補助金圧縮記帳

補助金を受け取った時に活用できる圧縮記帳のポイント5つを解説

補助金

2〜3月は確定申告の時期ですが、受け取った補助金の会計処理に「圧縮記帳」という仕組みがあるのをご存知ですか?

本記事では、圧縮記帳についての要点を5つに分けて解説します。

・補助金にかかる税金
・圧縮記帳とは
・圧縮記帳の種類
・圧縮記帳の会計処理事例
・メリット・デメリット

補助金にかかる税金

補助金圧縮記帳

まず大前提ですが、受け取った補助金に対しても税金は掛かります。
会計上、補助金は資産は雑収入とみなされます。

そのため、せっかく補助金が受けられたとしても、その分の税金は支払わなければならず、結果的に受給した金額が減ってしまうことになります。

圧縮記帳とは

補助金圧縮記帳

そこで、補助金を受け取ったときに一度に税金を支払うのではなく、支払のタイミングを次年度以降に繰り延べる(先送りできる)のが、法人税法に則った「圧縮記帳」という会計処理の仕組みです。

圧縮記帳では設備投資など有形固定資産の取得に際して補助金受贈益が計上された場合、その取得価額を減額(圧縮)して圧縮損を計上します。
こうすることで補助金の益金の額が圧縮損の損金の額と相殺され補助金分の課税負担が低くなります。

「補助金であっても法人税を課すべし」という原則は、補助金の効果を下げるおそれがあります。
受け取った補助金は益金の額に算入されても、購入した固定資産は損金の額に計上されません。

つまり「収益だけ増えて費用はゼロ」の状況になり、結果、益金の額はほぼ法人税課税の対象となってしまいます。

これは「国からお金をもらっても、一部は税金という形で国に返さなきゃいけない」という企業側の不満を膨らませ、投資意欲や事業拡大意欲をそぐ恐れにつながります。
結果、補助金の効果が下がり、「経済の振興」といった国策が達成されない状況を生み出しかねません。

しかし、圧縮記帳という特例制度を使えば、補助金への課税を一時的に回避し、繰り延べることで企業としてはきちんと補助金を設備投資に生かすことができます。

注意事項

補助金圧縮記帳

圧縮記帳はあくまでも「税金を一度に支払わなくてもすむ」という手法です。

圧縮記帳を適用すれば税金を何年かに分散して支払うことができ、一時的に税金は軽減されますが、最終的に同じ額の税金を支払うことには変わりありません。

税金が免除されたり得をしたりするわけではないので注意してください。

圧縮記帳が認められる例

圧縮記帳は、補助金を利用して施設などの事業に必要な固定資産を購入した場合などに適用できます。
圧縮記帳が認められる例としては以下のものがあります。

・国庫補助金などで固定資産などを取得した場合
・工事負担金で固定資産などを取得した場合
・非出資組合が賦課金で固定資産などを取得した場合
・保険金などで固定資産などを取得した場合
・交換により資産を取得した場合

補助金の中には、固定資産の取得に充てるためのものではなく、専門家への報酬など経費に充てるものもありますが、圧縮記帳を使えるのは固定資産の取得に充てた補助金のみとなります。
実際に圧縮記帳を検討する場合には注意してください。

また、一般的に補助金というと「金銭」をイメージしますが、金銭の代わりに固定資産そのものが国などから給付された場合も圧縮記帳の対象となります。

圧縮記帳の種類

補助金圧縮記帳

圧縮記帳には、直接減額方式と積立金方式の2つの方式があります。
それぞれの方式について詳しく見ていきましょう。

直接減額方式

損金経理によって帳簿価額を直接減額する方法です。

直接減額方式では固定資産の取得原価を直接減額し、これを「固定資産圧縮損」として費用計上します。

圧縮損を計上することで補助金による収入と圧縮損とを相殺し、補助金による収入に対する課税を回避できます。

なお、圧縮記帳を行った資産の減価償却は、圧縮記帳後の取得原価をもとに行います。

このことにより、圧縮記帳による課税を、翌期以降の減価償却期間へ繰り延べることになります。

積立金方式

補助金圧縮記帳

決算確定の日までに剰余金を処分することにより、圧縮積立金を積み立てる方法です。

積立金方式では圧縮積立金は損金経理されないため、法人税の確定申告時に調整することになります。

また、減価償却費は税務上の取得価額と帳簿上の取得価額で計算し、税務上の取得価額で計算した減価償却費を超える分だけ積立金を取り崩して、益金の額に算入します。

圧縮記帳の会計処理事例

ここでは圧縮記帳について、事例を挙げて説明します。
先に解説したとおり、「直接減額方式」「間接減額方式」の2つの方法がありますが、ここでは直接減額方式に限定して説明します。

事例

事業年度初日に国庫補助金300万円を受け、同時に機械500万円を取得した。残額は自己資金を充てた。減価償却は定率法で償却率0.25、法人税などの実効税率は30%とする。

