
中小企業への銀行融資は『経営者の連帯保証が必須』というのが今なお続いている現状です。代表者が何らかの理由で会社を退職した場合でも、原則として代表者は法人が借り入れた融資の連帯保証人からは外れる事が出来ません。
・法人への融資なのに経営者が連帯保証人にならなければいけないの?
・会社が倒産した後に借金を肩代わりするのは困る
・個人保証を外して銀行から融資を受ける方法はないのか?
このように考えている経営者の方は非常に多いかと思います。一昔前は中小企業の経営者は連帯保証しなければ銀行から借り入れする事が出来ないのが実情でしたが、最近はそうではありません。
一般的にはまだ中小企業の経営者による連帯保証は必須であるケースが多いのですが、経営者による連帯保証をつけずに借入を行える事例も増えています。銀行融資の個人保証を外す方法と、保証人が全く必要ない資金調達方法について解説していきます。
銀行が経営者の個人保証を求める理由
銀行は企業へ融資を行う際に、経営者個人を連帯保証人として融資を実行します。A社に5000万円の融資を行い経営者のB氏に個人保証をつけると、A社が残り2000万円を残した状態で倒産すると、連帯保証人のB氏が個人で2000万円を返済しなければなりません。
個人保証がなければ会社の借金=経営者個人の借金という図式にはならず、会社が倒産しても経営者個人には返済義務は発生しません。
銀行が未だに中小企業の経営者に対して個人保証を求めるのは一体なぜなのでしょうか。まずは企業と連帯保証人の性質から理解を深めて、銀行側の考えを理解しておきましょう。
中小企業と経営者を一体として評価
銀行は中小企業に融資を行う際、企業と経営者個人を一体として審査や評価を行います。経営者個人の資産も評価の対象となっている為に、企業と経営者を切り離す事が出来ないのです。なぜなら一体で評価や審査を行っている訳ですから、融資をする際も分離させる訳にはいきませんよね。
金融庁が金融機関に配布しているマニュアルの中にも『中小企業は社長と会社の業務・経理・資産は一体になっているものだから、融資審査の時は社長の資産も返済能力と加味する事』と記載しています。
金融庁自らが融資のマニュアルに代表者の個人保証を組み込んでいるので、銀行からしても代表者の個人保証はついて当然であり、会社に不足の事態が起きれば代表者の資産から支払ってもらうのが当然であると考えている訳です。
貸し倒れ損失のリスクを抑える
銀行が最も恐れている事は貸し倒れです。つまり、会社が倒産しても社長に個人保証をつけていなければ、銀行が貸したお金が返済されず、銀行は貸し倒れ損失を負ってしまう事になります。
銀行側からすれば、融資の貸し倒れ損失リスクを少しでも軽減する為にも、経営者との個人保証が必要であると考えるという訳です。経営者に潤沢な資金があり、個人保証をつけているのであれば会社が倒産しても最悪貸し倒れになるという事はありませんよね。
貸し倒れ損失のリスクを少しでも軽減する為、特に先の見えにくい中小企業への融資の場合は経営者個人との保証を必須にしているケースが多いのです。
責任感を持ち危機感を醸成
個人保証をつける事により、経営者に「倒産すれば全てを失ってしまう」という危機感を持たせ、覚悟を持って経営にあたってもらうという理由もあります。
・個人保証あり(経営が失敗した場合は借金を個人で返済しなければならない)
・個人保証なし(経営に失敗しても会社が倒産するだけで個人で支払う借金はない)
以上のような2種類の選択肢があった場合、どちらの方がより本気で仕事を頑張ろうと思いますか?全員が個人保証ありであると答えますよね。失敗が許されない状況にする為に、個人保証をつけて精一杯頑張ってもらおうという銀行側の策略もある訳です。
大企業と中小企業ではここの考え方や捉え方も違います。中小企業のように少ない社員数であれば簡単に会社を倒産する事ができる状況ですが、100名や200名のように多くの社員を抱えている企業であれば社員や取引先への責任が生まれます。
中小企業だから責任感がないとは言いませんが、多くの人の人生が掛かっている大企業の方が常に危機感を持って仕事をしていると考えられます。こういう観点から、大企業の場合は個人保証をつける必要はないと判断されるケースが多いのです。債務に対する責任を担保として取りたいというのが銀行側の本音であると言えるでしょう。
