
美容室を開業するにあたり、まず考える必要があるのが「お金」のことではないでしょうか。
いったい美容院の開業にはどのくらいのお金がかかるのでしょうか?
また、資金が足りない場合には、助成金や補助金を申請するという選択肢があります。このような申請にはどのような手続きが必要なのでしょうか?
今回は美容室を開業するときに活用できる助成金・補助金の以下5つの項目を紹介していきます。
①地域雇用開発助成金
②キャリアアップ助成金 正社員化コース
③創業・事業承継補助金
④IT導入補助金
⑤小規模事業者持続化補助金
①地域雇用開発助成金
地域によっては求人の少ないところもあります。
そういった地域で起業をして条件を満たした事業主に助成金を支給する制度です。
雇用するスタッフ数、開業時にかかった費用などによって助成金の金額が変わり、申請書を複数枚作成する手間も必要になります。
概要
この助成金は、最高上記金額の3倍の助成金が得られる事から、金額的にも魅力の助成金ですが、実は、計画提出から完了届までの期間が最大18ヶ月設定されており、その間に実施状況を確認して、時期を自分で選んで、助成金を請求することが出来ます。
また、費用に付いては、1項目20万円以上のものであれば、工事費用、購入費用、賃貸費用等を合算して提出することが出来ます。
但し、対象労働者に付いては、地域規定、公募規定、無期雇用規定、当初から雇用保険加入者である事など、厳しいルールが設定されています。
正直、審査は細かい所まで裏付け資料を要求されるなど、厳しいものが有りますが、ポイントさえ間違わなければ、問題ありません。
何と言っても、魅力的な助成金ですので、チャンスがあればチャレンジしたい助成金です。
助成金の受給額
〇1年毎の助成金支給額
事業展開に要した費用と新規に雇用した人数により
48万円から960円 が3回支給可能です。
つまり144万円から2880万円という高額助成金です。
申請方法
⑴「計画書」を管轄労働局長に提出する。創業の場合には併せて「創業計画認定申請書」の提出が必要です。
⑵最長18か月の計画期間内に地域の雇用拡大のために必要な300万円以上の事業所の設置・整備を実施
⑶要件を満たす労働者を雇い入れ、従業員を3人(創業の場合は2人)以上増加させる
⑷「完了届(第1回支給申請書)」を管轄労働局長に提出する
⑸1年間被保険者数の維持、対象労働者数の維持、対象労働者の定着を行う
⑹「第2回支給申請書」を管轄労働局長に提出する
⑺1年間被保険者数の維持、対象労働者数の維持、対象労働者の定着を行う
「第3回支給申請書」を管轄労働局長に提出する
提出する計画書の書き方と注意点
計画書を作成するにあたり、
・申請事業主の全ての事業所数
・資本の額または出資の総額
・常時雇用する労働者の数
などを正確に記載する必要があります。
助成金に関わる設置・整備を行う主な施設・設備の具体的内容やそれぞれに要する費用を記入する欄がありますが、対象となる経費には、工事費・購入費・賃借費などがあります。
それぞれの契約については支払額が、20万円以上であることが必要です。
商品や賃貸用施設など、収入に関わるものは経費として認められません。また、事業主の自宅は対象外となります。
計画書の内容に変更などがあった場合は、変更届または取下げ届の提出が必要です、実施内容と計画に相違があった場合には、受給できなくなる可能性があります。
②キャリアアップ助成金 正社員化コース
アルバイトやパート、契約社員などの正社員ではない従業員を、正社員として雇用したり待遇の改善などを行うことで利用できます。
簡単にいえば、6ヶ月以上の雇用実績があるパートさんや契約社員を正社員にし、さらに6ヶ月継続して雇用すると、キャリアアップ助成金正社員化コースの助成金をもらうことができます。
正社員化コースや人材育成コース、処遇改善コースなど、3種類に分かれているのが特徴です。
美容師は勉強の期間も非常に長いため、ほとんどのお店で適用できる制度でしょう。
キャリアアップ助成金の正社員化コース
キャリアアップ助成金の中にも色々なコースがありますが、「正社員化コース」は特に人気の高い制度です。
その人気の秘密は、①申請し易い、②受給額が大きい、といったことが言えるでしょう。
6か月以上雇用しているパート、アルバイト社員を含めた有期契約の社員を正社員に転換し、さらに6か月雇用すると、助成金の支給申請が行えます。
(ただし、平成30年4月1以降に転換する場合、転換前の雇用された期間が3年以下の場合に限る予定です。)助成額は1人あたり57万円。
