り支払われないかもしれないというリスクがあるということです。もしも取引先が倒産してしまったり、資金繰りに失敗してしまった場合は代金を受け取れないという場合があるのです。
売掛金は法律上の強制力はなく、あくまでも2社間の契約なので、もしも代金が支払われなかった場合は裁判を行い、確定判決が出なくては協定席に代金を支払わせることができません。つまり、売掛金は確実に支払われるという保証はどこにもないということです。
信用ある取引先だったとしても支払い日の延期を要求されるということもありえます。取引先の方が自社よりも上という関係性だった場合には延期を拒否することも難しいでしょう。そうなると運用出来る現金が手に入るのは先になってしまい、経営が苦しくなります。資金に余裕が無い会社ほど売掛金をしっかり回収することが大切になるのです。
受取手形には法律上の強制力がある
受取手形には売掛金とは違って、法律上の強制力があります。不渡りになった場合、不渡り処分として全金融機関にその旨が通知されます。そして、6ヶ月以内にの2度の不渡りを出すと銀行との取引が停止となり当座預金取引や融資を受けることが2年間できなくなるなど、厳しい罰則があります。
【不渡り】手形・小切手の支払い期日を過ぎても債務者(代金を払うべき会社)から債権者(代金を受取る権利のある会社)に支払われないこと。
このように、期日までに代金を支払わなかったら罰則がある受取手形は取引先からきちんと現金を回収することが出来る可能性が極めて高いのです。
ファクタリングと手形割引の違い
以上のように、売掛金と受取手形は性質が異なる債権です。そのため、現金化するための方法も異なっています。
売掛金を保有している場合はファクタリング、受取手形を保有している場合は手形割引で資金調達を行います。
1、信頼度の違い
まず、ファクタリングと手形割引では行っている企業の信頼度が違います。結論から言うと、より信頼度が高いのは「手形割引業者」です。
- ファクタリング…売掛金の「売買」
- 手形割引…受取手形を担保にした「融資」
同じく売掛債権を早期に現金化するというファクタリングと手形割引ですがファクタリングはただ単に売掛金の売買に過ぎないのに対し、手形割引は受取手形を担保にした融資となっています。融資である手形割引は貸金業法によって規制がされているのです。
以下のように貸金業法にもしっかり「手形の割引」と記載されています。
貸金業法 第二条
この法律において「貸金業」とは、金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は当該方法によつ てする金銭の授受の媒介を含む。以下これらを総称して単に「貸付け」という。)で業と して行うものをいう。
貸金業法によって規制されている手形割引(融資)と、貸金業法で規制されていないファクタリング(売買)では当然違いもあります。
貸金業者登録 | 利息・手数料 | |
---|---|---|
手形割引 | 必要 | 利息制限法の範囲内でしか利息の設定ができない |
ファクタリング | 不要 | 利息制限法とは無関係に手数料の設定ができる |
このように、貸金業法という法律で規制されている手形割引はファクタリングに比べて信頼度が高くなるのです。
2、手数料の違い
ファクタリングと手形割引では手数料も大きく異なります。信頼度が高く、代金の支払いについて法律上の強制力もある手形割引は一般的にファクタリングよりも手数料が安くなります。
資金調達の方法 | 手数料 |
---|---|
2社間ファクタリング | 10%~20% |
3社間ファクタリング | 1%~5% |
手形割引(銀行) | 1.5~5.0% |
手形割引(手形割引業者) | 3.0%~15.0% |
2社間ファクタリングとは利用会社とファクタリング会社の2社間で行うファクタリングのことで、取引先に知られることなくファクタリングが行えますが、その性質上どうしても手数料が高くなります。
3社間ファクタリングは利用会社、ファクタリング会社、取引先の3社間で契約が交わされるファクタリングで、ファクタリング会社が追うリスクが減るため2社間ファクタリングよりも手数料が低くなっています。
3、償還請求権の違い