銀行融資の個人保証を外す方法
そもそも連帯保証契約とは、保証人と金融機関との間で締結されたものですから、双方が合意すれば解約する事が可能です。要する金融機関の承諾があれば個人保証を外す事が可能です。
しかし金融機関は民間ですから収益性を重要視していますので、貸し倒れリスクを軽減する事が可能な経営者個人の保証は簡単に外せるものではありません。つまり、「個人保証を外してください」「はい良いですよ」と言った感じで、無条件で解約に応じることは100%ありません。
それではどのような方法で銀行融資の個人保証を外す事が出来るのでしょうか。以下で有効なものを紹介していきたいと思います。
別の保証人を立てる
良くあるケースとしては代表職を辞職する時に、後任となる新経営者を連帯保証人にする事で自分は外れるというものです。新社長が借入金の連帯保証人を引き受けてくれたとしても、連帯保証を抜けられるかどうかは銀行との信頼関係がどれ位築けているかによります。
新代表の資産状況・新代表の保証能力・借入金の残高・企業の返済能力など、様々な審査を経てから保証人を抜けられるかどうかが検討されます。銀行との付き合いが長く、これまでの返済も滞りなく行われていて、企業の財務状況も安定していると、すんなり保証人を抜けられる事もあります。
担保を提供する
資産価値のある担保を提供する事で個人保証を外せるケースがあります。
担保となるものは不動産や有価証券と幾つかありますが、基本的には土地や建物などの不動産になるケースが多いです。
更にどんな不動産でも担保になる訳ではなく、一定の資産価値があると判断される物件でなくてはなりません。
プロパー融資への移行
保証付融資からプロパー融資へ移行するというのは『銀行が100%リスクを負って融資する』というものです。中小企業はまずプロパー融資だけで資金調達してくれる状態を目指していくのが良いとも言われています。
- 返済実績が十分に出来ている状態
- 収益が順調に伸びていて十分にある状態
- 今後も伸びていく市場であると判断された状態
- 実績も伸びている状態
このように経営状態が良く、銀行側からすれば今後も取引を行いたいと思ってもらえる企業になれば個人保証は必要なく、銀行が100%リスクを負った状態で借入を行ってくれます。
つまり、銀行からの信頼が一定レベルに到達した状態であるという訳です。プロパー融資で借入を行ってくれる状態になれば、個人保証は簡単に外す事が可能です。
借り換えをする
個人保証を確実に外す事が出来る方法は借り換えです。借り換えとは、金融機関から新たに融資をしてもらい、現在借りている借入金を一括で返済するというものです。借り換えは現在借りている金融機関でも別の金融機関からでも利用する事が可能です。
中小企業の経営者が個人保証を外す方法としては、最も負担が少なく現実的かつ確実な方法であると言えるでしょう。代表者を辞任して個人保証を外したいと考えた場合は、代表者であるうちに新代表と金融機関に話をつけておくのが良いでしょう。借り換えを行えば新たに新代表を連帯保証人にした借入を行う事になりますので、個人保証を確実に外す事が出来ます。
銀行同士を競わせる
少し危険な方法ではありますが、銀行同士に融資シェアを競わせて個人保証を外すという方法もあります。銀行は融資をしたくない訳ではありません。利益を確保しなければなりませんので、基本的には優良企業に関しては積極的に融資を実行したいと考えます。
・銀行Aは弊社の経営の安定性を評価して個人保証を外してくれました。
・銀行Aは個人保証を外して○○円融資してくれるとの事なので、銀行Bと銀行Cからの借入は中止しようかと検討しています。
このように話すと、銀行Bも銀行Cも追従して良い条件を出してくれる可能性があります。もちろんやり過ぎは禁物ですが、銀行同士を競わせて、より良い条件を引き出すという手腕も大切です。
この場合、とても大切になってくるのが企業の財務状況です。融資を中断したくないと思ってもらえる位に安定した企業状況を継続している事が最低条件です。
経営者の個人連帯保証に対する考え方は変わりつつある