つまり、有期契約6か月→正社員に転換し6か月→57万円、ということです。
受給までの流れ
申請前の準備から助成金受給までの流れは以下の通りです。
⑴キャリアップ計画書の作成・提出と管理者の配置
↓
⑵新しいスタッフの雇い入れ
↓
⑶入社6か月後に面談・試験などを実施
↓
⑷その後正社員雇用などに転換
↓
⑸正社員として6か月雇用
↓
⑹助成金の支給申請
↓
⑺助成金受給
なお、助成金が受給できるのは、計画書の作成・提出から通常1年後となります。
受給条件
受給の条件は、
「雇用保険適用事業所の事業主である」
「キャリアアップ管理者を置いている事業主である」
「対象労働者に対し、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主である」
「キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主である」
などさまざまあります。
受給額
⑴有期 → 正規 | 1人当たり60万円(45万円) |
⑵有期 → 無期 | 1人当たり30万円(22.5万円) |
⑶無期 → 正規 | 1人当たり30万円(22.5万円) |
⑷有期 → 多様な正社員 | 1人当たり40万円(30万円) |
⑸無期 → 多様な正社員 | 1人当たり10万円(7.5万円) |
⑹多様な正社員 → 正規 | 1人当たり20万円(15万円) |
③創業・事業承継補助金
創業・事業承継補助金とは、後継することが難しいあるいは廃業するリスクの高い事業者に対して、事業の承継支援を行う目的の補助金です。
現経営者の高齢化に伴い、事業の継承が困難、世代交代ができないなどをきっかけに、経営革新・事業転換を図る場合もこの創業・事業承継補助金を受け取ることができます。
事業所の廃止の有無にかかわらず、事業を継承していく場合に100万円以上の補助金が出ることが魅力となっています。
創業補助金の対象者
・新たに創業する者であること
・みなし大企業でないこと
・個人の場合、日本国内に居住し、日本国内で事業を興す者であること
・事業実施完了日までに、新たに1名以上雇い入れること
・産業競争力強化法に基づく認定市区町村における創業であること
・産業競争力強化法に基づく認定市区町村または認定連携創業支援事業者から同法第2条第25項に基づく認定特定創業支援事業を受ける者であること
・訴訟や法令順守上の問題を抱えている者ではないこと
・反社会的勢力との関係を有せず、反社会的勢力から出資等の資金提供を受けていないこと
個人事業主であっても補助金を受給する際には、1名以上の従業員が必要となることに注意しなければなりません。
創業補助金の申請方法
⑴応募書類をダウンロードし、創業・事業承継補助金事務局に郵送または電子申請を行う
⑵採択審査の結果通知
⑶交付申請書の提出
⑷事業の開始
⑸事業状況のチェック
⑹事業内容と経費の報告
⑺補助金の交付
創業補助金の申請にあたっては、事業計画や創業形態(個人事業、法人など)、収支・資金計画、年間スケジュールなどを記載した事業計画書の提出が必要となります。
選考は、資格要件等及び事業内容等の審査を踏まえ、地域審査会により行われます。
④IT導入補助金
美容室だからITは不要、という考えは少し古いかもしれません。
お客様に渡す雑誌もWi-Fi環境でiPadという形で渡す美容室もあります。
最新の髪型をインスタにアップして集客を試みることもできますし、複数店舗があれば各店の売上をイントラネット(店同士を独自の回線でつなぐイメージ)でつなげて報告時間を短縮することもできます。
概要
補助金は国の予算によって決められます。
既出の創業・事業承継補助金は2018年後では50億円でした。
一方IT導入補助金の2018年度の予算は500億円とされています。
会社の数が違うので一概にはいえないのですが、IT導入に関する補助金の高さは時代の潮流ともいえるでしょう。
平成30年度の支給上限額は50万円で、補助率は1/2までとなっています。
IT導入補助金というのは業務の効率化、新規顧客の開拓、売上げの向上などにITサービスを導入して生産性の向上を図る、購入費用・導入費用の一部を国から補助するためのものです。
IT導入にはクラウドサービスなども含めて費用がかかります。
コスト高にあえぐ事業主にとって、元の予算が高く補助を受けやすい制度がIT導入補助金と言えます。
美容室・サロンで対象となる導入例
・ホームページ作成費用
