
起業の構想段階や起業間もないベンチャー企業やスタートアップ企業はヒト・モノ・カネという事業を発展させ企業を大きくするための「リソース」が不足しているという場合が少なくありません。
リソース不足では思っていたように事業を進めることが出来ず、企業の成長を妨げてしまうことになります。そのため、多くのベンチャー企業やスタートアップ企業は資金などのリソースを得るためにベンチャーキャピタルからの出資を得ようとします。
この記事でご紹介する「アクセラレータ―(シードアクセラレーター)」や「インキュベーター」は、ベンチャーキャピタル(VC)の中でもより早い段階から企業への出資やサポートを行うことが特徴です。
しかし、「アクセラレーター」と「インキュベーター」については混同されることも多く、違いがよくわからないという人も少なくありません。そこで今回は2つの違いについて解説していきたいと思います。
また、アクセラレータープログラムとはどんなものか、どんな企業がアクセラレータープログラムを行っているのかなどについてご紹介していきます。
アクセラレーターとは
アクセラレーター(accelerator)は言葉の通り、ベンチャー企業の成長を加速させる(accelerate)ことが目的で、つまりは企業が行っているビジネスを成長させることに焦点を当てています。
企業には4つの成長ステージと呼ばれる段階があり「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」となっていますが、アクセラレーターは一番初期段階のシード期を過ぎた頃のベンチャー企業のビジネスを拡大させるため、資金提供を行ったり、幅広いネットワークやノウハウの提供などを行い企業をサポートします。
特徴的なのがプログラムで、多くのアクセラレータープログラムは数週間〜数ヶ月と期間が予め設定されている短期的支援となっており、この短期間でそれぞれの企業はアクセラレーターのメンターと協力し、自分たちの事業を構築し、新しいサービスや技術を生み出したり、その開発過程で生じる問題にアプローチしていきます。
アクセラレータープログラムは参加したい企業がエントリーするという応募から開始となりますが、トップレベルのプログラムともなれば選考は非常に厳しいものとなります。例えば、世界で最も知られているアクセラレーターのうちの1つであるY Combinatorの場合、認められるのは数多く寄せられる応募のうちたった2%のみ。同じく有名なアクセラレーターのTechstarsでは1000件の応募から10件の企業のみが選ばれます。
厳しい選考を勝ち抜き、プログラムに参加することとなった企業はシード投資を受けることができ、さらにベンチャー企業にとっては最も大きな価値となるであろう外部投資家やスタートアップ幹部から成る大規模なメンターネットワークにアクセスすることが可能となります。
アクセラレーターは通常のベンチャーキャピタルによる出資よりも少額の投資を行うため、ベンチャー企業の自由度を保ちつつ支援を受けることが出来ます。
ただし、日本国内で現在行われているアクセラレータープログラムはその多くが投資ではなく協業をメインとしていることが多くなっています。
- アクセラレーター
- コーポレートアクセラレーター
- N:Nマッチング型アクセラレーター
- Powerd by型アクセラレーター
アクセラレーターには以上のような4つのタイプがあります。どれも短期間で集中的なビジネスの成長、経営陣のスキルアップを図ることが出来るため事業の成功率アップ、企業価値の向上へつなげることができます。
インキュベーターとは
一方でインキュベーター(incubator)は今までになかった全く新しいアイディアやアイディアを持つ企業を生み出す(incubate)ことを目的としており、アクセラレーターと比較するとよりイノベーションを重視しています。
アクセラレーターよりも若い段階、起業したばかりだったりシード段階以前のベンチャー企業への支援を行っており、アクセラレーターのように明確な期間は設けず、より良いサービスや製品、ビジネスモデルを生み出すための環境を整えています。
ベンチャーキャピタルの場合、将来有望なベンチャー企業やスタートアップ企業を探し出して資金提供をしますが、インキュベーターの場合は将来性のあるベンチャー企業をサポートしたり、成功への手助けをしたりと「育てる」組織です。