当たり前の話ですが『融資は代表者の個人保証が前提』となってしまうと、新たにビジネスを始めようと考える人が増えませんよね。新しいビジネスが誕生しない事には経済も活性化しませんので、中小企業庁を中心に、代表者の個人保証の負担を軽減しようという取り組みが年々増えています。
今でも中小企業の銀行融資は経営者の個人保証が前提になっているケースが大半ですが、考え方は少しずつ変わりつつあるという訳です。
民法の一部が改正
2015年3月、政府は契約に関するルールについて約200項目を見直す民法改正案を閣議決定しています。この民法改正案に盛り込まれている内容は、
中小企業が融資を受ける際に、経営と無関係な第三者の個人を保証人とする場合は、公証人による意思確認の手続きを経ていないと無効になる
このような内容が盛り込まれています。
更に個人保証の保証方法が包括根保証(いつでも金額に際限なく経営者が連帯債務を負うもの)から、限度額根保証(保証の極度額、保証期限を定めた個人保証)に改正されています。
経営者保証に関するガイドラインの改正
2014年には金融庁と中小企業庁の後押しで『経営者保証に関するガイドライン』がまとめられ、その中で融資の際に経営者保証が不要になる条件を示しており、早期に事業再生や廃業を決断した場合は経営者に一定の生活費を残す可能性を示しています。
経営者保証に関するガイドラインは、経営者の個人保証について、
(1)法人と個人が明確に分離されている場合などに、経営者の個人保証を求めないこと
(2)多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて100万円~360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること
(3)保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除することなどを定めることにより、経営者保証の弊害を解消し、経営者による思い切った事業展開や、早期事業再生等を応援します。
しかし、注意しなければいけないのはこれはガイドラインであるという点です。ガイドラインには法的拘束力はありません。あくまで『中小企業・経営者・金融機関の自主的なルール』という立ち位置です。民間運営の銀行が遵守している事が期待されていますが、現状で徹底されているかと言われれば微妙。
全ての金融機関が上記のガイドラインを遵守するようになれば、新たに事業を展開していこうと考えている経営者はかなり負担を軽減する事が出来ます。
保証人不要で事業資金を調達する方法
中小企業が銀行から借入を行う場合は保証人が必須であるケースが多いです。ガイドラインの改正などは行われていますが、法的拘束力がない以上、銀行は貸し倒れリスクを抑える為に個人保証なく借り入れを行う事は難しく、ある程度の実績を積まなければ個人保証を外す事も難しいのが現状です。
どうしても個人保証を結びたくないという方や、保証人不要で資金を調達したいと考えている方は以下で紹介する3つの方法を是非試してみて下さい。以下で紹介するものは、保証人不要・担保不要で事業資金を調達する事が可能な方法です。
日本政策金融公庫の新創業融資制度
国が事業を行っている日本政策金融公庫は中小企業の事業を支える為のものです。新創業融資制度は無担保・無保証人で利用できるものであり、新たに事業を始めようと考えている方や、事業を始めて間もない方が利用する事が可能です。
利用する事が可能な方は以下の要件に全て当てはまる人のみです。
・創業の要件
新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方
・雇用創出等の要件
「雇用の創出を伴う事業を始める方」、「現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方」、「産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方」又は「民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方」等の一定の要件に該当する方(既に事業を始めている場合は、事業開始時に一定の要件に該当した方)
なお、本制度の貸付金残高が1,000万円以内(今回のご融資分も含みます。)の方については、本要件を満たすものとします。
・創業の要件