・予約ソフトやPOSレジシステムの導入
・財務管理システムなどの導入
ITツールを導入するための補助金です。
登録されているITツールの中から選ぶ必要があります。
⑤小規模事業者持続化補助金
美容室・サロンなどで最も受けやすく大変人気のある補助金です。
補助金の対象者
・卸売業・小売業:常時使用する従業員の数5人以下
・サービス業(宿泊業・娯楽業以外):常時使用する従業員の数5人以下
・サービス業のうち宿泊業・娯楽業:常時使用する従業員の数20人以下
・製造業その他:常時使用する従業員の数 20人以下
小規模事業者持続化補助金については、従業員5人以下の事業者が半数以上になるように採択する方針が明らかにされています。
そのため従業員5人以下の事業者の方が、申請については優位といえそうです。
受給できる条件
〇申請にあたっては、地域の商工会議所へすべての事業者が「事業支援計画書」を、代表者が60歳以上の場合には「事業承継診断票」も併せて作成・交付を依頼すること
〇事業内容が策定した「経営計画」に基づいて実施する、地道な販路開拓等のための取組であること
あるいは、販路開拓等の取組とあわせて行う業務効率化(生産性向上)のための取組であること ・商工会議所の支援を受けながら取り組む事業であること(商工会議所の助言、指導、融資斡旋等の支援を受けながら事業を実施)
〇同一内容の事業について、国(JETRO等の独立行政法人等を含む)が助成する他の制度(補助金、委託費等)を利用していないこと
〇本事業の完了後、概ね1年以内に売上げにつながることが見込まれること
〇射幸心をそそるおそれのない事業内容であること
〇買物弱者対策に取り組む場合には、補助事業期間終了後5年以上継続する事業であること
支給額
補助率は補助対象経費の2/3以内です。補助上限額は50万円で、75万円以上の補助対象となる事業費に対しては、50万円が支給されます。
75万円に満たない場合には、補助対象経費の2/3の金額となります。
ただし次のいずれかの事業の場合には、100万円を上限として補助されます。
・従業員の賃金を引き上げる取組
・買物弱者対策に取り組む事業
・海外展開に取り組む事業
150万円以上の補助対象となる経費に対しては100万円の補助、150万円未満では2/3の補助となります。
申請方法
⑴経営計画書と補助事業計画書を作成する
⑵商工会もしくは商工会議所へ事業支援計画書の作成・交付を依頼する
⑶商工会もしくは商工会議所へ申請書類一式を送付する
⑷申請についての審査が行われ、採択の可否が通知される
⑸経営計画に従って販路開拓などの取り組みを実施する
⑹実績報告書の提出
⑺商工会もしくは商工会議所により報告書の確認が行われる
⑻補助金の請求を行う
⑼補助金を受領する
注意点
小規模事業者持続化補助金の受給申請をする場合には、次の点に注意が必要です。
・補助金はおよそ1年後に後払いされる
・申請受付の締め切りまで余裕をもって申請する
・審査は書面のみで行われる
・他の補助金との重複はできない
補助金が実際に支給されるのは、申請開始からおよそ1年後となります。
それまではすべてを自己資金で賄わなければなりません。
キャッシュフローで問題が起きないよう、資金計画は万全にしておかなければ、受給前に事業がとん挫することになりかねません。
申請書類を送付する前に経営計画を持参し、商工会か商工会議所のアドバイスを受け、印鑑をもらう必要があります。
持参した当日には完了しないため、余裕をもって行動しないと募集期間内に間に合わない可能性が出てきます。
事業支援計画書の作成・交付依頼は、1~2週間前を目途に行うといいと思います。
また、審査は書面のみで面談はありません。熱意をアピールできるのは、書類だけとなります。
申請書類は不備なく作成し、説得力のある内容となるよう心がけてください。
まとめ
いかがだったでしょうか?
美容室開業に関する助成金などの資金調達方法は、今回紹介しなかった融資などもあり、多岐にわたります。
中小企業の多い美容業界ですが、大企業に比べハードルが低く受給額も多い傾向にあります。
しかし、助成金や補助金に関する書類の作成や申請手続きなど負担の多いのも事実です。
経営だけをおこなっていれば良いのですが、ほとんどのオーナーはサロンワークもおこなっていることが多いです。
助成金・補助金を利用し、自己資金の不足を補うようにしましょう。
審査の際は、美容師としての経験も重視されるので、経営者としての将来のプランニングをしっかりと行いながら、資金調達を進めていくことが大切です。