独立しているインキュベーターもありますが、大企業や政府機関、ベンチャーキャピタルなどがインキュベーターとして積極的にベンチャー企業への出資を行っているということもあります。
応募によって投資先企業を決めるインキュベーターもありますが、その他は信頼できるところから紹介を受けたアイディアや企業のみを対象としていることが多いようです。インキュベーターの場合、病院が出資しているインキュベーターは医療技術のベンチャー企業のみを対象としているなど、特定の市場のみに焦点を当てていることが一般的です。
インキュベータープログラムへの参加が決まったベンチャー企業は、特定の地域に移転し、インキュベーターの中の他の会社と一緒に仕事をしていきます。
アクセラレーターとインキュベーターの違い・共通点
アクセラレーターもインキュベーターも、これから成長していく企業やまだ成長を始めたばかりの企業のサポートをしてくれるなど、ベンチャー企業にとって非常に頼もしい存在です。
しかし、アクセラレーターとインキュベーターのどちらでスタートするのかは自分次第。となれば気になるのがアクセラレーターとインキュベーターの共通点や違いではないでしょうか?ここからはそんな共通点や違いについて解説していきます。
違い
まずはアクセラレーターとインキュベーターの違いについて解説していきます。
アクセラレーター | インキュベーター | |
---|---|---|
目的 | 事業拡大 | イノベーション |
対象 | ・ベンチャー企業 ・シードステージを過ぎたベンチャー企業 |
・起業間もないベンチャー起業 ・シード段階以前のベンチャー起業 |
参加方法 | 応募にエントリーする | 交流ある企業から選出 |
期間 | 数週間〜数ヶ月 | 数年〜期限無し |
投資先企業の自由度 | 高い | 低い |
ビジネスプランの拡大を目的として支援を行うアクセラレーターに比べ、企業が若い段階から育てていくというインキュベーターは投資を受ける企業の自由度は低くなる傾向にあります。
インキュベーターが起業して間もないベンチャー企業を対象としているのに対し、アクセラレーターは主にシードステージを過ぎたベンチャー企業を対象にしているということも大きな違いです。
また、アクセラレーターは3ヶ月間など短期の支援になりますが、インキュベーターの場合は実験や開発が必要となる場合もあるため、支援期間は長期となります。
共通点
上記のような違いもあるアクセラレーターとインキュベーターですが、共通点もあります。
- 若いベンチャー企業に対してハンズオン型のサポートを行っている
- 通常のベンチャーキャピタルに比べ出資額は少なく、同時に複数の企業に出資することが多い
- 幅広いネットワークを持っているだけでなく、ノウハウを学ぶことが出来る
- 既に成長したアーリーステージやレイターステージのベンチャー企業を探すのではなく、将来有望な若い企業を育てることを目的としている
国内のアクセラレータープログラム
アクセラレータープログラムとは、ベンチャー企業やスタートアップ企業が行おうとしている事業に自治体や大企業などが支援や出資を行うことにより事業創生を目指す実証実験のことです。
まだ成長を始めたばかりの事業を短期間で加速度的に成長させることでイノベーションを世の中に送り出すための手段の一つとして、国内でもアクセラレータープログラムが行われています。期間中はアクセラレーターやパートナー企業が出資先とのマッチングを行い、事業シナジー効果を生み出すことが出来るか、協業が可能かなどの可能性を探ることができるため、最近では大企業も積極的に導入しています。
大企業の場合、新規事業を開始しようと思ったり、既存事業のの雲行きが怪しいと思ってもすぐに方向転換することはどうしても難しくなります。組織が大きい分、様々な内部的要因が生じるためです。
しかし、小さい規模のベンチャー企業ならば小回りが効くため、柔軟に方向転換することが可能です。このようにアクセラレータープログラムは出資を受ける側にも出資する側にもメリットがあるのです。
- 募集
- 書類選考
- 面接(2回)
- 最終選考により参加者の決定
- 出資
- 支援
- 成果発表
- フォローアップ