圧縮記帳をしない場合

1.国庫補助金受取時
(借方)現預金300万円/(貸方)補助金受贈益300万円

2.機械購入時
(借方)機械500万円/(貸方)現預金500万円

3.期末の減価償却計上
(借方)減価償却費125万円/(貸方)機械125万円

減価償却費の計算は、500万円×0.25×12月/12月=125万円

法人税法上の会計処理は「補助金受贈益300万円(益金の額)」「減価償却費125万円(損金の額)」です。

国庫補助金だけが収益の場合の当事業年度の法人税
〔補助金受贈益300万円(益金の額)-減価償却費125万円(損金の額)〕×30%=52万5,000円

結果として、実質的に受け取った国庫補助金は300万円-52万5,000円=247万5,000円となります。

圧縮記帳をした場合

1.国庫補助金受取時
(借方)現預金300万円/(貸方)補助金受贈益300万円

2.機械購入時
(借方)機械500万円/(貸方)現預金500万円

ここで受け取った補助金の分だけ圧縮損を計上(圧縮記帳)します。

(借方)圧縮損300万円/(貸方)機械300万円

圧縮記帳をした結果、機械の取得価格は500万円ではなく200万円(=500万円-300万円)になります。

3.期末の減価償却計上
(借方)減価償却費50万円/(貸方)機械50万円

減価償却費の計算は、200万円×0.25×12月/12月=50万円

法人税法上の会計処理は「補助金受贈益300万円(益金の額)」「圧縮損300万円(損金の額)」「減価償却費125万円(損金の額)」です。

国庫補助金だけが収益の場合の当事業年度の法人税
〔補助金受贈益300万円(益金の額)-圧縮損300万円(損金の額)-減価償却費50万円(損金の額)〕=▲50万円

50万円の赤字となり、当事業年度の法人税の額は0円になり、名実ともに受けとった国庫補助金は300万円そのままということになります。

固定資産の取得事業年度と補助金の受給事業年度が違う場合の圧縮記帳

補助金を受け取り返還不要が確定したのが事業年度の末日近くだったため、補助金を使って固定資産を購入したのが翌事業年度になってしまったというケースもあるかと思います。

この場合では、補助金受贈益は仮勘定で処理し、固定資産の取得の時期にあわせて圧縮記帳を行います。

先ほどの事例を使って、補助金受給および返還不要確定の事業年度の翌事業年度に固定資産取得が行われたとして説明します。

<補助金の受給事業年度での経理処理>
1.国庫補助金受給時
(借方)現預金300万円/(貸方)補助金受贈益300万円

2.期末
当事業年度末に返還不要は確定したものの固定資産取得ができていないため次の処理を行います。
(借方)補助金受贈益300万円/(貸方)未決算(仮勘定)300万円

<固定資産の取得授業年度での経理処理>
1.機械(固定資産)取得時
ここでは期首に機械を取得したとします。
(借方)機械500万円/(貸方)現預金500万円

2.期末
ここで前期末に未決算(仮勘定)に振り替えた補助金受贈益を再計上するとともに、圧縮記帳を行って益金の額と損金の額を相殺します。
(借方)未決算(仮勘定)300万円/(貸方)補助金受贈益300万円
(借方)圧縮損300万円(貸方)/機械300万円

さらに、減価償却費も計上します。
(借方)減価償却費50万円/(貸方)機械50万円

結果、補助金の受給と固定資産の取得が同一事業年度と同じ損益計算となります。

メリット・デメリット

補助金圧縮記帳

最後に圧縮記帳を使った場合のメリットとデメリットがあります。
メリット・デメリットを把握することで、圧縮記帳の会計処理を活用することができます。

メリット

<投資意欲の低下防止>
補助金分だけ収益を小さくするということは、その分税金が課されないということです。
受け取った補助金の効果は課税で減殺されることなく、そのまま生きています。
つまり「どうせ補助金を受け取っても一部は税金で取られるわけだし…」などと企業の投資意欲や事業拡大意欲を低下させない効果を持ちます。

デメリット

<翌年度以降は圧縮記帳分、課税が重くなる>
圧縮記帳は一時的に課税を回避することができますが、圧縮記帳をしても課税は免除されず、将来に繰延されるだけです。
この繰延が表面化するのは、翌期以後の減価償却費計上時と資産の除却・売却時です。

「圧縮記帳をする」ことは「固定資産の取得価額が小さくなる」ことでもあります。
取得価額が減額されれば、その分減価償却額は小さくなり、将来の売却益や除却益も大きくなり、最終的にすべて法人税などの増加に反映されます。

圧縮記帳は節税になるものの、将来の節税を犠牲にするイメージです。

<事務・経理処理が複雑で面倒>
圧縮記帳に伴う処理には手間がかかります。
補助金を受け取り、固定資産を購入した事業年度だけでは終わらず、翌事業年度以後も常に注意しておく必要があります。

また、補助金そのものについても、給付後の用途についての報告や審査が必要になります。
結果「大変な思いをしてやっと受け取ったけれど、もらった後も大変さが付きまとう」のが補助金なのです。

まとめ

補助金圧縮記帳

今回は補助金を受け取った際に使える「圧縮記帳」の会計処理について解説しました。

受け取った補助金を上手に使うための会計処理ですが、圧縮記帳も免税ではなくあくまでも課税の繰り延べの仕組みです。

そのため、本記事で解説しました仕組みやメリット・デメリットを踏まえた上で、活用を検討することをおすすめします。

この記事をシェアする