ファクタリングの場合、基本的には償還請求権のないノンリコース(中には償還請求権があるウィズリコースというファクタリングもあるので契約の際には注意)ですが、手形割引の場合は原則として償還請求権が存在します。
【償還請求権】何らかの理由で売掛先から売掛債権が回収できなかった場合、売掛債権を買い取った企業(ファクタリング会社や手形割引会社、銀行など)が売掛債権を販売した企業に対して支払いを請求することが出来る権利のこと。
つまり、償還請求権のないファクタリングの場合は万が一、売掛先から売掛債権を回収できなかった場合にも利用会社が責任を取る必要はないということです。
一方、償還請求権のある手形割引の場合は、回収できず不渡りになってしまった場合は利用会社が責任を取って手形を買い戻さなくてはいけなくなってしまうのです。
このように、リスク回避の面で見るとファクタリングの方が優れている部分もあります。
4、審査の違い
前述の通り、融資である手形割引と売買であるファクタリングとでは審査も異なり、手形割引の方がファクタリングよりも厳しい審査基準を設けています。
- 起業したばかり
- 債務超過
- 赤字決算
- 税金未納
このような状態では手形割引の審査は通らない場合もあります。なぜなら、不渡りが出てしまった時には受取手形を買い戻す必要があるのに、その力がないようでは融資しても損をしてしまう可能性がありますよね。だからこそ手形割引は利用会社の経営状況が審査に大きく影響するのです。
一方、ファクタリングの場合は利用会社よりも売掛先の信頼度が重視されます。ファクタリング会社は売掛金を利用会社ではなく売掛先から回収することになるため、利用会社の信頼度が低くても売掛先の信頼度が高ければ何の問題もなく売掛金を買い取ることが出来るのです。
そのため、手形割引では審査が通らなかった場合でもファクタリングなら審査が通る場合があるのです。銀行の融資を断られてしまった、手形割引の審査に落ちてしまったという企業がファクタリングを利用しているという場合も少なくありません。
5、決算書に与える影響の違い
ファクタリングと手形割引では決算書に与える影響も異なります。勘定科目ではファクタリングは「売掛金」に、手形割引は「受取手形」となります。
そして、貸借対照表では資産として計上するはずの売掛金や受取手形はマイナスとなり、手数料を差し引いた分が現金として増加します。ここまではファクタリングも手形割引も同じです。
【貸借対照表】決算日の時点で、その会社の資産と負債、そしてその差額から純資産を一覧表示した報告書のこと。その会社の財政状態を表している。
ファクタリングを利用したことは貸借対照表に記載する必要はありません。
しかし、手形割引の場合は「受取手形割引額」と「受取手形裏書譲渡度額」を貸借対照表に注記しなくてはならないのです。
ということはつまり、手形割引を利用しているということは貸借対照表を見れば一目瞭然ということです。事業規模と比較した時にあまりにも手形割引が多すぎると、銀行に融資を受ける際の審査ではマイナス要因となってしまいます。
手数料は高くなってしまったとしても貸借対照表の見栄えを良くしたいという場合には、記載の必要がないファクタリングの方がメリットがあるといえます。
まとめ
以上、ファクタリングと手形割引についてご説明いたしました。
法律上の強制力のない売掛金を現金化するファクタリングと、法律上の強制力のある受取手形を現金化する手形割引。似ているようでかなり違うということがおわかりいただけたのではないでしょうか。
- 償還請求権の有無
- 手数料
- 信頼度
- 審査
- 決算書に与える影響
以上のような5つの違いを踏まえた上で、どちらを選択するのかの参考にしていただければと思います。
委託販売のような会社は資金繰りが安定しているとされています。これはなぜかというと、販売した分の代金のみを仕入先に支払うようにする仕組みなら売上代金から仕入れ代金を支払うことが出来るためです。
このようにキャッシュインを早くし、キャッシュアウトを遅くすれば安定した資金繰りが可能になります。
ファクタリングや手形割引を利用すればキャッシュインを早めることができるため、上手く活用することでキャッシュフローを改善していくことが出来るでしょう。資金回転効率、事業拡大などスピード感のある企業経営という観点から見ればファクタリングや手形割引はとても重要な手法なのです。