アクセラレータープログラムは以上のような8つの段階で行われます。人気のプログラムの場合、非常に倍率が高くプログラムに参加するだけでも超難関ですが、成果発表では大企業や投資家に向けてプレゼンを行うことが出来るため、協業のチャンスが生まれたり、次なる出資につながります。
選考に通り、アクセラレータープログラムへの参加が決定すると支援期間に入りますが、この期間はアクセラレーターの会社内のメンターによって事業を拡大していくために必要なアドバイスを受けたり、ノウハウを教わることが出来ます。メンターとなるのはベンチャー経験者やベンチャーの現役幹部の他、様々な分野の専門家たちなどです。これらの頼もしいメンターたちに数百人体制でサポートしてもらうことが出来るというのはベンチャー企業にとっては非常に大きなメリットとなります。
最も適したアクセラレーターを見つけるためにも、具体的に将来的な展望を考えておく必要があります。また、どの程度アクセラレーターにビジネスに関わってほしいのか、どんなサポートをしてほしいのかなども明確にしておくといいでしょう。
アクセラレータープログラムには数え切れないほどたくさんのベンチャー企業がエントリーを行います。その中で選考を勝ち抜き、出資を受けるためにはビジネスプランやアイディアをしっかりと計画し、更に言語化するということが大切です。市場分析やビジネスとして成功することが出来るのかなど、将来的な展望まで見極めるようにしましょう。
1:KDDI∞Labo
KDDI∞LaboはKDDIが行っているアクセラレータープログラムで、パートナー企業として数多くの大企業が名を連ねています。
個人・法人、さらには国籍も問わずにエントリーすることが出来るのも魅力で、対象となるのはブロックチェーン、ビッグデータ、ロボティクス、xRなど様々な分野です。
2:Open Network Lab
Open Network Labはデジタルガレージによるアクセラレータープログラムで、2010年4月に開始されました。
採択された場合には投資も行われ、これまで100社以上のベンチャー企業へのサポートを行ってきている経験豊かなアクセラレータープログラムです。グローバルなネットワーク、手厚いサポートが特徴です。
3:JR東日本スタートアップ株式会社
駅や鉄道など、JR東日本が持っている資源の活用に繋がることができるアイディアやビジネスプランを保有しているベンチャー企業やスタートアップ企業が対象です。
沿線の観光促進、雇用機会創出など地域活性化につながるものも選考対象となっており、上位者は最高100万円の賞金が用意されているという特徴があります。
4:MUFG DIGITAL ACCELERATOR
三菱UFJフィナンシャルグループが行っており、対象となるのはフィンテック、AI、ビッグデータなどの分野の事業を行っているベンチャー企業です。3名以上のチームであれば個人で参加することも可能となっています。
事業のブラッシュアップだけでなく、事業立ち上げについてもサポートしてもらうことが出来ます。
5:POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM
日本郵便が行っているアクセラレータープログラムで、日本郵便が持っている郵便や物流インフラなどの経営資源・リソースに対するアイディアを持ったベンチャー企業やスタートアップ企業を対象としています。
POST LOGITECH INNOVATION PROGRAMでは複数口から応募することが可能となっているため、数多くのアイディアを持っている企業ほど参加のチャンスがあります。
まとめ
アクセラレーターとインキュベーターは混同されがちですが、ビジネスプランの拡大やイノベーションなど支援目的が異なっていたり、支援期間についても短期・長期と異なります。
どちらを選択するかによって経営の自由度なども異なってきますので、自社がどのようにして事業を行っていきたいかなども踏まえてアクセラレーター、インキュベーターのどちらからサポートを受けるのか検討するといいでしょう。
アクセラレーター、インキュベーターどちらを選ぶとしても、倍率はかなり高いと考えておくべきです。「サポートしたい」と思われるように事前にビジネスプランやアイディアをしっかり煮詰めておくことも大切です。