新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金(事業に使用される予定の資金をいいます。)を確認できる方
ただし、「現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方」、「産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方」等に該当する場合は、本要件を満たすものとします
融資限度額は3000万円となっており、個人保証は不要ですが創業資金総額の10分の1以上の自己資金は必須です。つまり3000万円を調達しようと考えたら、最低でも300万円の自己資金を持っていないといけないという訳です。
銀行から借入する事が難しい中小企業を救済する為の組織である為、基本的には銀行などに比べれば審査は大分優しいです。しかし提出しなければいけない書類の量が多く、何度も面談をしなければならないなどの煩わしい面がある点も否めません。
しかし創業時の運転資金確保に置いてはとても重宝できるもので、個人保証は原則としてつける必要がありませんので、安心して借入を行う事が出来るでしょう。
ファクタリング
事業資金の調達は借入だけではありません。新しい資金調達の方法としてファクタリングを活用するというものがあります。
会社が保有する売掛債権を譲渡する事で資金を調達するというもの。自社が保有する売掛債権を売却するという仕組みなので借入ではありません。つまり保証人も担保も不要。
取引先と大口の契約を結んだとしても、売掛債権を持っているだけの状態では会社の資金になる事はありませんよね。取引先に前倒しで支払ってもらおうと要求すると関係悪化の要因になってしまう可能性も否めません。
そんな時に第三者であるファクタリング会社にその売掛債権を買い取ってもらう事で、売掛金が支払われる期限を早めて早期に資金を調達する事が可能になります。
ファクタリングの審査では売掛先の信用力や財務状況が最も審査に影響を与えるものなので、経営状況や資金繰りが悪化している状態であってもファクタリングは利用する事が可能です。財務状況が思わしくない状況での、一時的な資金繋ぎなどで利用してみるのが良いでしょう。
ビジネスローン
保証人を必要としないビジネスローンは数多くあります。担保も不要で融資を行ってくれるビジネスローンもありますので、個人保証は絶対に嫌だという方は、銀行融資ではなくビジネスローンを利用するというのも手の一つです。
更にビジネスローンの多くは一般的な金融機関の融資よりも審査が早い為に、急に資金を調達しなければいけない事態でも対応する事が可能です。
注意点としては、一切の保証人不要であるケースと、第三者保証人は不要であるケースがあるという点。第三者保証人不要であるというケースの場合は、代表者の個人保証が必要となります。ただし、一切の保証人不要であるビジネスローンも多くありますので、そういった所を利用すれば解決できますね。
一切の保証人不要のケースでは審査が厳しくなる傾向があり、更に短いスパンの資金調達に適しているビジネスローンは金利が高く設定されている傾向にあります。保証人が不要であるというメリットがある一方で、そのようなデメリットがあるという点もしっかりと理解しておきましょう。
まとめ
中小企業が銀行融資を行う際に個人保証が必要な理由、個人保証を外す方法、個人保証なしで事業資金を調達する事が可能な方法を紹介してきましたが参考になりましたでしょうか。
民法改正やガイドラインの改正などで中小企業経営者であっても個人保証なく融資を受けられる環境になりやすくなってきたとは言え、法規制はありませんので現状でも個人保証を必要とするケースが一般的なのが実情です。
会社で借りたお金を個人で返済する事になるのはたまったものではない!と考えるのは経営者であれば当然です。しかし、それ位の責任感を感じながら運営を行ってもらわなければ、民間企業である銀行からしても気軽に大金を融資する事は難しいと言えます。
日本政策金融公庫のように中小企業の資金調達に適した金融機関や、個人保証を必要としない資金調達方法も数多くありますので、どうしても銀行融資で個人保証を外す事が出来ないという方はそちらを試してみるのが良いかもしれませんね!